~Thunderbolt標準搭載のUltrabook |
日本エイサーは、Thunderboltを標準搭載するUltrabook「Aspire S5」を発売した。背面ポート部が電動で開閉する独特のギミックを採用することで、フルサイズポートを搭載しながら15mmと非常に薄い筐体を実現している点が大きな特徴だ。実売価格は15万円前後。
●高さ15mmの超薄型筐体Aspire S5は、2012今年1月にアメリカで開催されたInternational CES 2012で発表されたUltrabookだ。最大の特徴は、なんといっても高さ15mmという非常に薄い筐体で、発表当時は世界最薄と紹介された。現在では、13.3型液晶を搭載するUltrabookで15mmを切る薄さを実現する製品も存在しているが、それらと比較しても薄さで見劣りすることはなく、今もなお世界最薄クラスと言って差し支えない。この薄さなら、ブリーフケースなど薄型のカバンにも容易に収納できるだろう。
本体デザインは、前方および左右の側面部分が薄く絞り込まれた、薄型ノートで広く採用されているもの。絞り込まれた部分を除くと、前方から後方までほぼ均一の高さとなっている。筐体カラーはブラックのみ。天板部分はヘアライン処理が施され、Acerロゴ以外に目立つ装飾はなく、落ち着いた印象を受ける。また、細部の作り込みもしっかりしており、安っぽさを感じることもない。
フットプリントは、324×227mm(幅×奥行き)と、13.3型液晶搭載Ultrabookとしてほぼ標準的な大きさだ。重量は公称で1.20kg、実測で1,189g。900gを切るNECの「LaVie Z」と比較すると、さすがに重く感じるが、1.2kgを切る重量は13.3型液晶搭載Ultrabookとしては十分に軽い部類で、不満は感じない。本体の薄さと合わせ、携帯性は申し分ない。
●電動で開閉する「MagicFlip」
Aspire S5の側面を見ると、左側面にSDカードスロット、右側面にヘッドフォン/マイク共用ポートが用意されているものの、それ以外のポートが見あたらない。実はAspire S5は、本体後部に電動で開閉する「MagicFlip」という構造を採用することで、15mmという薄型の筐体ながら、USB 3.0やHDMI、Thunderboltなどのフルサイズポートの搭載を実現している。
キーボード面右後方にあるスイッチを押すと後部がせり上がってMagicFlipが開き、ポートが現れる。同時に画面下部には後部ポートの画像が表示される。開いている状態でスイッチを押すと、閉じて本体に格納される。このスイッチは、Windowsが起動している状態はもちろん、本体の電源が落ちている状態でも機能する。UBSなどのポートに周辺機器を接続している状態では、MagicFlipは閉じないようになっているので安心だ。
MagicFlipには、HDMI出力、USB 3.0ポート×2、Thunderboltポートの各ポートがあり、各ポートは全てフルサイズとなっている。また、MagicFlipの左側には内蔵空冷ファンの排気口があり、MagicFlipを開くことで、効率良く排気ができるようになっている。ちなみに、MagicFlipを閉じている状態でCPUの動作負荷が高まり温度が上がると、自動的にMagicFlipが開き、排熱効率を高めるようになっている。いきなりMagicFlipが動作するため、知らないとびっくりする。
MagicFlip開閉時の動作音は、おもちゃのギアが動作するかのような、かなり甲高い音が発せられ、かなりうるさい。またに、空冷ファンの音も非常に大きくなることがあり、非常に気になった。これだけうるさいと、図書館などの静かな場所だけでなく、カフェなどでも使うのをためらうほどだ。空冷ファンの音に関しては、試用機固有のものと思われるが、MagicFlipの動作音はもう少し静かになるようにしてもらいたかった。
【動画】MagicFlipを開閉している様子 |
●1,366×768ドット表示対応の13.3型液晶搭載
液晶ディスプレイは、1,366×768ドット表示対応の13.3型。表示解像度は標準的だが、既に13.3型液晶搭載のUltrabookでもフルHDや1,600×900ドット表示対応の製品が登場していることを考えると、少々物足りなく感じる。
液晶表面は光沢処理が施されており、発色は鮮やかで、表示品質は十分満足できる。外光の映り込みと上下の視野角の狭さはやや気になるものの、Ultrabookに搭載される液晶パネルとしてはほぼ標準的な表示品質と言える。
キーボードは、キーの間隔が開いたアイソレーションタイプのものを採用。キーピッチは約19mmのフルピッチでゆったりしている。ストロークが短く、タッチも軽めだが、クリック感はしっかりしているので、タイピングはやりやすい。ただし、キーボード面のたわみと、Enterキー付近やスペースキー左右の一部キーの配置は気になる。特にEnterキー付近のキー配列は、英語配列のキーボードを無理やり日本語化したかのようなものとなっており、キーを押し間違うなど、かなり使いづらい。最近のAcer製ノートPCでは、この配列のキーボードを採用する例が多くなっているが、使い勝手を考えると、きちんとした日本語配列のキーボードを採用してもらいたい。
ポインティングデバイスは、クリックボタン一体型のタッチパッドを搭載。パッドの面積が広く、複数の指を利用したジェスチャー操作にも対応しており、使い勝手に問題はない。
●RAID 0仕様のSSDを搭載
HDMI-ミニD-Sub25ピン変換アダプタ(左)と、USB 2.0 Ethernetアダプタが付属 |
Aspire S5の基本スペックを確認していこう。CPUはデュアルコアのCore i7-3517U(1.9GHz)を採用。チップセットはIntel HM77 Express、メインメモリは4GBを標準搭載(最大4GB)。グラフィックス機能は、CPU内蔵のIntel HD Graphics 4000を利用する。
