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ファンだけではなかった。マウスのスティック型PCの技術的差異とは

〜初代m-Stickには、すでに多数のバージョンのBIOSが存在

左から「MS-PS01F」、「Picoretta」、「MS-NH1」

 マウスコンピューターが2014年12月に発売したスティック型のWindows PC「m-Stick」は、同社の想定を遙かに上回る売れ行きで、発売後数カ月は品薄の状態が続いた人気製品だ。

 同社はその後、2015年3月に64GBモデルを発売し、4月下旬からはファンを内蔵したモデルも追加投入する。仕様上は、筐体のサイズやファンの有無が差異点となるが、実はそれ以外にも技術的には細かな部分で挙動が異なる点もある。この点について、同社製品企画部部長の平井健裕氏に話を伺ってきた。

平井健裕氏

初代製品には3種類のBIOSが存在

 同社が開発したスティック型PCは、初代の「MS-NH1」、ストレージを倍の64GBにした「MS-NH1-64G」、ファンを搭載する「MS-PS01F」があるが、グループ会社であるユニットコムが発売するiiyama PCブランドの「Picoretta(ピコレッタ)」もマウスが開発した兄弟製品となる。Picorettaは、MS-PS01Fのファンを省略し、代わりに従来より大型のヒートシンクを搭載するモデルとなる。

 つまり、筐体および基板としてはMS-NH1とMS-NH1-64G、そしてMS-PS01FとPicorettaとがほぼ共通となる(厳密には、MS-NH1とMS-NH1-64Gは筐体色が異なる)。

 だが、平井氏によると、初代のMS-NH1シリーズには、3種類のBIOSがあり、それによってSoCの挙動が異なってくるのだという。

 最初のBIOSは「A05」というバージョンで、これはターボ機能(Intel Burst Technology)が無効で、GPUクロックは646MHzに固定されている。これ以外に、2014年末から「X18T」というバージョンも新たにサポートページを通じて公開された。このバージョンは、GPUよりもCPU性能を重視するもので、ターボ機能を有効にし、一方でGPUクロックを313MHzに落としている。さらに一般には公開されていないが、特定顧客/用途向けの評価用として、USBからの給電を検出すると自動的に電源を入れる機能と、OSをリードオンリーで読み込む機能が搭載されている。つまりは、電源ボタンを押さなくとも、給電開始と同時で電源が入り、その状態で強制的に電源を切っても、システムが壊れないというデジタルサイネージ用途に最適化させたものだ。

 そしてもう1つ「A06」というバージョンも存在する。こちらは、ターボ機能は無効で、GPUクロックは646MHz固定ということで、この点はA05と同じだが、同社が「T2」と呼ぶCPUステートが加えられた。これにより、CPUの動作を最適化させ、不必要にクロックが上がることを防いでいる。下記のグラフの写真は、ぎりぎりコマ落ちが発生しないレベルのH.264フルHD動画を再生させた場合の挙動を示したもので、青い線で示されるCPUクロックが、A05では頻繁に上限の1.3GHzまで上昇しているのに対し、A06では大半が下限の500MHzに留まっている。これによって、CPU性能のマージンを稼いでいる。このA06は現在64GBモデルに採用されており、検証が済み次第、32GBモデル向けにも公開の予定という。

BIOS A05とA06の動画再生時CPUクロックの変動。青い線がCPUクロック。下のA06ではなるべく低いクロックに留まるようになっている。もちろん、それによってコマ落ちが発生することはない。GPUクロックは緑の線で646MHzで一定(スロットリングが起きると313MHzに下がる)。赤い線は温度。動画再生時も約70℃を維持する

 PicorettaとMS-PS01FでもBIOSは若干異なる。いずれもバージョンは「09」なのだが、前者はブーストが無効でGPUが646MHz固定、後者はブーストが有効でGPUクロックが313〜646MHzの可変となる。これらについても、引き続き検証を行ない、よりよい設定が見いだせた場合は、新しいBIOSを公開していく予定としている。

 これら4つのモデルではいずれもSoCはAtom Z3735Fを搭載する。この点について異なるのは冷却機構とブースト機能の有無だ。これがどの程度性能に影響するのか? 同社が公開する資料によれば、基本的にはブーストにより、より高いクロックで動作するファン付きのMS-PS01Fが最も高い性能を示し、次にヒートシンク搭載のPicoretta、そしてMS-NH1となる。

