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キングジム 「ポータブック XMC10」

~開閉型キーボード搭載のコンパクトWindows 10ノート

キングジム 「ポータブック XMC10」

 キングジムから、8型液晶搭載のノートPC「ポータブック XMC10」が登場した。キングジムと言えば、弊誌読者にはテキスト入力に特化した携帯端末「ポメラ」シリーズがおなじみだろうが、ポータブック XMC10は、OSにWindows 10を採用するノートPCであり、ポメラシリーズとは一線を画す仕様の製品だ。だが、一種の開閉型キーボードを搭載し、8型液晶搭載で携帯性に優れるコンパクトサイズと、快適なキー入力を両立するなど、ポメラシリーズのDNAが受け継がれている。

 今回、このポータブック XMC10をいち早く試用する機会を得たので、仕様や使い勝手などをチェックしていきたい。なお、試用機は発売前の試作機のため、製品版と仕様が異なる場合がある点は、あらかじめご了承願いたい。発売時期は2016年2月12日を予定しており、実売予想価格は9万円前後。

8型液晶採用のコンパクト筐体

 ではまず、ポータブック XMC10(以下、XMC10)の外観からチェックしていこう。

 XMC10は、8型液晶搭載ということで、比較的コンパクトな筐体を実現している点が特徴だ。本体サイズは、フットプリントが204×153mm(幅×奥行き)と、A5サイズに近いコンパクトさだ。8型液晶搭載ピュアタブレットのレノボ「Miix 2 8」と比べると、幅は狭く、奥行きは大きい。それに対し、高さは34mm。Ultrabookの登場により、ノートPCの薄型化が進行したこともあって、かなり分厚く感じてしまう。この厚さによって、フットプリントのコンパクトさの割には、ややかさばるという印象もあるが、12型クラスの液晶を搭載するノートPCよりは軽快に持ち歩けるだろう。なお、横から見ると、前方がやや薄く、後方に向かって厚くなる、くさび型のデザインとなっている。

 重量は、公称約830g、実測では821gだった。大型のノートPCよりは十分に軽いが、フットプリントが小さいこともあり、手にすると数字以上にずっしり重く感じる。軽快さという意味では、できればもう少し薄く、軽く仕上げて欲しかったように思う。

 筐体色はマットブラックで、キーボード部分はキートップ部がホワイト、キーボード側面はシルバーとなっている。本体外装部は、全体がラバーコーティングされているようなしっとりとした触感で、しっかり掴んで持ち運べる。その反面、指紋の痕はやや目立つので、定期的に拭うなどの手入れが必要そうだ。

 耐圧性など、堅牢性についての仕様は非公開となっているが、天板部分を手で押してみても大きくたわむことがなく、カバンに入れて持ち運ぶといった一般的な利用範囲内においては、十分な堅牢性が確保されていると言えそうだ。

天板部分。色はマットブラック。ラバーコーティングのようなしっとりとした触感となっている
フットプリントは204×153mm(幅×奥行き)。8型タブレットのMiix 2 8より幅が狭く、奥行きが長い
本体前面
左側面。高さは34mmで、前方から後方に向かって高さが増している
後部側面
後方下部の蓋を開けると各種ポートが現れる
右側面
底面。底面もマットブラックで、しっとりとした触感。底面は前方や側面付近が斜めに切り取られている
重量は実測で821g。十分に軽いが、サイズがコンパクトなため手にするとやや重く感じる

開閉型キーボードで12型クラスのノートPC同等の快適キー入力

 XMC10の最大の特徴となるのが、開閉型のキーボードを搭載している点だ。開閉式と聞くと、ポメラシリーズを発売しているキングジム製品ということで、ポメラ DM10などで採用されていた、横に開くタイプの開閉型キーボードと同等のキーボードを採用しているのでは、と思う人も多いかと思うが、XMC10に採用されている開閉型キーボードは、それとは異なる仕様の、回転型の開閉キーボードとなっている。

 キーボードは中央部分で左右に分割した構造となっており、左右それぞれの部分が内側に90度回転するようになっている。収納状態では、キーボード左右が縦に並んで本体にぴったり収納されている。その状態からキーボード左右端下部に指をかけて外側広げるように開くと、左右それぞれが回転しながら開いていき、完全に開くと本体の横幅よりも広い、大型のキーボードとして利用できるようになる。これにより、携帯時にはコンパクトに収納でき、利用時には12型液晶搭載ノートPCとほぼ同等のキーボードを実現している。機構こそ異なっているものの、1995年登場のIBM「ThinkPad 701」シリーズに搭載されていた、通称“バタフライキーボード”(TrackWriteキーボード)の再来と言ってもいいかもしれない。

