井上繁樹の最新通信機器事情

アイ・オー・データ機器「WN-G300TVGR」
~LAN内のPCやiOS端末でTVを見られる無線LANルーター



アイ・オー・データ機器「Wi-Fi TV」(WN-G300TVGR)

4月中旬 発売

価格:16,485円



 アイ・オー・データ機器の「WN-G300TVGR」は国内では初めて地上波デジタル放送対応のTVチューナを内蔵した無線LANルーターだ。今回は発売前に製品を借りて試用することができたのでベンチマーク結果や使用感などを紹介したい。

●地デジチューナ搭載無線LANルーター

 WN-G300TVGRは、2.4GHz帯の無線LANに対応し、1Gbps対応の有線LANポートを3つ、WAN/LAN兼用ポートを1つ搭載した無線LANルーターだ。2.4GHz帯では最大300Mbpsで接続できる(倍速モード時)。最大の特徴は地デジチューナを本体に内蔵していることで、LAN内のPCやiOS端末で番組を視聴できる。

本体斜め前より(縦置き時)背面(横置き時)。左からアンテナ端子、ACコネクタ、B-CASカードスロット、LANポート×3、インターネット(WAN)ポート×1、モード切替スイッチ、リセットボタン側面(縦置き時天面)。排気口がある。反対側の面(縦置き時底面)は左右対称形
天面(縦置き時側面)。電源、お知らせ、ワイヤレス、WPSのランプが並ぶ。WPSランプの右にあるのがWPSボタン本体背面(縦置き時側面)。MACアドレス、シリアルナンバー、ライセンスキー、暗号化キー、PIN、SSID、QRコードがプリントされたシールが貼られれている
縦置き時用のスタンド、左右非対称な爪で本体を固定する。底面にはゴム足が付いている管理画面のトップページはステータス表示。サイドバーの「ステータス」と同じ内容

 TVチューナを内蔵したことでスペースが足りなくなったのか、同価格帯の無線LANルーター製品と比べると、LANポートが1つ少ない。また、機種によっては2つ搭載されていることもあるUSBポートが無い。代わりにTV機能用のminiB-CASカードスロットとアンテナ端子を搭載している。

 TVチューナ以外では、無料のダイナミックDNSサービス「iobb.net」、ランプの消灯やLANの速度制限をして節電できる「ECOモード」、悪質サイトブロックサービス「ファミリースマイル」(有料)が利用できる。また、AndroidやiOS搭載端末でSSIDと暗号化キーの入力が簡単にできる「QRコネクト」に対応している。

●ベンチマーク

 今回はLANの速度の測定に加え、NATアクセラレータの効果を見るためにインターネット接続速度の測定を行なった。順に紹介する。

 まず、LANの速度についてだが、サーバー側PCの共有フォルダをクライアント側PCのネットワークドライブとしてマウントして「CrystalDiskMark 3.0.1」で測定した。サーバーにはWindows 7 Professional 64bit(Pentium G620T)とUbuntu 11.10 32bit(Atom D2700)、クライアントにはWindows 7 Home Premium 32bit(Celeron M723)を使用した。さらにUbuntuマシンにインストールしたFTPサーバー「vsftpd」を使ってFTPの速度についても測定した。

 サーバー側はいずれも1Gbpsの有線LANでWN-G300TVGRに直接接続した。クライアント側は1Gbpsの有線LANに加え、ロジテックの無線LAN子機「LAN-W450AN/U2」を使って無線LAN(2.4GHz帯 11n倍速モード)でWN-G300TVGRに直接接続した。

 測定は「ルーターモード」(PPPoE接続使用時及び非使用時)と「AP(アクセスポイント)モード」の計3つのモードで行なった。無線LANの接続速度は最速が読み込み約116Mbps、書き込み約90Mbpsだった。有線LANについては最速が読み込み約529Mbps、書き込み約819Mbpsだった。

【表1】ルーターモード(PPPoE接続時)での測定結果(Mbps)
 2.4GHz 11n x22.4GHz 11n1000BASE-T
接続先READWRITEREADWRITEREADWRITE
NTFS82.667.183.569.8382.1419.9
Ext467.589.676.185.0458.6818.6
Ext4(FTP)83.864.693.981.6529.2494.5

