Hothotレビュー

ユニットコム「Picoretta」

~ファンレスでも4コア、19,800円の快適スティックPC

Picoretta

 PC業界で、昨年(2014年)末から超小型PC「スティックPC」が注目を集めている。小型PCと言えば、少し前にはNUCの登場で小型化に驚かされたものだが、スティックPCはさらにその上を行く。外見は大きなUSBメモリといった風情で、差込口がUSBではなくHDMIになっている。HDMI端子に挿して使うというスタイルが機能的にも見た目にも斬新な、PCの新たなスタイルだ。

 株式会社ユニットコムが3月に発売した「Picoretta(ピコレッタ)」も、スティックPCの1つ。Windows 8.1 with Bing(32bit)を搭載した、れっきとしたWindows PCだ。今回は本機(小さすぎて“機”と呼称するのも悩ましい)を試用する機会が得られたので、レビューをお届けする。

超小型でも4コアCPUと32GB eMMCを搭載

 「Picoretta」は、iiyama PCブランドの製品。開発元であるマウスコンピューターはこれまでにも「MS-NH1」など数種類のWindows搭載スティックPCを開発した実績がある。それについての詳細はこちらの記事をご覧いただきたい。

 本題の「Picoretta」の位置付けを一言で言うと、ファンレス製品の中では高性能というところ。詳しくは下のスペック表をご覧いただきたい。

【表1】「Picoretta」の主な仕様
CPUAtom Z3735F(1.33GHz、ビデオ機能内蔵)
メモリ2GB DDR3L-1333
eMMC32GB
カードリーダmicroSDカード(SDXC対応)
有線LANなし
無線LANIEEE 802.11 b/g/n
BluetoothBluetooth 4.0+LE
端子HDMI出力×1、USB 2.0×1、Micro USB 2.0×1(給電用)
OSWindows 8.1 with Bing(32bit)
価格19,800円

 CPUは4コア4スレッドのAtom Z3735F。冷却はヒートシンクのみのファンレス仕様となっている。光学ドライブはこのサイズなので当然なし。内蔵ストレージは32GBのeMMCのみだが、microSDカードで手軽に増やすことができる。有線LANはなく、IEEE 802.11 b/g/nの無線LANが使用できる。

 電源はMicro USBから取る仕様で、5V/2A出力のUSB-ACアダプタが付属する。またHDMI延長ケーブルが付属するので、本体を直接挿し込めない場所でも対応できる。

 キーボードやマウスはUSB接続のものが使用できるが、本体のUSB端子が1つしかないため、基本的にUSBハブが必要。Bluetoothのキーボードやマウスも使用できるが、初回起動時はペアリング設定ができないため、設定し終えるまでは別途USBキーボードとマウスが必要になる。

 本体サイズは、約38×125×14mm(幅×奥行き×高さ)。HDMI端子を保護するキャップを取り外すと、奥行きが約119mmとなる。重さは約70g。外装はプラスチックで、手に持った時も中に部品が詰まったような重さは感じない。長年のPCユーザーとしては、「これでWindows 8.1が動作する時代なんだな」と妙に感慨深くなる(もっとも「MS-NH1」は44gなのでもっと軽いのだが)。

本体のキャップを外すとHDMI端子が出てくる
付属品はHDMI延長ケーブル(約20cm)と給電用のUSB-ACアダプタおよびUSB-Micro USBケーブル(約1m)
本体側面にUSB端子が1つ。Micro USB端子は給電用。電源ボタンもこの面にある
反対側の面にはmicroSDカードスロットがある

3Dゲームは厳しいが、大抵のことはこなせる

 まずは各種ベンチマークソフトのスコアを見ていきたい。利用したのは、「3DMark v1.5.893」、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」、「バイオハザード6 ベンチマーク」、「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 ver.2.0」、「モンスターハンター フロンティアG ベンチマーク【大討伐】」。

