買い物山脈
「Apple Pay」始めました
(2015/6/13 06:00)
現在、米国のみでサービスが行なわれている「Apple Pay」。6月8日(現地時間)に行なわれたAppleのWWDC(World Wide Developers Conference=世界開発者会議)では、今秋にもイギリスでサービスを開始することを明らかにした。
日本で使えるようになる日がいつなのかは全く分からないが、せっかくiPhone 6を持っているし、こんな仕事をしているのだからいち早く試したい。実際にチャレンジしたところハードルはあちこちに点在しているが、日本在住でたまにアメリカにやってくる筆者でもどうにか利用できたことの次第を紹介する。ちなみにApple Payで最初に買ったのは、Whole FoodsのFood Barによるランチである。
まず最初に言っておくが、筆者はクレジットカード選びやポイントサービス、店舗のロイヤリティプログラムが大好きだ。ただし各種カードで財布が厚くなるのは大嫌い。この矛盾を最初に解消したのが、国内ではフィーチャーフォンからサービスが開始された「おサイフケータイ」である。FeliCaを使ってSuicaをはじめとする交通系カード、各種プリペイドカード、店舗のポイントカードなどの情報がフィーチャーフォンやスマートフォンの中に記録される。ケータイを1個持てば、数枚のカードを財布に入れて持ち歩く必要はなくなった。
こうした思想的な背景と、Appleのすることなら何でも驚いて褒める人もいる中で、Appleのサービスはとりあえず自分で使ってみないことには善し悪しは評価できないという筆者の信条から、Apple Payを自分のiPhone 6でも利用できるようにした。今回の買い物山脈は、この過程と必要になったコストを紹介する。Apple Payの仕組み的な部分はテイストが異なるため、同時掲載した特別企画でレポートしている。是非合わせて読んでいただきたい。
Apple Payは米国のみでサービスを行なっている。これはApple Payに対応するクレジットカード/デビットカードを発行するクレジットサービスと銀行が米国のみに限られるからだ。ただし、有効にしたApple Payは、これらのクレジットカード/デビットカードが利用できる世界の国々の一部でもそのまま利用できる。運用面では国際クレジットカード/デビットカードということになり、極めて限定的だが日本国内でもApple Payで支払いができる場所はある。これは後ほど紹介する。
コンタクトレス(非接触)で支払いを済ませることから、決済サービスと誤解されがちだが、より正確にはApple Payは「Walletサービス」である。Appleはカードを発行しない。あくまで米国の銀行などが発行したカードを電子的にWalletの中に納めて、セキュアな支払い手続きを行なうだけである。つまり、ユーザーの手には実際のカードが同時にある。米国で発行されたクレジットカード/デビットカードが必要、これが最初のハードルであった。
アメリカで銀行口座を作る
CESやWWDCなどの取材で年に2、3回は訪れるアメリカで使うカードとして、いわゆるギフトカードは以前より活用していた。スーパーや百貨店などで買うことができるプリペイド式でデビットカード扱いである。日本でもインターネットの決済などをターゲットにして、リチャージが可能なプリペイドカードが増えている。auウォレットなどがその1つだ。
もちろんアメリカでもリチャージが可能なカードはあるのだが、リチャージのためのユーザー登録に社会保障番号(SSN)が必要なこともあって利用できなかった。ギフトカードの場合は額面+手数料の買いきり。最初はこれを使ってApple Payを導入しようと思ったが、ギフトカードは該当しなかった。対応するカード区分はこちらに掲載されている。プリペイドカードはリチャージが可能なタイプ(reloadble)だけが対応し、店舗によるギフトカードは対象外になっていた。
そこで思い切ってアメリカで銀行口座を作ることにした。ネックは「アメリカに住所がないこと」、「社会保障番号(SSN)がないこと」だが、その確認も含めて、銀行へと行ってみた。向かったのはサンフランシスコに本店がある「Wells Fargo」で、西海岸に強い。Apple Payでも最初から対応を表明していた大手銀行の1つだ。
単なる旅行者なので実際はどこでも構わないのだが、とりあえずサンフランシスコであれば年に1度はWWDCで訪れるし、CESへの乗り継ぎ都市としても考えられる。最後に困った時は店舗に行くしかないので、一番アクセスが良さそうで、かつ本店所在地だったWells Fargoを選んだ。店舗はマーケットストリート沿いにあるUNION TRUST店だ。3月10日のことである。
