Hothotレビュー

富士通「ESPRIMO FH77/UD」

~ライトユースにピッタリなコンパクト一体型

ESPRIMO FH77/UD

 富士通の「ESPRIMO FH」は、2010年の夏から続いている息の長いシリーズだ。元々ESPRIMOというブランドは「DESKPOWER」から変更されたものなので、DESKPOWER時代まで遡れば、2008年の「FMV-DESKPOWER F/A50」がこのシリーズの“祖先”に当たることになる。

 そのDESKPOWER F/A50は、いわゆる「ボードPC」と呼ばれる、1枚板のスタイルをコンセプトとして開発されたコンパクトな一体型PCであった。当時の一体型PCのほとんどは性能を追求していたため、デスクトップ向けCPUを採用するのが一般的で、筐体も大きくなりがちであったが、DESKPOWER F/A50はモバイル向けのCPUを採用することで、大幅な薄型化を実現していた。

 今回ご紹介する「ESPRIMO FH77/UD」(以下FH77/UD)はその流れを汲む最新モデルだ。ESPRIMO FHシリーズはこれまで、タッチパネルの搭載や3D立体視への対応、ナノイーユニットの搭載など、その時代のニーズやトレンドをふんだんに取り入れてきたのだが、FH77/UDはTVチューナとBDXLドライブを搭載する以外、PCとして特別な機能はなく、シンプルな作りになっている。実売価格は20万円前後だ。

ライトユース向けに設計されたESPRIMO

 富士通は今回、FH77/UDのターゲット層を「子育てが終了した夫婦2人暮らしや40代家族」と位置付ける。これらのユーザーは毎日PCを使うが、さほど凝った使い方はせず、高性能や多機能を求められないことを想定している。そのためFH77/UDの機能面で見るべきポイントも、視聴専用+視聴/録画両用のダブルTVチューナとBDXLドライブの搭載ぐらいと、あっさりしている。

 こうした一体型PCの場合、リビングと言った普段目に付く場所ではなく、書斎や寝室などプライベートな空間に置かれることの方が多いと思われる。本機のようにTVチューナを搭載していれば、それらの場所でセカンドTVやBD観賞用プレーヤーの代わりとして使うことが可能だ。キーボードもマウスも、そしてリモコンが付属しているので、なおさらそのような用途に向いていると言えるだろう。

 また、左右の側面が壁に当たるような狭い場所の場合での設置にも配慮し、USB 3.0ポート×1、SDカードスロット、そして電源ボタンを前面に配した。もっとも、電源ボタンに関してはキーボードでもONにできるのでさほど困らないが、デジカメ写真の取り込みやUSBメモリを介したデータ交換などでよく使われるインターフェイスの前面搭載は歓迎して良い。

 ただこのインターフェイスの前面配置に関して、デザインについては編集部内であまり肯定的な意見が得られなかった。もちろん使い勝手とのトレードオフなので致し方ない部分だが、辛口に評価させてもらうと「20万円のPCなら、もう少し工夫があっても良かったのでは」と思えてならない。

同軸のアンテナ入力。TVチューナは2基内蔵されている
SDカードスロットおよびUSB 3.0を前面に配置

シンプルなボードPCスタイル、高い剛性が魅力

 元々シリーズ一貫でボードPCスタイルを目指していたこともあり、FH77/UDもその流れを踏襲している。左右と後部のスタンドの3点で支える構造は、大きなフォトフレームを彷彿とさせる。しかし液晶周りのブラックのフレームやそれを囲むシルバーのフレーム、コンパクトな奥行き(158~229mm)は、まるでPCではなく液晶ディスプレイそのもののようだ。重量も7.2kgと軽く、一人でも簡単に設置できる。

 思えば、10年前ぐらいまで液晶一体型と言えば20kg超が当たり前で、中には水冷を搭載したものなどもあって、一人暮らしでは設置に大変苦労をした覚えもあるのだが、それが今やこのサイズと重量を実現しているのだから技術の進化は素晴らしい。

 本体はほぼ樹脂+プラスチックだが、前面の接地するスタンド部には重量感のある金属が使われている。設置した時の安定感は抜群で、ちょっとやそっとで本体がぐらつくようなことは一切ない。また、この2種類の部材をうまく使い分けることで振動を抑えているようで、本体にHDDの振動があっても接地面に伝えないようになっていた。そのため机に置いて机が共振してノイズが気になるようなことはない。

 本体下部にはキーボードをサッとしまえる空間があるので、机のスペースを有効活用できるのはありがたいが、いっそのこと付属のマウスやリモコンも収納する機構があっても良かったのではないかと思う。

 背面カバーの一部は取り外せるようになっており、CPUファンとヒートシンクの間に詰まりやすいホコリを簡単に取り除けるようになっている。また、金属のシールドを外せば2基のメモリスロットにもアクセスできる。標準では8GBのモジュールが1つ装着されているため増設が可能だ。

