■平澤寿康の周辺機器レビュー■
データロボティクスは、独自のディスクアレイシステム「BeyondRAID」を採用する外付けのストレージボックス「Drobo」シリーズを、日本でも本格的に発売した。Droboシリーズは、一般的なRAID対応ストレージボックスの不便さを解消するさまざまな特徴がある。今回、Droboシリーズの中で、USB/eSATA/IEEE 1394接続に対応した「Drobo S」と、LAN接続に対応した「Drobo FS」の2モデルを試用する機会を得たので、それぞれの仕様や、BeyondRAIDでできることなどを詳しく見ていこう。
●異なる容量のHDDの組み合わせやHDDの追加も自由自在まずはじめに、Droboシリーズの最大の特徴である、独自のディスクアレイシステム「BeyondRAID」について説明しよう。
RAIDは、複数のHDDを、あたかも1つのHDDのように扱うための技術だ。複数のHDDにデータを分散保存し、並列アクセスすることで転送速度を高速化する「RAID 0」、2つのHDDに同じデータを保存し、データの冗長性を高める「RAID 1」、3台以上のHDDにデータとパリティデータを分散保存することで、アクセス速度と冗長性双方を高める「RAID 5」などがおなじみだ。BeyondRAIDも、この基本的なRAIDシステムを踏襲してはいるが、決定的な違いがある。それは、利用するHDDの自由度の高さだ。
BeyondRAIDでは、利用するHDDの種類や容量にほとんど制約がなく、RAIDアレイ構築後もHDDを増設して容量を増やしたり、利用中のHDDを交換するといったことが簡単にできるようになっている。
利用するHDDの容量に制約がないという点では、一般的なRAIDでも同様のものがある。例えば、500GBと1TBのHDDを利用して、RAID 0やRAID 1アレイを構築し利用することは、一般的なRAIDでも問題なく行なえる。また、RAID 1やRAID 5など、冗長性のあるRAIDアレイ構築時に限られるが、低容量のHDDを大容量のHDDに交換することも可能だ。しかし、低容量のHDDを大容量のHDDに交換したとしても、利用できる容量が増えることはなく、最初に構築したRAIDアレイが復活するだけだ。
また、異なる容量のHDDでRAIDアレイを構築した後に、HDDを追加して容量を増やしたいと思っても、一般的なRAIDでは、一度RAIDアレイを削除し、用意したHDDを追加した上で新たにRAIDアレイを構築し直さなければならない。当然もとのRAIDアレイで保存していたデータは全て消えてしまう。
それに対しBeyondRAIDでは、独自の技術によって、保存しているデータを保持したまま、利用中のHDDを大容量HDDに交換したり、HDDを追加して全体の容量を増やすことが可能となっている。
例えば、Droboに500GBと1TBのHDDを取り付けると、500GBのRAID 1相当のアレイが構築され、500GBの容量が利用可能となるが、利用中に500GBのHDDを1TBのHDDに交換すると、データを保持したまま、利用できる容量が1TBに増量される。
また、HDDを2台搭載しているときにはRAID 1相当のアレイが構築されるが、HDDを3台以上に増やした場合には、自動的にRAID 5相当のアレイへと変換される。例えば、500GBと1TBのHDDを利用中に1TBのHDDを追加した場合には、自動的にRAIDアレイがRAID 1相当からRAID 5相当に拡張され、利用できる容量も1.5TBに増量される。さらにその後、500GBのHDDを1TBのHDDに交換すると、容量2TBのRAID 5相当アレイになる。
異なる容量のHDDを取り付けた場合に利用できる容量は、一般的なRAID同様、最低容量のHDDが基準となり、その最低容量×台数分となる。例えば、320GB、1GBの2台のHDDを利用すると、320GBのRAID 1相当アレイが構築される。また、320GB、1TB、2TBの3台のHDDを利用している場合には、320×3の960GBのRAID 5相当アレイが構築されることになる。ただ、実際に320GBと1TB、2TBのHDDを取り付けたところ、データ領域は1.13TBとなったため、組み合わせによっては最低容量×台数分よりも若干多い容量が利用できるようだ。
