山口真弘の電子辞書最前線
カシオ「XD-K8500」
~サブパネルを廃止し入力インターフェイスを刷新したビジネス向けモデル
(2015/2/12 06:00)
カシオの電子辞書「XD-K8500」は、英語やビジネス向けの170コンテンツを搭載したビジネスパーソン向けの電子辞書だ。一般的な国語・英語系の辞書コンテンツはもちろん、英会話学習や旅行用、TOEIC対策、さらに実務情報系のコンテンツなど、ビジネスパーソンが求めるコンテンツを幅広く網羅していることが特徴だ。
本製品を始めとする2015年の春モデル「XD-Kシリーズ」では、従来あったキーボード手前のサブパネルがなくなり、手書き入力はメインディスプレイに一本化されるとともに、キーボードのレイアウトが見直され、個々のキーが大型に改められるなど、大規模なモデルチェンジが図られている。
今回はそんな「XD-Kシリーズ」の1つ、ビジネス向けモデルの「XD-K8500」を従来モデルと比較しながらチェックしていく。なおメーカーから借用した機材での評価となるため、市販される製品とは若干相違がある可能性があることを予めご了承いただきたい。
キーボード手前のサブパネルが省かれ、キーの大型化でより押しやすく
まずは外観と基本スペックについて、従来モデルにあたるXD-U8600と比べながらチェックする。
画面サイズは5.3型で、有効サイズは528×320ドットと、前回から特に変化はない。バックライトを採用しており、タッチ操作に対応したカラー液晶である点も、従来と同様だ。このほか、本体スピーカー/イヤフォンから選択できる音声出力機能や、2基のSDカードスロットを搭載するといった特徴もそのままだ。100MBという内蔵メモリの量も変わらない。
従来モデルとの最大の違いは、従来までのモデルに存在したキーボード手前のサブパネルが省かれたことだ。これに伴う具体的な操作方法の変化については後述するが、ではサブパネルがなくなったことで生じた余剰スペースはどうなったのかというと、そのぶんキーのサイズが大きくなり、上下の間隔が広がったことで、スペース的には差し引きゼロとなっている。何かしらの新たなインターフェイスを導入するのではなく、キーのサイズやレイアウトを見直す方向に力を割いたのは、今回のモデルチェンジのコンセプトをよく表しているように感じられる。
キーピッチは実測で14mmと、測ってみると従来モデルと変わらないのだが、左右のキーの隙間がなくなっているため、キーそのものの左右幅は1mmほど広がっており、数値以上に押しやすくなったように感じられる。またメンブレンタイプのキーのクリック感も明らかに向上しており、しっかりと押した感触があるのも好印象だ。
ボディのデザインも大幅に改められている。従来モデルは本のように縦向きに両手で開いて文学コンテンツを楽しむブックスタイルモードでの利用を前提に、それに合ったハードカバー調のデザインが採用されていたが、本製品は角が丸みを帯びた、よりクラムシェル型らしいデザインに改められている。ブックスタイルそのものが廃止されたわけではないのだが、軸足はあくまでもクラムシェルに置くというスタンスだ。なお本体サイズは従来と変わらないが、重量はわずか15gとはいえ軽量化している。
サブパネル廃止に伴うキーボードレイアウトの変化、ボディデザインのリニューアルと並ぶもう1つの違いは駆動時間で、130時間から180時間へと大幅に伸びている。単3電池×2本で駆動するのは従来と同じだが、実に約4割もの延長ということになる。従来モデルから買い替える動機の1つになりうるだろう。
170コンテンツを搭載。内容は主にマイナーチェンジ
続いてメニューとコンテンツについてざっと見ていこう。
コンテンツ数は170で、従来モデルにあたるXD-U8600からさらに10コンテンツ増加している。中身を見ていくと、ジーニアス英和辞典(第4版)、英会話スキット・トレーニングのほか、これまでVol.2までしか収録されていなかったTOEICテスト新公式問題集がVol.4まで収録されているといった違いが目につく。
中には「一生に一度だけの旅」シリーズ5コンテンツのようにまとまって追加になったコンテンツもあるにはあるが、全体的に見るとカテゴリ単位での大幅な改廃はなく、マイナーチェンジと言っていい顔ぶれだ。詳細な内容は精査していないが、日本文学1,000作品、世界文学1,000作品、クラシック名曲2,000フレーズというコンテンツの数も従来と同じだ。
