井上繁樹の最新通信機器事情

DTI「Serversman@VPS」 & SSD採用DigitalOcean

~月額500円以下のVPSがオンラインストレージとして使えるか試してみた

 最近ではOSにも無料のものがつくようになったオンラインストレージ。普及が進むにつれてか有料サービスの容量単価も下がってきた。それに影響されたというわけでもないだろうが、いつの間にかroot権限付きのサーバーサービスもお手軽な価格になっていた。そこで、「いじれる」オンラインストレージとして、どんなものなのか、実際に使って試してみた

500円前後からあるroot権限付きサーバーサービス

 個人向けのroot権限付きのサーバーサービスは、成果が見込めない趣味・学習用途としては、手を出しにくい価格設定のものが多く、1台自前のPCを用意した方が他の用途にも使えて便利だというのが、多くのWeb Programmer予備軍諸子の印象なのではないだろうか。

 国内では以前からDTIが月額490円と破格なServersman@VPS(Virtual Private Server) Entryを提供していたが、対抗馬が見当たらず乗り換え先の無い状態で今一歩踏み出しにくいところがあった。もちろん、海外に目を向ければ同価格帯とスペックのサービスがあまたあるが、離れた場所にあるので応答速度や転送速度がその分犠牲になる。

 そんなわけで、長らくroot権限付きのサーバー類は自宅に設置したものを使ってきたが、最近になって海外のサービスではあるものの、月額500円前後でストレージにSSDを採用したサービスが登場した。2012年12月に設立されたばかりの米Digital OceanのVPSだ。ネットワークの速度の分使い勝手は悪くなるが、バックアップ先の1つくらいにはなるわけだし、SSD搭載の低価格VPSサービスがどんなものなのか確かめてみたくなったこともありServersman@VPSと併せて試してみることにした。

Serversman@VPSのホームページ。スペック一覧が表示されている。保証メモリの「保証」とは必ず使える容量のこと。システムの空きに応じて最大2GBまで使える
DigitalOceanのホームページ。まず、アカウントを作成して、必要に応じてDropletと呼ばれる仮想サーバーを作成していく。安価ながらSSDを採用している

 なお、本連載はネットワーク事情に焦点をものであることから、2つのVPSサービスをオンラインストレージとして使った場合を中心に見ていくことにする。

VPSとは

 VPS(Virtual Private Server)は仮想化された専用サーバーサービスのことだ。ユーザーは1つのハードウェア上で複数稼働する仮想サーバーを契約数に応じて利用する。ハードウェア1台まるごと割り当てられる専用サーバー(Dedicated Server)サービスと比べると安価なのが最大の特長だ。

 VPSや専用サーバーがホームページ用のサーバーサービスと比べると違うのは、root権限があり、カスタマイズの自由度が高く、SSHシェルやVNC経由での操作が可能なことだ。ネットワークの速度が十分に速ければリモートアクセス系の機能を活用することでローカルさながらのGUI環境を構築できる。

 サーバーは少し知識のある人であれば、常時接続の回線とサーバー用のPCが1台、もしくは仮想化システムを動かすのに十分な性能のデスクトップPCがあれば自宅にも比較的簡単に設置できる。ただし、セットアップやメンテナンス、ハードウェアのトラブル対処、サーバーが使用する電気代や回線の用意と料金の支払い、発生する熱や騒音、ホコリ、ケーブルの処理等々を自分で引き受ける必要がある。レンタルのサーバーサービスはそれら面倒を代わりに引き受けてくれる。

 長々説明したが、簡単に言ってしまうと、WindowsなりMacなりのPCを使っている人が、手軽にグローバルIPアドレス付きのLinux系サーバー環境を入手する選択肢の1つがVPSだ。なお、ここでは簡単に言うために「Linux」という言葉を使ったが、BSD系のシステムが使える場合もあるし、Windowsサーバーを利用できるサービスもある。

