~Windows 7ケータイのベンチマークとクレードルを紹介 |
富士通が開発した「F-07C」は、フィーチャーフォンとWindows 7搭載PCを1つに合体させた、ユニークなパソコンケータイである。重量は約218gしかなく、Windows 7搭載PCとしては世界最小を誇る。発売日は7月23日に決定した。
F-07Cについては、すでに一度レビューしているが、そのときの試用機はまだ安定性が低く、パフォーマンスに関する評価はできなかった。また、F-07Cには、オプションでクレードルが用意されており、クレードルに装着することで、USBホスト機能やHDMI出力などが利用できるようになる。
今回は、より製品版に近づき、安定性が向上した試作機とクレードルを試用する機会を得たので、前回のレビューではできなかった、パフォーマンスについての検証とクレードルの紹介を行なう。ただし、今回試用した製品も、試作機であり、製品版とは細部やパフォーマンスが異なる可能性もあることに注意してほしい。また、F-07Cの基本的な機能については、前回のレビューを参照していただきたい。
なお、クレードルはWindows 7モードでのみ利用できる。
●クレードルに装着することでUSB 2.0×4とHDMI出力を利用できるF-07Cは、オプションのクレードルに装着することで、拡張性が大きく向上することも一般的なケータイやスマートフォンにはない魅力だ。クレードルには、インターフェイスとして、USB 2.0×4とHDMI出力が用意されている。F-07C本体には、MicroUSB端子が用意されているが、この端子はUSBホスト機能をサポートしておらず、USBメモリやUSBキーボードなどのUSBデバイスを接続することはできない。しかし、クレードルに装着すれば、USBホスト機能対応のUSB 2.0ポートが4基利用できるので、例えば、USBキーボードとUSBマウス、プリンタ、USBメモリを同時に接続して使うことが可能になる。
F-07C本体には、ディスプレイ出力端子は用意されておらず、テレビやプロジェクターなどの外部ディスプレイを接続することはできないが、クレードルにはHDMI出力が用意されているので、HDMI対応の液晶ディスプレイやTV、プロジェクタなどを接続できる。写真を家族と一緒に見たり、プレゼンテーションをする場合などに便利だろう。
また、クレードルにはファンが内蔵されており、F-07C本体を冷却する仕組みになっている。F-07C本体にはファンが搭載されておらず、連続動作させるとかなり熱くなるが、クレードルに装着した状態なら、安心して長時間の連続動作をさせられる。
F-07C用クレードルの前面。右側に「LOOX」ロゴが刻印されている | クレードルの背面。HDMI出力とUSB 2.0×2が用意されている |
クレードルの右側面。USB 2.0×2が用意されている | クレードルの左側面。DCコネクタが用意されている | クレードルの接続部。クレードルにはファンが内蔵されており、F-07Cを冷やすようになっている。右側に見えるスリットがファンの空気口だ |
●クレードルの利用にはACアダプタの接続が必要
クレードルには専用ACアダプタが付属しており、利用時にはACアダプタの接続が必須である。ACアダプタを接続していないと、クレードルに装着しても、クレードルが認識されない。もちろん、クレードルにACアダプタを接続して、F-07Cを装着すれば、クレードルからF-07C本体にも電源が供給される。クレードルに載せた状態でも、本体の液晶をスライドさせてキーボードを使うことは可能だが、キーボードが奥まった位置になるので、入力はしにくくなる。クレードルに装着した場合は、外付けのUSBキーボードを使うのが基本となるだろう。
クレードル用ACアダプタ。ACアダプタを接続しないと、クレードルを利用できない | CDケース(左)とクレードル用ACアダプタのサイズ比較 |
F-07Cをクレードルに載せたところ | クレードルに載せた状態でも液晶をスライドさせて、キーボードを使うことはできるが、入力はしにくくなる |
液晶をスライドさせた状態で、右側面から見たところ | 液晶をスライドさせた状態で、左側面から見たところ |
●Windows 7で利用できるUSBデバイスならそのまま使える
Windows Mobile搭載スマートフォンやAndroid搭載タブレットなどでも、USBホスト機能を備えた製品があるが、使えるUSBデバイスは、USBマウスやUSBキーボードなど、OSが標準でサポートしているものに限られる(Windows Mobile対応ドライバが用意されている製品も一部存在するが)。
しかし、OSとしてWindows 7 Home Premium 32bitを採用したF-07Cなら、Windows 7対応のUSBデバイスなら基本的にすべて利用できる。フルスペックのWindows 7を搭載しているF-07Cならではの利点といえるだろう。ただし、CD-ROMなどからドライバをインストールしなければならないUSBデバイスは、他のPCを利用してドライバをUSBメモリにコピーしておくといった作業が必要になる。ここでは、USBマウス、USBキーボード、USBメモリを利用してみたが、これらはすべてWindows 7が標準でサポートしているデバイスであり、プラグ&プレイですぐに利用できた。
HDMI出力については、富士通のWebサイトでは720pまで対応と書かれているが、試用機で試したところ1,920×1,080ドット(1080p)での出力が行なえた。いわゆるフルHD解像度で、フルHD対応テレビでドットバイドット表示が可能である。ただし、HDMI出力中は、本体の液晶表示はオフになる仕様で、2画面同時表示はできない。
クレードルに本体を装着し、USBキーボードとUSBマウスを接続したところ | さらにHDMIケーブル経由でHDMI対応テレビと接続したところ。HDMI出力中は、本体の液晶表示はオフになる | HDMI経由で東芝製テレビ「REGZA 47Z1」に出力したところ。1,920×1,080ドットのフルHD表示が可能であった |
●性能は高くはないが、モバイルブースターを使えば5時間以上の連続駆動が可能
