森山和道の「ヒトと機械の境界面」

ロボット介護機器の評価用設備等が公開

介護者動作模擬ロボット

 経済産業省「ロボット介護機器開発・導入促進事業(基準策定・評価事業)」平成25年度成果発表会が、筑波にある「生活支援ロボット安全検証センター」で行なわれた。介護事業者・介護機器レンタル事業者、ロボット介護機器開発事業者を対象した会だが、一部を取材できたので「生活支援ロボット安全検証センター」の設備ともども簡単にレポートしたい。

 まず、この事業について簡単に紹介しておく。経済産業省と厚生労働省は平成24年11月に「ロボット技術の介護利用における重点分野」を公表。そして平成25年度から経済産業省が3年後の製品化を目指す「ロボット介護機器開発・導入促進事業」を開始した。平成25年6月に閣議決定された「日本再興戦略」の一環として、移乗介助、見守り支援で使えるロボット介護機器の開発をコンテスト方式で進める「ロボット介護機器開発5カ年計画」を進めている。介護現場と共同開発を進めることで一般に複雑高価なロボット機器を安価で簡便なものとし、使えるロボットを早期導入することが目標だ。

 今年度は装着型移乗支援、非装着型の移乗支援、移動支援、排泄支援、認知症の見守りの5つを重点分野として開発を進めた。26年度からは3つ、新分野が追加される。トイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援するロボット技術を用いた歩行支援機器、転倒検知センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器プラットフォーム、入浴支援機器の3つである。

 今回成果発表を行なった「基準策定・評価コンソーシアム」は介護ロボット機器導入のための安全基準を策定するもので、代表は独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)。今回はこの事業で開発した、介護作業記録ツール、高齢者ダミーロボット、介護者ダミーロボット等の「ロボット介護機器評価ツール」と、ロボット介護機器評価設備(模擬介護施設)、生活支援ロボット安全試験設備などが展示紹介された。

 また、生活支援ロボット安全検証センターとは2010年12月にオープンした施設で、先頃終了した「NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクト」(2009~2013年度)の安全試験や検証を行なう拠点として作られた。試験技術や認証に必要なデータの蓄積を5年間をかけて行なってきたが、今後も生活支援ロボットの安全試験を行なうための設備として使われる予定だ。

ロボット介護機器開発・導入促進事業の概要
平成25年度重点分野
屋内移動、認知症見守り、入浴支援が追加された
ロボット介護機器開発プロセス

 では、それぞれロボットや評価機器を紹介する。「介護者動作模擬ロボット」は装着型の移乗支援機器の性能を評価するためのロボットである。身長155cm、重量39kg、34自由度。産総研が2010年に開発した、人間に近い構造・寸法を持った内骨格型のヒューマノイド「HRP-4」をベースに、外装をソフトスーツに変えて使用している。現在は北海道大学の田中孝之氏らと株式会社スマートサポートが開発している、ゴムバンドを使って腰にかかる負荷を軽減する「スマートスーツ」の評価を行なっている。ロボットを使うことで何度も同じ動作を行なうことができ、またロボットのモーターにかかる負荷をトルクからそのまま測定できるので定量化が容易となる。持ち上げ動作で評価したところ、腰トルクの負荷が減っていたという。

 なお、以前は女性型ロボットとして知られる「HRP-4C(未夢)」を使って同じ評価を行なっていた。「HRP-4C」と「HRP-4」は頭部以外はほとんど同じロボットだ。また「スマートスーツ」は現在試験販売が行なわれている。

介護者動作模擬ロボット。「HRP-4」がベース
スマートスーツを着用して評価を行なっている
評価結果。緑が非装着、赤が装着時
介護者動作模擬ロボットのデモ

 「高齢者アクティブ・ダミー人形」はロボット介護機器の性能を評価するための高齢者動作模擬装置。身長160cm、重量50kg。空圧で動き、関節数は44。うち半分がアクティブで、残りは受動関節だ。位置制御・力制御ができ、寝返り動作などを行なって、安全性や機能評価を行なうことができる。移乗介助や排泄支援動作などの機器評価にも使う予定だ。ダミー人形の高機能化にロボット技術が活用されている。

高齢者アクティブ・ダミー人形
各部関節はスライダーでコントロールできる

 産業用ロボットで知られる株式会社安川電機の「移乗アシスト装置」は、人をベッドから車椅子等に移乗するときに使う介護装置。スリングを使って、1人で全ての作業を行なうことができる。まだまだ移乗に時間がかかることや、機器の小型化等の課題があるが、平成28年度の販売を目標としている。また大阪のマッスル株式会社による「ROBOHELPER SASUKE」も同じく、移乗用の介護装置だ。こちらも徐々に改良されている。

