山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「PW-NA1」

新生“Brain”ブランドで登場したコンパクトサイズのモノクロ電子辞書

シャープ「PW-NA1」。写真のブラックのほか、レッドをラインナップする

 シャープの電子辞書「PW-NA1」は、12コンテンツを搭載したモノクロ液晶搭載の電子辞書だ。スタンダードな電子辞書と比べて2回りほど小さく、かつ200gを切る軽さで持ち運びやすいコンパクトなサイズが特徴だ。

 本製品のリリースと時を同じくして、これまでモノクロ辞書=「Papyrus」、カラー辞書=「Brain」という2つのブランドで展開してきた同社の電子辞書製品が、「Brain」1本に統合されることが発表された。今回紹介する「PW-NA1」、および50音配列モデルの「PW-NK1」は、「Brain」ブランドとしては初の、コンパクトサイズのモノクロモデルということになる。

 今回は本製品について、過去のコンパクトサイズの製品と比較しつつチェックしていく。なおメーカーから借用したサンプル機材での評価となるため、市販される製品とは若干相違がある可能性があることを予めご了承いただきたい。

胸ポケットにすっぽり収まる。音声出力はスピーカーのみ

 まずは外観の特徴と、基本的なスペックから見ていこう。

 今回使用したブラックモデルはマットな質感で、落ち着きがある。ピアノ調の塗装だと見た目は高級感がある反面、指紋がつきやすいなどのデメリットがあるので、個人的には今回の外装はなかなか良いと思う。プラスチック感丸出しというわけでもないので、大人が携行しても違和感はない。

 本体は胸ポケットにすっぽりと収まるサイズ。携帯を前提としたモデルということで軽さも際立っており、単4電池2本を合わせても約185gで、スタンダードサイズの電子辞書が300g前後であることを考えると、可搬性はかなり高い。

 ただし機能はかなり削られている。液晶はモノクロで、タッチ操作にも対応しない。バックライトもないので暗所での利用は困難だ。また画面サイズは4.7型と、コンパクトサイズのモデルとしては大きい部類に入るのだが、解像度は320×160ドットとあまり高くなく、それゆえ文字はドットが目立つ。文字サイズは日本語で5段階の調節が可能なのだが、小さいサイズの表示はあまり得意ではない。

 その一方でスピーカーを搭載し、イヤフォンを接続しなくても音声が聞けるなど、従来モデルの特徴は踏襲されている。カジュアルに音声を聴きたい場合、わざわざイヤフォンを引っ張り出すのは面倒なものだが、本製品はその点手軽に聴けて良い。ただしイヤフォンジャックそのものが廃止されているため、音声は必ずスピーカー経由での出力となる点は注意したい。

 駆動は単四電池×2本。同社の電子辞書にはリチウムイオン充電池を採用し、ACアダプタからの充電によって駆動する製品もあるが、外出先での利用が多くなると考えられる本製品では、電池駆動がベターだろう。駆動時間は約150時間と十分な長さだ。

 コンテンツの追加機能などは一切なく、メモリカードスロットもなければ、USBコネクタもない。この辺りはコンパクトサイズのモデルに共通する特徴で、スタンダードサイズのモデルとの差別化要因といったところだろう。

上蓋を閉じたところ。全体的に直線的なデザインで、マットな質感
コンパクトサイズということで片手で握れる。ワイシャツの胸ポケットにもスッポリと収まる
左側面。とくにコネクタ類はない。イヤフォン端子を搭載しないのは1つの特徴
右側面。こちらもとくにコネクタ類はない。写真では分かりにくいが中央付近の底面寄りにストラップホールがある
前面。ラッチもなくすっきりとしている
後面。ヒンジには電池を収納する構造になっている
電池蓋を開けたところ。単4形電池2本で駆動する
左手前にスピーカーを搭載する
文字サイズは5段階で可変する。あまり解像度が高くないため、小さい文字の調節の自由度は高くない。リリースには「大きい文字表示で使いやすさを追求」とあるが、解像度の関係で小さい文字が苦手であるが故の表現と解釈した方が良さそうだ