 しかし、モンスターハンターフロンティアGベンチでは、MS-PS01Fの性能が最も低い。これは、GPUクロックが変動で下がる場合もあるからだ。PCMark 8のWorkにおいて、PicorettaよりMS-NH1のスコアが高いのは、MS-NH1の方が若干書き込み性能が高いためだ。

各製品とBIOSの差異。下がPCMark 8とモンスターハンターフロンティアGベンチの結果

 こういったことから、スペック上ではMS-PS01F>Picoretta>MS-NH1という序列があるように見えるが、実性能は必ずしもその通りではなく、マウスコンピューターでも、どの製品が最上位という位置付けはしていない。

 では、ストレージ容量が同じ場合、ユーザーはどのように製品を選択すれば良いのか。これも一概には言いにくいが、利用する環境に応じてということになる。例えば、基本的にPicorettaはMS-NH1よりも排熱性能が高いが、重量も40gから70gへと増してしまう。MS-PS01Fは、SoCの性能を最も引き出せるが、ファンという可動部品があるため、必然的に耐久性は下がってしまう。価格的にはほとんど差はないので、この一長一短を考慮しつつ選ぶことになるが、平井氏は基本的にはMS-NH1をお勧めするという。というのも、すでに発売から4カ月ほど経ち、BIOSもアップデートを重ね、「枯れて」きているからだ。

 MS-PS01Fに搭載されるファンはSUNON製。回転数は可変で、ノイズレベルは1mの距離で25.6dBA。SoCが一定温度になるまではファンは回らない。平均故障間隔は60℃の環境で約7万時間となっており、年に換算すると約7年強となる。このファンを搭載することで、騒音は発生するが、ブースト機能が使えるようになり、負荷時のSoC温度も10℃下げられるという。

 なお、いずれのモデルも、同社基準に基づく負荷テストにおいて、スロットリングは発生しない。つまり、MS-NH1でも想定されるSoCの性能はきちんと発揮できており、MS-PS01Fはそれをさらに引き上げられるということになる。

MS-PS01Fは、ファン搭載によりターボ機能が効く
MS-PS01Fの内部。なお製品版は黒い筐体となる
HDMI端子の部分から吸気する
ファンの厚みは3.3mm。回転数は可変
下はPicoretta。写真で分かる通り、冷却機構以外は基本的に同じハードウェア
ヒートシンク下部の中央から少し覗いている通り、きちんとヒートパイプを使っている
MS-PS01FとPicorettaは、MS-NH1より若干大きな筐体となる

今後の予定

 m-Stickは、その小型さ故に、これまでになかった使い方もできるが、同社がユーザーから得たフィードバックによると、旅行にノートPCを持って行きつつも、それが壊れた際のバックアップ用に鞄に忍ばせるという用途が想像以上に多いのだという。PCとしてはかなり安価なので、とりあえず買っておいて、使い方はあとから考えるというユーザーがまず購入していったのかもしれない。

 一方で、今後の予定はどうなのか。平井氏は、まず、現在のユーザーの不満点として声が上がっている無線LANの改善を図りたいとしている。と言っても、この製品の無線LANに問題があるわけではない。この製品が利用される環境が壁際でTVの裏といった電波の届きにくい場所になりがちという性格上、無線LANの繋がりが悪くなりやすいのだという。これについては、速度は遅めだが、より繋がりやすいなど、いくつかパラメータを変えたドライバを今後提供していきたいとしている。発熱制御についても、継続的にBIOSの見直しを行なっていく。

 Windows 10については、発売のタイミングでm-Stickも搭載モデルを投入していくが、現行のユーザー向けにアップグレード手法も必ず提供するとしている。

 今後のモデルとしては、前回のインタビューでも公言していた通り、14nmのAtomバージョンも計画されており、さらに1つ上位の位置付けとしてさらに高性能なCPUを搭載するシリーズも予定。このほか、盗難防止対策も施していきたいとしている。

 先だって、Intelからも同様のスティック型PCが発表されたが、これについて平井氏は、まだその製品を実際に試用していないので、その性能や使い勝手についてはコメントできないとしながらも、マウスコンピューターはすでにスティック型PCに関して多くのノウハウを蓄積しており、サポート面で競合製品/企業に対する優位性を持っていると答えてくれた。実際、デジタルサイネージ向けのBIOSを用意すると言った点も、同社のユーザーへの配慮や、フットワークの軽さを示していると言えるだろう。

(若杉 紀彦)