井上繁樹の最新通信機器事情

NECアクセステクニカ「AtermWF800HP」

~お手ごろ価格で11acが利用できるシンプルでコンパクトな無線LANルーター

NECアクセステクニカ「AtermWF800HP」
発売中

価格:オープンプライス

 NECアクセステクニカの「AtermWF800HP」は、お手ごろ価格のIEEE 802.11ac(Draft)対応無線LANルーターだ。有線LAN速度上限は100Mbpsのインターネット接続重視の製品ながら、11acと、基板ノイズをシャットアウトする「μEBG構造」の2つの速度低減抑止機能を持つ、ちょっとユニークな製品だ。

概要

 AtermWF800HP(以下WF800HP)は2.4GHz帯に加え5GHz帯が利用できる無線LANルーターだ。無線LAN部分は、目玉であるIEEE 802.11ac(Draft)を始め、11a/b/g/nに対応している。搭載しているアンテナは2本。接続速度は11acが最大433Mbps、2.4GHz帯の11nが300Mbps、5GHz帯の11nが150Mbpsだ。有線LAN部分は100Mbps対応で、WAN×1、LAN×3の計4ポート搭載している。ちなみに、初期設定のままで11ac、11n共に最大速度で利用できる設定になっている。

同梱物一覧。本体、ACアダプタ、LANケーブル、冊子
前面。上からPOWER、ACTIVE、2.4GHz、5GHzランプ
底面。初期設定されているSSIDや暗号化キー、MACアドレスなどがプリントされたシールとその下にRESETボタンがある
背面。左からACコネクタ、WANポート、LANポート×3、モード切り替えスイッチ(ルーター、ブリッジ)、らくらくスタート
天面。前面と背面のランプはこちらからも見える
同梱物一覧。本体、短めのUSBケーブル、CD、マニュアルなどの冊子類
USB 2.0/3.0対応。11ac使用時はUSB 3.0使用推奨
背面。MACアドレスなど出荷時設定がプリントされたシールが貼られている
表面。形状はUSBスティックタイプ。光を通す素材でできていて、稼働状態を示すランプが内部で光る

 ボディは白とグレーの2色でどちらもマット仕上げ。上位モデルでは黒のクリアブラックなので対照的だ。上位モデルと同様に無尾翼機の様な形状だが、容積は25%小さく、スタンドの形状も簡略化されたものになっている。横置き時に床面から距離を保つための足に相当する部分も短くなっており、上位モデルほど放熱について気を遣う必要がないようだ。

 大きさは146×97×33mm(幅×奥行き×高さ、横置き時)で、重量は200g(本体のみ)。同梱のスタンドを付け替えることで、縦置き、横置き、壁掛け設置ができる。消費電力は最大6Wとなっている。

 マニュアルについてだが、紙の簡単なものが同梱しているが、同じ内容のものがWebでPDFが公開されているほか、より詳細な内容については公式サイトで公開されている。同様のスタイルでマニュアル類を公開しているメーカーとして、アイ・オー・データ機器がある。インターネットに繋がってさえいればいつでも確認できるわけで、使う側としてはありがたい。

 11ac世代のNECアクセステクニカの無線LANルーター製品のユニークな点は、基板ノイズの低減やアンテナの小型化実現をアピールしているところ。無線LANは規格あってのものなので、こと接続まわりに関しては差別化しにくいものだと思うが、プリント基板内のノイズを遮断する「μEBG構造」と、従来の10分の1近くまでサイズをダウンしたアンテナ「μSRアンテナ」をWebやパンフレットで紹介している。

 今回速度測定の際無線LAN子機として使用したのは「AtermWL900U」(以下WL900U)で、やはり2.4GHz帯と5GHz帯の両方の電波が利用可能な製品だ。11ac(Draft)を始め、11a/b/g/nに対応している。搭載しているアンテナは2本。同じくアンテナを2本搭載したWF800HPと組み合わせて使うと、アンテナが1本の場合に比べて倍近い速度で利用できる。接続速度は11ac使用時最大867Mbpsで、11nは2.4GHz帯、5GHz帯共に最大300Mbpsとなっている。

WL900を使って11acで接続したところ。接続速度は433.5Mbpsだった
WL900を使って11n (2.4HGz)で接続したところ。接続速度は300Mbpsだった

【お詫びと訂正】μEBGとμSRアンテナの説明に誤りがありましたので、該当部分を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。

管理画面

 管理画面はAtermシリーズを以前から使用しているユーザーにはおなじみのシンプルで軽快なデザインのWebベースのものだ。ルーターモードであればブラウザのアドレスバーに「192.168.10.1」と入力すれば開ける。PCやMacだけでなく、スマートフォンやタブレットからも利用可能だ。ただし、iOSでは一部制約があって、設定値の保存や復元、ファームウェアのアップロード更新ができない。

5GHz帯無線LANの設定。最初から11ac(433Mbps)が使える設定になっている
2.4GHz帯無線LANの設定。最初から倍速モード(300Mbps)が使える設定になっている
パケットフィルタの設定は詳細設定モードで開ける。かんたんモードではメニュー自体表示されない
ファームウェア更新設定。自動更新を行なうメンテナンスバージョンアップ機能は最初から有効になっている

 管理画面には「かんたんモード」と「詳細設定モード」の2種類のモードがあって、初期状態で選択されているのは「かんたんモード」。両者で違うのは表示される項目の数で、かんたんモードではネットワーク接続のための項目とファームウェア更新のための項目以外は省略されている。詳細設定モードでは、MACアドレスフィルタやパケットフィルタなどのセキュリティ系の機能や、ポートマッピング、DHCP固定割り当て、週単位で設定できる節電設定などの機能を使える。