安川電機「移乗アシスト装置」
マッスル「ROBOHELPER SASUKE」
安川電機「移乗アシスト装置」

 実際の介護施設等の現場からのニーズが高そうなのが「介護業務記録・分析支援システム」だ。介護業務の記録付けの自動化を進めることで、経営を効率化することを狙う。広く普及しているスマートフォンでの活用を想定しており、屋内のビーコンやセンサー類から取得できる位置情報を活用して簡単に介護記録を付けられるようにする。またスマートフォンに内線やナースコールの機能を集約化する。バックヤード業務のITによるサポートはどの業界でもまだまだ入り込む余地があり、現場から求められていることでもある。

介護業務記録・分析支援システム
患者やスタッフの位置センサーの活用

 生活支援ロボット安全検証センターの「装着型生活支援ロボット耐久試験装置」は、ルームランナーのような装置と人の下肢を模したダミーを使って、パワードスーツ型のロボットなどの耐久性を試験する装置である。ダミー人形には動力がなく完全にパッシブなものと、内部にモーターを内蔵して例えば片足だけ不自由な状態などを模擬できるものなど、いくつかの種類がある。また「ドラム型走行耐久試験装置」は、車輪を使って移動するタイプの小型モビリティの試験装置だ。ドラムを使って走行抵抗をかけることができる。

装着型生活支援ロボット耐久試験装置
モーターを内蔵したダミーで下肢不自由な状態でのテストも可能
ドラム型走行耐久試験装置とトヨタの立ち乗りスクーター「Winglet」

 「複合環境振動試験機」は-40~120℃までの低温や高温、あるいは高湿度環境下でのロボット動作を検証できる試験機。一般的な加速試験や振動試験などにも使えるほか、例えば、「歩道にある点字ブロック上を走行したときの振動」などを再現できる。「衝撃耐久性試験機」はロボットに鉄球やハンマーなどをぶつけて耐久性を試験する機械だ。

 「傾斜路走行試験装置」は任意の角度の坂道を作って、その上でのロボット走行性能を試験する大型の装置である。船井電機株式会社が開発中の「歩行アシストカート」等の試験を行なっている。この「歩行アシストカート」は、高齢者向けシルバーカート型のアシスト装置で、ブラシレスモーターを2つ、距離センサーやグリップセンサー、6軸モーションセンサー、障害物センサーなどを搭載。路面や操作力に合わせてアシスト、あるいはブレーキをかける。歩行履歴を無線で送信することもできる。

複合環境振動試験機
衝撃耐久性試験機
傾斜路走行試験装置と船井電機「歩行アシストカート」

 衝突安全性試験装置はロボットが衝突した時の安全性を試験する装置。自動車用の試験設備を元にしたもので、人体ダミーにロボットをぶつけたり、ロボットと壁の間に人体が挟まれたときの衝撃などを計測する。そのためにダミーはもちろん、壁の裏側にもセンサー類が仕込まれている。

 生活支援ロボット安全検証センター全体の中でもかなりの面積を占めている「EMC(Electro MagneticCompatibility)試験室」は、ロボット機器に電波を浴びせて挙動の変化の有無を確認したり、ロボット自身が発する電波状況を測定するための電波暗室だ。壁や天井は電波吸収材で覆われている。

 このほか生活支援ロボット安全検証センターには、モーションキャプチャー装置や、外光での動作を試験する装置などがある。

衝突安全性試験装置
レール全長は22m
人体ダミーに衝撃を与えて安全性を確認する
EMC試験室(電波暗室)。
壁の電波吸収材

 筆者が参加したのは、介護機器開発事業者向けのツアーだったこともあったのか、参加者の人たちのほとんどは積極的に質問するでもなく、粛々と回っていたので印象的だった。このプロジェクトではメーカーが作ったものを現場が評価して、という単なる足し算のような形ではなく、もっと積極的に現場からのニーズを的確に仕様に落とし込み開発を進めることを目指しているという。そのために指標の定量化や手法の体系化などを新たに開発していくことを目指している。そのためか、講演パートは成果発表にしてはやや抽象的だったが、安く実用的なプロダクトの開発に結びついてくれればと思う。

(森山 和道)