元麻布春男の週刊PCホットライン

名実ともに最高仕様の「Core i7-980X Extreme Edition」を試す



 3月11日、Intelは間もなく正式発表されるハイエンドデスクトップPC向けプロセッサ「Core i7-980X Extreme Edition」に関する主要な情報の解禁を行なった。おそらく、米国で開催されているゲーム開発者向けのイベントGDCに合わせてのものだろう。

 これまで「Gulftown」の開発コード名で知られてきたCore i7-980Xは、サーバー/ワークステーション向けの「Westmere-EP」とほぼ同じスペックの6コアプロセッサ。メモリのECCサポートがないこと、レジスタ付きメモリのサポートがないことなどが、主な相違だ。デスクトップPC向けのプロセッサとしては、初の6コアプロセッサでもあり、Hyper-Threadingと組み合わせて、最大12スレッドの同時処理能力を持つ。

Core i7-980X Gulftownのダイ写真。上部が共有のL3キャッシュ、下部がメモリコントローラ

 位置づけとしてはCore i7-965/975(Bloomfield)の後継となるExtreme Editionの製品で、基本的にソケット互換性を維持する(BIOSのアップデート等は必要)。Extreme Editionのプロセッサは、TDPが130W、米国価格(1,000個ロット時)が999ドル、オーバークロックが容易なようクロック設定をロックしない、といった特徴を持つ。このCore i7-980Xも、これらをそのまま継承する。

 Core i7-980Xがもう1つ継承しているのは、3.33GHzという動作クロック。Core i7-975の4コアから2コア増えて6コアになったにもかかわらず、Core i7-980Xの定格動作クロックはCore i7-975と同じ3.33GHzを維持している。これまで、コアが増えると動作クロックが下がることが多かったが、Core i7-980Xについてはクロック低下を回避しており、マルチスレッド化が進んでいないアプリケーションに対しても性能が低下することはない。TurboBoost使用時の引き上げ幅も同様に2ビンで、最大動作クロックは3.60GHzとなっている(1〜2コア使用時。3〜6コア使用時は3.46GHz)。

 このように動作クロックを維持できた主要な理由は、製造プロセスがCore i7-965/975の45nmから、32nmプロセスへと微細化したことにあるのだろう。Core i7-980Xは1月にローンチされたグラフィックス内蔵のCore i5/i3プロセッサ(デスクトップPC向けのClarkdaleおよびモバイル向けのArrandale)と同じ、第2世代のHigh-k/Metal Gate技術で製造される。

 コアの機能的にもClarkdaleと同等で、ハードウェアによりAES暗号処理を支援するAES-NIをサポートする。Clarkdaleは、2コアで4MBの共有L3キャッシュを備えているが、Gulftownはちょうどその3倍、6コアで12MBの共有L3キャッシュを備える。異なるのは、Clarkdaleではメモリコントローラがグラフィックスコアと同じ、45nmプロセスにより製造されるダイ上にあり、32nmプロセスにより製造されるプロセッサコアと別だったのに対し、Gulftownではメモリコントローラもプロセッサコアと同じダイに統合されている点だ。変な言い方だが、ピュアな32nmプロセッサというところである。

 プラットフォームとなるのは、上述したようにCore i7-965/975と同じX58チップセット。BIOSの更新は必要となるだろうが、最大消費電力やメモリの仕様にも変更がないから、従来のCore i7-900番台のプロセッサと差し替えて利用することができる。

 今回のCore i7-980Xで大きく変わったのは、リテール製品に付属するヒートシンクだ。これまでIntelのBox製品には、上部に冷却ファンを備えたトップフロー型のヒートシンクが添付されてきた。今回採用された新しいヒートシンクは、4本のヒートパイプを用いたサイドフロー型。取り付けも、従来の樹脂の弾性を利用したプッシュピンから、バックプレート付のネジ止め式に変更されている。

 筆者はあのプッシュピン式のヒートシンク固定が嫌いで、Intel製プロセッサを利用する場合も、ヒートシンクはネジ止めを採用したサードパーティ製を利用することが大半だった。プッシュピンでなくなったのは歓迎すべきことなのだが、実際に取り付けてみると、すべての問題が解決したわけではないことも分かった。

 まず取り付けネジの上部をヒートシンク本体、あるいはファンケージが覆っているため、ネジ回しを使いにくい。ネジそのものが短く、ゴムが巻いてあることからして、指で回すことを前提にしているのだろうが、ソケットの周囲はコンデンサやレギュレータ、およびそのヒートシンクで囲まれているため、指を入れにくい。マザーボードをケースに入れたままヒートシンクを着脱するのは結構大変だ。なお、ファンの上部には、ファンの動作を切り替えるトグルスイッチがあり、QuietモードとPerformanceモードを切り替えることが可能になっている(ノイズ量の違いはあまり感じられなかったが)。

Core i7-980Xのリテールヒートシンク。サイドフロー式になった。ファンの上にモード切替スイッチがある ヒートシンクは4本のヒートパイプを用いたもので、固定にはバックプレートとネジを用いる ただしネジが短く、ヒートシンクの隙間から指を入れて回すのは容易ではない

