元麻布春男の週刊PCホットライン

CESに見る3D TVやスマートTVの事情



 言うまでもなくInternational CESの主役は、Consumer Electronics Showの名前が示す通り家電製品である。ここ数年、家電のデジタル化が進んだこともあり、IntelやMicrosoftを始めとするIT系企業の姿が目立つようになっているが、企業IT関連の出展は極めて少ない。今年からPMAが9月開催となり、北米における春の製品発表の機会が減ったせいか、コンパクトデジタルカメラ関連の発表もそこそこあったように思う。が、やはり主役は家電製品、中でも比較的単価の高い大型TVがCESの王様という気がする。

●3D TVの動き

 昨年(2010年)のCESでは、各社とも3D TVの展示に注力していた印象が強かった。それは今年(2011年)もあまり変わっていない。とりあえず3Dは目立つし、来場者を驚かせる要素を盛り込みやすいからだろう。だが、市場として完全に離陸したのかというと、日本同様、やはり微妙な感じだ。

 日米を問わず、3D TVの問題点の1つが3Dメガネであることに疑いの余地はない。が、問題の所在が若干違っているように思う。眼鏡利用者の多い日本では、眼鏡の上にメガネを重ねる形になることもあり、3Dメガネの存在そのものが邪魔との意見が多い。結果、3D関連ということで日本で大きな話題となるのは、メガネを必要としない裸眼立体視の技術だ。裸眼立体視は、画面サイズを大きくするのが技術的に困難であったり、見る角度が厳しく制約されたりと、また別の問題がある。が、とりあえず日本は、画面が小さくなってもいいから裸眼で、の方向に進みそうな気がしている。

 これに対して米国では、3Dメガネの互換性や価格が大きな問題であるようだ。大画面の3D TVを購入する理由の1つは、大勢で集まるパーティ等の余興(みんなでワイワイ騒ぎたい)という側面がある。従って、とりあえずメガネは許容するから安くて画面の大きな3D TVを、という方向性を感じる。

 しかし、普段は使わない3Dメガネを、お客さんのためとはいえ、10個も20個も用意しておくというのは、さすがに無理があるらしい。しかも、参加者に自前の3Dメガネを持参してもらっても、TVセットのメーカーが違えばまず利用できない。さらに、参加者分のメガネを用意しても、参加者個々にフィットするとは限らない、という問題もある。

 だが、問題があればそれを解決しようという製品も出てくるもの。今回のCESでXPANDが発表した新製品が「Youniversal 3D Eyewear」もそんな製品の1つだ。このYouniversal 3D Eyewearの特徴は、1つのメガネでIR、RF、Bluetooth、DLP-Linkといったリンクインターフェイスに対応、さまざまなブランドの3D TVやゲーム機等と組み合わせて利用できることだ。また、同社は映画館用の3Dシステムも手がけており、XPAND方式を採用した映画館(TOHOシネマズなど、わが国にも結構多い)に、自前のYouniversal 3D Eyewearを持ち込んで3D映画を見ることもできる。

 自前の3Dメガネを持ち込むメリットは、メガネの設定をカスタマイズできること。Android上で動作するPersonalizerと呼ばれるソフトウェアを使って、画面の明るさ、液晶シャッターの切り替わり時間などを、自分の好みに合わせて設定することができる。製品の名前は、ユニバーサル(汎用)でありながら、YOU(あなた)にチューニング可能な製品、という意味なのだろう。

XPANDが発表したYouniversal 3D EyewearAndroid上のアプリで、特定の利用者向けにカスタマイズ可能

 ただし、問題点もなくはない。XPANDは映画館等の3D施設で実績があるとはいえ、家庭用3D機器ではサードパーティである。たとえばパナソニックやソニーは、3D TVの技術パートナーとして、ライバルのRealDと提携している。当然、XPANDのメガネとの互換性を保証するわけがない。

 同様に、PCでの3D立体視技術で最も広く使われている3D Visionを提供しているNVIDIAも、このXPAND製メガネを認証していない。XPAND側で動作保証をするのだろうが、ユーザー側もリスクを承知しておく必要があるだろう。

 さて、そのNVIDIAだが、同社のブースでも3D Visionによる3D立体視は大きくフィーチャーされていた。が、現行の3D Visionに対するアップデートはあるのか、との質問には答えられない、というつれない回答。3D Visionにバンドルされているソフトウェアの改善と拡張については、非常に重要なことだと認識しているという答えをもらったが、基本的にNVIDIAはハードウェア(チップ)の会社であり、サンプルとしてのソフトウェアは提供するものの、本格的なアプリケーションはサードパーティに作って欲しい、というのが本音であるようだ。

液晶TVと同じ240Hzをサポートした3D VAIO。GPUはNVIDIA製を用いる

 3D Visionのアップデートが気になったのは、ソニーのブースで3D立体視をサポートしたVAIO Fベースのデモが行なわれていたから。昨年のCeBITで参考出品されていたのと同じ、フレームレートが240Hzのフレームシーケンシャルによる3D立体視技術で、現行の3D Visionの2倍、家庭向けの3D TV(BRAVIA等)と同じフレームレートだ。

 多くの家庭向け3D TVや3D Visionが採用するアクティブシャッターメガネを用いるフレームシーケンシャル方式の3D技術では、左右の目それぞれにフル解像度の画を交互に送る必要から、フレームレートが半分になってしまう。それを補うためにディスプレイのフレームレートを2倍に引き上げておくことがよく行われる。要するに3D立体視の120Hzは2Dの60Hz相当だから、240Hzの3D立体視で2Dでいう倍速の滑らかな画像となるわけだ。

