■元麻布春男の週刊PCホットライン■
10月21日に発表されたAppleの新製品を取り上げた際、米国にはMac mini専用のデータセンター(共同設置のためのコロケーションセンター)があることを紹介した。その時うっかり、わが国のデータセンターは保守的だから、Mac miniがズラリと並ぶ様は想像しにくい、などと書いた。
しかし、日本にもMac miniのコロケーションセンターは存在した。少なくとも都内に2カ所、江東区と品川区にあるようだ。前者をマギシステム、後者がプライマス・テレコミュニケーションズという会社が運営しているらしい。ほかにもラスベガスのコロケーションセンターの窓口も国内にあるようで、わが国でもMac miniはサーバーとして受け入れられているようだ。うかつなことを言うものではない。関係者および読者にお詫びする。
さて、この時発表された新製品のうち、最も手を出しやすい製品と言えば、6,800円という価格設定のApple「Magic Mouse」で異論はないだろう。Bluetoothに対応したワイヤレスマウスであるMagic Mouseは、2005年夏に登場したMighty Mouseの後継製品としてiMacにバンドルされるほか、単体でも販売される。
Mighty Mouseはオリジナルの約1年後にワイヤレス版(Wireless Mighty Mouse)が登場したが、Magic Mouseはワイヤレス版からの登場。この分だとケーブル付き(USB版)が登場することはないのだろう。
さて手元に届いたMagic Mouseは、アクリル製のケースに納められていた(写真1)。後述のようにスクロールホイールや、それと分かるボタンがなくツルりとした質感。マウスとしては背が低いことも合わせ、高級な靴べらのような雰囲気がある。前後/左右対称のデザインは見た目に美しいし、左利きのユーザーにも優しいのだが、機能的には前後の別が存在する。リンゴのロゴも控えめで気づかないこともありそうだから、うっかり逆に握って慌てる、ということも起こるかもしれない。
新しいMagic Mouseの特徴は、マウスの上表面がマルチタッチに対応したパッドになっていて、ここを指でなぞること(ジェスチャー)で、さまざまな操作を行なえること。通常のマウスが備えるホイールやボタンをもたないため、マウスの外観が非常にスッキリしている(写真2)。
【写真1】アクリル・ケースに納められたMagic Mouse | 【写真2】ケースから取り出したMagic Mouse |
これまで使われてきたMighty Mouseは、マウスの前方中央にスクロールボールがあり、このボールをクリクリと回して360度のスクロールを行なう。このスクロールボールの操作感は独特で、慣れると病みつきになるような一面がある。その一方で、小径のボールは汚れに弱く、汚れてボールがスリップするとスクロールができなくなってしまう。
さらに大きな問題は、一度汚れてしまったボールを掃除するのが困難である、ということだ。分解掃除法、両面テープ法、メラミンスポンジ法など、掃除のためのさまざまな技法がユーザーにより開発されているが、決定版となるとなかなか難しい。ボールを廃し、タッチ式になったMagic Mouseは、メインテナンスの容易さでは、間違いなく大きな進歩と言えるだろう(写真3)。
【写真3】Mighty Mouse(左)とMagic Mouse(右)。かなり背が低い | 【写真4】Magic Mouseの底面。かなり前(写真では右)寄りにレーザーセンサーがある。左の黒い部分を押して、底を取り外して電池交換を行なう |
底面は、全体を電池室のフタが覆っていて、写真左側の黒い部分を押すと外すことができる。右側(マウス前方側)の端にレーザーセンサーがある。センサーの下にある小さなスイッチは電源スイッチ。
【11月11日訂正】記事初出時、レーザーセンサー搭載は本製品が初であるとの記述がありましたが、前機種であるWireless Mighty Mouseにも搭載されておりました。お詫びして訂正します。
こうした見た目以上に気になるのが使い勝手だが、その前にまず利用環境から押さえておこう。Magic Mouseが対応するのはMac OS X 10.5.8以降だけである。つまり、公式にはWindowsはおろか、Tiger以前のMac OS Xにも対応しない。
実際には、BluetoothのHIDクラスデバイスなので、全く使えないということはない。Windows 7にバンドルされている標準BluetoothスタックでMagic Mouseを認識させてみたが、「Apple Wireless Mouse」として認識された(画面1)。もちろんマウスとして利用できるが、単なる2ボタンマウスとしてであり、マルチタッチ機能等は全く利用できない。BootCamp環境のサポートという問題もあるので、Windows対応のドライバサポートを期待したいところだが、現状では見通しは不透明だ。