銀行内に入ると、インフォメーション担当の男性から「どういったご用件ですか?」と愛想良く尋ねられる。つたない英語で「Apple Payを使ってみたいので、銀行口座を開きたい」と直球で聞いてみた。加えてこちらがネックと考える住所が米国内にないこと、SSNも持っていないことを伝えたところ、「ノープロブレム」ということで、あっさりと案内された。
口座の開設には担当者が付く。言語は何がいいかと尋ねられたので、おそらく英語とスペイン語のチョイスだとは想像しながらも「Japanese」と無茶を言ってみたら、ちょっと笑って中国系の女性を紹介された。案内係は「アジアのお隣ですね」と笑っていたが中国語だと難易度がさらに高くなるので、実際の手続きは英語で行なっている。
席に着いて、早速手続きがはじまる。もう1度、住所とSSNの件は担当者にも確認したが、身分証明書が2つ以上あって、日本の住所と電話、そしてメールアドレスがあれば大丈夫と説明された。当日に発行されるのは臨時のインスタントカードなのだが、正規のカードを日本にも送ってくれるのかを聞くと「送るし、間違いなく届く」と言う。そして後日実際に到着した。
身分証明書の1つはパスポート。旅行者なら必ず持っている。もう1つは、今所有しているクレジットカードでいいとのこと。もちろん日本発行のもので構わない。後は、手渡された書類に次々と名前や住所などの情報を記載していく。SSNの欄もあるが繰り返すように必須項目ではなかった。後はテキパキと担当の女性がオンライン化してくれて、最後に暗証番号とオンラインバンキングのためのパスワードを入力するようにキーボードを手渡されて終了した。実際は、住所や名前などがローマ字のため、英語圏の彼女が文字を追うより速いということで、途中からキーボードを借りて、必要項目は入力していったのだが。
日本で単純に銀行口座を作るよりも深い内容を聞かれたかもと思えるのは、まず職業とおおまかな年収。それから持ち家の有無など。ただし証明書などは不要で自己申告だった。職業がジャーナリストと言う部分で、どんな内容かと聞かれたが直前に書いたPC Watchの記事をiPhoneに表示して見せたところ理解してもらえた。記事あたりいくらの収入かも聞かれたので、少しばかり盛っておいた(むしろ願望)。
ちなみに、この手続き中にコーヒーまで提供された。筆者は日本で住宅ローンを抱え、銀行にとってはお客様のはずなのだが、過去一度も銀行でコーヒーが出されたことなどないので、ちょっと感動したりする。さらに翌朝には、困ったことはありませんか? と担当者からメールが来るというオマケまで付いている。
作成された銀行口座は普通口座にあたるCheckingと、貯蓄口座にあたるSavings。それぞれに口座番号がある。そして、この2つと結びついたデビットカードのインスタントカード(仮カード)が発行された。インスタントカードは当日から使えて、有効期限は1カ月間。有効期限終了までに正規カードが届くので、正規カードの到着後にアクティベーションし、インスタントカードを廃棄する。クレジットカードが必要かどうかも手続きの途中で聞かれたが、クレジットカードの発行は断っている。例えここでカードを作っても、今後も利用の中心は日本で発行されたクレジットカードであること、いわゆる米国でのクレジット履歴のない段階では発行されても上限は微々たるものに違いないことなどが理由だ。
後は、すぐに使えるようにCheckingとSavingsにそれぞれ50ドルずつを入金した。入金時も担当者がカウンターまで付き添い、一緒に入金を確認してくれた。
注意しないといけないのは、アメリカでは銀行口座を維持していくために手数料が必要な点である。今回のWells Fargoの場合、Checkingは月あたり10ドル、Savingsは5ドルの手数料がかかる。
この手数料を免除してもらうためにはさまざまな方法がある。手っ取り早いのは口座の残額を指定額以上にすることだ。Checkingの場合は1,500ドル、Savingsの場合は300ドルが月あたりの平均残高であれば手数料はかからない。ほかに、SavingsはCheckingからSavingsへと毎月25ドル以上を振り替えることでも手数料が免除される。とりあえずは、その25ドル自動振り替えオプションを付けた。
手数料に関しては、猶予期間があり、Checkingは口座開設から60日間、Savingsは30日間だけ上記の条件から除外される。期限までに条件を満たせば目減りすることはない。さすがにその場で1,800ドルを積むことは難しいので、この猶予期間はありがたい。