 このソニーのVAIO Fベースの試作機に使われているGPUがNVIDIA製であり、当然NVIDIAが開発に協力しているハズだ。この240HzのVAIO Fがリリースされて(年内に製品化される見込み)、しばらくはソニーによる独占期間があるとしても、そのうちフレームレートを240Hzに引き上げた3D Visionが登場してもおかしくはない。もちろん、ノートPCであるVAIO Fと違い、3D Visionが240Hz対応するには、対応のディスプレイも必要になるわけで、その辺りの動向も含めて、注視していく必要がありそうだ。


●スマートTVの動き
ソニーのGoogle TVは、ブースの端で比較的地味な扱い

 TV関連で、もう1つの話題の中心であるハズのスマートTVは、意外と目立っていない。その代表であるGoogle TVの評判がもう1つ、ということが影響しているのかもしれないが、担い手の1社であるソニーのブースでも、Google TVは分かりにくい端の方に、ひっそりと展示してある印象だった。

 インターネットとブロードキャスト(放送)の融合をかかげるスマートTVを最も大々的に展開していたのは、北米ナンバーワンのTVメーカーになったSamsungで、SNSとの連携や、各種VODサービスに対する横断的な検索といった機能をうたっていた。インターネット上のコミュニケーションが、果たしてリビングに馴染むものなのかどうか、不透明な部分もあるが、SNSによるコンテンツのリコメンドは、ほぼ不可欠な機能と考えられている。

 VODは米国ではかなり普及しているのだが、わが国ではまずDVDの100円レンタルに勝たないことには、話が始まらないだろう。レンタルビデオ屋までクルマで1時間、という規模感の国とは事情が違う。ただ、米国では着実に町中からCD/DVDショップは姿を消し続けている。ネット通販でパッケージメディアを買って到着を待つくらいなら、なぜネットダウンロードで即視聴しないの、ということになるだろう。

 SamsungのスマートTVでは、映画の出演者、制作スタッフといったデータから関連するタイトルを簡単に検索することができる。そして、その検索結果には、Blockbuster、CinemaNow、Hulu Plus、Netflix、Vudu、DailyMotionなど多種のVODサービスへのリンクが埋め込まれており、それをワンクリックするだけでそのタイトルを鑑賞することが可能だ。Netflixのような定額制のサービスのボタンがあれば、追加の料金に対する負担感なしにその映画を見ることができる、というわけだ。

 このSamsungのスマートTVに映画や音楽に関連したメタデータを提供しているのがRoviで、単にデータを提供するだけでなく、メタデータを用いた検索、広告の挿入、コンテンツのリコメンデーションなどの機能をWebサービスとして提供するという。Rovi Media Cloudと呼ばれるこの機能を利用することで、TVセットメーカーは簡単に自社にカスタマイズした形で「スマート」なTVを作れ、また広告収入に関しても一部がフィードバックされるという。


SMARTのロゴが大きく掲げられたSamsungのブースSNSによる友人のリコメンドをサポート。コンテンツそのものは、インターネット上の様々なVODサービスから自由に選択できる。SamsungのライバルであるLGもスマートTVに力を入れる

 言うまでもなくRoviはTVガイドを提供している会社であり、各社のTVにEPGとして採用されている。上で3D TVについて触れたが、現時点では3D TVといえどもEPGは2Dのままだ。今回のCESで、3D化されたTVガイドのプロトタイプのようなものを見せてもらった。3Dで表示された街の映画館に行くことでVODによる映画コンテンツにアクセスできるし、看板には広告が表示され、大きなネオンサインにはリアルな天気予報が表示されている。これがそのまま製品化されることはないのだろうが、サイバー感あふれるデモであった。

Roviの3D TVガイド(技術デモ)。3D立体視の画面を2Dの写真に撮ることはできない点は容赦いただきたいRoviが開発中のiPad用TVガイドアプリ。もちろん日本全国をカバーし、複数地域にまたがる検索もサポートされる予定。詳細な番組情報を見ることもできる

 これが技術デモに近いものだとしたら、もっと現実に近いのがiPad上で動作するTVガイドアプリケーションだ。全国をカバーした番組表であるだけでなく、もちろん各種のメタデータによる検索や、番組情報の提供が可能だという。年内を見込む最初のリリースでは、このアプリから直接TVの予約録画等を行なうことができないが、将来的には実現したいという。

 TVとインターネットの融合がどこまで進むのか、まだ分からない部分も少なくないが、インターネット上のサイトから動画、特に映画のようなコンテンツを直接ダウンロード視聴する際に問題になるのは、コンテンツの保護だ。今回のCESにおいてコンテンツ保護に関する新しい話題としては、Intelが発表したSandy Bridgeにその機能が含まれていることだろう。

 Intel Insiderと呼ばれるこの機能は、これまでソフトウェアベースで実現されていたHDCPをハードウェアで実装するもの。ハリウッドの強い要望を受けてのものだという。Intel Insiderを用いたHDCP2は、もちろん現行のHDCP対応のモニタやディスプレイと接続可能で、次のバージョンのWireless Display(WIDI 2.0)にもインプリメントされることになっている。このIntel Insiderにより、WiDiでもDVDやBlu-ray Discのような保護されたコンテンツを再生することが可能になる。