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Nehalem系のデュアルコア「Clarkdale/Arrandale」のダイ



●デュアルダイ構成のNehalem系デュアルコアCPU

 Intelは、Nehalemマイクロアーキテクチャのデュアルコア版「Clarkdale(クラークデール)」、「Arrandale(アランデール)」をついに発表した。これによって、Nehalem系CPUは、デスクトップCPUでは、メインストリーム価格帯の下半分と、さらに、その下の価格帯にも浸透を果たす。また、モバイルではメインストリームにようやく普及する。1年以上をかけ、45nmプロセスから32nmプロセスへ移行することで、Nehalemは上から下までラインナップを揃えることになる。

初の32nmプロセスのCPUとなるClarkdale

 Clarkdale/Arrandaleは、CPUダイである「Dual-core Westmere(ウエストミア)」と、GPUダイである「Iron Lake(アイロンレイク)」の2ダイで構成されるMCM(Multi-Chip Module)製品だ。Iron Lake側には、GPUコアだけでなくDRAMコントローラも統合されており、実質的に従来のGMCH(Graphics Memory Controller Hub)相当の機能を持っている。Dual-core WestmereとIron Lakeの間は、オンパッケージ向けにチューニングされたQuickPath Interconnect(QPI)で接続されている。

 Clarkdale/Arrandaleは、Intelにとって最初の32nmプロセスCPUであり、大ボリュームで出荷するメインストリームCPUとして初めてGPUをCPUパッケージに納めた製品でもある。言ってみれば「なんちゃってGPU統合」(Intel関係者)であり、将来の本格的なGPU統合へのステップとなるCPUだ。

ダイサイズ移行図

●1プロセス世代の進歩でCPUコアの肥大化を相殺

 CPUダイであるDual-core Westmereの面積は81平方mm、トランジスタ数は383M(3億8,300万)。まず、面白いのは、81平方mmというDual-core Westmereのダイ面積だ。これは、3MB L2版のデュアルコアPenryn(ペンリン)と同じ。つまり、Core Microarchitecture(Core MA)系の45nm世代のデュアルコアCPUと、Nehalem系の32nmプロセスのデュアルコアCPUが、同じダイサイズということになる。

 同じCPUアーキテクチャなら、プロセス技術が1世代進めば、同じダイサイズに2倍弱のCPUコアを載せられる。例えば、65nmプロセスでCore MAのシングルコア「Merom(メロン)-L」のダイサイズは80平方mm。それが、45nmプロセスのPenrynでは、ほぼ同サイズでデュアルコアになっている。

 しかし、今回は、1プロセス世代進んでも2コアのままだ。Core MAからNehalemでCPUコアが肥大化した分と、キャッシュがPenrynの3MBからDual-core Westmereの4.5MB(L2キャッシュが合計512KB、L3が4MB)へと増えた分で、1世代分のプロセス微細化が相殺されたことになる。上位のクアッドコアでも、65nm版のCore MAのクアッドコア「Kentsfield(ケンツフィールド)」の合計ダイサイズと、45nm版のNehalem系クアッドコア「Bloomfield(ブルームフィールド)」のダイサイズはほぼ同じとなっている。公式として、Core MA→Nehalemでは、CPUコアの肥大分で、1プロセス世代分の技術進歩が相殺されるようだ。

●Intelのスィートスポットのひとつ80平方mm前後のダイ

 もう1つ面白いのは、80平方mm前後のダイサイズが、Intelにとって1つのスイートスポットとなっていることだ。Penryn 3M、Merom-L、その前は65nmでNetBurstマイクロアーキテクチャの「Cedar Mill(シーダーミル)」(81平方mm)、90nmのモバイルCPU「Dothan(ドタン)」(87平方mm)、130nmのモバイルCPU「Banias(バニアス)」(82平方mm)と「Tualatin(テュアラティン)」(80.4平方mm)。同程度のダイサイズのライン上に、連綿とモバイル系とローエンド系のCPUが並ぶ。

 このことは、このサイズが、IntelにとってCPUを無理なく経済的に小さくできる限界であることを示唆している。例えば、I/Oパッドや電源パッドなどの面積の制約によるパッドリミットなどの理由が推測される。もちろん、Atom系のように電力を極力抑えれば、それだけパッドの制約は少なくなり、ダイをより小さくできる。

