元麻布春男の週刊PCホットライン

Core i対応Mini-ITXマザー「DH57JG」で組む



DH57JGのパッケージ

 2009年9月に開催されたIDFで、筆者が注目した製品の1つに、LGA1156ソケットに対応したMini-ITXフォームファクタのマザーボードがあった。当時、Jet Geyserという開発コード名で紹介されたこのマザーボードが、正式名「DH57JG」として2月末ついに発売になった。半年越しにようやく入手可能になったこの製品を、早速入手してきた。

 秋葉原のショップ購入したDH57JGの実売価格は、おおよそ13,000円台の半ばというところ。すでに販売されているmicroATXフォームファクタのDH55TCよりちょっと高いが、初物であること、チップセットのグレードが1つ上(H55に対しH57)であることを考えれば、まぁこんなところだろう。

 むしろ、Mini-ITXというフォームファクタを考えれば、安いと言えるかもしれない。もともと、組込用に登場してきたMini-ITXフォームファクタのマザーボードは、ATXやmicroATXに比べれば流通量が少なく、どうしても割高になりがちだ。そんな中にあってIntelは、他のフォームファクタのマザーボードと同じ扱いでMini-ITXマザーボードに取り組んでおり、価格的にも流通量的にも入手しやすくなっている。

●曖昧な表現のCPU互換性

 さて、このDH57JGだが、中身(マザーボード)が小さいだけあって、パッケージも小さい。以前購入したAtomベースのMini-ITXマザーボード(D945GCLF2)の箱と比べても、ひと回り小さい。チップセットにアクティブヒートシンク(ファン付ヒートシンク)が取り付けられていたD945GCLF2と違い、高さのあるパーツがないからだろう。付属品も、I/Oパネルと2本のSATAケーブル、ドライバCD、そしてクイックリファレンス(簡易マニュアル)程度とシンプルだ。

 このクイックリファレンスに加えて、“ATTENTION”と書かれた1枚のメモが同封されていた。このメモには注意書きとして、下記の4点が書かれている。


  1. LGA1156には専用のファン/ヒートシンクが必要で、LGA775やLGA1366用のものと互換性がないこと
  2. DIMMソケットがPCI Express x16スロットと近接しているため、このスロットにカードをインストールする前にDIMMソケットのラッチ(DIMMを固定するレバー)を閉じておくこと
  3. 最新のBIOSとドライバはIntelのWebサイトからダウンロード可能なこと
  4. DH57JGはTDPが最大87WのCore i5-600シリーズおよびCore i3プロセッサをサポートしている。PCI Express x16コネクタを用いてグラフィックスカードを利用することは可能だが、そのようなハイエンド構成の場合は、適切なケースを選択するなど、熱に注意すること

 1~3は特に問題はないとして、気になるのは4に書かれているプロセッサに関する制限だ。4の書き方では、まるでTDPで制限されているようだが、実際はCore i7にもTDPを82Wに抑えたSシリーズ(Core i7-860S)が存在するし、同じLynnfieldでTDPを82Wに抑えたCore i5-750Sも存在する。実は購入時にも、Core i7-800シリーズとは互換性がないむねを告げられていた。

【画面1】DH57JG互換のプロセッサはすべてClarkdal

 どうも互換性のあるプロセッサの定義があいまいなので、IntelのWebサイトでDH57JGと互換性のあるプロセッサを調べてみると、画面1の7種が表示される。要はDH57JGと互換性があるのはClarkdaleの7種ということらしい。H57チップセットについては、サードパーティ製マザーボードでLynnfieldをサポートしたものが存在するから、チップセットの問題とは考えにくい。Sシリーズとの非互換や、PCI Express x16対応のグラフィックスカードを利用可能であることを考えると、単純な熱設計の問題とも思いにくい。2009年9月のIDFの時点ではLynnfieldも使えるという話だったし、どうもマーケティング上の縛りのような気がしている。

 どんな理由にせよ、プロセッサとの互換性に制約があるのはしょうがないとしても、問題は互換性をプロセッサのブランディングでスッキリと表示できないことだ。互換性のあるプロセッサを製品名で表示すると、Core i3-540、Core i3-530、Core i5-670と列挙せねばならず、開発コード名ならClarkdale対応と一言で表示できるというのは、ブランディングとしてどうなのよ、と思ってしまう。