収録コンテンツ数は12とやや少なめ。旅行コンテンツが中心

 続いてコンテンツについて見ていこう。

 同社電子辞書のコンパクトサイズの製品には、元々Brainブランドでカラーモデル「PW-AC110」という製品があり、発売時期で見るとこれがもっとも新しいのだが、本稿執筆時点で既にメーカーサイトの一覧からは型番が消えている。今回の「PW-NA1」は、2009年に発売され、今なお現行モデルに名を連ねるPapyrusブランドのモノクロモデル「PW-AM700」の後継という位置付けになる。

 ただ、搭載コンテンツを見ると、それほど従来モデルの後継という位置付けにはこだわっていないように感じられる。従来モデル「PW-AM700」が、国語8、英語・英会話3、ビジネス8、旅行9、百科事典1、健康1の計30コンテンツを収録していたのに比べると、本モデルは国語2、英語2、旅行7、教養1の計12コンテンツと、かなり厳選した印象だ。容量的にも負担の少ないコンテンツを搭載して数の帳尻合わせをすることも可能だったろうが、それをしてこなかったあたり、Brainブランドとして仕切り直す意図の方が強かったのではと思われる。

 従来モデルとの比較という点では、8つあったビジネス系が完全になくなっているほか、国語系が「スーパー大辞林 3.0」と「漢字源」だけに絞り込まれたのが目立つ。一方で旅行系はほぼそのまま残っており、これまで9だったのが1つ減って8と、ほぼ手付かずだ。同社はコンパクトサイズのモデルについては「生活総合モデル」、「ビジネスモデル」といったジャンル分けをしていないのだが、実質的には旅行向けコンテンツに加えて基本的な国語・英語のコンテンツを追加した、旅行向けモデルであると言える。

コンパクトサイズのカラーモデル「PW-AC110」(右)との比較。奥行きも幅もやや大きくなっているが、駆動方式が違うこともあってかこちらの方が軽量。また本製品の方が薄い
国語系。スーパー大辞林3.0と漢字源を搭載
英語系。ウィズダムの英和/和英辞典を搭載。あくまでも基本的な辞書のみといったところで英英辞典などはない
百科事典系はブリタニカ国際大百科事典を搭載
旅行系はIとIIの2つのタブに分かれている。Iでは英語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ドイツ語を搭載
旅行系のIIでは韓国語と中国語を搭載
便利機能タブからは設定および電卓/便利計算機能を呼び出せる

コンテンツが呼び出しやすい大型ボタンを採用

 本製品はタッチパネル非搭載ということで、タッチ操作を活かした機能、例えば読み方が分からない単語をスタイラスで入力したり、マーカーで印を付けるなどの機能は用意されていない。かつて多くのモデルに搭載されていたキーボード手前の子画面も、本モデルには搭載されていない(スタンダードサイズのモデルでも省かれる方向に向かっているので、これは当然だろう)。

 そのため、音声読み上げや図の表示でも、画面中のアイコンの選択はタップで行なうのではなく、あくまでキー操作で行なわなくてはいけない。コンパクトサイズのモデルとしては至って普通なのだが、スタンダードサイズのモデルに慣れていると、やや違和感はある。

 ただしその代わりに、Brainの現行モデルの特徴である、コンテンツ名が記された大型のボタンが追加されており、コンテンツの呼び出しやすさは格段に向上している。従来モデル「PW-AM700」も、またカラーモデルの「PW-AC110」も、コンテンツ呼び出しボタンはQWERTYキーよりも小さく細長かったので、ずいぶんと押しやすくなった。競合のカシオにもコンパクトサイズのモデルはあるが、こちらもコンテンツの呼び出しキーはかなり小さいため、コンテンツを呼び出す操作では本製品に分がある印象だ。