 このリテールヒートシンクとIntel製マザーボードの「DX58SO」を組み合わせて、いくつかのテストを実施してみた。テストに際しては、表1のような構成を用いている。これまで筆者は、基本的にベンチマーク等を32bit OSで実施してきたが、2GBのモジュールを3枚挿して32bit OSというのも考えにくいので、今回は64bit版に変更した。

【表1】テストに用いた構成
Motherboard Intel DX58SO
Memory 2GB DDR3-1333 DIMM(Corsair XMS3)×3
Graphics AMD Radeon HD 4890
HDD Seagate Barracuda 7200.12 320GB
OS Windows 7 Ultimate x64

 組み合わせたメモリは、DDR3-1333(PC3-10600)に対応したCorsairのメインストリーム向けメモリであるXMS3シリーズ2GB×3枚だ。Core i7-965/975同様、Core i7-980Xもスペック上の定格メモリはDDR3-1066となっているが、非公式にDDR3-1333をサポートしていること、DDR3-1333をサポートした後発のLynnfieldやClarkdaleの登場により、DDR3-1333メモリがポピュラーになっていることから、この選択となった。DX58SOも、DDR3-1333メモリをインストールすると、そのままDDR3-1333として認識し、利用される。

 だが、今回のテストでは若干、パラメーターが異なっていることをお断りしておかねばならない。このテスト前に、IntelのWebサイトから本稿執筆時点において最新のBIOS(ビルド番号5020)をダウンロードしてアップデートした。が、筆者の手元にあるマザーボード固有の問題なのか、なぜかHost Clockを定格の133MHzに設定できない、という問題が生じている。

 BIOSのメニューからLoad Optimal Defaultをロードすると135MHzに設定され、手動で133MHzに変更するとPOSTを通過できず、再設定するようFailsafe Watchdogから警告される。警告を無視して(Failsafe Watchdogを無効にして)起動しなくなると困るので、今回はHost Clockを135MHzに設定した。したがって、プロセッサの動作クロック、TurboBoostクロック、メモリクロック、QPIクロックのすべてが、定格より約1.5%オーバークロックした状態になっている。ただし、この設定は比較に用いたCore i7-965(3.2GHz)の時も共通のハズである。

筆者の手元のマザーボードでは、なぜかHost Clockを定格の133MHzに設定できなかったため、135MHzで試用した。そのため約1.5%ずつオーバークロックされている Hyper-Threadingも含めた12個の論理CPUがWindowsにより認識された

●アプリケーションによって差が大きく開いたベンチマーク結果

 さてベンチマークテストの結果だが、全体に通じて言えることは、マルチスレッド化の進んだソフトではCore i7-980Xによる性能の伸びが顕著で、そうでないものはCore i7-965と大差ない、というごく当たり前のことである。両者の間には動作クロックで133MHzの差があるが、この差の影響は大きくないようだ。

 PCMark Vantageは、マルチスレッド化を意識したベンチマークテストだが、現実のアプリケーションの対応度合いを踏まえてか、同時発行されるスレッドは最大でも2〜3程度となっている。したがって、4コアのCore i7-965と6コアのCore i7-980Xでほとんど差が見られない。少しずつ上乗せがあるのは、133MHzのクロック差とAES-NIの効果だろう。特にAES-NIの効果が最も顕著なCommunicationsで、大きくスコアが伸びているのが印象的だ。

3DMark VantageのCPU Test 2の画面。ドーナッツのようなゲートと、2本の角のようなゲートが左右でペアとなり、プロセッサのコアの数だけ並ぶ。12コア(論理含む)のCore i7-980Xで実行すると、ゲートが12ペア並び壮観

 3DMark Vantageは基本的にグラフィックス向けテストで、トータルスコアはほぼグラフィックスカードで決まる。だが、CPUテストは、スレッド化されたテストとなっており、特にテスト2はゲートペア(ドーナッツ上のゲートと2本の柱が立ったゲートの組)の数がプロセッサのコア数を示す(PhysXなど物理エンジンを搭載していない場合)などビジュアル的にもマルチコアを実感できる。ここでのテスト結果も、CPUスコアについてはコア数の増加(50%)の恩恵を大きく反映したものになっている。

 CrystalMark2004は、多くのユーザーが手軽に利用できるツールとしてポピュラーなものだ。実行中にタスクマネージャーで見ていると、4スレッド以上の利用が見られた。CPU関連のALU、FPU、MEMの各テストでは、クロックの伸び以上にスコアが向上しており、コア数が増えたことによる効果が現れているものと思われる。

 CINEBENCHは、以前のバージョン(R10)からマルチスレッド化が進んだテストとして知られ、マルチコアプロセッサのデモンストレーションでは定番となっていた。今回は最新のR11.5を用いたが、CPUテストではほぼコア数の増加を反映した結果となった。3Dアニメーションのレンダリングは、マルチコア向きであり、6コアの威力を発揮しやすいと言えるだろう。

