レビュー
「ポータブック」で本当に仕事はこなせるのか? PC Watch編集長がガチで使ってみた
~キングジムの回転型分離式キーボード採用のモバイルノート
(2016/2/12 06:00)
キングジムの回転型分離式キーボード搭載のモバイルノート「ポータブック」が本日発売となった。独特なキーボード機構、文具メーカーによるPC事業への進出などかなり話題性は高かった。ただし、9万円前後という価格に対して否定的な声が多かったのも事実だ。
そんな中、ある日キングジムの担当者から、PC Watch編集長である若杉宛に、「ポータブックをガチで使ってガチな感想を述べてもらいたい」との申し出を頂いた。本製品は、モバイルサブマシンとして、出先などへ手軽に持ち運んで利用し、フルサイズに近いキーボードで文字入力もそれなりにこなすという用途を想定している。まさに、いろいろな場所で記事を書く記者/編集者向けと言っていい。
筆者もAtomマシンで9万円というのは正直高いと思う。だが、製品に対する価値観は人それぞれ。その製品の使い勝手や性能にその価値があると見い出せれば、価格はあまり問題にならない。その意味で、ユーザーがPC Watchのような媒体に期待するのは、価格や仕様書などからは見えてこない実際に使った時の使い心地だろう。記者としての力量が問われるところだ。
よろしい! その申し出受けましょう!
スペックをおさらい
まず、スペックを簡単に紹介しよう。主な仕様は、Atom x7-Z8700(1.6GHz、ビデオ機能内蔵)、メモリ2GB、ストレージ32GB、1,280×768ドット表示対応TFT液晶、Windows 10 Home、Office 365サービス(1年分)を搭載。
インターフェイスは、IEEE 802.11b/g/n無線LAN、Bluetooth 4.0、HDMI出力、ミニD-Sub15ピン、USB 2.0、SDカードスロット、音声入出力。
本体サイズは折りたたみ時が約204×153×34(幅×奥行き×高さ)、使用時が約266×153mm(幅×奥行き)。重量は約830g。バッテリ駆動時間は約5時間となる。
PC Watch編集長のお仕事って?
というわけで、ポータブックを業務で使ってみることにした。PC Watch編集長のお仕事がどんなものかをかいつまんで紹介しておこう。
最も重要なのは記事制作と編集。少数精鋭(?)の当編集部では人手が足りないので編集長も日々記事を書いている。それから取材。発表会やインタビューなどに参加し、写真やメモを取る。以前、別の記事でも書いたことがあるが、筆者はメモは全てPCで取っている。関係各所とのメールやメッセージのやり取りにもそこそこの時間を割く。外部のライター諸氏からなかなか原稿が上がってこないと、この時間はさらに長くなる。美人広報とのやりとりの場合も長くなる。
情報収集も大事な仕事の1つだ。ここ数年、情報の出所は、メーカーのWebサイトやメールだけでなく、Facebookページや公式Twitter、YouTubeなど、いろいろなプラットフォームに広がっている。即時性がウリのニュースサイトだけに、これらにも常時アンテナを張っておかなくてはならない。時たま、Twitterで美女画像botの投稿に長時間目を奪われてしまうこともあるが、これも業務の一環だ。そのほか、クライアントへの企画の提案といった仕事もある。
つまり、実作業としては、テキストの入力、写真編集、Web閲覧、資料作成などとなり、それらを出先で行なうこともある。
文字入力デバイスとしてのポータブック
では、ポイント別に各シチュエーションでの使い勝手を見てみよう。
まず、キーボード。この原稿も実際にポータブックを使って書いている。キーボードの使い勝手を訴求しているだけあって、十分に使えるキーボードだ。キーピッチやストロークは十分。普段使っているキーボードよりやや荷重が重いが、クリック感も良好。一方でスイッチは静音タイプなので、打鍵音は非常に小さく、周囲に迷惑をかけることはない。
90度回転するというギミックがあるため、打鍵時にぐらついたりするのではという不安もあるかもしれないが、これはおおむね心配しなくていい。ただ、検証機個体の問題かもしれないが、右半分はわずかに遊びがあるため、カーソルキーなど端のキーを強めに押したときに若干カタカタ鳴る。配列も全角/半角キーがESCの右にあることを除いてはいびつなものは特にない。スペースキーなど最下段のキーを使うとき、そのすぐ真下にあるフレームの部分に指があたるのが最初気になるが、慣れでカバーできる範囲。総合的に、ポータブックのキーボードは長文の入力でもストレスなく入力できると言える。