コンテンツを選択するためのメニュー画面について多少気になるのは、英語系のコンテンツがあちこちのタブに分散しており、探しにくいことだ。本製品では画面上部のタブが左から順に、国語1/2、英語1/2、英会話1/2、生活・実用1/2、トラベル、実務・情報1/2、学習1/2と並んでいるのだが、そのうち英語コンテンツは英語1/2、英会話1/2、トラベル、学習2とおもに4つのタブに分散しており、しかも間に別のタブが挟まっているため、目的のコンテンツをうっかり見落としてしまいやすいのだ。
これは前回まで英会話とトラベルが1つのカテゴリにまとまっていたのを2つに分けたのが原因で、従来は少し離れた学習タブにTOEIC関連があるのが気になる程度だったのが、細分化によっていっそう配置が飛び飛びに感じられるようになったというのが真相だ。個人的には英会話とトラベル、またTOEIC系を集めた学習2は隣り合って配置されているべきと感じるが、このあたりの感じ方はユーザーによっても異なるはずなので、タブにせよアイコンにせよ、スマートフォンのホーム画面のように配置のカスタマイズができると便利かもしれない。
タブの切り替えとコンテンツの選択がより一般的な操作方法に
さて、一通りチェックしたところで、今回のモデルの目玉である、操作系について詳しく見ていこう。上でも述べたように、本製品はこれまでキーボード手前に存在していたサブパネルが省かれ、タッチ入力はメイン画面に一本化されている。
もともとサブパネルなる機能が同社の電子辞書に初めて搭載された時点では、メインのディスプレイは現在のようなタッチ入力に対応しておらず、手書きはすべてサブパネルで行なう仕様だった。しかしその後メインのディスプレイもタッチ入力に対応するようになったことで、手書きインターフェイスとして使わない際には入力補助ボタンや情報を表示するなど、徐々に多機能化していったという経緯がある。
もっとも多機能化と言うと聞こえはいいが、その時々に応じて手書きのパッドが表示されたり、あるいは操作ボタンが表示されたりと、その場その場で役割をめまぐるしく変える仕様だったため、わかりにくい点は否めなかった。しかも補助インターフェイスという範疇を超え、サブパネルでしかできない操作もあったため、操作をよりわかりにくくしていた。
その最たる例がタブの切り替えで、メニュー上部の「国語1」「国語2」「英語1」といったタブを切り替えるために、従来はサブパネルに表示される「<<」「>>」のキーを使う必要があった。
普通に考えるとキーボードの左右キーを使ってタブのフォーカスを移動できそうなものだが、こちらは各カテゴリ内のコンテンツのフォーカスを移動するために使う仕様になっており、「カテゴリを切り替えてコンテンツを選んで起動」というもっとも利用頻度の高い操作をするためだけに、サブパネル内のボタンと、キーボード上の上下左右キー、両方を使う必要があった。分かりにくいだけではなく、光の反射が強い屋外などでサブパネルが見えにくく操作がしにくいという、実用上かなり致命的な問題もあった。
今回のモデルでは、この「タブ切り替え」、「コンテンツ選択」が、上下左右キーだけで行なえるよう、役割が改められた。具体的には、左右キーでタブを切り替え、そのカテゴリ内のコンテンツを選ぶ際は下方向キーを押してコンテンツの表示領域にフォーカスを移すという操作である。要するに「大分類-小分類」にあたる考え方が取り入れられ、その相互間の移動に上下キーを使う仕様に改められたわけだ。こちらの操作方法がより一般的であり、直感的に扱える。ソフトキーとハードキーの併用を強いるという、どう考えても使いにくかった仕様が解消されたのは好印象だ。
ただしまだ課題はあって、上下2段に並んだコンテンツのアイコンの上段右端を選択した状態で右向きのキーを押すと、なぜか次のタブに切り替わり、次のタブの上段左端に移動した状態になってしまう。これは「同じタブの左下に移動する」がユーザビリティ的に正しい動きで、「反応しない」もしくは「ループして同じ上段の左端に戻る」でもまだなんとか理解はできるのだが、カテゴリを飛び越えて隣のタブの上段左端に移動してしまうというのは、どうにも理解の範疇を超えている。まだまだ改善の道のりは遠そうだ。