 これに対して、FF XI Bench 3の結果は、Core i7-965とCore i7-980Xでほぼ変わらない。CPUクロックの向上もほとんどスコアの差に反映されていないことを考えると、ボトルネックになっているのはグラフィックスなのだと思われる。CPUに多額の投資をするのは効果的でないタイトルだが、年内にもリリースされると言われるFINAL FANTASY XIVにも同じことが言えるとは限らない。

 こうしたベンチマークテストに加え、今回、実際のアプリケーションを用いて、ビデオエンコードのテストを行なってみた。用いたのは、この分野の定番ソフトであるベガシスのTMPGEnc Xpress 4.0と、CorelのVideoStudio Pro 13だ。特に後者は、マルチコア対応をうたう最新版で、リリースされたばかりである。一般にビデオのエンコードはマルチコアプロセッサ向きのアプリケーションと言われる。4コアから6コアになって、それがどれくらいエンコード時間に反映されるのか見てみよう。

 ここでは2本のアプリケーションについて、同じソースファイル(1,440×1,080iのMPEG-2、約1.4GB)を用いて、TMPGEnc Xpress 4.0では720pのH.264ファイル(.MP4)に、VideoStudio Pro 13では1080iのAVCHDファイルに変換してみた。TMPGEnc Xpress 4.0ではフィルタは利用せず、固定量子化の設定で1,280×720ドットのプログレッシブに、VideoStuido Pro 13ではデフォルト設定のまま、AVCHDに変換し、所要時間を手動計時した。

 その結果は予想以上だった。まずVideoStudio Pro 13だが、4コアのCore i7-965に比べて、6コアのCore i7-980Xでは所要時間が2/3に短縮された。ほぼコア数の比に準じた性能向上であり、このくらい効果があれば文句を言う人はいないだろう。

 それ以上の効果が得られたのがTMPGEnc Xpress 4.0で、Core i7-965でもほぼ実時間でエンコードが完了していたが、Core i7-980Xではそれがさらに半分以下に短縮された。処理中のプレビュー画面を見ていても、明らかに実時間より高速に処理が進んでいることが分かるし、出来上がったファイルもほぼ同じサイズで、何か変なことが起こった様子はない。こうした効果は、使用するCODECやフィルタにも依存するため、どのような変換でも同じような効果が得られるとは限らないが、現時点で最強のビデオエンコード用プロセッサと言えるだろう。

VideoStudio Pro 13実行中のCPU占有率。最初は1スレッドで立ち上がり、徐々に利用スレッド数が増えていき、12個の論理CPUにほぼ等しく負荷がかかる状態になる TMPGEnc Xpressでは処理するシーンによってCPU負荷が大きく変動するようだ。ほとんどのコアに負荷がかかることもあれば、半分のコアが休むこともある。このような動作でありながら、エンコード時間は半分以下に短縮された

【表2】ベンチマーク結果


Core i7-980X Core i7-965
PCMarkVantage PCMark 9949 7878
1,024×768 Memories 6771 6668
x86 TV and Movies 6501 6075
Gaming 9973 9206
Music 7926 7151
Communications 11327 7375
Productivity 7047 7136
HDD 4447 4486
X64 PCMark 10426 9157
Memories 7221 7013
TV and Movies 6509 6036
Gaming 10700 10275
Music 8397 7952
Communications 12742 7933
Productivity 8449 7874
HDD 4533 4431
3DMark Vantage [Performance] Score 12786 12058
1,280×1,024 GPU SCORE 10645 10610
CPU SCORE 32244 20419
CrystalMark 2004R3 Mark 256838 225514
ALU 64637 51519
FPU 60349 52156
MEM 59876 48328
HDD 11846 12287
GDI 15803 16385
D2D 5254 5214
OGL 39073 39625
CINEBENCH R11,5

64bit OpenGL 32.60fps 32.21fps
CPU 8.90pts 5.73pts
32bit OpenGL 33.11fps 31.56fps
CPU 8.42pts 5.41pts
FF XI Bench3 Low 10915 10733
High 8765 8839
1600×1200ドット
ランクS ランクS

【表3】ビデオのエンコードテスト(カッコ内は生成されたファイルサイズ)
VideoStudio Pro 13 -> AVCHD(1080i) 12分36秒(2.90GB) 18分29秒(2.89GB)
TMPGEnc Xpress 4.0 -> H.264(720p) 10分25秒(172MB) 22分39秒(172MB)

 もちろん、高い動作クロック、最新のマイクロアーキテクチャ、デスクトップPC向けとして最大の6コアという高スペックを考えれば、ビデオエンコードに限らず、Core i7-980Xが現時点で最高のデスクトップPC向けプロセッサであることは間違いない。が、問題はその価格だ。おそらく10万円を越えるであろう価格を考えると、さすがに万人向きとは言えない。

 今回のCore i7-980Xで残念なのは、発表されたのが1モデルのみで、クロックの低い下位モデルのリリースがしばらく先になりそうなことだ。このあたりが、プラットフォームが共通であることの欠点と言えるかもしれない(新しいプラットフォームを立ち上げるのであれば、プロセッサが1モデルということは考えられない)。下位モデルがリリースされるとして、それがどれくらい安価になるかは分からないが、期待して待ちたいところだ。