 一方、見えているネジと隠しネジ2本を外せば内部にアクセスできるはずだったが、どうやらネジ以外にも爪が使われているようで、今回は分解しなかった。ただ内部が気になった人は、富士通アイソテックで行なわれた親子向けのパソコン組み立て教室の記事を参照してもらうと良いだろう。

FH77/UD本体
スタンドとなる部分は金属との2パーツとなっており、剛性を高めている
本体右側面
本体背面
背面上部のカバーは別パーツで取り外せる
ファンとヒートシンクの間にホコリが溜まりやすいが、本機はすぐに清掃できる
メモリは8GBが1モジュールのみ刺さっていた
本体左側面
最大傾斜時

鮮やかな液晶とパイオニア製のスピーカー

 PCとしての使い勝手を見ていこう。付属するキーボードは、上部に電源のオン/オフを含む一部ホットキーを備えた無線タイプ。以前レビューした「ESPRIMO FH56/HD」のキーボードによく似ているが、「インターネット」へのホットキーが、富士通が提供するクラウドサービス「My Cloud」へのリンクに変更され、Windowsキーのロゴが再デザインされていることが分かる。キーピッチは確保されており、ストロークもあるため打ちやすい。エンターキーなど一部大きいキーもあるのだが、ミスタイプに繋がるほどではない。

 マウスはチルトホイール付きの3ボタンタイプ。ロジクール製のユーティリティ「SetPoint」が標準でプリインストールされており、動作を変更できる。進む/戻るに相当するサイドボタンがないのだが、チルトであまり横スクロールを使用しない人は、チルトに割り当てておくと良いだろう。

付属のキーボード、マウス、リモコン
リモコンで本体の電源を付けることも可能
付属のマウス。サイドボタンはなく、チルトのみ対応している
キーボードはエンターキーなどが一般的なキーボードよりも大きめ。また左右のスペース削減のため、Home/End/PageUp/PageDownなどはFnキー併用となっている
バッテリインジケータを備える
ホットキーで輝度調節や、富士通が提供するMyCloudサービスへのクイックアクセスが可能

 前面のUSB 3.0/SDカードスロットに加え、左側面にはUSB 3.0とUSB 2.0を1基ずつ、そして音声入出力を備えている。一方左側面にはBDXLドライブを搭載。背面にはUSB 3.0×2、USB 2.0、Gigabit Ethernet、DC入力とアンテナ端子を備える。この筐体サイズであれば、できれば電源は内蔵して欲しかったのだが、それは次モデル以降の課題になるだろう。

インターフェイス部拡大。USB 3.0、USB 2.0、音声入出力を装備
本体背面はUSB 3.0が2基、USB 2.0が1基。Gigabit EthernetとDC入力を搭載する
付属のACアダプタ

 搭載される液晶は「広視野角液晶 スーパーファインVX」とされており、解像度は1,920×1,080ドット。パネル方式は公開されていないが、IPSではないかと思われる。上下左右ともに視野角が広く、そして色も鮮やかであり見ていて気持ちいい。ただ、光沢タイプであり映り込みが激しい。電源オフ時は鏡として使えるほどだ。しかし画面が映ってしまえば気にならないのであまり問題はないだろう。

起動したところ
輝度最大。眩しすぎることはなく見やすい
輝度最小。暗い部屋などでは輝度を抑えると良いだろう
誇らしげに「Sound by Pioneer」のロゴがプリントされる

 本機が最もウリにしているのはスピーカーだ。パイオニアと共同開発したというこのスピーカーユニットは、小型ながらもツイーターとフルレンジの2-way構成となっており、ハイレゾ音源に耐えうる品質を実現しているという。

 ただ“ハイレゾ対応スピーカー”という先入観を持って実際に試聴するとちょっと肩透かしを食らう。ハイレゾどころか一般音源でも低域と高域不足を感じ、いわゆるかまぼこサウンドのようだ。さらに音が本体外に抜け切っておらず、中央に集中してしまい、ハイレゾに期待される“音に包まれた感じ”が乏しい。残念ながら本機にはラインアウトがないのだが、ハイレゾの音楽を楽しむのであればヘッドフォン端子を使ってヘッドフォンで聴くことをおすすめする。

HDDだがクアッドコアCPUで性能は十分

 FH77/UDの主な仕様は、Core i7-4712MQ(2.3GHz、ビデオ機能内蔵)、メモリ8GB(シングルチャネル)、2TB HDD、BDXLドライブ、1,920×1,080ドット表示対応23型ワイド液晶ディスプレイ、OSにWindows 8.1 Update(64bit)、Office Home and Business Premiumなどとなっている。ライトユースには十分な性能だと思われるが、ベンチマーク結果を見てみよう。

 テストしたのはいつも通り、「PCMark8 v2」、「ファイナルファンタジーXI オフィシャルベンチマーク3」、および「SiSoftware Sandra」の3つ。ほぼ同スペック比較対象のサンプルデータが揃わないのだが、「HP EliteDesk 800 G1 DM」の結果、および最近流行の「Compute Stick」の結果と比較してみよう。

