■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■
果たして、LGA1366パッケージの「Core i7-9xx(Bloomfield:ブルームフィールド)」は消えて行ってしまうのか?
IntelデスクトップCPUで、LGA1156パッケージの「Lynnfield(リンフィールド)」の登場が迫ったことで浮き彫りになって来たのは、LGA1366のBloomfieldの衰退だ。以前から指摘されているが、Lynnfieldの登場以降は、必然的にBloomfieldの役割は小さくなる。事実上、LynnfieldがBloomfieldに取って代わって行くだろう。
もちろん、DIY市場でトップパフォーマンスを求めるなら、依然としてBloomfieldが選択肢となる。しかし、単にNehalem(ネヘイレム)マイクロアーキテクチャのクアッドコアを手に入れたいとなるなら、トータルコストが安くできるLynnfieldへと流れるのが必然だ。LynnfieldとBloomfieldは、2 SKUで同CPU価格に並ぶ。そのため、必然的に、競合するLGA1366でのSKUは衰退すると見られる。ロードマップ上には残っても、数量は減って行くと推定される。
Intel CPUの価格階層 |
IntelデスクトップCPUのロードマップ |
●製品ミックスの中で減って行くLGA1366 CPU
実際、Intelが顧客に提示している製品ミックスを見ても、デスクトップPCでのLGA1366 CPUの衰退は歴然としている。例えば、下の図はIntelが計画しているデスクトップCPUのボックス品の製品出荷比率だ。元のチャートがラフだったので、厳密な図ではないが、大まかな製品の傾向はわかる。
CPUアーキテクチャ別の生産比率 |
図上で明らかなのは、IntelがデスクトップでのBloomfieldは、事実上フェイドアウトしつつあると見ていることだ。ボックス CPUはDIYやショップブランドが中心となるので、当然ハイエンド品の比率が高く、LGA1366 CPUにとってはいい市場のはず。なのに、そこでもBloomfieldが縮小するとIntelは予測している。トータルでも、Bloomfieldの出荷比率はかなり下がるだろう。
以前示した、より長期のデスクトップCPUの移行図(下)ではLGA1366がそれなりの比率で残り続けるように見える。しかし、この手の元図は概念的であることが多く、厳密に比率を反映しているかどうかはわからない。明確なことは、LGA1366はこれから比率が減り、増えることがなく、デスクトップCPU全体のごく少量に留まることだ。
デスクトップCPUのソケット移行 |
●システム統合時代にはシングルプロセッサのバス構造が変わる
これらの図は、さまざまなことを示している。まず、Intelが、BloomfieldをLynnfieldでハイエンド以外では事実上置き換えようとしていること。Intelが、デスクトップでのNehalemアーキテクチャの本命は、LynnfieldとClarkdale(クラークデール)だと見ていること。Bloomfieldの基本的な性格は、デュアルプロセッサ(DP)サーバー用のNehalem-EP(Gainestown:ゲインズタウン)CPUの転用であり、PC向けのNehalemと言えるのは実はLynnfieldやClarkdaleだったこと。
そして、これらのことは、今後はデュアルプロセッサ向けCPUと、ユニプロセッサ(UP)向けCPUが、より分化して行くことを示している。
CPUに周辺機能を統合するシステムレベル統合自体には、CPUのインターフェイスもセグメントによって変わって来る。これまでのCPUでは、ユニプロセッサであっても、CPUとノースブリッジ(GMCH/MCH)を高速に接続する必要があった。そのため、ユニプロセッサ用CPUも、高速なチップ間インターコネクトとしてFSB(Front Side Bus)を実装していた。そのFSBは、デュアル/マルチプロセッサ(DP/MP)用CPUでは、複数のCPUを接続するマルチプロセッサバスにもなった。そのため、これまではユニプロセッサでもDP/MPでも、FSBの基本的なアーキテクチャを共用できた。