ほかにも銀行口座があることで課税の対象となるわけだが、日米での二重課税とならないための「W-8BEN」書類も作成してくれた。まさに至れり尽くせりで、わざわざ出口まで見送ってくれた店舗を後にした。何なんだ、この満足感は。時間にして約50分ほど。つたない英語でなければ30分強もあれば銀行口座を作れそうな感じだ。
ちなみにこれは、筆者の訪れたWells FargoのUNION TRUST店の話だ。Apple Payに対応している銀行はほかにも多数ある。他の銀行などでは銀行口座開設の条件が異なる可能性があることは、念を押しておきたい。
Apple Payを有効化する
こうして手に入れたインスタントカードを使い、いよいよApple Payを有効化する。ここはちょっとだけテクニックが必要である。米国内で実施されているサービスのため、登録には少しだけiPhoneの設定を変える必要がある。「設定」-「言語と地域」で、書式の地域をアメリカ合衆国ヘと変更する。言語は日本語のままで構わない。この変更を行なうと、Passbookからクレジットカード/デビットカードの登録が選べるようになる。
登録はカード番号を入力するか、iPhoneの背面カメラで文字認識させる。光量が足りていれば認識率は高く、カード番号と有効期限は一発で読み取れた。ほかに所有者名が必要だが、この時点で発行されているのはインスタントカードなので、こちらは文字認識ではなく、スクリーンキーボードから入力する。併せて背面のセキュリティコードも入力する。
後はカードのアクティベーションを行なう。筆者がApple Payを始めた3月上旬の時点では、アクティベーションのためのアプリがあり、iPhoneの操作だけでアクティベーションは終了した。その後、セキュリティ強化のためにアプリによるアクティベーションは廃止され、電話応答によるアクティベーションとなっている。このため、後日届いた正規カードのアクティベーションは電話応答で行なっている。
このセキュリティ問題だが、いわゆるApple Payのポイントである決済のトークン化とは少し違う次元で起きていた。支払いに必要な指紋認証や、決済ごとに使い捨ての一時番号を生成するセキュリティが破られたわけではなく、前述のアクティベーション段階で、他人のカードを登録するという問題が発生したらしい。スリ取ったカードなどを使って登録する、いわゆる物理的な手段だ。そのためアクティベーション時の本人確認が強化され、アプリでの登録は廃止となり電話応答になっているようだ。
Apple Payで支払う
さて、記念すべきApple Payでの初買い物だが、続いて取材に向かったテキサス州のオースチンで行なった。Apple Pay発表時のスライドにも登場していたスーパーマーケットのチェーン店「Whole Foods」で試すことにする。
Whole Foodsはオーガニックフードなどを中心に扱う高級スーパーで、故スティーブ・ジョブズ氏も愛好して利用していたという。品揃えも豊富で、店内にはそうしたオーガニック素材を使ったサラダバーやスープバー、フードデリなどもあり、店内のテーブル席でイートインも可能だ。加えてWhole Foodsはオースチンが発祥のため、そのWhole Foods一号店を狙ったというわけだ。
店内でフードデリから適当に食べ物を選んで箱に詰め、レジに並んで会計する。秤売りで価格が決まった後、Apple Payで支払う旨を告げて、コンタクトレスの端末へとiPhone 6をタッチする。自動的にPassbookが起動してカードが表示され指紋認証を経て支払いが終わった。最初は持ち方が悪かったのでワンテンポ遅れたが、ちゃんと指をホームボタンに置いていれば、一連の流れはスムーズになる。
筆者のクセかも知れないし、コンタクトレス決済端末の配置によるのかも知れないが、日本でおサイフケータイを使う場合の多くは、片手でスマートフォンの両端を持って水平に置かれたリーダに背面をタッチする機会が多いと思う。交通機関の改札口などがそうだ。しかし、Apple Payの場合は指紋認証が伴うこと、さらにNFCのアンテナが上部先端に位置していることなどから、親指をホームボタンに置いたままでリーダに対して垂直に近づけていくスタイルになる。慣れると水平に置かれたリーダにも先端でタッチするようになるのだが、面でタッチするおサイフケータイと、点でタッチするApple Payの支払い作法は多少違うようだ。