 Dual-core Westmereのダイサイズは、クアッドコアの「Bloomfield(ブルームフィールド)」(263平方mm)の約3分の1。Nehalem系で最大規模のオクタコア「Beckton(ベックトン)=Nehalem-EX」と比べると、約7分の1以下のサイズだ。マルチコア化によって、CPUは同じマイクロアーキテクチャで、上から下まで7倍以上のスケーラビリティを持つようになった。

Nehalem系CPUの比較

 Clarkdale/Arrandaleを構成するもうひとつのIron Lakeの方は45nmプロセスで114平方mm、177M(1億7,700万)トランジスタ。現状ではGMCHダイであるIron Lakeの方がCPUより40%も大きい。この差は、もし同じ32nmプロセスで製造されるならほぼ解消されると推測される。ちなみに、32nmプロセスでGMCHの機能を、CPUと同じダイに統合したSandy Bridge(サンディブリッジ)では、下のようなレイアウトになっている。クアッドコア版のSandy Bridgeでも、GMCH部分がダイの30%以上を占めていることがわかる。

Sandy Bridgeのダイレイアウト

●Atom系は一足先にGMCH機能をオンダイに統合へ

 Intelは、CPUへのGMCH機能の統合を、下の方から進めている。現在、IntelのPC向けのCPU製品で、CPUダイにGMCHの機能を完全に統合しているのは、Atom系ブランドのネットブック/ネットトップ向けCPU「Pineview(パインビュー)」系だ。Pineviewは45nmプロセスで、すでにオンダイでの統合を果たしており、同じAtom系のウルトラモバイル向けCPU「Lincroft(リンクロフト)」もGMCHに相当する機能を統合している。さらに、デジタル家電向けの「Sodaville(ソーダヴィル)」は、システムのほぼ全ての機能を統合したSoC(System on a Chip)製品となっている。いずれも、45nmプロセスのAtom系CPUコアである「Bonnell(ボンネル)」系CPUコアを核としている。

Lincroftのダイ

 Pineviewは、Bonnellコアが1個のシングルコアダイと、Bonnellコアが2個のデュアルコアダイの2種類がある。スペックを見るとシングルコア版のダイサイズは65.9平方mm程度、デュアルコア版は86.6平方mm程度と見られる。ちょうどBonnellコアが1個分、デュアルコア版の方が大きい。

 最初のAtom系CPUである「Silverthorne(シルバーソーン)」と「Diamondville(ダイヤモンドヴィル)」は、BonnellコアにFSBをつけた構造で、ダイは24.2平方mmと極めて小さかった。それに対して、PineviewはIntelのローエンドのスイートスポットである80平方mm前後のラインに近づくか、達している。Lincroftもほぼ同程度のサイズだと推測される。Atom系CPUも、GMCH統合によって、同じダイサイズに集まりつつある。

●コストは大きく違うClarkdale/ArrandaleとPineview

 PC向けのPineviewについては、Intelは従来のAtom系CPUより価格を引き上げた。そのため、デスクトップのClarkdaleのローエンドは、価格帯としてはAtom系とかなり近づく。しかし、ダイサイズを見ると、コスト構造はかなり異なることがわかる。

Intelのデスクトップ向けCore iシリーズの価格階層

 Clarkdale/ArrandaleとPineviewのダイを比較すると、下のようになる。Clarkdale/Arrandaleは、Dual-core Westmere(81平方mm)とIron Lake(114平方mm)の2ダイで構成される。それに対して、PineviewはデュアルコアでもGMCHを統合してワンチップで80平方mm台に収まる。しかも、プロセスは45nmプロセス(ただしSoC向けのプロセスP1266.8でリーク電流が少ない)のままだ。コスト構造的に、Atom系の方がはるかに安上がりなのは確実だ。

ClarkdaleとPineview比較

 また、この比較図からは32nmのNehalemコアと45nmのBonnellコアでは、そのサイズの比率が縮まっていることもわかる。32nmのNehalemコアは、45nmのBonnellコアの約2倍のサイズだ。このことは、22nmプロセスになればNehalemクラスの機能のコアも、45nmのBonnellコア程度のサイズにまで縮小することを意味している。Intelが、もしAtom系の低コストCPUコアを性能強化して行くなら、Atomと同程度のコストでNehalem程度の性能レンジのCPUが遠くない時点で登場することになる。もちろん、これはIntelの企業戦略が絡むので、予測が難しいが、技術的には可能だ。