山口真弘の電子辞書最前線
セイコーインスツル「DF-X9000」
~ATOKや7notesを搭載したタッチ対応カラー液晶モデル
(2013/3/4 00:00)
セイコーインスツルの電子辞書「DF-X9000」は、電子辞書としては初となる静電式のタッチパネルを搭載し、スマートフォンと同様のフリックやピンチイン・アウトによる操作を可能としたカラー電子辞書だ。PCから電子辞書の機能を利用できる「PASORAMA+」を搭載するほか、無線LANを用いたWeb接続にも対応、さらに電子書籍ビューワや手書きメモアプリも搭載するなど、盛りだくさんの仕様となっている。
従来の同社の電子辞書といえば、他社に比べて高精細なディスプレイが特徴だったが、液晶自体はモノクロだったため、他社製品に比べて表現力では後れを取っていた。今回の「DF-X9000」および兄弟機に当たる「DF-X10000」、「DF-X8000」は、WVGA(800×480ドット)に対応したカラー液晶を搭載し、さらに静電式タッチパネルを採用したことで、スマートフォンに近い操作感を実現しているのが大きな特徴だ。
またEPUB3にも対応した電子書籍ビューワ「NetFront BookReader EPUB Edition」や、日本語IME「ATOK」、手書きアプリ「7notes with mazec-T」を搭載するなど、電子辞書機能にとどまらず、むしろキーボード付きのスマートフォン/タブレットと呼んでも違和感のない製品に仕上がっている。「DAYFILER(デイファイラー)」という新ブランド名が用意されていることからも、同社の気合がうかがえる。さっそくチェックしていこう。
静電式タッチパネルを搭載。重さと電池寿命に注意
まずは外観と基本スペックから見ていこう。
ボディは重く、厚みもあってかなりゴツい。重量も約360gと、300g前後が多い昨今ではクラムシェル型カラー電子辞書の中ではひときわ重い。同社の従来の電子辞書はボディサイズの割に軽量だったこともあり、乗り換えてすぐの頃は、重さの違いを強く感じるだろう。後述するバッテリの問題と合わせて、毎日手軽に持ち運ぶ用途にはあまり向かない。
同社の電子辞書としては初めてカラー液晶を搭載しており、画面サイズは5.1型、解像度は800×480ドットとなっている。従来モデルが5.2型/640×480ドットだったので、若干サイズが小さくなったものの密度は上がった格好だ。画面サイズの小型化は従来モデルと並べてようやく分かる程度なのだが、単体で見るとやや窮屈さを感じるのも事実だ。これについては後ほどメニュー画面を紹介する際に触れる。
高解像度による表示の美しさは他社製品と比べても群を抜いており、とくにフォントの美しさは圧倒的。従来の電子辞書は文字サイズが3段階や5段階といった限られたサイズでしか可変せず、また実用的でない文字サイズが含まれていることもあったが、本モデルはスケーラブルフォントの採用により無段階可変が可能なので、見やすく調整することができる。
見た目が従来モデルから大きく変わる中、従来モデルの面影を残しているのがキーボードで、電子辞書に多く採用されているアイソレーションキーではなくパンタグラフタイプのキーボードを採用しているため打鍵感に優れる。ただ、役割ごとにキーの形状や色を変え、間隔も開けているため押し間違いにくい他社製品と比べてキーが見分けにくい欠点もそのまま受け継いでいる。そろそろ何らかの進化がほしいと感じる。
電池寿命は約11時間。他社のカラー電子辞書が130時間前後なので、10分の1以下だ。本製品は専用ACアダプタが付属しているため、外出先ではバッテリ、自宅に帰ればACアダプタ駆動という使い方ができるとは言え、電子辞書としては格段に短い部類であることに変わりはない。他製品と比較する場合は注意したいポイントだ。
Androidベースの多彩なアプリを搭載
本製品は、多彩な付加機能を搭載しているのが大きな特徴だ。本題の辞書機能をチェックする前に、こちらについてもざっと触れておこう。
まずはビューア機能。ACCESSの電子書籍ビューア「NetFront BookReader EPUB Edition」を搭載しており、電子書籍の最新フォーマットであるEPUB3の表示にも対応している。さらにはPDFや、Word、Excel、PowerPointなどの表示も可能だ。
さらにライター機能も搭載している。名称だけ見るとイマイチピンと来ないが、要するにテキストでメモを取れる機能である。本製品は日本語IMEであるATOKのほか、MetaMoJiの「7notes with mazec-T」を搭載しており、キーボードからはもちろん手書きでの入力も行なえる。入力したデータはPDFなどで出力することもできる。
また、無線LANを経由してインターネットに接続し、ブラウジングを行なうことも可能だ。画像枚数が多いページだと動きが遅くなるケースも見られるが、一般的なサイトを閲覧するには何ら問題がなく、スマートフォン顔負けの快適な閲覧が行なえる。
すでにお気づきの方も多いと思うが、これは本製品のOSがAndroidであることに起因している。Android向けに作られたNetFront BookReaderや7notesなどのアプリがそのまま搭載されているため、結果的にスマートフォンやタブレットと同等の機能および使い勝手を実現しているというわけだ。中でもブラウザについては完全にAndroidの標準ブラウザであり、クイックコントロール機能なども利用できるのが面白い。