ソフトとしては秀丸とATOKを使っているが、Atomという印象とは裏腹に、入力や変換で待たされるようなことは一切ない。メールについては、会社がGoogle Appsを導入してるので、Gmailを利用しているが、こちらもスムーズに操作できる。良い意味で期待を裏切られた。
一方、キーボード中心にあるポインティングデバイスはいただけない。見た目はThinkPadシリーズのトラックポイントにも似ているが、光学式となっている。解像度が低いようで細かい作業にはあまり向かない。マウスボタンの配置も相まって、ドラッグアンドドロップなどの操作は厳しく、センターボタンを押しながらのスクロールも、狙った分だけスクロールできず、生産性が下がってしまう。
長らく使えば慣れるのかもしれないが、ここはさっさとマウスを用意した方がいい。外で使うことが多いことを考えると、おすすめは日本マイクロソフトの「Arc Touch Bluetooth Mouse」あたりだろうか。薄型なのでかさばらないし、Bluetoothでポータブックと接続できる。
8型1,280×768ドットの液晶
画面解像度は1,280×768ドット(WXGA)。今時のWindowsデバイスとしてはかなり低解像度だ。特に「4K修行僧」なる連載を持ち、毎日4Kディスプレイを使っている筆者としては、WXGAというのはメインマシンとしては論外とすら思ってる。何せ一度に表示できる情報量は8分の1以下だ。
もっともスケーリングへの対応度を考えると、4K解像度はまだ今のPCにはややオーバースペックとも言える。実際は多くの場合、フルHD(1,920×1,080ドット)くらいが使い勝手がいいのだが、ポータブックの液晶はそれよりも一段解像度が低い。果たしてこの解像度で問題なく業務作業ができるのか?
エディタでの原稿の執筆については、昔から80文字程度で折り返す設定にしていることもあり、解像度は問題ない。横幅は1,280ドットの半分くらいでも済むほどだ。一般的には秀丸のようなテキストエディタではなく、Wordを使って文章入力すると思うので、プリインストールのWord Mobileで文章を編集してみたが、性能に不足を感じることはかった。ただし、WordやPDFで、横100%の倍率でスクロールさせる形なら問題ないが、画面の1ページを丸々表示しようとすると解像度が全く足りず、文字は読めない。
次に写真編集。やや乱暴な言い方をすると、PC Watchの記事で使う写真は作品ではなく情報に近い性格のものだ。また、記事掲載への即時性も求められるため、あまり高度な修正はしない。おおむね、リサイズ、トリミング、ヒストグラムの調整くらいだ。筆者はPaint Shop Pro X6を使っているが、コンデジで撮影した2,000万画素の取材写真を使って一連の作業を行なってみたところ、これも性能に不満を感じる点は特になかった。これくらいの修正を1枚ずつやる感じであれば、画面解像度も大きな問題にはならない。
しかし、液晶パネルの品質はイマイチ。非光沢ではあるがギラギラした感じに見える。また、輝度も低めなので、夏場などに屋外で使うと、厳しそうだ。ただ、これは背景色にもよる。背景として白っぽい色の単色エリアが多いテキストエディタなどのアプリやブラウジング時は背景のぎらつきがきになるものの、映画など動画コンテンツではほとんど気にならない。
32GBのフラッシュストレージ
32GBというストレージはどうか? スマートフォンであればこの容量でも十分だが、PCとしては正直かなりつらい。実質容量は約27GBで、出荷時の空き容量は8GB程度。ここにWindows 10のNovember Updateが降ってくると3GB程度使われ、残りが5GB程度になるが、これだとシステムドライブの空き容量不足でWindows Updateが実行できない。実行には別途USBメモリが必要となる。
ただし、本製品がサブマシンということを考えると、データをローカルに置かない使い方さえしていけば大丈夫だ。つまりデータはクラウドに置くと言うことだ。むしろ、そうしてこそ、メインマシンと常に同期されたデータを利用でき、サブマシンとしての本製品が生きてくる。
