~Windows 7を搭載した世界最小PCケータイ |
ケータイの新製品に占めるスマートフォンの割合は、ここ1~2年の間に急激に増加している。以前は、夏モデルや冬モデルといったラインナップのうち、1~2機種がスマートフォンで、残りはいわゆるフィーチャーフォンであったが、NTTドコモの夏モデルでは、24モデル(データ通信端末を含む)中、9機種がスマートフォンになっており、単体で音声通話が可能なケータイに限れば、21モデル中9モデルと、半数近くがスマートフォンになっている。
スマートフォンは、搭載OSによって、iOS系、Android系、Windows Mobile/Windows Phone系に大別される。台数ベースでは、iOS採用のiPhoneがまだまだ優勢だが、モデル数が多いのはなんといってもAndroid搭載機種だ。Windows Mobileの後継であるWindows Phone 7/7.5は、現時点ではまだ国内では搭載機種が発売されていない。
そうした状況の中、NTTドコモの夏モデルの中で、異彩を放つ製品が富士通の「F-07C」である。F-07Cは、フィーチャーフォンとパソコンを1つに合体させたパソコンケータイなのだ。F-07Cは、ケータイモードとWindows 7モードの2つのモードを持ち、切り替えて利用できるが、Windows 7モードは、その名の通り、OSとしてWindows 7 Home Premium 32bitを採用しており、スマートフォン用のWindows Phone 7を採用しているわけではない。F-07Cは、スライド式QWERTYキーボードを採用しており、スマートフォンのようにも見えるが、前述したようにスマートフォン用OSを搭載しておらず、スマートフォンではない。ドコモもスマートフォンのカテゴリではなく「コンセプトモデル」に分類しており、あくまでフィーチャーフォンとパソコンのハイブリッド端末なのだ。
F-07Cは、正式発表以前から一部で話題となっていたのだが、ポケットに楽に入るようなPCが欲しいと思っている人には、非常に気になる製品であろう。今回は、試作機を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。ただし、今回試用したのは、あくまで試作機であり、細部の仕上げや動作速度などが製品版とは異なる可能性がある。そのため、ベンチマークテストは行なっていない。また、UIM(SIM)なしの本体のみを借用したため、ケータイモードの検証も行なっていない。今回は、外観や操作感などのレビューを中心とし、パフォーマンスに関しての評価は、より製品に近い実機を試用できたときに、行なうことにしたい。
●ケータイとしてはやや大ぶりだが、パソコンとしては驚異的に小さいF-07Cのサイズ(キーボードをスライドさせていない状態)は、約61×125×19.8mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約218gである。スマートフォンの代表であるiPhone 4のサイズが58.6×115.2×9.3mm(同)、重量は約137gなので、ケータイやスマートフォンとしてはやや大ぶりだが、片手で十分握れるサイズであり、重量もパソコンとしては驚異的に軽い。いわゆるUMPCとしても、群を抜く携帯性だ。富士通では、F-07CをWindows 7搭載機としては世界最小としている。
似たコンセプトの製品としては、2008年6月にウィルコムから発売された、Windows Vista搭載通信端末「WILLCOM D4」があるが、WILLCOM D4のサイズは約188~192.3×84×25.9mm(同)、重量は約470gであり、ケータイと呼ぶには無理がある大きさであった。F-07Cなら、厚みはややあるものの、ケータイとあまり変わらない感覚でポケットなどに入れて持ち歩ける。
液晶は4型で解像度は1,024×600ドット(WSVGA)であり、最新スマートフォンに比べて遜色のない、サイズと解像度である。背面には約510万画素カメラを、前面には約32万画素カメラを搭載しているが、背面カメラはWindows 7モードでは利用できず、前面カメラもWindows 7モードでは約17万画素相当となる。液晶はタッチパネルを装備しており、Windows 7モードでも指先で操作が可能だ。
