2014年4月24日

2014年4月23日

2014年4月22日


森山和道の「ヒトと機械の境界面」

ATR、腕の中で相手を感じる抱き枕型通信メディア「ハグビー」を発表



 株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は4月26日、声と鼓動で話し相手の存在感を伝えて対話できる、抱き枕型の通信メディア「ハグビー(Hugvie)」を開発したと発表し、東京・秋葉原で記者発表会を行なった。

 「ハグビー(Hugvie)」とは、英語で「抱く」を意味する「Hug」と、フランス語で「Life」を意味する「vie」を繋げた造語で、「命を抱く」という意味を持たせたという。

 「ハグビー」を開発したのは人間そっくりのロボット「ジェミノイド」や、存在感を伝えるための通信メディア「テレノイド」などで知られる、ATR石黒浩特別研究室 室長(フェロー)で大阪大学大学院基礎工学研究科 教授の石黒浩氏ら。会見では「H. Ishiguroデザイン展 人と人を繋ぐロボットメディア」の開催も合わせて発表された。

●相手を抱きしめている感覚をもたらすメディア「ハグビー」
ハグビー。抱きしめるかたちで使う通信補助メディア

 「ハグビー」は全長75cm、重量はバイブレータなしの状態で600g。バイブレータ込みの場合は1kg余り。表面素材は伸縮性生地で、外装だけをクリーニングすることができる。内部素材は発泡マイクロビーズ。本体は二重構造になっていて、外装の頭部部分には携帯電話を入れるためのポケットがある。通話そのものは挿入した携帯電話を使って遠隔地の人と対話するため、通話するためには「ハグビー」を抱きかかえて行なうことになる。

 内部にはバイブレータを搭載しており、心臓の鼓動を再現した振動を発生する。バイブレーションによる振動は相手の声の大きさや高さと同調して変化するため、声による存在感を増強することができるという。例えば高揚して声が大きくなると、それに同調して「ハグビー」の鼓動の振動が強くなる。相手の気分の高まりが声と振動で伝わることで、より相手を身近に感じるという。バイブレーションは心臓の鼓動そのものを模したような刺激ではないのだが、筆者が実際に試してみたところ、たしかに心臓の鼓動のように感じることはできた。

 なお「ハグビー」の開発は、JST 戦略的創造推進事業(CREST) 研究領域「共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築」研究課題「人の存在を伝達する携帯型遠隔操作アンドロイドの研究開発」<研究代表者 石黒 浩 ATR 社会メディア総合研究所 石黒浩特別研究室 室長(大阪大学教授),参画研究機関 ATR 社会メディア総合研究所 石黒浩特別研究室/大阪大学/鳥取大学>の一環として行なわれた。

ハグビー。外見はビーズクッションそのもの 頭部にケータイを入れるためのポケットがある。通話そのものはケータイで行なう。 内部に仕込まれたバイブレーターで心臓の鼓動のような振動を体感させる
存在感を伝えるためのメディアとしてデザインされた 鼓動による存在感の伝達を目指す 声の大きさや抑揚で鼓動が変化する

石黒浩氏。ATR石黒浩特別研究室 室長(フェロー)、大阪大学大学院基礎工学研究科 教授

 石黒氏は、「研究の目的は人と人とをどう繋ぐか」だと語った。これまでもそのために人間の存在を伝達する新たな情報通信メディアとして、人間としての必要最低限の見かけと動きの要素だけからなる遠隔操作型アンドロイド「テレノイドR1」(2010年8月報道発表)や、「エルフォイドP1」などを研究開発してきた。これらを通して、ロボットを抱きかかえたり、握ったりしながら対話することで、聴覚だけでなく触覚も通して相手の情報を得ることが、対話相手の存在感を強く感じる効果的な方法であることが分かってきたという。特に、「人は想像を作り出して、想像をもとに人に関わっている」ことがポイントだと語った。

 一方で、「テレノイド」はモーター9個を内蔵したロボットであり、重さもある。そこで「ハグビー」は「単純な形でありながらも相手の存在をより強く感じることのできる画期的な通信用メディア」として開発。この手のスピーカー付きクッションのようなものとしては、他にもウィルコムの「はなしこむ枕」などがあるが、「ハグビー」は、ヒト型で、抱きかかえた状態で対話する抱き枕型の通信メディアとしてデザインされている。より積極的に相手を感じることを志向している。

 ビーズクッションの感触、相手を抱きしめている感覚、抱きかかえた状態で耳元から聞こえてくる相手の声、その声に同調して伝わる鼓動を再現した振動によって、相手の存在を強く感じることができ、また相手への親近感が強まる。声と振動のみの情報伝達でありながら、人らしい存在感を伝達するための必要最小限の要素を具現化した画期的な通信用メディアだとしている。