また、本製品はウィルス対策ソフト「Dr.Web anti-virus Light」がインストールできるようになっているのだが、本体内に保存されているapkファイルをダブルタップしてインストーラを起動する手順が説明書にも明記されているなど、Androidであることをまったく隠さない作りになっている。ざっと試した限り、Google Playはさすがにブロックされているようだが、ベンダーが公式にapkファイルを配布している「Dropbox」などは問題なくインストールが行なえた。
と、拡張性は折り紙付きなわけだが、プリインストールされている機能を含めて、使い勝手はお世辞にもよいとは言えない。たとえばPDFのビューア機能は、全体表示もしくは幅か高さに合わせた表示になるので、本製品添付の説明書PDFをスムーズに読むのすら一苦労といった状態だ。横書きの論文などなら上下スクロールだけで読んでいけなくはないのだが、それでも画面の窮屈さはいかんともしがたい。せめて画面を半回転させて表示する機能があればと悔やまれる。
ライター機能も同様で、mazecの認識精度は高いものの、クラムシェルであるがゆえ、指先で画面に書こうとすると手前のキーボード部が邪魔になって書きにくい。せめてタッチペンがあればと思うのだが、本製品には添付されていないので(まあこれは静電式パネルということもあるだろうが)、指先で書かざるを得ず、実用性という意味ではいま一歩という印象を受けた。
またブラウザは、表示中に辞書画面に戻ろうとすると、「戻る」キーを押し続けてブラウザを閉じてやる必要がある。当然、次にブラウザを開くと初期ページに戻ってしまっているので、辞書とブラウザをスムーズに切り替えながら調べ物をするのは困難だ。ブラウザ表示時に、キーボード上部にある「国語」、「英和」、「和英」といったメニューボタンがまったく反応しないのも、やや戸惑う。
といった具合に、現状では使い勝手の面で後手に回っている感が強い。機能そのものは十分なだけに、これから先、それらがシームレスに使えるよう、改善されていくことを期待したい。
UIは難解だがコンテンツは充実。独自ストアからの追加購入にも対応
本題に戻って、製品本来の電子辞書としての機能についてみていこう。
コンテンツ数は58。兄弟機の世界大百科事典収録モデル「DF-X10000」、英語モデル「DF-X8000」にも言えることだが、他社にないコンテンツも多く、コンテンツ重視で同社製品を選択するユーザーが多いことも頷ける。
これらコンテンツはジャンルごとにタブにまとめられ、ホーム画面に並んでいるわけだが、このホーム画面のデザインが実はかなり曲者である。基本的には2段タブ切り替え方式なのだが、ボタンのように見えて実は押せない表示があったり、その逆があったりと、デザインの意図するところが理解しにくく、使い慣れるまでかなり苦労する。インターフェイスを刷新されたモデルではよくある話とはいえ、機能そのものは問題ないだけに実にもったいない。
ともあれ、検索実行後の画面以降はまったく普通に使えてしまったりするので、やはり検索画面のUIがネックと言えそうだ。今後のブラッシュアップを待ちたい。
ちなみに本製品では、独自ストア「DAYFILER CLUB(デイファイラークラブ)」から、第2外国語や専門辞書などのコンテンツをダウンロード購入して追加できるとされている。オンラインで追加辞書を購入できる仕組みとしてはシャープの「Brain」があるが、こちらはUSBでPC経由でのダウンロードとなるため、無線LAN経由でダウンロードできる本製品のほうが使い勝手はよいと考えられる。2013年度にサービス開始予定とのことで現状ではまだ未知数だが、こちらにも期待したいところだ。
ブラッシュアップの余地はあるが、他の追従を許さない機能の豊富さ
以上のように、従来の電子辞書の概念を覆す豊富な機能が大きな特徴なのだが、重さや電池寿命など、手軽さや軽快さが損なわれてしまっている点は否めない。また使い勝手の面で「こんな機能があるのに肝心のこれはできない」といった制約も多く、まだまだこなれていないという印象は強い。機能にもよるのだが、触れてから反応するまでにワンテンポかかったりと、反応が鈍く感じられるのもネックだ。
ただ、操作性については、不自由だったり違和感があるのは事実だが、操作に習熟すればそれなりに使えるようになる。実際、使い始めてすぐの段階と、しばらく使い続けてからの評価は筆者自身かなり違う。要は独特の操作性に対する学習コストがかかるだけで、慣れでカバーできる範囲が広いわけだ。どれだけ本気で使い込むかによって、個人の評価が大きく変わるモデルと言っていいのではないかと思う。そうした意味で、柱となるコンテンツがしっかりしているのは心強い。
ちなみに本製品はソフトウェア更新も可能なだけに、従来の電子辞書と異なり、出荷後の機能改善や追加もありうる。この仕組みをうまく活かしたUIのブラッシュアップが期待されるとともに、次期モデルでは本体の軽量化と電池の長寿命化、また動作の高速化といった、相反する部分をどこまで進化させられるかが、ポイントということになりそうだ。
製品名 | DF-X9000 |
---|---|
メーカー希望小売価格 | オープンプライス |
ディスプレイ | 5.1型カラー |
ドット数 | 800×480ドット |
電源 | リチウムイオン充電池 |
使用時間 | 約11時間 |
拡張機能 | PASORAMA+、無線LAN |
本体サイズ(突起部含む) | 146×108×24mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約360g(電池含む) |
収録コンテンツ数 | 58(コンテンツ一覧はこちら) |