 独特なギミックのキーボード開閉機構を採用しているが、キーボードの利便性はかなり優れている。ポメラ DM10の左右開閉型キーボードは、開いたときのぐらつきが大きく、打鍵時に難ありと感じる人も少なくなかったが、XMC10のキーボードはぐらつきがほとんどなく、快適なキー入力が可能。本体を膝の上に置いた状態でも、全く問題なく利用可能だ。

 キーは、間隔の開いた、いわゆるアイソレーションタイプとなっている。キーピッチは、横が18mm、縦が15.5mmと、ポメラシリーズのキーボードに比べて横のピッチが1mm広がっており、ゆったりとしたタイピングが可能。縦のピッチと、Enterキー付近の一部キーでは横のピッチが狭くなっているため、フルサイズキーボードと比べ使い始めは違和感を感じる場面もあるかもしれないが、慣れればタッチタイプも余裕で行なえる。配列は、[Esc]キーの右隣に[半角/全角]キーが配置されている点が独特だが、それ以外は大きな不満点はない。

 キーストロークは1.5mmと、コンパクトな製品としては十分な深さで、比較的しっかりとしたクリック感もあり、一般的なノートPCのキーボードと遜色のない打鍵感を実現。これなら、長時間のテキスト入力でも快適にこなせるだろう。加えて、打鍵時の音が静かな点も大きな特徴の1つ。カチャカチャという打鍵音がほとんどなく、静かな場所でも音を気にすることなく利用できる。これも大きな魅力となるはずだ。

 ただ、液晶開閉に合わせてキーボードも自動で開閉すれば、利便性がさらに高まるだけに、将来のさらなる進化を期待したいところだ。

キーボードは左右分割型で、90度回転させて開き利用するという、独特のギミックを採用し、利便性と携帯性を両立
収納時には、このようにキーボード左右が縦に並んで本体にぴったり収納される
キーボードを開いた状態では、12型ノートPC搭載キーボードに匹敵するサイズとなる
キーボードを開く時には、下部左右に指をかけて外に開き、全体を90度回転して合体させる
主要キーのキーピッチは横17mm、縦15.5mmと、余裕でタッチタイプできるほど
ストロークは1.5mmで、しっかりとっしたクリック感もあり、打鍵感は非常に優れる。打鍵時の操作音の静かさも特徴だ
Enter付近の一部キーはピッチが狭くなっている
半角/全角キーは、Escキーの右に配置
キーボードを開閉している様子

光学式ポインティングデバイスはやや操作性に難あり

 ポインティングデバイスには、「光学式フィンガーマウス」という名称の、光学式ポインティングデバイスを採用している。スティック型ポインティングデバイスのように、[G]、[H]、[B]キーの中央部分に光学センサーを搭載し、ホームポジションから手や指を大きく動かすことなく操作できるようになっている。

 クリックボタンは、キーボード手前に3個用意されている。試用機では、中央キーには機能が割り当てられておらず、機能設定メニューも用意されていなかったが、製品版では中央キーにスクロール操作などの機能の搭載が期待できる。

 この光学式フィンガーマウスの操作性については、慣れが必要だろう。カーソル操作は、スティック部を指でなぞる形になるが、大きな操作はそれほど問題ないものの、細かな操作がかなり厳しい。また、スティック部に指を触れた状態でクリックボタンを押そうとすると、わずかな指の動きに反応してカーソルが動いてしまい、予期せぬ操作になってしまうこともあった。これは、クリック操作時にスティック部から指を離すなど気を付ければいいが、どうしても一般的なスティック型やタッチパッドと比べて独特な操作感となってしまう。慣れてしまえば、ある程度は思い通りに操作できるようになるとは思うが、個人的には、光学式フィンガーマウスは移動中など利用場所に制約がある場合にのみ活用し、普段は外付けマウスを利用する方が良いと感じた。

ポインティングデバイスには、光学式の「光学フィンガーマウス」を採用
スティック部分に光学センサーを内蔵し、この上で指をスライドさせてカーソルを操作する。細かな操作はやや苦手な印象
クリックボタンは3個用意。試用機はセンターボタンに機能が割り当てられていなかったが、製品版ではスクロール制御などに活用できるようになるだろう

1,280×768ドット表示対応の8型液晶を搭載

 液晶は、1,280×786ドット表示に対応する8型液晶を採用している。パネルの種類は非公開だが、上下の視野角がやや狭いことから、TN方式のパネルを採用しているものと思われる。表示解像度はやや低いが、これ以上表示解像度が高まると、表示される文字サイズが小さくなり、視認性が低下してしまう。8型というサイズを考えると、表示解像度の低さが気になる場面は少ないだろう。