ストレージデバイスは、256GBのSSDを搭載しているが、これは内部で2基の128GB SSDをRAID 0構成としたものとなっている。このため、アクセス速度は一般的なUltrabookと比較してかなり高速で、OSの起動時間を速めるとともに、利用時のレスポンスも高めている。
無線機能は、IEEE 802.11a/b/g/n対応の無線LANとBluetooth 4.0を標準搭載する。ただし、有線LANは搭載せず、付属のUSB 2.0 Ethernetアダプタ(100BASE-TX対応)を利用することになる。
●スペック重視のUltrabookとしてオススメでは、ベンチマークテストの結果を見ていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark 7 v1.0.4」、「PCMark Vantage Build 1.0.1 1901」、「PCMark05 Build 1.2.0 1901」、「3DMark06 Build 1.1.0 1901」、カプコンの「モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】」、セガの「ファンタシースターオンライン2キャラクタークリエイト体験版」の6種類。比較用として、マウスコンピューターの「LuvBook X LB-X200S」、ユニットコムの「Lesance NB S3431/L」、デルの「XPS 13 スタンダードモデル」、ASUSTeK Computerの「ZENBOOK UX31E」の結果も加えてある。
結果を見ると、Core i5-2467Mを搭載する機種に対し、かなり大きなパフォーマンス差を示していることがわかる。PCMak 07やPCMark Vantageなどの総合ベンチマークの結果はもちろん、3DMark06やゲームベンチマークなどの3D描画機能を駆使するテストでも、比較機種より結果が大きく上回っている。さすがに、最新3Dゲームが快適にプレイできるというほどではないものの、これだけのパフォーマンスが備わっていれば、よほど高負荷の処理を行なわない限り、性能面で不満を感じることはほぼないだろう。
Aspire S5 | LuvBook X LB-X200S | LESANCE NB S3431/L | XPS 13 | ZENBOOK UX31E | |
CPU | Core i7-3517U (1.90/3.00GHz) | Core i5-2467M (1.60/2.30GHz) | Core i5-2467M (1.60/2.30GHz) | Core i5-2467M (1.60/2.30GHz) | Core i7-2677M (1.80/2.90GHz) |
チップセット | Inte HM77 Express | Inte HM65 Express | Inte HM65 Express | Inte QS67 Express | Intel QS67 Express |
ビデオチップ | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 3000 |
メモリ | PC3-12800 DDR3 SDRAM 4GB | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB |
ストレージ | 256GB SSD | 120GB SSD | 64GB SSD+500GB HDD | 128GB SSD(Samsung PM830 mSATA) | 256GB SSD(SanDisk SSD U100) |
OS | Windows 7 Home Premium SP1 64bit | Windows 7 Home Premium SP1 64bit | Windows 7 Home Premium SP1 64bit | Windows 7 Home Premium SP1 64bit | Windows 7 Home Premium SP1 64bit |
PCMark 7 v1.0.4 | |||||
PCMark score | 5977 | 3355 | 3066 | 3482 | ― |
Lightweight score | 4569 | 3648 | 3008 | 3704 | ― |
Productivity score | 3712 | 2712 | 2583 | 2858 | ― |
Creativity score | 11708 | 6671 | 5264 | 6798 | ― |
Entertainment score | 4723 | 2483 | 2356 | 2573 | ― |
Computation score | 22825 | 8318 | 7736 | 9116 | ― |
System storage score | 5415 | 5249 | 4052 | 5117 | ― |
PCMark Vantage x64 Build 1.0.1 0906a | |||||
PCMark Suite | 12042 | 10431 | 7869 | 9941 | 7812 |
Memories Suite | 8035 | 6243 | 4036 | 5947 | 4283 |
TV and Movies Suite | 5466 | 4309 | 3599 | 4076 | 3913 |
Gaming Suite | 9118 | 7842 | 6278 | 8569 | 7408 |
Music Suite | 14892 | 13109 | 8629 | 12374 | 8259 |
Communications Suite | 13483 | 10502 | 8708 | 9903 | 6025 |
Productivity Suite | 15932 | 14379 | 9272 | 12352 | 8744 |
