買い物山脈

シュナイダーエレクトリック「APC RS 550 BR550G-JP」

~UPSでPCへの電力供給を安定化、サーバーを安全運用する

製品名
APC RS 550 BR550G-JP
購入価格
14,091円
購入時期
2015年8月29日
使用期間
約2週間
「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです
500VAの出力に対応するシュナイダーエレクトリックの「APC RS 550 BR550G-JP」

【お詫びと訂正】初出時に、編集ミスで残ってしまっていた「常時商用給電方式」に関する説明の一部分を削除いたしました。お詫びして訂正させていただきます。

 ファイルサーバーやそのバックアップサーバー、さらにクラウドでファイルを自動同期する各種ファイル同期サービス。こうしたいくつもの手段を利用し、ファイルを分散して安全に保存するのは、仕事で重要なデータを扱う筆者のような職業では当然のことだ。

 ただ、サーバーやメインPCを動かすのに使う「電源」については、あまり深く考えることはなかった。幸いなことに日本は停電が起きづらい地域なので、コンセントに繋がっていれば安心、という思い込みがあったのは事実だ。

 しかし、栃木の実家の近くにある施設が落雷にあって停電が発生し、親に使わせていた自作PCが壊れた。筆者の事務所があるマンションは避雷針もあるため、そう簡単に落雷の被害には遭わないにせよ、周辺地域の施設が被害を受ければ、こうした事態は十分起こり得る。

 そこで3年間の常時稼働で調子が悪くなってきたメインのサーバーを組み換えと同時に、「UPS」(Uninterruptible Power Supply: 無停電電源装置)を導入し、より安全にサーバーなどの機器を運用できる環境を整えることにした。

PC向けにマッチしたUPS選びのコツ

 UPSとは、PCやディスプレイなど、通常はコンセントに繋いで利用する機器を、停電になっても使えるようにする給電機器のことだ。UPSはバッテリを内蔵しており、通常時はこのバッテリに電力をためる。

 停電時はこのバッテリからの電力供給で、接続されている機器を動かす。バッテリを内蔵するノートPCは、コンセントに繋がなくてもバッテリで動作するが、仕組的には同じだ。

 またUPSを導入することで、「雷サージ」を防止して電子機器の故障を防ぐことが可能だ。雷サージとは、落雷などによる影響で過大な電圧や極端な変動が発生する現象である。

 雷サージが起き、こうしたイレギュラーな電圧がコンセントを通じて電子機器に流れ込むと、接続しているPCや電子機器が壊れてしまうことがある。PC Watchの読者なら、「雷が鳴ったらPCの電源を切り、コンセントからケーブルを抜く」という習慣がある人もいるだろう。

 そしてUPSはその機構上、雷サージ対策としても有効に機能する。UPSが反応するのは、停電などによる電圧の低下現象だけではない。雷サージによって発生した過大な電圧にも反応し、コンセントからの給電を止め、バッテリから安全な電圧を生成してPCなどに供給する。UPSに接続していれば、雷が鳴っても慌ててコンセントまで走らなくても良くなるわけだ。

 ともあれ製品選びをしなければならないわけだが、自作PCを含むPCやタブレット全般ならある程度詳しいと自認する筆者にしても、UPSに関しては馴染みのない言葉が多くて、なかなか難しいものがあった。

 そこでUPSという機器は知っていても、実際に購入したことはないというユーザー向けに、UPSを選ぶ際に必要になる基本知識をまず整理してみた。

 個人ユーザーでも購入できる低価格なUPSでは、電流の供給方式として「ラインインタラクティブ」方式と、「常時商用給電」方式の2つがある。ラインインタラクティブは、コンセントからの供給電流に若干の変動があっても、UPS内部で調整して給電する機構を備えるため、瞬断を伴うことなく安定して電流を供給できる。