Mac OS X 10.5.8以降がインストールされたMacの場合も、最初からMagic MouseがバンドルされたiMac以外は、Magic MouseをBluetoothマウスとして認識させた後、対応ソフト「Wireless Mouseソフトウェア 1.0」をソフトウェア・アップデートから入手してインストールし、再起動する必要がある(画面2)。
これは10.6.1までのSnow Leopardでも同様で、Magic Mouseを接続しない限り、このWireless Mouseソフトウェア1.0はソフトウェア・アップデートには現れない。ただし、10.6.2以降は標準でMagic Mouseのサポートが加わるようだ。Wireless Mouseソフトウェアの初期設定では、右クリックが無効になっているので、2ボタンマウスに慣れた普通のユーザーは、チェックボックスをチェックして有効にしておく(画面3)。
【画面1】Windows 7でもマウスとして認識は可能 | 【画面2】マルチタッチをサポートするソフトウェアは、ソフトウェア・アップデート経由で入手する | 【画面3】今のところMagic Mouseでサポートされるのは1本指と2本指での限られた操作のみ |
この初期設定でも分かるように、Appleはシングルボタン操作にこだわりがある。2ボタン、あるいはそれ以上の数のボタンが当たり前になった今でも、本来ならマウスのボタンは1つが望ましいと考えているのだろう。
実際、メカニズムとしても、1世代前のMighty Mouseはもちろん、このMagic Mouseも、マウスボタン(スイッチ)は1つしかない。マウスの表面に静電容量方式のタッチセンサーがあり、マウスの右側にだけ指が触れた状態でクリックすると右クリック(Appleの用語では副ボタンのクリック)、それ以外は左クリック(主ボタンのクリック)とすることで、1つのスイッチで2種類のクリックを判別する仕組みだ。したがって、マウスの左右に2本の指を乗せた状態だと、いくらマウスの右側だけをクリックしたつもりでも、右クリックを入力することはできない。
このメカニズムについては、基本的にMighty MouseとMagic Mouseで共通だと思われる。実はAppleのマウス表面には、以前から静電容量センサーが搭載されていた。だから、Magic Mouseで表面全体を静電容量方式と思われるマルチタッチセンサーで覆い、スクロールホイールを置き換えてしまったことも、自然な進化に思えてくる。
肝心な使い勝手だが、扱っていて特に不自然な感じはしない。店頭で短時間触った時は、ちょっと微妙な気がしていたのだが、机の前にちゃんと座って操作してみると、違和感は感じなかった。おそらくスクロール等の操作時に、誤動作することがほとんどなく、ピタッと感覚通りにスクロールできるからだろう。マウスの表面をなぞることで360度自在にスクロールできるのはMighty Mouseに近い感覚だが、Mighty Mouseのスクロールボールと異なり、操作時にクリック音がしないのがちょっと調子が狂うところかもしれない。
スクロール操作に使えるエリアは、リンゴマークから前方すべて、という感じ。おおよそマウス全体の4/5が操作エリアになっている。長いスクロールも、慣性スクロール機能(指で弾いた強さでスクロール量を変化させる)のおかげで、それほど苦にならない。
スクロール以外の動作としては、ブラウザの進むと戻るを2本指のスワイプで行なうことができる。マウス表面を2本の指で高速に右から左(戻る)、あるいは左から右(進む)に払うようにして操作する。マルチタッチに対応した内蔵トラックパッドでは、同じ動作が3本指に割り当てられているため混乱するかと思ったのだが、どうやら筆者の指はマウスの表面とトラックパッドを別のデバイスと認識してくれたようだ。
ただ、Magic Mouseがサポートするジェスチャーはこれだけ。パッドのように2本の指でつまんで拡大・縮小したり、回転させたり、といったことはできない。4本指を使ってエクスポゼやアプリケーションの切り替えを行なう、といったことも不可能だ。これらの操作はMighty Mouseでは可能だっただけに、マウスで可能なアクションの数(仮想的なボタンの総数)という点では減ってしまったことになる。この点はちょっと残念だ。
というわけで、Magic Mouseで残念なのは、操作可能なアクションが減ったこと、Windows対応のドライバサポートがないこと(仮想環境のFusion 3では縦スクロールは可能だった)の2点だ。個人的にはエクスポゼが使えないのが痛い。逆に気に入ったところは、スクロールボールのメインテナンスから解放されること、思った以上に自然なスクロール感だ。薄型になったことで、MacBook等といっしょに持ち出すのも適しているし、高級感も相当なものだ。今のところバッテリ寿命等は分からないが、Appleらしさのあふれる入力デバイスに違いない。