 「ハグビー」を用いることで、共感したり、安心感を伝えることができることから、より親近感を増すことができるという。特に親しい関係の者同士、例えば、親子、祖父母と孫、夫婦、恋人同士、友人同士などの間での対話において効果的であり、特に、少し距離感があった人との距離感を詰めるのに最適だとしている。また「テレノイド」を使った経験からも、コミュニケーション機会が乏しい人に対して、コミュニケーションの動機やコミュニケーションの機会の増加をもたらす可能性があるという。

 石黒氏らは今後も、存在感を伝えるのにより効果的なバイブレーションについて研究開発を進める。また、触覚センサー等を用いて話者の状態を計測し、音声がなくともバイブレーション等で存在感を伝えるメディアへと発展させ、存在感伝達の究極形の実現を目指していくという。たとえばバイブレーション機能をさらに組み込むと、もぞもぞとした動きを再現して伝えることができる。抱き心地や皮膚感覚を大事にしながら、内骨格ロボットを作りたいという。

 「ハグビー」は販売もされる。まずバイブレーター機能なし「ハグビー」を販売する。バイブレータ付「ハグビー」の販売は検討中だという。「ハグビー」そのものは前述のように二重構造になっている。価格は、内側のクッションだけのものが3,990円、携帯が入れられる外装付きのハグビーが4,935円だ。販売は、ヴイストン社の直営ショップ「ロボットセンター」のほか、ネットショップなどで行なわれる。

 なお石黒氏といえば自分そっくりのロボット「ジェミノイド」でも知られるが、「ジェミノイド」も現在新たに作り直しているという。また「テレノイド」はデンマークでの高齢者向け実証実験にも用いられているとのことだ。

4,935円で販売される 「テレノイド」(手前)と「ハグビー」

【動画】「ハグビー」を使った会話のデモ

●「H. Ishiguroデザイン展 人と人を繋ぐロボットメディア」
「H. Ishiguroデザイン展 人と人を繋ぐロボットメディア」

 記者発表が行なわれた「ヴイストン ロボットセンター 東京秋葉原店」(東京都千代田区外神田1-9-9 内田ビル4F)では、「ハグビー」発表にあわせて石黒氏のデザイン展「H. Ishiguroデザイン展 人と人を繋ぐロボットメディア」(主催:ATR、科学技術振興機構(JST)、ヴイストン株式会社、大阪大学)も4月27日から5月27日までの1カ月間、開催される。「ハグビー」(バイブレータなし)も出展されている。ポストカードやネックレス、そしてハグビーなどの展示物の一部はヴイストン株式会社から販売される。

 「H. Ishiguroデザイン展」は、石黒浩氏がこれまでデザインしてきたロボット、すなわち、ジェミノイド、テレノイド、エルフォイドなどのロボットや情報メディア、創作物の展示を通して、来場者に石黒氏のデザインの根源と方針を研究者だけでなく広く一般の人々にも紹介すること、石黒浩氏の研究活動をより深く知って頂くことを目的としたもの。

 石黒氏は、「新しいモノを作る技術者はデザイナーにもならないといけない。人らしい形のものは、人に対して実験では図りきれないすごい影響を与える」と語った。今回のような展覧会を主催して、技術と芸術の融合として研究成果を世の中に出していくのも研究のアウトリーチの1つだという。ちなみにネックレスやポストカードの販売は「研究室が研究室のTシャツを売るようなもの」だそうだ。

 また、ハグビーはアロマを併用することで、より親近感がわくかもしれないということで、新規にハグビー用のアロマも作って、展覧会会場では体験できるようになっている。抱きながらにおいを感じるだけで人をより強く感じるという。アロマは男女それぞれ用に2種類作成された。作成したのはアロマコーディネーターの米田佳代氏。男女それぞれにアンケートをとって、男性を女性に感じてもらう香りはウッディーなもの、男性に女性を感じてもらう香りはフローラルなものにしたという。

会場では靴を脱いでくつろぐことができる 天井からはエルフォイドが吊るされている 開発中の歴代エルフォイド
一部商品は販売されている エルフォイドをデザインしたネックレス。石黒氏も着用していた ハグビー用に作成された香水も実際に嗅ぐことができる
隣接するショップではロボットや電子工作、Arduino関連商品がセール中 「エルフォイド」の外装を使ったストレスリリーサーも販売されている

ヴイストン ロボットセンター 東京秋葉原店
〒101-0021 東京都千代田区外神田1-9-9 内田ビル4F
Tel: 03-3256-6676
Fax: 03-3256-6686
*アクセス JR・東京メトロ秋葉原駅(JR 秋葉原駅電気街口)より徒歩3分
開催期間:2012年4月27日〜2012年5月27日