ルーターモード(PPPoE接続時)での2.4GHz帯11n倍速モードのベンチマーク結果(Windowsの共有ドライブ)

【表2】ルーターモードでの測定結果(Mbps)
 2.4GHz 11n x22.4GHz 11n1000BASE-T
接続先READWRITEREADWRITEREADWRITE
NTFS82.667.186.778.2369.5406.0
Ext467.589.671.478.3449.4585.4
Ext4(FTP)84.769.287.573.0508.8438.8

ルーターモード(非PPPoE接続時)での2.4GHz帯11n倍速モードのベンチマーク結果(Windowsの共有ドライブ)

【表3】AP(Bridge)モードでの測定結果(Mbps)
 2.4GHz 11n x22.4GHz 11n1000BASE-T
接続先READWRITEREADWRITEREADWRITE
NTFS82.667.194.383.7370.7400.9
Ext467.589.672.984.6457.3584.3
Ext4(FTP)51.448.792.879.6526.0502.5

アクセスポイントモード(PPPoE接続時)での2.4GHz帯11n倍速モードのベンチマーク結果(Windowsの共有ドライブ)

 次にインターネットの接続速度について。WN-G300TVGRにはインターネットの接続速度を向上させる「NATアクセラレータ」と呼ばれる機能を搭載している。その効果がどれだけあるのかを見るために、NATアクセラレータなしの場合と、使った場合の速度を測定してみた。回線はフレッツ光ネクスト、測定は「価格.com」の「スピードテスト」を使用した。

【表4】インターネット接続速度(Mbps)
 test 1test 2test 3test 4test 5
下り96.242.895.895.695.8
上り81.178.774.461.280.0

【表5】インターネット接続速度(Mbps)
NATアクセラレータ使用
 test 1test 2test 3test 4test 5
下り96.095.992.296.296.7
上り93.793.793.793.793.6

NATアクセラレータの設定は詳細設定の「NAT」タブにある

 5回ずつ行なったテスト結果を見るとNATアクセラレータを使った場合は上り速度の上限が80Mbps台で、60Mbps台半ばが上限だった通常時と比べると一定の効果があるように見える。もっとも、上り80Mbps台が出ている2回以外は通常時と同程度の速度だったので、使えば必ず速度が向上する(あるいは速度向上を実感できる)ものではないと言えそうだ。インターネットの接続速度は振れ幅が大きいのでこれはある意味当然の結果でもある。

●地デジ対応のTVチューナと視聴ソフト「テレキングモバイル」

 WN-G300TVGRは地上デジタルテレビ放送に対応したTVチューナを1基内蔵している。このTVチューナはLAN内のPCやiOS端末から利用可能だ。ただし、複数の端末での同時利用や、複数の端末で同じ番組を見ることはできない。TVチューナを使えるのは任意の1台からとなる。

本体背面のアンテナ端子とminiB-CASカードスロット管理画面のTVチューナの設定ではオン・オフ、再起動ができる
「net.USBクライアント」は設定によってはテレキングとチューナを取り合ってしまうWindows版テレキングのチャンネルスキャン。インストール時に行なわれるWindows版テレキングでは画面の左端にカーソルを置くとチャンネルリストが表示される

 このTVチューナは、アイ・オー・データ機器の他製品で利用できる「net.USBクライアント」と呼ばれるソフトはUSB機器として認識される。「net.USBクライアント」はルーターに接続したUSB機器をLAN経由で共用(排他利用)するためのソフトだ。つまり、WN-G300TVGRの内蔵TVチューナはUSB接続のデバイスとして利用している形だ。

 番組の視聴には「テレキングmobile」と呼ばれる専用ソフトを使用する。テレキングmobileは視聴専用のシンプルなソフトで録画機能は無い。現在テレキングmobileが対応しているOSはWindows XP/Vista/7とiOS(iPad/iPad 2/新iPad、iPhone 3GS/4/4S/、第4世代iPod touch)だ。なお、Windows Vista/7環境ではAeroはオフになる。

