元麻布春男の週刊PCホットライン

CEATECで感じた3D TVとスマートフォンの課題



 千葉県の幕張メッセで先週開催されたCEATECは、電子・電気機器関連の総合イベントとしては、わが国で最大規模の催しである。筆者も講演を聴く合間に、会場をブラブラと見学したりする。どちらかというと、目玉展示に並ぶというよりは、どんな展示に列ができているのかを確認するような見方だが、その点からすると今年の目玉は3D TVとスマートフォン/タブレットデバイスだったように思う。

●3D TVは、コンテンツがカギ

家電メーカーのブースは、どこも3D TVを大きく扱っていた

 3D TVに対するメーカーの力の入れ方は相当なものだ。おそらく、CEATECに出展した家電メーカーで、3D TVの展示を行なわなかったところはないだろう。売り上げ的には苦戦していると言われる3D TVだが、コンテンツがないことを考えれば、それも半ば当然のこと。オリンピックやワールドカップといった目玉イベントのない冬商戦において、どれだけ巻き返せるかが1つの試金石になるのではないだろうか。

 このTVということで興味深いのは、現在、米国での話題はGoogle TVやSmart TVといった、インターネットコンテンツと放送コンテンツの融合を目指したTVであることだ。米国でも、MicrosoftのWebTVが失敗したように、TVとインターネットの融合は成功しているとは言い難いが、TVの解像度が上がったことで、成功するチャンスはある、と考えているように見受けられる。

 逆に、日本の家電メーカーは、こと日本市場に関して、Smart TVに熱心でないように見える。実際、過去にも日本の家電メーカーはインターネットコンテンツを利用可能なTVや、TVと接続することを前提としたPC(リビングルームPC)をリリースし、あまりうまくいかなかった経験を持つ。おそらく、問題の本質が、画面の解像度といった単純な技術的課題ではないことを理解しているのだろう。

 現時点における大きな問題の1つは、そもそもインターネットコンテンツがリビングルームにはふさわしくないことだ。基本的にインターネット上のコンテンツは、PCベースで蓄積されてきた。その結果として、コンテンツは極めてパーソナライズされている。世代を超えた家族で、一緒に楽しめるコンテンツは少なく、特定の世代、あるいは特定の共通した趣味/趣向を持つ人同士だけがわかり合えるコンテンツが多くを占める。

 言葉等の表現にしても、TVはリビングルームの主役であるべく、時に「言葉狩り」と呼ばれるほどの自主規制を設けてきた。それに対し、インターネットにそのような規制はなく、時に剥き出しの感情の吐露に驚かされることがある。米国でもTVコンテンツは、厳密なレーティングの元に管理されている。そうした世界と、インターネットの世界を融合させることは、IntelやGoogleが考えている以上に困難なことだと思う。

 おそらく、この問題に対して日本の家電メーカーの出した答えが「アクトビラ」だと思うが、価格設定等の問題もあり、利用度が高いとは言い難い。後述のように、米国ではレンタルビデオ制度まで窮地に陥りつつあるが、日本と米国では人口密度や、生活習慣の違いもあり、何年後かには米国と同じようなことになるとしても、現時点では物理メディアのレンタルに勝てない状態が続いている。

 今年の6月、台湾で開かれたCOMPUTEXの帰路に日本に立ち寄ったIntelのムーリー・エデン副社長は、記者説明会の冒頭で、「この会場で携帯電話を奥さんに貸せる人は」と問いかけた。その趣旨は、携帯電話のようにパーソナライズされたデバイスは、例え奥さんであろうと、貸すことはできないだろう、ということである。そして、携帯電話が1人に1台であることが当然であるように、PCも1人に1台になりつつある、あるいはそうならなければならない、ということを訴えたかったのだと思う。

 PCの1人1台化を推進した、あるいはしつつある主役が、ネットブックやCULVノートのような、安価で持ち運びの容易なデバイスであることは間違いない。そのネットブックよりさらにパーソナライズされたデバイスが携帯電話である。つまり、パーソナライズされるデバイスは、常時ユーザーが身につけやすいものでなければならない。デバイスの中には、例え家族に対してであっても秘密にしておきたい情報が含まれているからだ。必然的にデバイスは小型になるし、自ずとスクリーンサイズも小さくなる。