●DVI-I、HDMI出力のあるMini-ITX

 それはともかくDH57JGだが、大きな特徴は、小さいに似合わず豊富な機能を持っていることだ。I/Oパネルを見ても、計6ポートのUSB、LAN、アナログオーディオに加え、ディスプレイ出力としてDVI-IとHDMI、S/PDIF(光)、そしてeSATAを備える。オンボードには4ポートのSATAとPCI Express x16スロットに加え、ヘッダピンでS/PDIF(同軸)、シリアル、追加のUSB×6ポートが用意される。特にディスプレイのデジタル出力については、これさえあればAtomでいいのに、と思うユーザーも少なくないことだろう。SATA、eSATAともH57チップセットが提供するもので、サードパーティ製のSATAコントローラは搭載していない。

小型のMini-ITXフォームファクタだけに、背面にもパーツが実装されているCPUとメモリを取り付けたDH57JG。大きさが分かるよう2.5インチHDDを並べてみたDH57JGのI/Oパネル部。サイズの割に充実したI/O機能を持つ

 このDH57JGをどのようにシステムアップするかだが、手持ちの流用可能なパーツと相談の上、表1のような構成とした。ケースにPC-Q07を選んだのは、せっかくMini-ITXフォームファクタなのだから小さくしたいということ(大きさを気にしなければMini-ITXマザーボードをATXケースに取り付けることも可能)。その上で、5インチベイがスリムタイプでないこと、できればフルハイトの拡張カードが入ることを考えて選んだ。表でも分かるように、筆者はこのシステムに光学ドライブを内蔵させないつもりだが、代わりに5インチベイにインストールできる3.5インチHDDのリムーバブルラックを取り付けると面白いかな、と思っている。拡張スロットについては、現時点で何か拡張カードをインストールする具体的な予定はないが、USB 3.0のインターフェイスをつけるというのはアリかもしれない。

【表1】DH57JGベースのシステム構成
マザーボードDH57JG
CPUCore i5-661
メモリ2GB DDR3-1333 DIMM×2
HDDMK3265GSX(2.5インチ、320GB)
ケースLianLi PC-Q07
電源Enermax Liberty 400W
OSWindows 7 Home Premium 32bit

 このPC-Q07というケース、実際の大きさが193×208×280mm(幅×奥行き×高さ)という小型のキューブタイプなのだが、購入して自宅に持ち帰ると、販売店で見た印象よりは大きく感じる。といっても、Mini-ITXサイズのケースだから、中は窮屈でメインテナンス製や拡張性は期待できない。用いた電源は、筆者の手元にあったもので、奥行きが長くなく、ケーブルが脱着式のいわゆるプラグインパワー方式であることから選択した。使わないケーブルは抜いてしまわないと、ケースの中に収まりきれないと思ったからだ。とはいえ、ATX電源は強力な反面とても重い。電源を取り付けたら一気に重量が増してしまった。

 なお、このケースは電源の取り付け向きを選べるようになっている。最近主流の底面ファンタイプの電源(Liberty 400Wもこのタイプだ)の場合、CPUのヒートシンクがパッシブタイプであればファンを内向きに、アクティブヒートシンクであればファンを外向きにすること(電源ユニットのファンをケース内部の冷却に用いない)をケースメーカーが推奨しているため、これに従った。この状態でしばらく運用してみて、内部があまり熱くなるようなら、何か手段を考えようと思っている。

 HDDは、2.5インチの東芝「MK3265GSX」にした。容量やバイト単価より、熱を優先してみた結果だ。このケースには、3.5インチドライブと2.5インチドライブのどちらか、あるいは両方をケースの底面にインストールするのだが、2.5インチドライブは底板に直接ネジ止めする形となる。これに対して3.5インチドライブは、付属のネジで防振・防音用と思われるゴムブッシュを介して、底面のレールに取り付ける形だ。あまりに待遇が違う? ので、市販のマウントアダプタを購入して、このアダプタ経由で2.5インチドライブを3.5インチドライブ用のレールに取り付けることにした。このマウントアダプタは3.5インチベイに2台の2.5インチドライブを取り付け可能だから、その気になればRAID 1を構成することもできる。その方が、RAIDをサポートしたH57チップセットのメンツも立つ気がするのだが、なぜこの小さなマザーボードに、IntelがわざわざH57チップセットを選んだのかは良く分からない。ホームサーバー用途でも考えたのだろうか。