 予想通りではあるのだが、さすがに3Dゲームのベンチマークは厳しいものがある。ほとんどのテストは映像がコマ送りになり、画質や解像度を下げても満足にゲームプレイができるほどにはならない。スコアを見るに、この中では最も軽快に動作する「モンスターハンター フロンティアG」なら設定次第で何とか遊べるかもしれない、という程度だ。

 テストに関して、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」は、DirectX 11バージョンのテストは64bit OSのみ対応なので今回は実行不可。「3DMark v1.5.893」の「Fire Strike」ではエラーが出て一部計測が不能。「バイオハザード6 ベンチマーク」では、何度か試したもののプログラムを最後まで完走できなかったため計測不能となった。

【表2】ベンチマークスコア
3DMark v1.5.893 - Fire Strike
Score-
Graphics score131
Physics score1,233
Combined score-
3DMark v1.5.893 - Sky Diver
Score438
Graphics score386
Physics score1,311
Combined score452
3DMark v1.5.893 - Cloud Gate
Score1,106
Graphics score1,191
Physics score886
3DMark v1.5.893 - Ice Storm Extreme
Score8,626
Graphics score8,120
Physics score11,036
ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
1,920×1,080ドット/最高品質131
1,280×720ドット/標準品質(ノートPC)603
ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編
1,920×1,080ドット/最高品質128
1,280×720ドット/標準品質(ノートPC)1,069
バイオハザード6 ベンチマーク
1,280×720ドット789
ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 ver.2.0
1,920×1,080ドット/簡易設定545
1,280×720ドット/簡易設定3135

 内蔵のeMMCについては、「CrystalDiskMark 4.0.3」でテストした。リードで150MB/secを超えており、ベンチマークテストなどでの実使用時もストレージの遅さを感じることはなかった。電源押下からスタート画面が表示されるまでのOS起動時間は約25秒で、十分快適と言える。

【CrystalDiskMark】
内蔵のeMMC 32GB

無線デバイスを活用すれば快適に。用途は極めて幅広い

筆者のTVに直挿ししたところ。左右の端子を塞いでしまうので延長ケーブルを使うべき

 続いて実際の使用感もお伝えしよう。本体は70gと軽量なので、TVのHDMI端子に直接挿し、HDMI端子だけで本体を支えるような状態でも問題はない。ただ直接挿すと、本体の横幅で隣の端子を塞いでしまうこともあるので、付属の延長ケーブルを使って本体が垂れ下がるように使う方が利便性は高い。

 音声出力端子はなく、HDMIで映像とともに出力される。当たり前と言えば当たり前だが、これが意外とありがたい。例えば本体にワイヤレスマウスだけ接続し、NASなどに保存しておいた動画を視聴できるようにしておけば、小さくお手軽なネットワークメディアプレイヤーになる。動画再生についてもフルHD程度なら問題なくこなしてくれた。

 ほかの用途としては、Webブラウジング程度なら全くストレスは感じない。3Dゲームはベンチマーク結果を見て分かるとおり厳しいものがあるが、「艦これ」などのブラウザゲームなら支障なく遊べるものもある。4コアCPUとHDDよりは快適なeMMC、2GBのメインメモリがあると考えれば、意外とできることは多いと感じられる。

 消費電力は10Wとされているが、5V/1.8A出力のモバイルバッテリでも駆動でき、ベンチマークを走らせて負荷をかけても問題なく動作した(動作保証外となるはずなので自己責任で)。もっとも、本機がディスプレイがないと使えない代物である以上、本体の電源を取るのに困るような状況は少ないとは思う。

 ディスプレイが必要という点だけは忘れないでいただきたい。ノートPCはほとんどがHDMI出力のみなので、ディスプレイ代わりにはならない。デスクトップPCでも、HDMI入力端子のあるディスプレイが必要なので確実とは言えない。最近のTVならまず間違いなくHDMIが付いているので、出先の使用環境としてはそちらを期待する方がいいだろう。