 パネル表面は非光沢処理となっており、外光の映り込みはほとんど感じない。反面、発色の鮮やかさは光沢液晶に比べてやや劣るという印象で、写真などを表示しても、全体的におとなしい印象を受ける。また、パネル表面の非光沢処理の影響か、全体的にざらつきを感じる点もやや気になった。とは言え、XMC10はテキスト入力を中心としたビジネス用途での利用をメインターゲットとしていることを考えると、それほど大きな問題とはならないはずだ。

1,280×768ドット表示対応の8型液晶を搭載。パネルはTN方式と思われ、やや視野角が狭い
液晶表面は非光沢処理となり、外光の映り込みはほとんど感じないが、発色の鮮やかさはやや弱い印象。また、全体的にざらつきも感じる
表示解像度はそれほど高くないが、Webアクセス時やテキスト入力時に荒さを感じることはほとんどない

スペックはタブレットPC相当

 搭載プロセッサは、コードネームCherry Trailでおなじみの、製造プロセス14nmのAtom x7-Z8700を採用している。メインメモリは、LPDDR3-1600を2GB搭載し、増設は非対応。内蔵ストレージは、32GBのeMMC(eMMC 5.0対応)となる。無線機能は、IEEE 802.11b/g/n準拠の無線LANとBluetooth 4.0+EDRを標準搭載。無線LANの速度は、IEEE 802.11n接続時で最大150Mbps。液晶上部中央には約200万画素のWebカメラも搭載する。

 外部ポート類のほとんどは、本体後部に集約されている。通常は蓋で覆われており、蓋を開くことでアクセス可能となる。用意されているポートは、ヘッドフォン/マイク共用ジャック、USB 2.0×1、HDMI、ミニD-Sub15ピン、内蔵バッテリ充電用のMicro USBコネクタを用意。また、右側面にはSDカードスロットも用意される。内蔵ストレージが32GBと少ないため、SDカードスロットは内蔵ストレージの増強用途に活用するのが基本となるだろう。

 HDMIだけでなくミニD-Sub15ピンも標準で用意している点は、ビジネス用途をメインターゲットとしている製品らしい特徴。また、USB 2.0ポートが他のポートよりも一段深く配置されているが、これは無線マウスのドングルなどを装着したままでも、ポート部の蓋を閉じられるようにとの配慮だ。こういったちょっとした配慮も嬉しい部分だ。

 内蔵バッテリの充電は、Micro USB端子に付属ACアダプタを接続して行なうが、タブレットやスマートフォン同様に、モバイルバッテリや汎用のUSB ACアダプタを利用した充電も可能だ。

 OSは、Windows 10 Home。プリインストールのアプリケーションはほとんどなく、ほぼ素の状態ではあったが、製品版同様にWindows 10版Office Mobileがインストールされていた。製品にはOffice 365サービスの1年間有効プロダクトキーカードが付属し、Office 365サービス契約期間中は、Office Mobileを商用利用できる。もちろん、契約期間終了後も、有償で契約期間を延長することで商用利用を継続できる。

後方の蓋を開けると、ヘッドフォン/マイク共用ジャック、USB 2.0×1、HDMI、ミニD-Sub15ピン、内蔵バッテリ充電用のMicro USBコネクタにアクセス可能
USB 2.0ポートは他より深い位置に配置
無線マウスなどのドングルを装着したままでも蓋を閉められる
右側面には、電源ボタンとSDカードスロットを配置
液晶上部中央には約200万画素のWebカメラを搭載
バッテリの充電は、付属ACアダプタをMicro USBポートに接続して行なう
モバイルバッテリや汎用USB ACアダプタを利用した充電も可能
Windows 10版Office Mobileをプリインストール。Office 365サービスの1年間有効プロダクトキーカードも付属する

性能もタブレットPC相当

 では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark 8 v2.5.419」、「PCMark 7 v1.4.0」、「3DMark Professional Edition v1.5.915」、Maxonの「CINEBENCH R15」、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」の5種類。比較用として、日本HPの「HP EliteBook Folio 1020 G1」と、ASUSの「TransBook T90CHI-64GS」の結果も加えてあるが、OSの種類やベンチマークソフトのバージョンに違いがあるため、あくまでも参考値として見てもらいたい。