HDDを3台以上取り付けている場合には、RAID 6相当のアレイを構築することも可能だ。ただ、この場合だけは、専用ツール上でRAID 5相当からの変換を指示する必要がある。とはいえ、その場合でもチェックボックスにチェックを入れるだけでよく、その先の作業は自動的に行なわれる。ちなみにDroboでは、RAID 1相当およびRAID 5相当のアレイは、HDDが1台失われてもデータが保持されるという意味で「シングル」、RAID 6相当のアレイは、HDDが同時に2台失われてもデータが保持されるという意味で「デュアル」と呼ばれている。
●コンパクトボディでHDDを5台搭載可能
では、今回試用した「Drobo S」と「Drobo FS」の仕様を見ていこう。
Drobo SとDrobo FSは、どちらもHDDを5台内蔵できるストレージボックスだ。しかし、本体は非常にコンパクトだ。本体サイズは、双方とも150.3×262.3×185.4mm(幅×奥行き×高さ)。これは、4台内蔵できる家庭向けNASボックスなどとほぼ同等で、このサイズに5台搭載できるというのはかなり驚きだ。
本体前面のカバーを取ると、3.5インチHDDを取り付けるHDDベイが5基現れる。もちろん、全てのベイがホットスワップに対応しており、HDDの増設や交換などは電源が入った状態で行なうことができる。搭載可能なHDDはSATA仕様の3.5インチHDD。手前からHDDを差し込むように挿入し、取り付ける。HDDをロックする鍵などはなく、いつでも簡単に着脱可能。そのため、基本的には家庭用という位置づけが強い製品と言っていいだろう。
背面には、電源スイッチと電源コネクタ、接続インターフェイスを備える。また、12cmの排気ファンが取り付けられている。
Drobo SとDrobo FSの違いは、背面に用意されている接続インターフェイスのみとなっている。Drobo Sは、USB 2.0とeSATAが1ポートずつと、Firewire 800(IEEE 1394b)を2ポート備える。Drobo FSは、Gigabit Ethernetポートを1ポート備えている。つまり、Drobo SはPCの外付けストレージとして、Drobo FSはNAS相当として利用する製品となる。なお、双方とも基本的に本体のみの販売となり、HDDは別途用意する必要がある。
利用に際しては、PCに「Drobo Dashboard」と呼ばれるツールをインストールすることになる。これは、Droboシリーズを一括して管理するツールで、接続されているDroboシリーズの状態チェックや各種設定が行なえる。例えば、取り付けられているHDDの容量や共有領域のサイズ、保存データ量や空き容量などをグラフィカルに表示できる。また、Drobo Sを接続している場合には、領域のフォーマットやボリュームラベルの変更、Drobo FSを接続している場合には、ユーザー登録やアクセス制限などの設定が行なえる。
●HDDの増設は簡単かつ高速
先に、本体の電源が入ったままでHDDの取り付けや交換が行なえるとともに、取り付けるHDDの容量や台数に応じて自動的にRAIDアレイが構築される、というDroboの特徴を紹介したが、そこにはもう1つ大きな特徴がある。それは、HDDを増設したり交換した場合の処理が非常に高速というものだ。
一般的なRAID対応NASでHDDを交換する場合、交換後のリビルド処理にかなりの時間がかかる場合が多い。中には、容量1TBのHDDを交換すると、1日近くかかる製品もある。これは、全搭載HDDの内容を確認しつつ、パリティデータを作り直し、新HDDにデータをコピーするためだ。また、RAID 1やRAID 5では、同時に2台のHDDに障害が発生すると冗長性を確保できないため、もしリビルド中に他のHDDに障害が発生した場合、保存データが失われてしまう。リビルド時間が長ければ長いほど、冗長性が失われる。
それに対しDroboでは、搭載HDDごとの保存データを常に把握する独特の仕様を実現している。そのためHDD交換時には、交換前のHDDに保存されていたデータだけコピーする処理を行なう仕組みで、リビルド処理が短時間で終了する。
実際に、Droboに320GB×1台、1TB×1台、2TB×2台の計4台を搭載し、RAID 5相当で利用し、確保されている共有領域に約355GBのデータを保存している状態で、320GBのHDDを2TBのHDDに交換してみたところ、リビルド作業にかかった時間はわずか1時間48分であった。