 常時商用給電方式では、通常はコンセント経由だが異常があればすぐにバッテリ給電に切り換わる。そしてその機構上、バッテリとコンセント経由の切り替え時には、電源供給の瞬断を伴う。構造がシンプルで製品の実売価格も安いのだが、PCのように電源供給にデリケートな機器には向かない。

 このほか「常時インバーター給電方式」というタイプもあるが、これは本格的なサーバーと組み合わせて使われる高価なタイプがほとんどなので、自宅やSOHOで使うUPSとしては選択肢に入れる必要はない。

BR550G-JPの紹介ページの仕様欄から、接続形態が「ラインインタラクティブ」であることを確認できる

有効電力と皮相電力の関係を理解しよう

 もう1つ重要になるのが、UPSの「出力」というスペックだ。これは、UPSがPCなどに対して供給できる電力の上限を示している。例えば接続するPCが消費する電力が300Wであれば、「300W以上の出力」に対応したUPSが必要になる。

 電源ユニットと似たようなイメージを受けるユーザーは多いと思うが、基本的な考え方は同じだ。電源ユニットの出力は、組み込んだCPUやマザーボードなどのパーツが利用する消費電力に合わせて選択しなければならないし、UPSもまた同じだ。

 電源ユニットの出力との違いは、電源ユニットの「力率」という要素が影響することだ。力率とは、コンセントから入力した電力を、電源ユニットがどこまで効率的に利用できるかということを示す割合を指す。

 力率が1なら、コンセントから入力した100Wの電流を、電源ユニット側でも100Wの電流として利用できる。力率が0.5なら、50Wしか利用できない。「300W以上の出力が必要」と書いた理由はここにある。電源ユニットは、コンセントやUPSから供給された電力をそのまま利用できるわけではないのだ。

力率と有効電力、皮相電力の関係を示した。UPSの出力は皮相電力に合わせる必要がある

 純粋にPC側が消費する電力を「有効電力」と呼び、「W」という単位で示す。そしてこの力率による損失を加えた電力を「皮相電力」と呼び、「VA」という単位で示す。そしてUPSの出力は、接続する機器群の皮相電力(VA)を満たしている必要があるのだ。

 この力率だが、波形タイプにも影響するActive PFC回路を搭載する最近の電源ユニットの場合、0.9以上というのが一般的だ。そもそも80PLUS認証を取得した電源ユニットの場合、認証を取得する条件として、0.9以上の力率をサポートしている必要がある。そして最近の電源ユニットで、80PLUSを取得していない製品は稀だ。

 そのため、ここ5年以内の電源ユニットを組み込んだPCなら、ワットチェッカーなどで測定した消費電力にちょっと上乗せする程度で良い。80PLUS認証を取得せず、Active PFC回路も搭載していないかなり古い電源ユニットを組み込んだPCなどでは、力率を0.6~0.7に設定して皮相電力を計算してみよう。

最近の電源ユニットであれば、ほとんどがActive PFC回路を搭載している

 今回、UPSに接続して利用することを予定しているサーバーは、HDDを3台搭載するものの、CPUは発熱の目安となるTDPが45Wと低い「Core i5-3570T」で、ビデオカードも搭載しない構成だ。電源ユニットは、80PLUS Platinum認証を取得し、Active PFC回路を搭載するSuper Flower Computerの「SF-550P14PE-P」である。

Fractal Designの「Define R3」をベースにした静かに動作するサーバー
UPSを導入するサーバーの環境
CPUIntel Core i5-3570T(2.3GHz)
マザーボードASUSTeK P8H77M-PRO(Intel H77)
メモリUMAX DCDDR3-4GB-1333(DDR3-1333、2GB×2)
SSDIntel SSD 320 SSDSA2CW120G3K5
(120GB、Serial ATA 2.5、MLC)
HDDWestern Digital WD Green WD30EZRX-1TBP(3TB×4)
PCケースFractal Design Define R3(ATX)
電源ユニットSuper Flower Computer SF-550P14PE-P
(550W、80PLUS Platinum)