上下左右キーと訳/決定キー、戻る/リストキーの配置変更に注意
さて、サブパネル廃止とそれに伴うキーの役割の変化と並行して、メイン画面の右側にあるクイックパレットの役割もずいぶんと見直されている。一例を挙げると、ページ送りキー(三角マークが2つ連なったアイコンのペア。以下の写真参照)がなくなり、ハードキーだけになったほか、クイックパレットには新たに「文字サイズ」「さらに検索」「ノート」といったキーが追加されている。
利用頻度と関連性を再検討した結果と考えられるが、最初に設定したあとは変更する機会がほとんどないと考えられる文字サイズなどは、わざわざハードキーで提供するほどの必要があるのか以前から疑問だったので、個人的には今回の見直しはしっくりくる。
このほか、クイックパレットとハードキー両方にある「ジャンプ」、「音声」、「戻る/リスト」の3つは従来のままで、従来までは両方にあった「訳/決定」が今回のモデルではハードキーだけに、「メニュー」はソフトキーだけになったりと、こちらも利用頻度を考慮した見直しの跡が見られる。ハードキーのサイズも、従来に比べるとずいぶんと余裕のある大きさになり、全体的に押しやすくなっている。
唯一、ハードキーのレイアウトでマイナスなのが、訳/決定キーがこれまでの上下左右キーの中央ではなく、その左側に移されたことだ。今回のモデルではQWERTYキーが大きくなっているため手前に配置された上下左右キーの天地を縮める必要があり、中央に訳/決定キーを置いたままではレイアウトの調整がつかなかったためと考えられるが、今回の試用中も、訳/決定キーを押したつもりで上キーもしくは下キーを押していた、ということが何度かあったほどで、直感的な操作性という点では大きなマイナスだ。
またこれに加えて、上下左右キーのすぐ隣にあった「戻る/リスト」キーが離れた位置にレイアウトされたのもマイナスだ。QWERTYキーを大きくする関係上やむを得ない配置変更であることは分かるのだが、従来モデルに慣れた人ほど、この変化は受け入れ難い可能性がありそうだ
新規のユーザに取っつきやすい操作体系で万人におすすめできるモデル
今回のモデルをざっと使ってみて感じるのは、ずいぶんと“普通”になったということだ。これはネガティブな意味ではなく、特徴を出そうとするあまりユーザーを戸惑わせていたインターフェイスが影をひそめ、より一般的な操作体系に改められたという意味だ。
中でも前述したタブの切替方法のように、見た目はよくあるインターフェイスでありながら、操作方法は独特という、ユーザビリティ的にもっともまずいパターンを排除したのは好印象だ。フォーカスが右端まで行った際の移動先など、一部に依然として残る独特の挙動の改善については今後に期待したいが、今回のモデルチェンジによって新規のユーザーに取っつきやすい操作体系になったのは間違いない。
いずれにせよ、サブパネル廃止という大規模な変更にもかかわらず、使いにくくなったという印象はない。XD-Nシリーズで採用されたアイコン表示がようやくここにきてこなれてきた感が強く、筆者としてはプラスポイントが大きい。従来モデルに慣れ親しんだユーザーからすると、慣れが邪魔をして違和感なく使いこなせるようになるまでしばらく時間がかかる可能性はあるが、クリック感が増して押しやすくなったキー、約4割伸びた駆動時間なども加味して、万人におすすめできるモデルと言えるだろう。
製品名 | XD-K8500 |
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メーカー希望小売価格 | オープンプライス |
ディスプレイ | 5.0型カラー |
ドット数 | 528×320ドット |
電源 | 単3電池×2 |
使用時間 | 約180時間 |
拡張機能 | microSD×2、USB |
本体サイズ(突起部含む) | 148.0×105.5×15.7mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約265g(電池含む) |
収録コンテンツ数 | 170(コンテンツ一覧はこちら) |