今回用いたケースはPC-Q07。余計な飾りのないシンプルな外観が特徴だ。今回は2.5インチHDDの取り付けに、市販の2.5インチ-3.5インチ変換マウンタ(マウントアダプタ)を用いた(参考までに写真では2台の2.5インチHDDを取り付けてある)
すべてを組み付けたPC-Q07。さすがに内部は手狭だが、電源ユニットを外すことができるため、見た目よりはメインテナンス性は良い。マウントアダプタに載せた2.5インチHDDをゴムブッシュを介して底面のレールに取り付けた。

●性能、温度は問題なし

 実際に組み上げてみたが、さすがに内部は狭い。しかし、電源を外に抜ける構造になっているので、思ったより作業性、メインテナンス性は悪くない。が、ケーブル脱着式の電源ユニットでないと、ケーブルの収納がかなり大変なのではないかと思われる。戸惑ったのは、前面パネルに用意されているUSBポートが、上下逆になっていたことくらいだ(筆者の個体だけ?)。余計なものがついておらず、シンプルな外観で、筆者的にはなかなか満足している。

 せっかく組んだのだから、とりあえずベンチマークテストも実施してみた。実施したのは、以前、Clarkdaleを紹介した時と同じ。今回とはマザーボード違いということいなる。マザーボードベンダが同じ(Intel)で、チップセットによる違いもほとんどないと考えられるから、ほぼ同じような結果となるハズだが、HDDが2.5インチ(5,400rpm)になっている分だけ、3.5インチ(7,200rpm)ドライブを用いた前回の方が有利になる。

 表2に示したように、結果はまさにその通り。HDDが関連するテスト項目を除くと、ほかはほぼすべて誤差の範囲というところだ。マザーボードが小さいからといって、性能面でのハンデはない。

表2:ベンチマーク結果
CPUCore i5-661Core i5-661
MotherboardDH57JGDH55TC
メモリ4GB DDR3-13334GB DDR3-1333
HDDMK3265GSX 320GBBarracuda 7200.12 320GB
CrystalMark 2004R3
Mark141661144420
ALU4274942812
FPU4457541859
MEM3120831072
HDD630411472
GDI1176112132
D2D21662188
OGL28982885
PCMark05 v120
PCMark76418104
CPU94629382
Memory77527749
Graphics38583865
HDD40587077
PCMarkVantage 1,024×768
PCMark63507140
Memories34954007
TV and Movies40564582
Gaming37604092
Music53816600
Communications977110353
Productivity49345535
HDD28834457
3DMark 06 v110
3DMark Score20282032
3DMark Vantage
[Performance] Score456460
GPU SCORE346349
CPU SCORE94209290
[Entry] Score53185362
GPU SCORE46494692
CPU SCORE93669381
CINEBENCH R10
OpenGL Standard25882573
1 CPU Rendering39283935
4 CPU Rendering90678832
FF Bench3
Low52085228
High37313606

 言うまでもなくベンチマークテストというのはシステムに負荷をかけるもの。そこで終了直後の温度を、Intel Desktop Utilities(Intel製マザーボード用のユーティリティ)で読み出してみた。起動直後の温度と比較したものを表3にまとめたが、筐体が小さい割にはそれなりの数値だと思う。これが夏場にどこまで上がるか、ということだが、空調の入った部屋なら大きな問題にはならないのではないかと思っている。

表3:ベンチマークテスト直後の各部温度(Intel Desktop Utilitiesによる読み出し値)
 起動直後ベンチマーク完了直後
プロセッサ32℃55℃
PCH(チップセット)59℃64℃
レギュレータ41℃57℃
メモリDIMM25℃39℃

 というわけで、筆者の手元にはDH57JGを用いた小型のシステムが1台できあがったが、まだ用途は決めていない。外付けのチューナで地デジ録画マシンにするか、などと思案中である。DH57JGは、Mini-ITXの小さなマザーボードでありながら、ディスプレイのデジタル出力が可能なことに加え、PCI Express x16スロットを備えるため、非常に汎用性が高くなっている。小さいケースに組み付けるのは、手順を間違わないようにする必要があるが、小さくてもそれなりに処理能力を持つマシンが欲しいユーザーには注目すべきマザーボードだ。