余韻にひたる暇もなく、あっさりと支払いが終わった。買ったランチを食べつつ、オンラインバンキングで口座残高を確認すると、早速Checkingから15.04ドルが引き落とされていた。デビットカードなので即時決済である。
Whole Foodsは明確にApple Payのサポートをアナウンスして、コンタクトレスの端末にもApple Payの対応シールが貼られている。一方でApple Payを明示していない他の店舗でも、VISAのpay WaveやMasterのPayPassなどのコンタクトレス決済に対応した端末があれば支払いは可能だ。自動販売機などにも対応機器があり、さらにそちらでも支払いを試してから帰国した。
最大の危機は、正規カードの再アクティベーション
帰国後しばらくして、インスタントカードの発行日からおよそ2週間を経た3月26日に正規のカードが無事に到着した。日本の場合は銀行キャッシュカードやクレジットカードの配達は厳格で、基本的に当人が印鑑を押して受領する必要がある。たいていは日中に配達されるため、不在にして再配達を依頼したり、あるいは保管局に身分証明書を携えて受け取りに行く必要がある。
アメリカのカードはどんな方法で届くのか届くまでは分からなかったが、なんのことはない普通のエアメールで到着した。しかも普通すぎて、前述のような手続きすらなく、ダイレクトメールと同じレベルで郵便受けに投函されていた。書留指定とかはないので、そんなものかも知れないが、実にあっさりしたものである。
届いたのは「AKIRA YAHAGI」とちゃんと自分の名前がエンボスされた正規カードである。ただし、到着時点では有効にはなっていない。利用するためにはカードのアクティベーションが必要だ。アクティベーションにはいくつか方法がある。手っ取り早いのは、Wells FargoのATMに差し込んで、設定してある暗証番号を入力すれば有効化される(と同時にインスタントカードが無効化される)方法だが、日本にはWells FargoのATMがない。当たり前だ。もしかしたら米軍基地の中にはありそうな気もするが現実的ではない。ハワイまでアクティベーションツアーという良からぬ考えもよぎったが、ミクロネシアも含めて、その辺りにはWells Fargoの支店がないらしい。
何より驚いたのは、インスタントカードならまだしも正規カードもこの期に及んでICチップの搭載がなく磁気情報のみ、さらにエンボス付きというカードが発行されていることだ。言い換えれば、それだけApple Payのチャンスが拡がっていることになる。この辺の背景は同時掲載の特別レポートを合わせて読んでほしい。
おとなしく、まずは電話でカードの有効化を行なうことにした。やり方はカードの台紙に書いてある。指定の番号に電話して自動音声の案内に従ってカード番号や有効期限、そして暗証番号などを入力する。これは国際電話になるが、プッシュ式の自宅の電話機から簡単に実行できた。
カードが更新されたので、続いてApple Pay側も切り替える必要がある。Passbookを起動して、インスタントカードのデータを削除。続いて、正規カードを登録する。ここで今回最大の問題が発生した。
前述した通り、米国内で最初のアクティベーションをした時は専用のアプリを使ったアクティベーションが可能だった。しかしセキュリティの強化を受け、正規カードが届いたタイミングでは電話認証が必要になっていたのである。問題はPassbookから電話をかけないといけないという点だった。もちろんサービス対象国ではないので考慮の対象ではないだろうからアプリが馬鹿とまでは言わないが、電話番号を決め打ちでコールしてしまうので、国際通話に必要なプレフィックスが入らないのである。
しばらく試行錯誤の末、ようやく解決策を見つけ出した。アメリカ出張で使っているT-MobileのプリペイドSIMを使う方法だ。今回、従来のMicroに加えてiPhone用にNano SIMを新たに購入していた。これを使う。もちろんiPhoneはApple Storeで購入したSIMロックフリーモデルであり合法だ。T-MobileはWi-Fi Callingに対応している。iPhoneにSIMを入れて、ローミングで国内キャリアに接続した上でWi-Fi Callingを有効にする。すると実際の通話はWi-Fiを経由してアメリカから電話した扱いになるのである。つまりプレフィックスが不要な上、800番への通話は電話料金がかからない。素晴らしい! もっと早く気がつけば、カードのアクティベーションにも国際通話は必要がなかった。もちろん、追い込まれたからこそ思いついた智恵でもある。
