■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■
PC向けCPUは、シングルコアのCPUアーキテクチャを改良し続ける「シングルコア時代」から、2004~2005年にCPUコア数を増やす「マルチコア時代」に入り、2010年前後から周辺機能を統合する「システムレベル統合時代」へ入る。AMDはこのように分析しており、Intelもほぼ同じフェイズで同じように変化しつつある。そして、面白いのはIntel CPUのブランディングが、こうしたアーキテクチャ時代の変化にピタリと沿っていることだ。
Intel CPUのブランディングは、2005年まではCPUアーキテクチャの世代を示す「世代ベースブランディング」だった。ところが、2005年以降はCPUコア数の違いを示す「コア数ベースブランディング」へと変わった。そして、今年(2009年)から来年(2010年)に、IntelはCPUのシステムレベルでの機能の違いを示す「機能ベースブランディング」へと変えようとしている。
こうして見ると、Intel CPUのブランディングのスキームは、CPUアーキテクチャの時代の変化と、完全に連動している。このことは、Intelの中で、CPUブランディングの意志決定を行なっているメンバーが、技術的な潮流の変化をある程度は理解していることを示している。マーケティングだけで付けているわけではなさそうだ。
Intel CPUアーキテクチャとブランドの変遷 |
●アーキテクチャ世代を示していた2004年までのCPUブランド
2004年まで、IntelはシングルコアCPUの性能向上のための、CPUマイクロアーキテクチャの改良に注力していた。その時点でのIntelのCPUブランディングは、CPUのアーキテクチャ世代を示すものだった。メインストリームのCPUには、386→486→Pentium→Pentium Pro→Pentium II→Pentium III→Pentium 4と、一貫してCPUアーキテクチャの世代を示すブランド名がつけられていた。
このブランド方式が合理的だったのは、CPUアーキテクチャの世代の差が、CPUの決定的な違いだったからだ。アーキテクチャ世代が違えば、機能もパフォーマンスも大きく異なる。そのため、ブランドでそれを明示することが重要だった。
ところが、疑似デュアルコアCPUを投入した2005年から、ブランディングのスキームが変わった。この時点でIntelはデュアルコアにPentium D、シングルコアにPentium 4とつけた。CPUのアーキテクチャ世代ではなく、CPUコア数でブランドを分けた。Pentium DのDはデュアルを示すとはされていなかったが、Intelがデュアルを連想させることを狙ったのは明確だった。
この方式は、Core 2世代にも引き継がれる。クアッドコアはCore 2 Quad、デュアルコアがCore 2 Duo、シングルコアはCeleronとわかりやすい階層になった。この時点での唯一のイレギュラーはデュアルコアのPentiumだった。Pentium系ブランドはCPUアーキテクチャ世代を示すものだったのを、IntelはCore 2系の廉価版デュアルコアのブランドに転用した。Core 2ブランドを一定価格以上に止めるための方策だ。しかし、CPUコア数を基本にブランドを分けるというスキームは一貫していた。
CPUコアベースのブランディングが合理的だったのは、この世代ではCPUコア数がCPUの決定的な違いになったからだ。CPUの動作周波数の向上が鈍化した以上、性能の向上はCPUコア数の増加に求めなくてはならない。そうした状況では、CPUコア数の差をブランドで明示することが適していた。Core 2系にも、世代を示す“2”はつけられていたものの、ポイントはその後ろのコア数を示す“Quad”と“Duo”にあった。
IntelモバイルCPUのロードマップ |
IntelデスクトップCPUのロードマップ |
●機能で切り分けられたCore i系のブランド
そして今、IntelはCPUアーキテクチャとブランディングの方向を、再び変えつつある。CPUアーキテクチャでは、「Nehalem(ネヘイレム)」世代から徐々に周辺チップの機能を統合し始めた。
最初の「Bloomfield(ブルームフィールド)」ではメモリコントローラが取り込まれ、今夏の「Lynnfield(リンフィールド)」ではさらにPCI Expressが取り込まれる。来年第1四半期の「Clarkdale(クラークデール)」では、別ダイ(半導体本体)のメモリコントローラとPCI ExpressとGPUコアが、CPUと同じパッケージに封止される。