ただし、気を付けたいのはOneDriveの利用で、Windows 10ではOneDriveでフォルダを同期すると、ローカルにそのままコピーを置く。大量あるいは大サイズのファイルをOneDriveに保存している場合は、ポータブックでの完全同期は避けよう。もしくは、Google Driveや、最近始まった容量無制限のAmazonプライムフォトなどを使うのもいいだろう。なお、ポータブックにはOffice 365サービスによる1年間のOneDrive 1TB利用権が付随している。
もう1つのテクニックを挙げると、なるべくアプリをインストールしないようにしよう。昨今はSNSなどを中心に、Webアプリ化されたものが多い。サブマシンなら、TwitterやFacebookなどはブラウザアクセスでも十分利用できるだろう。1つ1つのアプリは数十~数百MBかもしれないが、あれもこれもとインストールしてしまうと、ストレージがすぐ逼迫してしまう。
また、ストリーミングサービスを活用すると、マルチメディアコンテンツもポータブックで楽しめる。筆者の場合、GoogleのPlay Musicに加入している。メインマシンではiTunesで楽曲を管理しているが、これらをPlay Musicにもアップロードしているので、サブマシン側ではデータをローカルに持たずとも、ブラウザだけで聴きたい曲をいつでも聴くことができる。なお、音質について本体のスピーカーは「とりあえず音がする」程度のシロモノだが、イヤフォンジャックから出る音は悪くない。
もちろん、YouTubeなどもローカルストレージは使わないので、動画や音楽など、通常は容量の大きなマルチメディアコンテンツもストリーミングを使うことで、サブマシンでも不自由なく楽しめるのだ。性能的にも1080p動画でもコマ落ちなしで再生できる。ただし、4G回線だと使いすぎて容量制限に達する心配があるので、屋外の場合は利用時間に気をつけたい。
どうしてもローカルに大きなデータを置きたい場合は、通常サイズが入るSDカードを利用しよう。
コネクティビティ
昨今のモバイルPCは、薄型を追求する余り、コネクタ類をないがしろにしているものもあるが、ポータブックはHDMI出力、USB 2.0、SDカードスロット、ヘッドフォン端子に加え、ミニD-Sub15ピンを備えている。
筆者も先日、とある案件で某社を訪れた際にポータブックを持参したのだが、訪問先のプロジェクターがHDMIでもミニD-Sub15ピンでも対応できるのは重宝した。
なお、本製品のHDMIは、その他の多くのPC同様30Hzまでだが、4K出力に対応している。実際、手元の環境でもきちんと4K表示できることを確認した。メインマシンが壊れたなどの際に、一時的に液晶ディスプレイ、外部キーボード、外部マウス、外部ストレージなどを接続すれば、緊急避難的なメインマシンとして使える。
そして、電源端子がMicro USBであり、スマートフォン用のモバイルバッテリでも充電できるのも便利だ。バッテリ駆動時間は5時間なので丸1日の外出や出張だとやや心許ないが、モバイルバッテリを1つ持っておけばしのげるだろう。
無線はIEEE 802.11b/g/n無線LANとBluetoothに対応している。
難点としては、今回、ソフトのインストールでUSB DVDスーパーマルチドライブを接続したところ、電力供給が足りないというエラーが表示された。接続する機器によるが、セルフパワーの機器にするか、Hubを使わないとダメな場合がある。
また、ビジネス向けなら、Ethernetポートも装備して欲しかったというユーザーも少なくないだろう。
総評
と言うわけで、筆者のガチ意見をまとめよう。
ポータブックを使ったガチ意見
- 価格はぶっちゃけ高い。5万円くらいにしてほしい
- キーボードは記者が使うのにも十分な使い勝手。ただしポインティングデバイスはひどく使いにくい
- 液晶は最近の高解像度や高品位なものと比べると見劣りするが、サブマシンとしての作業はこなせる
- ストレージは足りない。クラウドストレージを活用する必要がある
価格、ストレージ容量の少なさ、そしてポインティングデバイスの使い勝手については、改善の余地ありだが、それを抜きにすれば、この製品が想定するシーンでは性能/仕様に不足を感じる点はほとんどないだろう。軽快に持ち運べるサブマシンを探している人には、選択肢の1つとして検討に値する製品だ。
ただし、欠点についても、これがキングジムにとって初のPCであることを考慮すれば、良く仕上げたと感じる。画一化された製品が増える中、この手の尖った製品が出てくることは素直に歓迎したい。
取材協力:キングジム