こうして実行すると、Passbookからの通話がきちんと繋がった。ただこちらはカードのアクティベーションと異なり、自動応答ではなく人間相手だった。Apple Payのアクティベーションをしたい旨を伝え、確認される情報に1つずつ答えていく。カード番号や有効期限、そして背面にあるセキュアコードほかなのだが、何せこちらの発音が悪いのでゆっくりゆっくり間違えないように数字を読み上げていく。ようやく全部確認できて「OK」の返事とほぼ同時に、手にしたiPhoneにもアクティベーション完了の通知が届いた。通話料無料で助かった。実は今回最大のファインプレーは、T-MobileのSIMを買っていたことにある。
アメリカの銀行口座を維持する
無事に正規のカードも到着したので、銀行口座を維持することにした。目減りしてはつまらないので、口座維持手数料をゼロにする算段である。前述した通り、Savingsの方は毎月Checkingから25ドルずつ積み立てるオプションを追加していることで、口座維持手数料はかからない。そこで、毎月25ドルずつ減るChecking側で月あたりの平均残高1,500ドルをキープするために、Checkingに1,800ドルを入金することにした。これなら、1年間で300ドルがSavingsへと移動しても1,500ドルを維持できる。その先は、年単位で口座間移動などのメンテナンスを続けていけばいい。
口座へ入金する方法はいくつかあるが、60日間の猶予期間に片付けるためにゆうちょ銀行を使った海外送金を行なうことにした。海外送金の場合、経由地や着金した口座側でも手数料が発生するため、余裕をみて1,900ドルの送金手続きを行なった。現地で入金した100ドルとあわせて2,000ドルになるのできりが良いということもある。
送金に要する手数料は郵便局側で2,500円。レートは現金両替よりもお得で手続きをした4月2日の時点で120.96円だった。仲介手数料として送金時にさらに10ドル、入金時に16ドルが差し引かれ、実際に入金できた額は1,874ドルとなる。本人口座とは言え海外送金なので送金目的が必要なため、3カ月分の生活費(Living Expenses)とした。
Apple WatchにもApple Payを登録して、日本でも使ってみる
4月23日になってApple Watchが発売された。Apple WatchにもNFCが搭載されており、Apple Payを利用することができるとされている。早速Apple Watchにも登録を行なった。アクティベーションはApple Watchでも必要となる。Apple Watchでアクティベーションを申請すると、登録されているメールアドレスに認証コードが送られてくる。これを入力することで、Apple Watch側でのアクティベーションは完了した。
Apple Watchでの利用準備ができたところで、日本国内でも使ってみることにした。残念ながら、日本国内でApple Payを含むNFCを使った決済ができるところは極めて少ない。MastercardはサイトでPayPassが使える店舗を公開しているが、実数が数えられるほどに少ない。身近なところでは秋葉原のLAOXがあるが、こちらは免税店のみのようだ。ほかには東京ディスニーリゾートのイクスピアリで利用できることになっているが、ここの決済端末は発行銀行を選ぶようで、事実上イクスピアリのカードでしか利用できない。一応、イクスピアリに出向いてiPhoneのApple Payで支払いたいと聞いてみたが、すでに玉砕している人がそれなりにいたと見えて「Apple Payには非対応です」とストレートに言われ、試させてもらえなかった。
一方、VISAのpay Waveは日本でのサポート情報が存在しないが、実はIKEAで利用することができるという。おそらくは外資でもあり、コンタクトレス端末に関してはクレジットサービスの決済ルートが日本リージョンのインフラではなく別の地域になっているものと推測される。
Apple Watchを入手した週末、幕張メッセからの取材帰りに船橋のIKEAに立ち寄った。2階にあるフードコートでスウェーデン風ミートボール、ジャーサラダなどを手に取り、レジでApple WatchのApple Payで払いたいと伝えた。店員さんには「これ、ちゃんと動かないみたいなんです」と言われたものの、「試すだけお願いします」と言って、VISAでの支払いを設定してもらい、Apple Watchを近付けると決済端末が反応。無事にレシートがプリントアウトされてきた。店員さん曰く「初めて動きました」とのこと。レシートにもちゃんと、pay Waveの記載がある。おそらくIKEAのコンタクトレス端末は、おサイフケータイに対応していない。日本で非接触と言えばFeliCaなので、これまではSuicaやiDでチャレンジして動かなかったものと思われる。FelicaとNFCでは、リーダのマークも違うのだが、一般の人はそこまで気にしないだろう。