さらに、2011年の「Sandy Bridge(サンディブリッジ)」では、ノースブリッジ(GMCH)の機能は完全にCPUダイに統合されてしまう見込みだ。こうしたシステム統合化は、その後も続き、最終的にはPC向けCPUも、限りなくSoC(System on a Chip)に近いものになる(少なくとも高速I/Oとメモリインターフェイスは全て取り込む可能性が高い)と推測される。
こうしたアーキテクチャの変化に合わせて、Nehalem世代からはブランドも、統合した機能の違いを示すラベルへと切り替わりつつある。
デスクトップでは、クアッドコアでフル機能を備えたCPUが「Core i7」、同じクアッドコアでもHyper-Threadingが無効にされたものは「Core i5」になる。つまり、同時実行できるスレッド数が8スレッドであるのがCore i7、4スレッドなのがCore i5という切り分けだ。付帯してCore i5ではvProが無効になる。
デュアルコアでは、フル機能版が「Core i5」、ターボやvProが無効にされた機能限定版が「Core i3」。さらにNehalemならではの機能が全て無効にされたものが「Pentium」クラスのブランドになる。スレッド数が4がCore i5とCore i3で、2スレッドがPentium。また、デュアルコアのCore i5とCore i3、Pentiumでは、内蔵するGPUの機能や性能にもかなりの差がつけられていると推測される。
以前の記事でも説明したが、Core i系CPUブランドは、CPUコア数に関係なく、CPUの価格帯と機能でブランディングされている。下はデスクトップとノートPCの来年(2010年)前半時点でのCPU価格とブランドのチャートだ。これを見ると、CPUコア数ベースのブランディングから離れたことが明瞭だ。
IntelノートブックCPUのブランドと価格帯 |
IntelデスクトップCPUのブランドと価格帯 |
Intel CPUのブランドと機能 |
IntelデスクトップCPUのブランドマップ |
●周辺機能の統合で機能によるブランド切り分けが合理的に
では、なぜCore iの機能ベースのブランディングが合理的なのか。それは、Intel CPUが(AMD CPUも)、今後どんどんシステム上の機能をCPUに統合して行くからだ。そのため、CPUコアの世代や数ではなく、その回りに付帯させた機能の違いでCPUを区分けした方が便利になって行く。
例えば、今回のNehalemでは、GPUを統合したClarkdaleでは、GPUコアの機能や性能がブランド差別化になると推測される。これは、従来なら、ノースブリッジ(GMCH)の差別化となっていた部分だ。例えると、従来のノースブリッジ(GMCH)で言えば、G45とG43とG41の違いが、CPU自体の違いになって行く。
CPU側に機能統合をすることで、これまでの周辺機能チップの差別化を、CPUで実現しなければならなくなるのは当然の話だ。コーポレイト系ではvProなどマネージメントの機能が差別化になっている。また、今後はPCI Expressがx16×1か、x16×2かといった違いも、CPUの機能の違いになって行くだろう。
システムレベルの統合化が進むと、CPUコアのアーキテクチャの違いやコア数の違いの重要性は薄れて行き、周辺機能の違いの方が重要になって行く。Intelのブランディングが合理的になるだろう。
面白いのは、Intelがプラットフォームブランドを取りやめることも、この流れに沿っているように見えることだ。IntelはPentium M以来、ノートPCプラットフォームのブランドとして浸透させて来た「Centrino」を変更する。2010年の1月からは、Centrinoはプラットフォーム、つまり、CPU+チップセット+ワイヤレスチップの組み合わせを示すブランド名ではなくなる。単純に、Intelのワイヤレス製品のブランド名となる。つまり、唯一の成功したプラットフォームブランドをやめてしまう。
プラットフォームブランドには、もちろん“抱き合わせ”という問題もあるため、この判断は政治的な理由かもしれない。しかし、大枠で言えば、現在のシステム統合時代のブランディングとマッチしている。CPU自体にプラットフォームの機能が集約されて行き、CPUブランドがその機能の違いを示すようになるなら、プラットフォームブランドの意味が薄れて行くからだ。
こうして見ると、今回のブランド規則の変更が、CPUアーキテクチャの流れの変化から必然的に導き出されたものであることがわかる。