 Electronic Educational Devicesの電力計「Watts Up? PRO」で消費電力を計測してみると、有効電力は、アイドル時で30W前後。HDDも含めてシステム全体を高負荷な状態にした時は、80~90Wだった。力率を0.9と見込んで計算すると、皮相電力は100W程度と考えれば良いことになる。

交換用のバッテリが安定供給されることも重要

 長々と選択ポイントを解説してきたが、今回は各価格比較サイトの売れ筋で、かつサポートの手厚さに定評があるシュナイダーエレクトリックのUPS「APC RS 550 BR550G-JP」(以下、BR550G-JP)を購入した。価格は14,091円である。UPSはSOHOや企業などで使われることが多い機器なので、それなりのコストは覚悟していたのだが、個人的には予想以上に安かったという印象だ。

 皮相電力の小ささを考えると、5,000円から8,000円というもっと安いUPSにしても良かった。ただし、前述したように正弦波での出力や、ラインインタラクティブ方式に対応した製品だと、他社製品も含めて大体この辺がボリュームゾーンになる。

 こうしたスペック面とともに重視したのが、バッテリが交換可能であることと、その供給性である。スマートフォンやノートPCで実感するように、バッテリは消耗品だ。UPSに組み込まれるバッテリも例外ではなく、長く使い続けるなら一定期間での交換が必要になる。

 今回購入したBR550G-JPでは、「交換用バッテリキット APCRBC122J」(店頭価格9,500円前後)というオプションが用意されている。説明書によると、5~25℃の環境では4年に1回、30℃の環境では3年弱に1回のペースでバッテリの交換が推奨されている。

交換用のバッテリ。BR550G-JPにも標準で1個付属している

 ただし「いざ交換」という時に、肝心の交換用バッテリが販売されていないとつらい。シュナイダーエレクトリックに確認したところ、「3、4年後に販売中止という計画はなく、また3、4年前のUPSに対応した交換バッテリも現在販売中」という。こうしたサポートの良さと製品の性格に合わせたオプション品の息の長さも、この製品を選んだ理由の1つである。

 セッティング自体は、非常に簡単だ。内蔵するバッテリユニットは、最初は結線されていない状態なので、内部から取り出してUPSに接続する。次にUPSをコンセントに接続すると、バッテリの充電を開始する。あとはサーバーの電源ケーブルを、宅内コンセントではなくUPSのコンセントに接続し直すだけだ。バッテリの充電完了を待つ必要はない。

最初はバッテリの赤いコネクタが接続されておらず、バッテリへの充電やバッテリ駆動が行なえない。そのため、まずはこのコネクタを接続する必要がある

 BR550G-JPには、バッテリからの給電で保護されるコンセントが3基、商用電源の分岐コンセントが3基搭載されている。筆者の用途ではサーバーのみを接続しているが、必要に応じて外付けHDDや液晶ディスプレイなど、PC以外の周辺機器を接続しても良いだろう。

背面にはバッテリ駆動で保護される3つのコンセント(右)のほか、単純な分岐コンセントを3基装備する

BR550G-JP本体と自動休止機能を設定するPowerChute

 自動休止機能を利用したい場合は、UPSとサーバーを添付のUSBケーブルで接続し、BR550G-JPのユーティリティ「PowerChute Personal Edition」をインストールしよう。このユーティリティから、BR550G-JPのステータス確認や本体設定、停電が起きた時にどのような作業を行なうかを設定できる。

PowerChuteでは、BR550G-JP本体や自動休止機能を設定したり、接続された機器が消費する電力の様子などをモニタリングしたりできる

 表示言語は全て日本語なので、非常に分かりやすい。また接続した機器の皮相電力はこのPowerChuteからでも確認でき、「あとどのくらいの出力の機器が利用できるか」ということも分かる。BR550G-JPの基本設定も、PowerChuteから行なえる。BR550G-JP本体が装備する3つのボタンと、小さなディスプレイを使うよりははるかに楽だ。