カタログ的スペック

 今回のテストに使用したのはDTIのServersman@VPS Entry(月額490円)と、DigitalOceanの最も安価なプラン(月額5ドル)だ。オンラインストレージとして使う場合ネットワークの速度に加えて、転送量の上限が重要な指標になるが、前者は制限無しで後者は1TBまでとなっている。選択できるOSはCentOS、Debian、Ubuntuのほか、DigitalOceanではArch LinuxやFedoraも選択できる。OSのインストールや初期化、イメージバックアップ(別途要料金)はWeb UIからクリック操作でできる。

Serversman@VPS Entryはサーバーの設置場所を東京か大阪の2カ所から選べる
Serversman@VPS Entryが選べるOS 3種類。仮想化システムの制約上ubuntuでは11.04までしかアップグレードできなかった。今後サービスのアップグレードでさらに新しいバージョンまでアップグレードできるようになる可能性がある
DigitalOceanのDroplet作成画面。設置場所は3カ所から、OSは5種類から選べる。Serversman側とディストリビューションのバージョンが離れ過ぎないようにubuntu 12.04を選択した
VPSサービスのバックアップ機能。Serversman、DigitalOceanとも別料金になっている。どちらも安価でVPSの月額料金ほどかからないが、元々安価なサービスなのでいっそのこと複数の格安サーバーを借りるという選択肢も出てくる

 それから、スペックというわけではないのだが、サーバーサービスならではの特長として、設置場所を選択できる。Serversman@VPSであれば、東京と大阪、DigitalOceanであれば、ニューヨーク、サンフランシスコ、アムステルダムから選択できる。一般に有料のサーバーサービスは一般家屋よりも高い基準の災害対策がされているので、自宅にサーバーを設置する場合よりも損害が出る可能性は低いと言えるが、離れた複数の場所に設置することでさらにリスクを分散できるメリットがある。

 スペック詳細については以下の表の通り。表中のUnixBenchについてだが、Unix系のシステムのパフォーマンスを測る指標として使われているもので、値が大きいほど性能が高いとされている。ハードウェアの性能を測るためのものではないので、使用するOSによっても左右される。ping値については東京都内で測定した。

【表1】スペックとUnixBench結果
名称ServersmanDigital OceanLocal PC
使用OSUbuntu Server 11.04 64bitUbuntu Server 12.04 32bitUbuntu Desktop 13.04 64bit
CPUXeon L5630不明Core i3-2120
メモリ1GB512MB8GB
ストレージHDD 50GBSSD 20GBSSD 9.3GB
UnixBench124.91053.83159.3
【表2】ping結果
名称ServermanDigitalOceanLocal PC
最小5ms121ms0ms
最大6ms124ms0ms
平均5ms122ms0ms
UnixBenchの提供ページ。利用にあたってはあらかじめmake、gcc、Perlなどをインストールしておく必要がある。複数コアを並列処理した時のパフォーマンスも測定できる
UnixBenchを起動中のSSHシェル画面。Dhrystone、Whetstone他全10項目のスコアから算出される。処理にはVPSだと20分くらいかかる

オンラインストレージとしてのベンチマーク

 VPSをオンラインストレージで使う方法として簡単なのは、他のオンラインストレージの同期ソフトを使うことだろう。もっとも、Linuxに対応した同期アプリを提供しているところはわずかで、サーバーサービス上でも使えることが確認できるのはDropboxくらいだろうか。なお、Dropboxの同期ソフトはLAN同期機能をオフにして使う必要がある。

DropboxのLinux用同期ソフト。画面上半分にある行頭にアイコンのついたリンクはGUI対応のもの。GUIを使いにくいサーバーサービスではコマンドラインのツールが何かと便利だ。画面下半分のコマンド列をシェルにドロップした後、併せて「CLIスクリプト」のリンクからPythonスクリプトもダウンロードしておく
dropoxdを起動後、必ずCLIスクリプトを使ってLAN同期をオフにしておく。GUI版には設定画面にLAN同期をオンオフするためのチェックボックスがある