 やや思いつき感が強いが、HDMI入力を備えたカーナビでも使えるのではと試してみた。実際、ノリでやってみたため、いざ試そうと思った時、端子の形状が合わないことが分かった。カーナビにもよるが、今回試したモノは、ナビから車の内部にHDMIケーブルを這わせる形になっているので、出口がHDMIオスコネクタになっているのだ。PicorettaもHDMIオスなのでこれでは接続しようがない。と言うわけで、検証当日、その足でHDMIメス-メスアダプタを買いに行く羽目になった。

 ただし、そこさえ気をつければ、一応カーナビのディスプレイを使ってPicorettaを動かせることが分かった。電源はモバイルバッテリ、あるいは車のシガーソケットUSBアダプタなどから取り、タッチパッドやポイントスティックなどがあるキーボードを繋げれば、十分本製品を動かせる。

 とは言え、そういう紹介をしながらも、これはだいぶ無理がある。地図以外の検索などをするには、スマートフォンがあればいいし、Windowsマシンを車内で使わなければならないという希な状況も、タブレットを持ち込んだ方が早い。あくまでも、技術的にはカーナビでも本製品が使えるということだけお伝えしたかった次第だ。

カーナビでPicorettaを使っているところ
試したカーナビは受け口がオスだったので、HDMIメス-メスアダプタを使って接続した。電源はモバイルバッテリ
このようにWindowsの画面をきちんと表示できた
入力デバイスは、このようなポインティングデバイス付きキーボードを使った方がいい

 一般的な使用時の注意点としては、やや発熱が多いこと。内部にヒートシンクが仕込まれているそうだが、筐体はほぼ一面がプラスチックで覆われており、本体はかなり熱を持つ。しばらくベンチマークを走らせるなどして負荷が高い状態が続くと、手が触れると熱いと感じるくらいにはなる。熱に弱いものや、ほかの電子機器など発熱するものに接触した状態での使用には注意した方がいい。

 USB端子が1つしかない点については、USB Hubがあればいいとは言え、何も考えずに使用すると思ったより本体周辺がごちゃごちゃする。ディスプレイからHDMI延長ケーブルが出て本機に接続、さらにUSB端子からHubが付いて、キーボードとマウスのケーブルが出て、別途給電用のmicroUSBケーブルも出て……となる。マウスだけでもBluetoothを使えばUSBハブは要らなくなる(他のUSB機器を接続したいと思ったらやはり必要になる)ので、何かしら無線化することは考えておいた方がスッキリする。

 本機は小型化のためにさまざまな部分がカットされてはいるものの、端子の少なささえ何とかすれば、大抵のことはできてしまう。最近はスマートフォンで大抵のことができてしまうことを思えば性能的な意味での驚きはないが、それと同じような感覚でパーソナルなコンピュータを所持できるのは面白い。

 例えばこれまで家族で1台のPCを使っていたのを、子供専用の1台として本機を持たせてやることもできるだろう。学校のレポートを提出するためにオフィスソフトを使う程度は問題ない性能だし、メールやブックマーク、メッセンジャーソフトなどの個人的なデータ、ツールを保存しておく環境としても共用PCより安心感がある。

 もちろん出張などの外出時に使うPCとしてはとても重宝する。ブックマークだけを入れておくUSBメモリを所持するより手間がないし、少しでも荷物を減らしたいというニーズに税込19,800円という安価で応えられる。しかもファンレスなので使用時は無音。人によって意外な使いどころが出てきそうなデバイスだ。

 そんな面白いデバイスである本機の唯一の問題点は、既に人気がありすぎること。本稿を執筆している5月10日時点で、次回入荷は5月下旬の予定。注文は受け付けており、注文順の発送となる。

電源を入れると青いランプが点灯。動作中も無音なので、電源オンオフはランプで確認する
「艦これ」は問題なく快適にプレイできた
USB Hubを使い、キーボードとマウスを有線接続すると、思ったよりごちゃごちゃする

(石田 賀津男/写真: 安田 剛)