バッテリを外すと、microSDカードスロットとUIMカードスロットが現れる。バッテリは、3.7V/1,400mAhという仕様であり、一般的なスマートフォンと同程度だ。バッテリの持ち時間については今回は検証していないが、Windows 7モードでは約2時間とされており、やはり短さが気になる。ケータイモードでの連続待受時間は3Gで約600時間、GSMで約400時間(ともに静止時)、連続通話時間は3Gが約370分、GSMが約440分で、ケータイモードでのバッテリの持ちは十分だ。
●QWERTYキーボードとトラックボールを搭載
F-07Cは、スライド式のQWERTYキーボードを搭載していることも特徴だ。キーの数は51で(左クリックキーも含む)、記号や数字の入力にはFn1キーやFn2キーを併用する。キートップはやや盛り上がった形になっており、ストローク自体は短いが、はっきりとしたクリック感があり、このサイズとしては入力しやすいキーボードだ。往年の名機HP200LXに近い感覚である(HP200LXは、キートップの高さやキーストロークがもっとあったが)。ただし、最上段のキーと液晶部分とのスペースがあまりないので、指の大きな人だと、最上段のキーがやや押しにくい。
ポインティングデバイスとしてはトラックボールを採用。トラックボールは本体右側に、左クリックボタンは本体左側に用意されており、本体を両手で持って、右親指でトラックボールを操作し、左親指で左クリックボタンを操作することになる。トラックボールの直径は小さいが、こちらも慣れれば快適だ。左クリックボタンを押す代わりに、トラックボール自体を押し込んでも、左クリックボタンと同じ役割になる。また、右クリックボタンは用意されていないが、トラックボールを長押しすることで、右クリックの役割を果たす。
本体には、MicroUSB端子とクレードル接続用端子が用意されており、前者は充電にも使われるが、Windows 7モードでUSBホスト機能を使うには、オプションのクレードルが必要となる。クレードルには、USB 2.0ポートが4基とHDMI出力が用意されており、映像出力も可能だ。クレードルは便利だが、直接本体にもUSBメモリやプリンタなどのデバイスを繋げられれば、もっと利便性が向上していただろう。ACアダプタはコンパクトで、電源ケーブル(MicroUSB-USBケーブル)は取り外せるようになっており、ACプラグも折りたたんで収納できるので、持ち運びに便利だ。
F-07C側の端子は、MicroUSBコネクタを採用 | ACアダプタに電源ケーブルを接続したところ |
●600MHz駆動のAtomと1GBメモリーを搭載
F-07Cは、ケータイモードとWindows 7モードが独立して動作しており、CPUやメモリ、デバイスなどもそれぞれ別々に搭載されている。Windows 7モード側のCPUはAtom Z600を搭載し、1.2GHz動作のAtomを600MHzで駆動している。シングルコアだが、Hyper-Threadingテクノロジーを搭載しているので、OS側からはデュアルコアのように認識される。また、グラフィックス機能を統合しており、チップセットとしては、Intel SM35 Expressが利用される。F-07Cの搭載メモリは1GBで増設はできない。また、ストレージとしては、32GBのSSD(eMMC仕様)が搭載されている。実際のパフォーマンスについては、今回は評価対象外とするが、Windows 7 Home Premiumを動かすには、かなりギリギリのスペックであろう。
ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11b/g/nの無線LAN機能と3G通信機能(HSDPA対応、下り最大7.2Mbps、上り最大5.7Mbps)を備えている。なお、Bluetoothはケータイモード側でのみ利用可能で、Windows 7モードでは利用できない。同様に、無線LAN機能もケータイモード側では利用できないので注意が必要だ。microSDカードスロットはWindows 7モードで利用できるが、電力消費を抑えるために3分間アクセスがないと自動的にmicroSDカードスロットへの電力供給がカットされる。再びアクセスするには、microSDカード制御ユーティリティを使って、microSDカードスロットを有効にする必要がある。