PORTABOOK XMC10HP EliteBook Folio 1020 G1 Special EditionT90CHI-64GS
CPUAtom x7-Z8700(1.60/2.40GHz)Core M-5Y71(1.20/2.90GHz)Atom Z3775(1.46/2.39GHz)
ビデオチップIntel HD GraphicsIntel HD Graphics 5300Intel HD Graphics
メモリLPDDR3-1600 2GBLPDDR3-1600 8GBLPDDR3-1066 2GB
ストレージ32GB eMMC256GB SSD64GB eMMC
OSWindows 10 HomeWindows 8.1 Pro UpdateWindows 8.1 with Bing(32bit)
PCMark 8 v2.5.419v2.4.304v2.3.293
Home Accelarated 3.0173723031307
Creative accelarated 3.018772736Error
Work 2.014073277Error
StorageError48354306
PCMark 7 v1.4.0
PCMark score263840522468
Lightweight score211644161406
Productivity score178735561053
Entertainment score191025671618
Creativity score490777204557
Computation score7684115935941
System storage score341253373692
Raw system storage score122047581221
CINEBENCH R15
OpenGL (fps)13.3518.34N/A
CPU79166N/A
CPU(Single Core)3674N/A
3DMark Professional Edition v1.5.915v1.4.828
Ice Storm172802405816841
Graphics Score194802708216573
Physics Score123861729817855
Ice Storm Extreme11786174259909
Graphics Score11685174928872
Physics Score121571719616772
Ice Storm Unlimited188502662216520
Graphics Score216843212716148
Physics Score129341664217971
Cloud Gate165127311287
Graphics Score206033321249
Physics Score97516751444
Sky Diver10241331497
Graphics Score9891263437
Physics Score140020091512
Combined score9011215515
ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
1,280×720ドット 標準品質(ノートPC)925--

 XMC10の結果は、ほぼ全てののテストで、Bay Trail-TことAtom Z3775搭載のT90CHI-64GSの結果を上回っている。さすがに、Core M-5Y71搭載のEliteBook Folio 1020 G1の結果に対しては全て下回っているが、プロセッサのスペックに応じた結果が得られたと言っていいだろう。この性能であれば、Office Mobileを利用したオフィス文書の作成や編集といった作業であれば、ほぼ不満なく利用できるはずだ。

 ただし、映像編集やゲームなど、動作の重い作業はかなり厳しい。内蔵ストレージが32GBと少ないことも合わせ、マルチメディア用途での活用は難しいと言わざるを得ないが、元々のターゲットがビジネスシーンでの活用となるため、この点もそれほど大きな問題ではないだろう。

 次にバッテリ駆動時間だ。XMC10の公称のバッテリ駆動時間は約5時間(JEITAバッテリ動作時間測定法Ver2.0)。それに対し、Windowsの省電力設定を「バランス」、バックライト輝度を40%に設定し、無線LANを有効にした状態で、BBenchでキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測したところ、約5時間52分と、公称を上回る駆動時間を記録した。現在のノートPCでは、8時間以上の駆動時間を実現する製品が増えいてる中で、実測で6時間弱の駆動時間はやや短いという印象もあるが、モバイルバッテリで簡単に充電できる点なども合わせ、大きな不満はない。

仕様はともかく価格がネックか

 XMC10は、移動時の資料チェックや修正、メールチェックなどを、タブレットPCなどより快適に行なうことを目的として開発されたという。狭い電車や航空機のテーブルでも問題なく設置できるコンパクトさと、開閉式で12型クラスのノートPC同等の打鍵感を備えるキーボードを両立したのはそのためだ。つまり、本格的なメインPCとしてではなく、外出時に利用するサブPCとしての位置付けの製品というわけだ。そう考えると、わざわざ独特なギミックを採用して扱いやすいキーボードを搭載したり、スペックが控えめになっている点なども納得がいく。逆に言うと、メインノートとしてXMC10を見ると、不満が大きくなってしまうはずで、XMC10は用途を特化したノートPCと言っていいだろう。

 そうは言っても、やはりスペックの弱さはやや気になる。特に、内蔵ストレージが32GBと少ない点は結構致命的。せめて内蔵ストレージが64GBあれば、もう少し汎用性を持たせられたと思うだけに残念だ。

 そして、もう1つネックとなりそうなのが価格だ。上位となるAtom x7-Z8700を搭載しているとは言え、ほかのタブレットは3万円前後で購入できる製品も少なくない中、予想実売価格約9万円という価格は、どうしても高く感じてしまう。確かに、打鍵感に優れるキーボードを備えつつ、コンパクトに持ち運べるという特徴はあるが、それを合わせてもまだ高価に感じてしまう。発売時には、割引きなどでもう少し安価に購入できる可能性が高いと思われるが、仕様と価格のバランスに納得できるかどうかで、評価は大きく分かれそうだ。

 ただ、長らく「VAIO type P」のような、キーボード入力主体の小型クラムシェルノートが出ておらず、そういった製品を待ち望んでいたようなユーザーにとって、魅力的な存在となるだろう。あとは、実際に実機に触れてキーボードの使い勝手や携帯性を確認しつつ、財布と相談して決めるのが良さそうだ。

(平澤 寿康)