 こうした法則を考えると、TVをパーソナライズするというSmart TVのコンセプトには首をかしげたくなる部分が多い。Smart TVのコンセプトでは、パーソナライズすることで、より的確な(効果の高い)広告の表示を可能にすることが、ビジネスモデルの一部に組み込まれている(現在のGoogle TVには、この広告機能は含まれていないようだが)。しかし、そのパーソナライズされ方自体が、他者には秘密にしておきたい情報であったりもする。

 リビングで使われる大画面TVは、その家族の最大公約数的な趣向を反映して欲しいということはあるかもしれない。だがかといって、家族の誰か1人だけにパーソナライズされては困るのだ。それはパーソナライズされた本人も困るし、それを見せられる家族もたまったものではないだろう。

 おそらく理想的には、誰か1人が見ている時には、その人にパーソナライズされたTVとなり、複数の人が見ている時には、最大公約数的な情報を表示する。知らない人が視聴者に含まれる場合は、その人の年格好や性別から推測して、適切なコンテンツをガイドするというのが望ましい。

 こう書くと、なんだか未来の話のようだが、これを実現するための要素技術はそろそろ実用化段階に入りつつる。デジタルカメラは個人の顔を識別する機能を備えつつあるし、デジタルサイネージ(電子看板)では前に立った人の年格好等を判断して、広告を表示したりする。ひょっとすると、TVの前の会話量や、個人の表情を読み取ることで、リビングルームの空気さえ読めるTVだって実現可能かもしれない。こうした顔認識技術を用いたSmart TVは、意外と近いところまで来ているハズだ。

 とはいえ、今のSmart TVにそれほどのスマートさはない。筆者はすぐにうまくいくとは思えないのだが、かといって3D TVの方が成功するのかというと、それも微妙だ。今回、3D立体視が注目を集めるきっかけになったのが、映画「アバター」のヒットであったように、3D立体視に力と資本を入れているのはハリウッドである。

 米国ではレンタルビデオ最大手のブロックバスターが連邦破産法第11条の適用を申請したように、いよいよ物理的なメディアによるコンテンツビジネスがピンチに陥りつつある。その要因となっているのが、インターネット経由の配信であることは疑う余地がない。

 3D立体視については、今のところ配信のための標準がないこともあり、Blu-ray 3Dには物理メディアの窮地を救う役割が期待されているワケだが、どうも間に合いそうにない雰囲気だ。「アバター」、「アリス・イン・ワンダーランド」、「タイタンの戦い」あたりまでは話題性もあったが、その後、3D映画は息切れしているように見受けられる。四半期に1本くらいは人気作、話題作がないと、3D立体視環境を牽引するのは厳しいのではなかろうか。できれば、人気作のBlu-ray 3D化と新作の3D映画公開を合わせてパイプライン状態を作らないと、なかなか普及は難しいのではないかと思うのだが、今のところこのパイプラインはスカスカな状態だ。

 CEATEC会場でも裸眼視可能な東芝の3D TVや、240Hzのフレームシーケンシャルをサポートしたソニーの3D TVの関連ブースには、多くの来場者が詰めかけていた。だが、技術的な興味とは別に、今すぐにでも3D TVを買いたいかと問われれば、多くの来場者は「様子見」と答えるのではないだろうか。

●スマートフォンと次世代高速通信

KDDIとUQコミュニケーションズのブースは隣り合わせ

 さて、もう一方のスマートフォンだが、こちらも相当な人だかりだったが、3D TVほどではない、といったところか。3D TVより実機の普及が進んでいることも、その大きな理由の1つだろう。Appleが出展していない会場で、スマートフォンといえばAndroidベースという感じで、直前に発表されたauのIS03や、NTTドコモのGalaxy S/Galaxy Tabには、多くの来場者が群がっていた。

 その陰に隠れるかのように、高速ブロードバンド技術の展示も設けられていた。NTTドコモのLTEと、UQコミュニケーションズのWiMAX 2である。LTEに関しては、7月末の情報以上のアップデートはないようで、12月中に東名阪の3大都市圏を皮切りに、Xi(クロッシィ)というサービス名でサービスを開始すること、最大データ転送速度は37.5Mbpsであること(一部の屋内施設で75Mbps)、2012年末までに約15,000局の基地局開設を目指すことなどがパネル展示されていた。

 米Verizon Wirelessが、年内に全米38都市圏でLTEサービスを開始するのに比べると、だいぶ少ない印象を受けるが、Verizonが700MHz帯を用い、5~12Mbps程度の下り速度をターゲットにしているのに対し、NTTドコモが2GHz帯を使い、数十Mbpsをターゲットにしていることを考えれば、やむを得ないことかとも思う。と同時に、NTTドコモのLTEデータ端末(当初はデータ専用の外付け製品になる見込み)が海外でローミング可能な確率はいかほどかとも思う。おそらく初期の製品は、そこまで考えて作られていないのではなかろうか。