●MP/DPとUPそれぞれでバス回りが分化して行くしかし、システムレベルでの統合が進むと、状況が変わる。ユニプロセッサ向けCPUでは、外部のチップとの高速インターコネクトが必要なくなる。CPU側にメモリコントローラやPCI Expressやネットワークコントローラといった高速I/Oが取り込まれるため、チップセットと高速にやりとりする必要が薄くなるからだ。この傾向は、CPU側に機能が取り込まれて行くにつれて、さらに強くなる。
ところが、マルチプロセッサ向けCPUは、その逆に、より高速なチップ間インターコネクトが必要になって行く。プロセス技術が進むにつれて、CPUに搭載できるCPUコア数が増え、コア数の増大に連れて、チップ間のインターコネクトに、より広い帯域が求められるようになる。CPU側にPCI Expressなどを統合しても状況は変わらない。また、DPとMPでも、インターコネクトのリンク数が変わって行く。
こうした事情から、今後は、マルチプロセッサ向けとデュアルプロセッサ向けとユニプロセッサ向けのそれぞれで、CPUのI/O回りの構造が分化して行く。Intel CPUなら、QuickPath Interconnect(QPI)を実装するのがデュアル/マルチプロセッサ向け、QPIは持たずにシステムのI/Oを統合して行くのがユニプロセッサ向けになって行くだろう。
もちろん、PCI Express系の汎用I/Oと、CPU間のインターコネクトを共通アーキテクチャにしてしまえば共通化はできる。しかし、それも簡単ではない。両者の要求事項が異なるためだ。例えば、PCI ExpressはエンベデッドクロックだがQPIはそうではない。CPU間のインターコネクトではレイテンシが問題になるからだ。そのため、分化は避けられない。
BloomfieldとLynnfieldの関係は、そうした分化を象徴している。つまり、このソケット分化は一時的な現象ではなく、今後のCPUの傾向となって行く。ただし、マルチコア化が進むと、サーバー側もあえてデュアルプロセッサ構成にする必要のある部分が限られて行く。
Nehalemファミリの内部構成 |
●Nehalem世代ではTDP帯も変わる
統合化の影響はCPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)にも現れる。Nehalem系CPUは、CPUにノースブリッジ(GMCH/MCH)の機能を統合している。そのため、これまでのCPUの消費電力に、GMCH/MCHの電力を加えたものに相当する電力が、Nehalem系CPUの消費電力となる。TDPの枠の考え方自体が変わる。
LynnfieldのTDPは95Wで、これはYorkfield(ヨークフィールド)系(Core 2 Quad Q8000/9000)と同じだ。しかし、Core i5-700/i7-800は、CPUにメモリコントローラだけでなく、PCI Express Gen 2 x16も統合、CPUとPCH (Platform Controller Hub)の2チップソリューションになっている。そのため、CPUのTDPは95Wで従来と変わらなくても、全体での消費電力は下がる。
デュアルコアのClarkdaleのTDPは73W。Wolfdale(ウルフデール)系(Core 2 Duo)の65Wから8W上昇した。しかし、こちらもCPUダイ(半導体本体)のTDPに、GMCHダイのTDPを含んでいる。その割に上昇分が少ないのは、両ダイの間でTDPのヘッドルームを利用し合うことで、TDPの枠を抑えているからだ。
クアッドコアLynnfieldのスモールフォームファクタ向け低消費電力版であるCore i5-700S系とCore i7-800S系のTDPは82W。従来の低消費電力クアッドコアのTDPは65Wで、デュアルコアと同じTDPだったので、こちらはある程度上昇することになり、うまみが減る。ただし、対応マザーボードスペックは絞られている。
Nehalem系に対応するマザーボードスペックは3種類。現在のBloomfieldに対応する「FMB(Flexible Motherboard) 08」は、TDP 130WまででLGA1366ソケット。それに対して、通常電力版のLynnfieldに対応するのは「FMB 09B」で、TDP 95Wまで、LGA1156ソケット。デュアルコアClarkdaleとスモールフォームファクタ版のLynnfieldに対応するのは「FMB 09A」で、TDP 82Wまで、LGA1156ソケットだ。
Core iシリーズのTDP階層 |
Intelのモバイル向けCPUのTDP |