また、ほとんどデータが保存されていない場合には、まさに一瞬で作業が完了する。上記の構成で、使用容量が約66GBの状態でHDDを交換すると、リビルドは約14分で終了。そして、320GB×1台、1TB×1台の2台で運用し、約66GBのデータを保存しているところに、2TBのHDDを追加してみたところ、追加作業はわずか45秒で終了した。この場合にはRAID 1相当からRAID 5相当への変換作業も含まれているわけだから驚きだ。
もちろん、保存データ量が多ければ、リビルドにかかる時間も延びることになるが、それでも一般的なRAID対応NASよりも、はるかに短時間で作業が終了することは間違いない。
しかも、HDDを交換したり追加する場合に、ユーザーは特別な設定作業を行なう必要が全くないという点も嬉しい。交換する場合には、稼働するDroboからHDDを抜き取り、新しいHDDを取り付けるだけだ。また、HDDを追加して容量を増やす場合でも、単に空いているHDDベイにHDDを取り付けるだけだ。後はDroboが自動的にRAIDアレイの再構築を行なってくれる。
HDDの交換や増設により、RAIDアレイのリビルドを行なっている間は、HDDベイ横のLEDがオレンジ色で点滅。全ての作業が終わると、LEDが緑色で点灯する。HDDに障害が発生した場合には、HDDベイのLEDが赤で点灯する。つまりユーザーは、PCから確認せずとも、このLEDの色をチェックするだけで障害状況が把握できるわけだ。
このように、RAIDに関する特別な知識がなくとも、誰でも高度な使い方ができるように配慮されている点は、Droboシリーズの最大の特徴と言っていいだろう。
ところで、Droboでは2台以上のHDDを取り付けて利用することが前提とされている。HDDを1台のみ取り付けても動作はするが、2番目のHDDベイのLEDが赤で点灯し、もう1台HDDを搭載するように促される。また、1台目のHDDには、拡張用の予約領域が大きく取られ、非常に少ない容量しか利用できない。もちろん、冗長性も確保されないため、利用時には必ず2台以上のHDDを取り付けて利用しよう。
HDDベイはホットスワップに対応。HDDを交換する場合には、稼働しているDroboから直接HDDを抜き取ればいい | 抜き取ったHDDベイに交換用のHDDを取り付ければ、自動的にリビルドが開始される |
HDDベイ右のLEDがオレンジ色の時はリビルド中を示す | LEDが緑になると作業完了となり、正常な利用可能状態であることを示す |
●Drobo FSでは、アドオンを利用して機能強化が可能
Drobo Sは、USB 2.0またはeSATAでPCと接続して利用するため、一般的な外付けHDDとほぼ同等の感覚で利用できる。それに対しDrobo FSは、LAN接続ということもあり、仕様はNAS相当だ。ただし、標準で用意されている機能は、ファイル共有機能とユーザー管理機能、トラブル発生時のメールアラート送信機能のみと非常にシンプルだ。ユーザー管理では、一般的なNAS同様、ユーザー単位でのアクセス制限の設定が可能。家庭内でファイルサーバーとして利用するだけであれば、この機能のみでも特に問題はないだろう。とはいえ、最近では一般的な家庭用NASでも、FTPやメディアサーバー機能など、多くの機能が盛り込まれており、それらと比較すると機能面がかなり劣ると感じのも事実。
しかし、Drobo FSは、「DroboApps」と呼ばれるアドオンをインストールすることが可能で、さまざまな機能を強化できるようになっており、data roboticsのホームページには、多数のDroboAppsが掲載されている。
現時点で掲載されているDroboAppsには、Webブラウザ経由でDrobo FSの各種設定が行なえる「DroboApps Admin Utility」を始め、FTPサーバー、iTunesサーバー、メディアサーバー、HTTPサーバーなどが掲載されている。これらを導入すれば、一般的なNASと遜色のない機能が実現できるわけだ。しかも、DroboAppsの導入は、ホームページから利用したいDroboAppsをダウンロードし、Drobo FS内のDroboApps専用フォルダにコピーした後に、Drobo FSを再起動するだけ。これで、DroboAppsが利用できるようになる。実際に、いくつかのDroboAppsを導入してみたが、インストール作業は再起動後1~2分程度だった。