参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは、「PCMark05」、「3DMark03」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskmark」。比較用として、ソニー「VAIO P(オーナーメードモデル)」、ソニー「VAIO P(店頭モデル)」、ソニー「VAIO X」の値も掲載した。
結果を見れば分かるように、Atom Zシリーズを搭載したVAIO PやVAIO Xと比べても、F-07Cのベンチマークスコアは数分の1とかなり低い。これらのマシンに搭載されているAtom Zのクロックは1.6GHz~2.13GHzと高いのに対し、F-07Cではクロックを600MHzに下げて動作させているため、このスコアも妥当といえる。
Windowsエクスペリエンスインデックスのスコアは、プロセッサが1.1、メモリが2.6、グラフィックスが2.9、ゲーム用グラフィックスが2.4、プライマリハードディスクが4.6で、プロセッサがかなり低い。メモリやグラフィックスのスコアも2.4~2.6と低いが、プライマリハードディスクのスコアは4.6と、それほど低くはない。
F-07C | VAIO P (VOMモデル) | VAIO P (店頭モデル) | VAIO X | |
---|---|---|---|---|
CPU | Atom Z600 (600MHz) | Atom Z560 (2.13GHz) | Atom Z530 (1.6GHz) | Atom Z540 (1.83GHz) |
ビデオチップ | CPU内蔵コア | US15X内蔵コア | US15W内蔵コア | US15W内蔵コア |
PCMark05 | ||||
PCMarks | N/A | 1468 | 1054 | 1248 |
CPU Score | 467 | 1808 | 1369 | 1583 |
Memory Score | 838 | 2571 | 2215 | 2421 |
Graphics Score | N/A | 263 | 224 | 245 |
HDD Score | 1230 | 11585 | 3311 | 3526 |
3DMark03 | ||||
1,024×768ドット32bitカラー(3Dmarks) | 304(1,024×600ドット) | 457 | 355 | 365 |
CPU Score | 48 | 232 | 202 | 207 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | ||||
DP | 12.47 | 31.87 | 30.53 | 36.17 |
HP | 26.93 | 68.07 | 73.37 | 85.5 |
SP/LP | 55.07 | 97.7 | 99.97 | 100 |
LLP | 97.03 | 99.77 | 99.97 | 100 |
DP(CPU負荷) | 85 | 87 | 84 | 78 |
HP(CPU負荷) | 92 | 97 | 85 | 78 |
SP/LP(CPU負荷) | 99 | 94 | 55 | 59 |
LLP(CPU負荷) | 97 | 92 | 56 | 39 |
CrystalDiskMark 2.2 | ||||
シーケンシャルリード | 29.70MB/s | 82.46MB/s | 61.05MB/s | 65.90MB/s |
シーケンシャルライト | 11.49MB/s | 51.33MB/s | 39.21MB/s | 38.42MB/s |
512Kランダムリード | 28.92MB/s | 76.98MB/s | 58.53MB/s | 63.23MB/s |
512Kランダムライト | 1.720MB/s | 44.80MB/s | 1.606MB/s | 3.108MB/s |
4Kランダムリード | 3.092MB/s | 7.702MB/s | 4.485MB/s | 4.135MB/s |
4Kランダムライト | 0.310MB/s | 17.18MB/s | 1.731MB/s | 1.523MB/s |
BBench | ||||
Sバッテリ(標準バッテリ) | 1時間28分 | 4時間48分 | 4時間17分 | 2時間57分 |
Lバッテリ | なし | 未計測 | 未計測 | 6時間2分 |
Xバッテリ | なし | なし | なし | 12時間56分 |
Windowsエクスペリエンスインデックスのスコアは、プロセッサが1.1とかなり低いが、プライマリハードディスクのスコアは4.6と低くはない |
また、Windows 7モードでの連続動作時間は約2時間とされているが、実際にバッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebサイトへのアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、1時間28分という結果になった。決して長いとはいえないが、公称駆動時間から考えるとこちらも妥当な結果であろう。
F-07Cは、MicroUSB経由でバッテリの充電が可能なので、USB出力が可能な外部バッテリを接続すれば、バッテリ駆動時間を延長できる。そこで、三洋電機の「エネループモバイルブースター」(KBC-L2BS)をフル充電し、F-07Cに接続し、同条件でバッテリベンチマークを行なったところ、駆動時間は5時間3分に延びた。KBC-L2BSの重量は約130gであり、F-07Cとあわせても400gを下回り、気軽に持ち運べる。もっと大容量の外部バッテリを装着すれば、さらに駆動時間は延びるだろう。
●クレードルの利用でWindows 7搭載のメリットが活かせるF-07Cは、Windows 7搭載超小型PCといわゆるフィーチャーフォンの2つの顔を持ったユニークな製品である。クレードルを装着すれば、USBホスト機能とHDMI出力が利用できるので、PC用OSを搭載したF-07Cのメリットをフルに活かせる。また、内蔵バッテリでの駆動時間はあまり長くはないが、USB出力が可能な外部バッテリを利用すれば、駆動時間を延ばすことが可能だ。パフォーマンスは確かに高くはないが、割りきって使えば実用にならないというほど遅いわけでもない。クレードルや外部バッテリを利用することで、F-07Cの応用範囲はさらに広がる。F-07Cならではの活用法を思いつく人にお勧めの製品だ。
(2011年 7月 22日)
[Text by 石井 英男]