 PCの推奨スペックは、2コア2GHz以上のCPUとXPが1GB以上、Vista/7が2GB以上のメモリ、256MB以上のVRAMだ(詳細はホームページ参照)。実際に試してみたところ、1コア1.2GHzの低速なCPU(Celeron M723)でも視聴はできたが、タスクマネージャーで見る限りCPU使用率が常時100%で、たまにCPUパワー不足が原因とみられる中断が起きていた。

iOS版のテレキングのアイコンiPod touch(第4世代)でのTV番組表示例(TV映像はぼかしています)画面の上側をタップするとチャンネル切り替えメニューやボリュームスライダー、ブラウザボタン、設定ボタンが表示される(TV映像はぼかしています)
画質、音声設定。画質はデフォルトでは「高画質」に設定されているチャンネル設定。見ないチャンネルは表示しないよう設定できるiPad 2でのTV番組表示例。iPod touchとは画面の縦横比が違うので上下の黒帯の大きさも違う(TV映像はぼかしています)
iPad 2でのチャンネル表示。画素数はiPod touchと変わらないが、ボタンが大きく表示され操作しやすい(TV映像はぼかしています)テレキングではTVを表示しながらWebブラウザを開くことができる(TV映像はぼかしています)iPad 2でチャンネル設定を開いたところ。画面が大きいのでスクロールバー要らず

 テレキングmobileの起動やチャンネル切り替えにかかる時間は、前述のWindows環境の場合、起動が約10秒、チャンネル切り替えが約5秒だった。初回視聴時に必要なチャンネルスキャンは約5分。iPad 2も同程度。第4世代iPod touchについては、CPUパワーが足りないせいか、他の環境よりも時間がかかっていた。

●節電機能「ECOモード」とダイナミックDNS「iobb.net」

 これまで紹介した以外で特に覚えておきたいのが節電機能の「ECOモード」と、ダイナミックDNSの「iobb.net」だ。

 「ECOモード」は、あらかじめ登録した節電パターンで一定時間動作させるもので、曜日や時刻で動作させるか設定できる。節電機能を使った効果についてだが、節電機能を使わず同時にTVチューナを使用した場合約6W(以下サンワサプライ「ワットモニター」で測定)で、ランプを消灯し無線および有線LANを低速モードにした場合で4W台前半だった。

 1.5W程度の効果ということで、数字としては大きくないが、TVチューナを使用しない場合、通常時4W、ECOモード使用時3W台前半なので、TV機能を使う場合はECOモードによってTVチューナの増加分をほぼ減らせることになる。なお、低速モードでは、無線LANが150Mbps、有線LANが100Mbps上限になる。

 ダイナミックDNSはグローバルアドレスが固定では無い環境で、固定アドレス(ドメイン名)が利用できるようになるサービスだ。「iobb.net」はアイ・オー・データ機器が提供しているダイナミックDNSサービスで、WN-G300TVGRでは無料で利用できる。ポートフォワーディングと組み合わせると、設置したWebサーバーやFTPサーバーにいつでも同じアドレスでアクセスできる。

ランプを消したり、LANの速度落としたりすることで節電ができる「ECOモード」。節電機能の利用をスケジュール設定できるポートフォワーディングやダイナミックDNSが利用可能

●まとめと感想

 WN-G300TVGRは久々に登場した変わり種のルーターだ。TVチューナはWindowsでは定番製品だが、iOS端末ユーザーにとっては数少ない選択肢ということで注目されているようだ。初代iPadやiPhone 3GSなど旧機種でも利用できるので、再利用方法として考えている人も居るかもしれない。

 TVチューナの使用感だが、Windowsの場合は、対応環境未満ではCPUやGPUの処理性能によって快適な視聴ができない場合があるので、推奨スペック以上での利用をおすすめする。ネットワーク速度については、よほど古い環境でない限り問題ないだろう。

 iOS端末の場合だが、iPad 2では特に待たされることも無くTVチューナを利用できる。一方、第4世代iPod touchについては画面の縦横切替えやメニュー表示に待たされ気味だった。また、どちらも無線LANを使うため、再生中断が起きることがある。出荷されるバージョンでは改善されていることを期待したい。

 Windows、iOSのどちらで使うにしても、余っているPCやiOS端末をTV視聴に有効活用できる魅力的な製品といえるだろう。

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(2012年 4月 9日)

[Text by 井上 繁樹]