これらDroboAppsが初期に導入されていないのは、最低限の機能を誰でも簡単に利用できるようにするための配慮だろう。DroboAppsは、導入は簡単でも、ものによっては、それ以後の設定にある程度高度な知識が必要な場合もある。無闇に多くのな機能を搭載するのではなく、ユーザーが必要な機能を選択し、自由に追加できるという仕様は、ユーザーを混乱させないという意味で好感が持てる。
●速度はやや遅いが、手軽なNAS BOXとしてオススメ
ではデータ転送速度をチェックしていこう。Drobo Sは、テスト用PCとeSATAで接続して検証、Drobo FSは、Gigabit Ethernet対応Hubを介してテスト用PCと接続して検証した。検証用HDDは、Western Digitalの2TB HDD「WD20EARS」を4台用意。速度のチェックには、CrystalDiskMark 3.0を利用し、HDDを2~4台を取り付けた場合と、4台でRAID 6相当時の速度を計測した。また、Drobo FSでは共有フォルダをネットワークドライブに割り当てて計測を行っている。テストPCの環境は下に示す通りだ。
【テストPCの環境】
CPU:Core i5-750
マザーボード:Intel DP55KG
メモリ:PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×2
グラフィックカード:Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk)
HDD:Western Digital WD3200AAKS(OS導入用)
OS:Windows 7 Ultimate
Drobo FS 2TB×2の結果 | Drobo S 2TB×2の結果 |
Drobo FS 2TB×3の結果 | Drobo S 2TB×3の結果 |
Drobo FS 2TB×4の結果 | Drobo S 2TB×4の結果 |
Drobo FS 2TB×4(RAID 6相当)の結果 | Drobo S 2TB×4(RAID 6相当)の結果 |
まず、Drobo Sの結果を見ると、eSATA接続の割にはそれほど高速ではないことがわかる。BeyondRAIDの処理はソフトウェアで行なっているため、書き込み時の速度が遅いのはある程度納得できるが、読み出し時の速度も思ったほど高速ではない点は少々残念。読み出し速度は、HDDが増えるほど遅くなっている。また、RAID 6相当時の速度は、RAID 5総当時よりも遅くなっていることがわかる。書き込み速度は、2台搭載時が最も遅く、3台搭載時が最も高速、4台搭載時のRAID 5相当とRAID 6相当はほぼ同等であった。どうやら、書き込みのオーバーヘッドは、RAID 5やRAID 6相当よりもRAID 1相当のほうが大きいようだ。
次に、Drobo FSの結果だが、こちらは2台搭載時が最も高速で、3~4台搭載時と、4台のRAID 6相当時がほぼ同じ速度という、Drobo Sとは大きく異なる結果であった。基本的な性能は、eSATA接続のDrobo Sよりも低速で、3台以上のHDDを搭載した場合の結果は、Drobo Sよりもかなり遅い。しかし、2台搭載時の書き込み速度は、Drobo Sよりも高速という結果が得られた。これは数回計測し直しても同様だった。Drobo SとDrobo FSでBeyondRAIDの処理方法が異なるとは思えないため、なぜこのような結果が得られたのか謎だ。いずれにせよ、それほど高速というわけではない。
この結果から、Droboシリーズは、データアクセスの高速性、手軽に利用できる点と、データの冗長性を重視した製品と言っていいだろう。家庭用NASには、より高速なデータアクセスが行なえる製品が存在しているし、eSATA接続の外付けHDDボックスでは、HDD本来の速度がほぼ100%引き出せるものがほとんどだ。
しかし、ユーザーが意識せずにRAID環境を利用でき、異なる容量のHDDの混在利用や、HDDの増設/交換が簡単に行なえる点は、他のHDDボックスやNASにはない大きな優位点だ。また、NAS相当のDrobo FSでは、DroboAppsで自由に機能強化できる点も魅力。速度を重視する用途にはオススメしづらいが、速度よりも扱いやすさや将来のHDD増設による容量増量、保存データの冗長性を重視したい人ならば、満足できる製品と言っていいだろう。
(2010年 10月 26日)