 一方のWiMAX 2は、すでにサービスインしているWiMAXがベース。当初は圏外になることが多かったWiMAXだが、少なくとも東京23区内の地表でWiMAXを利用できない場所は、ほとんどなくなりつつある印象だ。CEATECにおける展示の目玉は、最大330MbpsというWiMAX 2の帯域(下り)を誇示する複数ビデオの同時ストリーミングデモだが、このデモでも分かるように、330Mbpsを有効に利用する単一アプリケーションに乏しい。広い帯域を何に使うかの提案がカギを握りそうだ。

 WiMAXとLTEは何かと比較される立場にあるが、それぞれに長所と短所がある。WiMAXの長所は、何より先行して普及が進んでいることと、従来型のキャリアビジネスと一線を画していることだ。先行している最大の利点は、利用可能なエリアの広さ、つまりは基地局の数が物語る。同社の発表によると、2010年9月末の基地局数は11,000局で、2010年度末に15,000局を目標としているという。この15,000局という数字は、NTTドコモがLTEの基地局数として2012年度末の目標として上げている数字と同じだ。つまり、基地局数で2年先行していることになる。

 同様に、最大速度(下り)も、2012年の商用化を目指すWiMAX 2(330Mbps)にLTEが追いつくのは2014年ではないかとされる。また、すでに米国との間でローミングが可能になったWiMAXに対し、LTEの国際ローミングが可能になるのは、上記の周波数帯域の違いもあり、まだ不明だ。この点でも、WiMAXが先行するが、ローミング可能なのはIntel製の内蔵アダプタに限られ、人気のモバイルルーターは対応しない点に注意が必要である(Intel製のアダプタ以外は複数キャリアの情報を保持できないため)。

 ビジネスモデルの点では、WiMAXの契約に2年縛りといった制約がないこと、通信アダプタ/モジュールの販売がキャリア独占ではないことは、ユーザーに広く支持されている。また、キャリア系のサービスと異なり、帯域制限が行なわれていないことも、WiMAXの特徴の1つだろう。UQコミュニケーションズは、将来にわたっても絶対に帯域制限を行なわないとしているわけではないが、広帯域をうたう以上、極力帯域制限を行なわない方針を示している。

 一方、LTEの長所は、世界の携帯キャリアが幅広く支持する標準であること、現行3Gへのフォールバックを含めれば最初から幅広いサービスエリアを実現できそうなことだ。ただ、上述したように、LTEのチャンネルプランは、WiMAX以上に幅広いため、市場が細分化される可能性がある(上述の700MHzと2GHzの例のように)。マルチバンドのLTE端末(あるいはLTE対応のマルチバンドチップセット)がいつ頃登場するのか、注目される。

 NTTドコモは、最初のXi端末が、データ専用でFOMA(3G/3.5G)とLTEの両方に対応するとしている。つまり、サービス開始直後に、LTEで接続できるエリアが限られていても、それで通信ができなくなるのではなく、FOMAによる通信が可能、ということになる。WiMAXが苦手とするエリアも含め、FOMAは幅広いエリアで利用可能だから、スタートからつまずくことはないと思われる。

 しかし、同じことはWiMAXでもできないわけではない。米Sprintは、3G(CDMA2000 1xEVDO Rev.A)とWiMAXの両方に対応した複数の端末を投入している(HTC Evo 4G、Samsung Epic 4Gなど)。CEATECのKDDIブースで、このような端末の投入予定はないのか尋ねてみたが、現時点で計画はないということだった(ただし、投入して欲しいという要望の声はたくさん寄せられているという)。

 KDDIの次期社長に就任予定の田中孝司専務は、なんと言ってもUQコミュニケーションズを立ち上げた経歴を持つ。Evo 4Gのような端末を投入することが、WiMAXの普及に役立つだけでなく、新規加入者の純増数でライバル2社に遅れをとるauの起爆剤になるかもしれない。田中専務はIS03の発表会で、auがスマートフォンで出遅れたことをハッキリと認めた。確かに、国内向け携帯電話とスマートフォンの融合を目指したIS03のような方向性も必要だが、定額で高速データ通信(WiMAX)をWi-Fiテザリング可能なスマートフォンも1つの方向性ではないかと思う。早期の投入を期待したいところだ。