 中でも特徴的なのが「調べる」ボタンだ。スタンダードサイズのモデルではおなじみの、全コンテンツでの一括検索が行なえるボタンである。電源ボタンの隣にこのボタンがやや大きな幅で用意されているので、どのコンテンツで検索するかを深く考えることなく、まずはこのキーを押せば良いという安心感がある。全てのコンテンツが網羅されているわけではなく、中でも旅行コンテンツをボタン一発で呼び出せないのはやや疑問だが、ともあれ電子辞書にあまり馴染みがないユーザーにとっては分かりやすく便利な機能だろう。

 その代わりに若干窮屈になったのが、QWERTYキーの手前にある、上下左右/決定/戻るといったキー群で、キーサイズそのものは十分な大きさが維持されているものの、やや間隔が詰まって押しにくくなった。またキー数も少なくなっており、なかでも音量調節キーがこれまで独立したキーだったのが、シフトキーとの組み合わせになってしまったのは、個人的にはややマイナスだ。

 ただしQWERTYキーのサイズは従来のまま維持されているので、文字入力のしやすさは従来のままだ。さすがにタッチ操作が可能な機種には敵わないが、普通に使っているとスタンダードサイズのモデルを使っているのと錯覚してしまうほどで、入力しにくいといったことはない。コンパクトサイズのモデルだからといって大きく劣っていないのは、安心して良いだろう。

キー盤面。上段のコンテンツ呼び出しキーがかなり大きく、逆にQWERTYキー下段の上下左右/決定キーなどはやや窮屈な印象
現行モデルでないが、スタンダードサイズのモデル(右、PW-A9200)と対比させるとボディサイズにはこれだけの差がある
過去のスタンダードサイズのモデルに搭載されていたキーボード手前の子画面がないため、キーボード盤面のサイズはそう極端な差がないことが分かる
タッチ操作に対応していないため、音声読み上げや図の表示はキー操作で行なわなくてはならない
「調べる」ボタンをタップすると、全コンテンツを横断できる検索フォームが表示される
最近のスタンダードサイズのモデルにも言えるのだが、かつて上下左右キーの真ん中にあった決定キーがキーボード中央下段に移ったのも、片手で主要操作が完結しないという意味ではマイナスというのが筆者の評価である

普段使いの電子辞書として優秀。ネックは価格か

上位モデルにも搭載されている漢字の筆順表示機能も搭載する

 以上ざっと見てきたが、どちらかというとBrainブランドへの移行と、それに伴う機能や仕様の辻褄合わせに念頭が置かれたモデルという印象だが、全体の完成度はなかなか高い。基本機能と主要コンテンツに徹しており、遊びの部分がまったくないが、そのストイックさを好む人も多いことだろう。動作もきびきびしており、普段使いの電子辞書としては優秀だ。

 ネックがあるとすれば価格だろうか。かつてのカラーのコンパクトモデル「PW-AC110」は実売2万円台半ば、モノクロの従来モデル「PW-AM700」は実売19,800円前後だったのに対し、本モデルは発売時点で18,000円前後と、見た目は割安に見えるのだが、コンテンツ数が前者は50、後者が30のところ本製品は12しかないので、実際にはそう割安とは言えない。

 特にこれまでのモデルにあった「類語新辞典」や「OXFORD現代英英辞典」など、相応に見出し数が多いコンテンツが省かれているだけに、もう少し価格的には頑張って欲しかったというのが正直なところ。それゆえ実売価格がどのくらい下がるかが1つのポイントとなるだろう。あくまでも売れ行き次第ということになるだろうが、本モデルと同じボディで、さらに搭載コンテンツが多いモデルや、カシオのコンパクトモデルのような外国語のバリエーション展開も見てみたいところだ。

【表】主な仕様
製品名PW-NA1
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ4.7型モノクロ
ドット数320×160ドット
電源単4形電池×2
使用時間約150時間
拡張機能なし
本体サイズ(突起部含む)132.5×90.0×16.6mm(幅×奥行き×高さ)
重量約185g(電池含む)
収録コンテンツ数12(コンテンツ一覧はこちら)

(山口 真弘)