らくらくスタートQR2を使うにはWi-Fi機能が有効になっている必要がある
WF800HPのQRコードを読み込ませているところ。フォーカスが合ったら読み込み作業は終了
2.4GHz、5GHzのSSIDと暗号化キーが読み込まれたので、画面の指示に従って設定を保存
あとは、Wi-Fiの設定画面で保存されたSSIDを選択すればOK。ややこしい暗号化キーを入力する必要はない

 なお、Android及びiOS限定だが、WF800F本体に貼られたシールのQRコードを読み取って、接続設定を簡単にしてくれるアプリがストアで無料配信されている。2.4GHz帯と5GHz帯の両方のSSIDと暗号化キーを一度の操作で登録できる。ただし、登録されるのは初期設定のものなので、初期設定から変更してしまうと利用できない。接続設定については、ほかにもWPSが利用できる。

ベンチマーク

 以下の測定では無線LAN親機にWF800HP、無線LAN子機にWL900Uを使用した。接続形態についてだが、2台のPCを使用し、ホスト側は有線LANでWF800HPに接続し、クライアント側はWL900Uを使ってWF800HPに無線LANで接続した。使用したソフトはCrystalDiskMark3.0eで、ホスト側のPCの共有フォルダを、クライアント側のPCにネットワークドライブとしてマウントして、そのドライブの速度を測定した。

 PCのスペックについてだが、CPUがホスト側はCore i3-2120、クライアント側はCore i5-3210Mと異なる以外は、メモリ容量が8GB、ストレージがSSD、OSがWindows 8 Pro 64bit版であることは共通。測定環境は鉄筋コンクリートのマンションの一室でルーターとの距離は1m。近隣は2.4GHz帯のユーザーが多いが、5GHz帯のユーザーは確認できなかった。

 表内の(N 2230)はクライアント側PC内蔵の無線LANアダプタ「Intel Wireless N 2230」のこと。2.4GHz帯の11b/g/nに対応している。最大300Mbpsの倍速モードで使用した。(RTL8168)は同じくクライアント側のPC内蔵の有線LANアダプタで1Gbps対応だが、WF800HPに合わせて接続速度が100Mbpsになっている。

【表1】11acの速度測定結果(Mbps) - ホストがWindows 8 Proの場合
アダプタWL900UWL900U(N 2230)(RTL8168)
プロトコル11ac11n-2.4GHz11n-2.4GHz100BASE
リンク433.5300.0300.0100.0
リード90.489.690.891.5
ライト86.988.589.491.3
【表2】11acの速度測定結果(Mbps) - ホストがUbuntu 13.04の場合
アダプタWL900UWL900U(N 2230)(RTL8168)
プロトコル11ac2.4GHz-11n2.4GHz-11n100BASE
リンク433.5300.0300.0100.0
リード66.162.875.890.4
ライト95.789.297.498.7
クライアントが11acで、ホストが100Mbpsの有線LANで接続した場合の速度測定結果

 11acの速度についてだが、ホストがWindowsの場合、リードおよそ90Mbps、ライト87Mbpsということで、直後に行なった11nに比べてライトで2Mbps負けているが、あまり速度差が出ない環境でテストしているため、仕方がないものと思われる。ただし、ホストがUbuntuの場合、リード66Mbps、ライト96Mbpsで、どちらも11nより6Mbps以上の差を付けている。なお、96Mbpsというと、ホストがWindowsの場合の有線LANの結果よりもよい値だ。

 次に行なったFTPの速度測定では、ホスト側のPCのOSをUbuntu 13.04(64bit版)に切り替え、vsFTPd 3.0.4をFTPサーバーとして使用して測定した。FTPクライアントはWindowsに標準でインストールされているもので、Powershell上から呼び出して使用した。転送に使用したファイルは動画ファイルをMP4形式で圧縮して100MBにしたもの。

【表3】11acのFTP速度測定結果(Mbps)
テスト1テスト2テスト3テスト4テスト5
リード94.695.295.994.695.4
ライト83.585.981.881.084.0
【表4】100MBps有線LANのFTP速度測定結果(Mbps)
テスト1テスト2テスト3テスト4テスト5
リード96.296.496.496.496.4
ライト96.496.496.496.496.4

 結果を見ると、リードはおよそ95~96Mbps、ライトはおよそ81~86Mbpsだった。ホストがUbuntuの場合のCrystalDiskMarkの結果と合わせて見ると、リードとライトの両方は無理だが、どちらか一方が有線LANレベルに並ぶ速度になっていることが分かる。

 さらに、iperf1.7.0(GUI上からiperfを呼び出せるjperf 2.0.0越しに使用)でスループットを測定した結果が以下の画面になる。グラフのうち緑が100Mbps有線LAN、青は11acのもの。有線LANは94.8~95.7Mbps、11acは59.5~88.1Mbpsだった。

iperfによるスループット測定結果。緑のグラフが100Mbpsの有線LAN、青のグラフが11acのもの

まとめと感想

 AtermWF800HPはインターネット接続の機能を重視したシンプルな無線LANルーター製品だ。コンパクトで何より軽いので設置作業が楽なのも見逃せないところ。11ac対応ながら速度上限は100Mbpsだが、インターネット接続や接続する無線LAN対応機器の実効速度を考えると、バランスを見て割り切った製品と言えるだろう。これまで100Mbpsで使ってきて速度に不満はないものの、古くなってきた無線LANルーターを交換したいという人に適した選択肢の1つだと言える。

 なお、受信アンテナの「μEBG構造」ならではのメリットについては今回の測定では分からなかった。FTPの速度を見ると悪くない数字が出ており、一定の効果があるのかもしれない。

(井上 繁樹)