 最後にサーバーとBR550G-JPを元の置き場所に戻して、バッテリが満充電になるのを待てば良い。選び方は難しかったが、運用や導入は非常に簡単である。BR550G-JP自体の設定も、筆者の使い方ではカスタマイズの必要がなかった。というか普通のユーザーであれば、あえてカスタマイズが必要な箇所はないだろう。

「監視システム」タブの「パフォーマンス」から、バッテリ駆動を行なった回数や時間などを確認できる

 最後に自動休止機能を試してみた。これはPowerChuteの機能で、コンセントからの給電が途絶えた際に、安全のためにPCを自動で休止状態に移行させる機能である。UPSではお馴染みの機能だ。BR550G-JPとUSBケーブルで接続され、PowerChuteがインストールされているPCでしか利用できないので、単体のNASやBR550G-JPに接続しただけのPCでは、この機能は利用できない。

 設定は「電源供給が途絶えた数分後に休止状態への移行を始める」、「バッテリで利用できる限界の数分前に休止状態への移行を始める」の2つだ。標準では後者の設定になっている。日本ではあまり長時間の停電は発生しないため、こうした設定が標準になっているのだろう。自分の用途や環境に合わせて選択したい。

自動シャットダウンの設定は2種類用意されている

 実際にどういう挙動を示すのかに興味があったので、休止状態への移行が早い前者に設定を変更し、宅内コンセントに接続したUPSの電源ケーブルを抜いてみる。するとBR550G-JPのディスプレイが点灯し、稼働可能時間の残り分数が表示された。今回接続したサーバーの皮相電力であれば、基本的に50分前後はバッテリでも動作するようだ。

 もちろんUPSは、PCをバッテリ駆動させるための機器ではない。この状態になったらすぐにシャットダウンするなり、休止状態に移行する準備を始める必要があるわけで、今回のような低消費電力の構成でも「50分以内に機器の安全を確保する必要がある」という風に考えよう。

 このバッテリでの動作時間は、接続しているPCや電子機器の皮相電力によって変わる。ランタイムのグラフを参照し、自分の環境ではどのくらいの時間を確保できるか簡単に確認してみると良いだろう。

BR550G-JPのランタイムグラフ。300Wでは約4分しか持たない

 さて、設定した1分が過ぎると、PCは安全に休止状態に移行した。停電するとバッテリを持たないデスクトップPCの場合、電源供給が絶たれて不正終了してしまう。その際にOSやディスクに重大なトラブルが生じる可能性があるが、PowerChuteを使って自動で休止状態にしておけば、そうしたトラブルの発生を防げる。

UPS(PCおよびディスプレイを接続)のコンセントを直接抜くと、残り動作時間「13」分が表示された。Windows上で動作している独自ソフトの設定により、電源供給が断たれると1分後に休止状態に移行した。なお、動画の環境は本文中のものと異なり、CPUはCore i7-4770K、GPUはGeForce GTX 780を使っている

メインPCにもBR550G-JPの追加を検討

 個人的にあまり馴染みのない製品であることもあり、どれを買うかという選び方にまず迷った。しかし分かってしまえば単純な話である。また、導入作業や設定も簡単だった。基本的に使い方に悩む部分は全くなかった。

 メインPCであれば、ノートPCに移行することで同じような安全策を採ることも可能だ。しかし、大量のファイルを保存するために多数のHDDを組み込まなければならないサーバーでは、現実的な選択肢ではない。その意味で、UPSは手軽でかつ、費用対効果の高い対策と言えるだろう。

 また、筆者の事務所では、フルHDの液晶ディスプレイを2台繋げたデスクトップを使って各種作業を行なっている。そうそう簡単にノートPCに移行するのも難しい。意外と安く済んだこともあるし、メインPCと液晶ディスプレイにも、同じBR550G-JPを追加して電源回りの強化を図っても良さそうだ。

(竹内 亮介)