ESPRIMO FH77/UDCompute StickHP EliteDesk
CPUCore i7-4712MQAtom Z3735FCore i5-4570T
メモリ8GB2GB4GB
ストレージ2TB HDD32GB eMMC500GB HDD
OSWindows 8.1 64bitWindows 8.1 32bitWindows 7 Pro
PCMark8
Home accelerated29281037未計測
Web Browsing-JunglePin0.324s0.591s未計測
Web Browsing-Amazonia0.131s0.19s未計測
Writing5.43s12.23s未計測
Photo Editing v20.273s2.816s未計測
Video Chatv2/Video Chat playback 1 v230fps30fps未計測
Video Chat v2/Video Chat encoding v266ms324ms未計測
Casual Gaming19.7ms5.3fps未計測
Benchmark duration38min40s1h9min13s未計測
Creative Accelerated3584941未計測
Web Browsing-JunglePin0.322s0.591s未計測
Web Browsing-Amazonia0.132s0.190s未計測
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 1 v230fps30fps未計測
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 2 v230fps30fps未計測
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 3 v230fps30fps未計測
Video Chat v2/Video Chat encoding v268.3ms337ms未計測
Photo Editing v20.278s2.696s未計測
Batch Photo Editing v218.8s199.2s未計測
Video Editing part 1v214.8s58.2s未計測
Video Editing part21v219.8s179.1s未計測
Mainstream Gaming part 15.9fps1fps未計測
Mainstream Gaming part 23fps0.5fps未計測
Video To Go part 19.7s18s未計測
Video To Go part 213.8s27.8s未計測
Music To Go22.02s59.21s未計測
Benchmark duration57min54s2h44min55s未計測
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3
Low10746363611527
High729424707632
Sisoftware Sandra
Dhrystone131.17GIPS16GIPS42.75GIPS
Whetstone81.43GFLOPS9.22GFLOPS31.23GFLOPS
Whetstone Double56.5GFLOPS未計測未計測
FP Shader Native277Mpixel/sec28.79Mpixel/sec263.22Mpixel/sec
Double Shader Native57.16Mpixel/sec7.09Mpixel/sec57.6Mpixel/sec
Quad Shader Emulate7.72Mpixel/sec未計測未計測

 本製品はさすがに4コア/8スレッドを搭載していることもあり、Core i5-4570Tを搭載したEliteDesk 800などと比較しても高い基礎性能を誇る。一方Atomを搭載するCompute Stickと比較すると、PCMark8で最大約3.5倍のスコアを叩き出している。

 PCMark8はストレージ性能も重視するため、eMMCやSSDではなくHDDを搭載するFH77/UDは不利だ。それでもAtom搭載機を圧倒できるのはCPUとGPU性能のおかげだろう。ベンチマークに要する時間から分かる通り、特にクリエイティブ系のベンチマークでは、Compute Stickの約3分の1以下の時間で完了している。ライトユースと言えども、多少でも写真やビデオ編集を考えているのであれば、Core搭載マシンを選びたいところである。

Windows 10を見越してタッチが欲しかったが……

 近年はスマートフォンの圧倒的な普及により、PCを使う機会がガクッと減った。かく言うPCをメインに仕事している筆者でも確実にPCを使う時間が減っている。スマートフォン登場以前、朝起きてまずやることと言えばデスクトップPCの電源を入れることであったし、通勤時間中もノートPCを開くのは当たり前、就寝前もデスクトップPCでゲームをプレイするのが日常茶飯事であった。それが今やスマートフォンで完全に代用できる良い時代になったものだ(おかげで視力も確実に落ちている)。

 だが、本記事のような長文入力をスマートフォンでやろうとはまず思わないし、モザイクを掛けるぐらいならまだしも、本格的なフォトレタッチや3Dゲームなどをスマートフォンでやろうとは思わない。本機のようなPCでしか満足できないアプリケーションのニーズはまだまだある。

 さてFH77/UDだが、既にリリースされているWindows 10へのアップグレードも当然保証されている。ただ残念なことに、FH77/UDはタッチパネル非搭載であり、Windows 10が得意とするタッチ向け機能が活用できない。もちろんWindows 10自体は、Windows 8.1からはキーボードとマウス操作が最適化されており、Windows 7を使用しているかのように問題なく利用できるのだが、ストアアプリは既に8.1の時代でタッチに最適化したものが多いのも事実だ。

 本製品がターゲットにしている「子育てが終了した夫婦2人暮らしや40代家族」は、果たしてキーボードとマウス操作に慣れた世代なのか、それともスマートフォンブームに飲み込まれタッチ操作を好む世代なのか、筆者には予測が付かないが、少なくともWindows 10を見越していて、より多くの人を取り込むのであれば、過去モデルのタッチ対応を最上位に採用していただきたかったところである。

(劉 尭)