HDD Test Suite | 43346 | 55507 | 15053 | 41153 | 12053 |
PCMark05 Build 1.2.0 | |||||
PCMark Score | N/A | N/A | N/A | N/A | N/A |
CPU Score | 8887 | 6028 | 6362 | 6191 | 8176 |
Memory Score | 7803 | 5821 | 5027 | 5718 | 9201 |
Graphics Score | 5492 | 3994 | 3815 | 4581 | 4712 |
HDD Score | 67133 | 61999 | 21376 | 52012 | 17659 |
3DMark06 Build 1.1.0 0906a | |||||
3DMark Score | 5060 | 3699 | 3529 | 4133 | 3401 |
SM2.0 Score | 1836 | 1259 | 1184 | 1457 | 1125 |
HDR/SM3.0 Score | 1967 | 1528 | 1445 | 1696 | 1368 |
CPU Score | 3189 | 2278 | 2427 | 2279 | 2833 |
Windows エクスペリエンスインデックス | |||||
プロセッサ | 7.1 | 6.2 | 6.3 | 6.3 | 6.9 |
メモリ | 5.9 | 7.2 | 5.9 | 5.9 | 5.9 |
グラフィックス | 5.8 | 5.6 | 4.7 | 5.7 | 5.6 |
ゲーム用グラフィックス | 6.4 | 6.1 | 6.1 | 6.2 | 6.1 |
プライマリハードディスク | 7.9 | 7.9 | 7.3 | 7.9 | 5.9 |
モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】 | |||||
1,280×720ドット | 2140 | 1582 | 1512 | 1414 | ― |
ファンタシースターオンライン2キャラクタークリエイト体験版 | |||||
1,280×720ドット相当 | 339 | ― | ― | ― | ― |
また、内蔵SSDの速度を、CrystalDiskMark v3.0.1cを利用してチェックしてみたところ、シーケンシャルリードが780MB/sec、シーケンシャルライトが662MB/secで、ランダムアクセス速度も含め非常に高速だった。実際にOSやソフトの起動は非常に速く、ファイルのコピー時にもストレスを全く感じなかった。CPUなどのスペック面はもちろんだが、高速SSDを搭載し、RAID 0構成としているという点も、Aspire S5の利用時の快適さを高めている要因だ。
CrystalDiskMark v3.0.1cの結果 |
ところで、Aspire S5にはThunderboltが搭載されているので、ちょうどバッファローから発売されたばかりのThunderbolt/USB 3.0両対応ポータブルHDD「HD-PA1.0TU3」を借用できたので、ThunderboltとUSB 3.0の速度差を検証してみた。
結果は、Thunderbolt、USB 3.0どちらもほぼ同等の速度だった。HD-PA1.0TU3に搭載されるHDDは、ノートPC用の2.5インチHDDで、Thunderbolt/USB 3.0のバス速度と比較すると圧倒的に遅いため、この結果は当然だろう。今すぐにThunderboltを使うメリットは少ないが、Appleも採用しており、将来性という点ではあって損はない。
バッファローのThunderbolt/USB 3.0両対応ポータブルHDD「HD-PA1.0TU3」 | ThunderboltポートとUSB 3.0ポートが並んで用意されている |
Thunderbolt接続時の速度 |
USB 3.0接続時の速度 |
次に、バッテリ駆動時間だ。Aspire S5には、容量2,310mAhのリチウムポリマーバッテリが内蔵されている。容量はそれほど多くなく、公称のバッテリ駆動時間も約6.5時間と短めだ。そして、Windowsの省電力設定を「省電力」に設定し、バックライト輝度を40%、無線LANを有効にした状態で、BBenchでキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測してみたところ、駆動時間は約4時間49分だった。5時間を切るのは、Ultrabookとしては少々物足りなく感じる。本体の薄さとのトレードオフといえる。
ちなみに、付属のACアダプタは薄型のもので、携帯性も悪くないが、電源ケーブルがかなり太く重いものとなっており、総重量が実測で303gとなっている点は気になった。より軽量な電源ケーブルが付属していれば、ACアダプタの携帯性も高まるため、今後の改善に期待したい。
付属のACアダプタ。小さくはないが薄型で携帯性に優れる | デスクトップPC用かのような太く重い電源ケーブルが付属しており、重量は実測で303gと重くなっている |
Aspire S5は、MagicFlipという他にはないギミックに目を奪われてしまうが、その中身はスペックが充実した、高性能なUltrabookに仕上がっている。軽さではNECのLaVie Z、液晶解像度ではASUSTeK ComputerのZENBOOK Primeなど、個別の仕様でAspire S5を上回る機種が存在するのは確かで、もう少し早い時期に発売されれば、もっと注目される存在になったはずだ。とはいえ、トータルの完成度は十分満足できるレベルに達している。キーボードの仕様だけは早急に改善してもらいたいが、それ以外には不満を感じる部分は少なく、薄型軽量で性能にも優れるUltrabookを探しているなら、選択肢として考慮したい製品だ。
(2012年 7月 24日)
[Text by 平澤 寿康]