 もっとも、オンラインストレージの同期ソフトは処理をバックグラウンドで行ない、必ずしも速度を重視した設定になっているとは言えない。そこで、ここでは速度を測るために、SFTP機能を使った。SFTPはSSHが使える状態になっているサーバーであれば使えるファイル転送機能で、SSH同様通信内容が暗号化されるので安全性も高いと言える。なお、暗号化される分FTPと比べると速度は遅くなる。

 速度の測定にはWindows 8 Pro機(Core i5-3210M、メモリ8GB、SSD)を使用した。ベンチマーク測定のためのクライアントソフトして、WinSCPのコマンドライン機能を使用した。WinSCPはGUIで使えるSFTP対応のクライアントソフトで、コマンドラインアプリが同梱されている。コマンドラインアプリを使うとバッチ処理ができるほか速度の測定が簡単にできる。

WinSCPを使用してVPS側に接続したところ。エクスプローラーとよく似たGUIでもちろんドラッグ&ドロップ操作にも対応している
WinSCPのコマンドライン用ツール「WinSCP.com」を使ってバッチ操作でVPSとファイルを送受信した時のログ。パスワードの入力に一度失敗しているのはご愛嬌

 速度の測定結果は以下の表の通り。put(送信)とget(受信)を5回ずつセットでやってみたが、Serversman@VPSは遅い場合で10Mbps、速い場合は20Mbps前後出ていた。対して、DigitalOceanは全テスト中1回のみ4Mbpsだったが、それ以外は1Mbps前後だった。UnixBenchの結果と比べると結果が逆転しているのが面白いところだ。

【表3】Serversman@VPS Entryの速度(Mbps)

test1test2test3test4test5
put20.218.510.820.320.1
get17.020.314.518.420.3
【表4】DigitalOceanの速度(Mbps)

test1test2test3test4test5
put1.34.01.50.80.7
get1.31.01.81.51.6

 さらに各VPS間で今度はLinux用のSFTPコマンドを使って速度を測定したのが以下の表になる。ローカルのWindows 8 Pro機を使って測定した時と比べると、距離を感じさせない結果となった。それどころか、DigitalOceanからServersman@VPSにファイルを送信する(put)場合は35MbpsとServesman@VPS側で出た最も良い結果と比べて10Mbps以上速い結果も出ている。つまり、サーバー間でやりとりする分については国内と国外の距離差が速度差につながらなかったわけで、ここに海外のサーバーをうまく活用する鍵がありそうだ。

【表5】Serversman@VPS -> DigitalOceanの速度(Mbps)

test1test2test3test4test5
put21.026.026.026.026.0
get21.014.315.914.311.7
【表6】DigitalOcean -> Serversman@VPSの速度(Mbps)

test1test2test3test4test5
put30.219.330.215.935.2
get19.323.521.023.523.5

まとめと感想

 VPSをオンラインストレージとして使ってみた結果だが、Serversman@VPSについてはSFTPを使った速度の測定結果を見る限り想像していたほど悪くなかったというのが印象だ。20Mbps程度出ているのであればファイルの保管庫としては十分だと言えるのではないだろうか。転送量も制限無しということで、ファイルの受け渡し用途にも適していると言える。UnixBenchを見る限り負荷の高い処理には向かないようだが、趣味であれこれプログラムを走らせてみる分には十分だという印象を得た。

 DigitalOceanについてはやはり海の向こうのサーバーということでオンラインストレージとしては使いにくそうだ。本文では触れなかったが、シェルで操作している際も少々もたつくところがあった。けれど、サーバー同士で送受信をさせてみると、国内にあるServersman以上の結果も出ており、バックアップストレージとして使えるという印象を得た。UnixBenchの結果を見る限り価格の割には数値は悪くないのでその処理性能を役立てられる機会もあるのかもしれない。

 VPSをオンラインストレージとして使うにはセットアップはもちろんデータやサーバーの保護も保守も自分でやらなければならない手間があるので、誰にでもおすすめできるものではないが、選択肢の1つとしてあっても良いのではないだろうか。

(井上 繁樹)