NFCに近付けばApple Payが自動的に起動するiPhoneとは異なり、Apple Watchではちょっと準備が必要だ。デジタルクラウンを押下してPassbookを起動。登録されているカードを選択した上で、ボタンをダブルクリックして決済端末に近付けなければならない。実はかなり面倒くさい。それならポケットからiPhoneを取り出したほうがよほどスムーズだ。ネタとしては面白いが、次回以降はiPhone側を利用するだろう。
重要な点はもう1つある。日本で利用する場合、その場の額面は円建てだが、米国の銀行口座からは言うまでもなくドル換算で引き落とされる。4月26日にIKEAで1,279円の買い物をデビットカードでしたわけだが、口座からは現地28日付けで10.77ドルが引き落とされた。加えて、国際支払手数料の32セントも同時に引き落とされている。決して何か得をするわけではないのだ。もちろん、国際支払手数料はアメリカ以外の世界の各国で発生する。
達成感はあるが、日本在住では実用性はほとんどない
一通りApple Payを試して、筆者的にはかなり満足をしている。ただ、実用的かと問われれば、正式なサービス対象国ではない日本に住んでいては、全く実用的とは言えない。同業者との協力により、フランス、スペイン、ドイツ、台湾などでも一部の店舗で利用できることは確認できている。マクドナルドなどのチェーンが多いのでそれなりに数もある。しかし、前述の通り国際支払手数料も発生するのでデメリットも大きい。デビットカードなのでロイヤリティプログラムとの関連も低い。単純に考えても、手持ちのクレジットカードでマイルが貯まるANSスーパーフライヤーズカードを積極的に使う方が圧倒的にお得である。
それでもWalletサービスの未来はここにもあると思うし、年に数回訪れるアメリカでの保険代わりにもなるので、当面の維持は積極的に続けていく方針だ。叶わぬ理想を言えば大橋巨泉のようなセミリタイヤでボストンとかに逃げたいと思っているので、アメリカでクレジットヒストリーを作れるきっかけとなるなら、それはそれで構わない。
言うまでもなく利用価値が出てくるのは、日本でのサービスが展開された時だ。タイミングはAppleが決めるのではなく、VISA、Mastercardといったクレジットサービス次第と推測される。おサイフケータイ先進国の日本だが、2020年の東京オリンピックと訪日客の増加を見据えてインフラ整備は積極的に進むだろう。POSの更新などで導入される決済端末の多くはFeliCaとNFC Type-A/B両対応になり、当面はソフトウェア的にNFC側を制限している可能性が高い。それらがある程度浸透した段階で、米国などで展開しているトークナイゼーションをクレジットチェーンが適用すればFeliCa以外のNFC決済が大きく進展することになる。
今回Apple Payを始めたコストを振り返ってみよう。渡米については出張取材のついでに立ち寄ったので問題ない。銀行口座を作成すること自体にコストはかかっていないが、維持するために事実上2,000ドルが塩漬けになった。120円台でドルにして、今はさらに円安が進んだので微妙に為替差益が出ているような気もするが、海外送金のコストで帳消しだ。Apple Payで買ったものは、フードデリとフードコートに自動販売機の飲料が2本。すべてが腹の中へと消えた。
保証はしないが、上記の手順を丁寧に繰り返せば意外と簡単にApple Payのアクティベーションはできると思われる。ただ、国際電話は大きなネックとなりえるので、渡米してまでもApple Payが欲しいと考える勇者は、同時に現地SIMを入手していたほうが良さそうだ。現地での電話番号として、口座開設書類作成にも利用できる。アメリカでの連絡手段があるというのは、銀行側にとっても好感すべきポイントだろう。キャリアはどこでも構わないが、ベースが日本である以上はやはりWi-Fi Callingが使えるT-Mobileが有利かも知れない。
もちろん、日本でApple Payのサービスが始まれば、日本発行のクレジットカードを登録して、今回のデビットカードは即お払い箱になる。それまでは2,000ドル塩漬けの日々が続きそうだ。一方で最初の課題である銀行口座を確保したことで、続くAndroid PayやSamsung Payといった競合サービスも、今回ほどの手間はなく試せそうである。