システムの表示画面。プロセッサは1.2GHzと表示されているが、実際の動作クロックは半分の600MHzである | デバイスマネージャー画面。チップセットは、Intel SM35 Expressである | デバイスマネージャー画面の続き。ディスプレイアダプタはIntel Graphics Media Acceletor 600。無線LANはAtheros製だ |
Windows 7モードでは、microSDカードに3分間アクセスがないと、省電力のため自動的にmicroSDカードがOFFになる。再びアクセスしたい場合は、microSDカード制御ユーティリティを使って、microSDカードを有効にする必要がある | 無線LANのON/OFFも専用ユーティリティによって行なう |
●IE9やOffice Pesonal 2010もプリインストール
ケータイモードとWindows 7モードとの切り替えは、側面のモード切り替えボタンを押すことによって行なう。ケータイモードで動作している間は、Windows 7側はスリープ状態にあり、モード切り替えボタンを押すことで、スリープから復帰する。スリープからの復帰は数秒程度で思ったよりも速いが、長らくスリープ状態にしていると、休止状態に移行するようで(製品版では動作が変わるかもしれないが)、その場合のWindows 7モードへの切り替えにはかなり時間がかかる。
OSは、Windows 7 Home Premium 32bit SP1適用済みなので、Webブラウザとしては、Internet Explorer 9がプリインストールされている。また、Office Personal 2010 2年間ライセンス版もプリインストールされており、最新のWordやExcel、Outlookも利用できる。
●タッチパネルを活用する専用ランチャーやブラウザ拡張機能を搭載
F-07Cは、タッチパネルを搭載しており、タッチパネルでポインティング操作を行なうこともできるが、液晶の精細度がかなり高いため、通常のWindows 7のUIでは操作しにくい。そこで、アイコンが大きく表示される専用ランチャーの「タッチコンソール」を搭載。よく使うアプリケーションを登録し、アイコンをタッチするだけで、そのアプリケーションを起動可能だ。また、「戻る」や「お気に入り」などよく使うWebブラウザの操作を、タッチで行なうための「インターネット操作パネル」も用意されており、Webブラウズもタッチ操作で快適に行なえる。
専用ランチャー「タッチコンソール」を装備。よく使うアプリケーションを登録して、タッチするだけで起動できる | よく使う「お気に入り」や「戻る」などの操作をタッチで操作できる「インターネット操作パネル」 |
【動画】タッチコンソールでExcelのアイコンをタッチし、Excelを起動しているところ |
【動画】インターネット操作パネルを利用して、操作を行なっているところ |
●フル機能のPCを手のひらサイズで実現していることが魅力
今回は、試作機による速報的な扱いのため、パフォーマンス関連のベンチマークなどは行なわないが、Atomを600MHzで駆動しているということで、Windows 7が快適に動くということは初めから期待していなかった。操作感としては、Windows Vista搭載のネットブックに近く、決して高速ではないが、そのあたりを理解して使えば実用にならないというほど遅くもない。このサイズと重量にフル機能のPCを詰め込んだことは、まさに驚異的だ。
今回はクレードルが入手できなかったため試していないが、クレードルを使えばHDMI出力が可能なので、写真などのコンテンツを大画面TVに出力して皆で見たり、プレゼンテーションに使うなどの利用法も考えられる。なお、動画再生能力はあまり高くなく、YouTubeやニコニコ動画のストリーミング再生はコマ落ちが多発してしまった。ただし、radiko.jpでのラジオ視聴は問題なく可能であった。プリンタや外付けHDDなど、Windows 7でサポートされているUSB機器が、クレードル経由で使えることも嬉しい。QWERTYキーの使い勝手もサイズを考えれば良好であり、メモ書きなどにも使えそうだ。アイデア次第で、これまでのPCではサイズの関係上難しかったことが実現できるようになる可能性もある。PCの新たな領域を広げた製品として評価すべきであろう。
(2011年 6月 15日)
[Text by 石井 英男]