大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Microsoftインタビュー、究極のラップトップと称するSurface Book投入の狙い

米Microsoft Windows&デバイスグループ エグゼティブバイスプレジデントを務めるテリー・マイヤーソン氏

 「Windows 10の提供開始から10週間が経過し、その手応えには満足している」。米Microsoft Windows&デバイスグループ エグゼティブバイスプレジデントのテリー・マイヤーソン氏は、既に1億1,000万台のデバイスで利用されているWindows 10の現状をこう語る。

 10月からはOEMメーカーから数々のWindows 10搭載製品が登場。「Windows 10が新たなフェーズへと突入した」と位置付ける。一方で、注目を集めるSurface Bookについては、「OEMベンダーの製品を補完するプレミアム領域の製品であり、MacBook Proと競合する製品になる」とし、Windows 10のビジネス拡大に貢献するとの見通しを語る。マイヤーソンエグゼティブバイスプレジデントに、Windows 10への取り組みのほか、Surface Book投入の狙い、そして、日本におけるLumia投入の可能性などを聞いた。

――7月29日にWindows 10が提供開始となってから、2カ月半が経過しました。これまでのWindows 10の手応えをどう感じていますか。

マイヤーソン(以下、敬称略) この約10週間は、既存のWindowsユーザーからのアップグレードが中心だったわけですが、この間に1億1,000万台のデバイスにおいて、Windows 10が利用されています。この点では非常に満足しています。また、このうち、ビジネス向けPCでの利用が800万台に達していることについても大変喜んでいます。

 これまでのWindowsのバージョンの中で、最も速く採用が進んでおり、素晴らしい手応えを感じています。また、Windowsストアにも10億回以上のアクセスがありますし、日本では、既にWindows 10の使用時間が延べ32億時間以上に達しています。日本におけるWindows 10の使用率はどの国よりも高くなっているほどです。

 そして、ここに来て、Windows 10を搭載した新たなデバイスが登場し始めました。日本でも東芝を始め、さまざまなメーカーが新たなデバイスを発表し、その中で、Windows HelloやCortanaといった新たな機能に最適化したものが登場しています。Cortanaについては、日本市場への投入に向けて準備が進んでいるところで、まもなく利用していただけるようになります。

 このように、ユーザーにとってもさまざまな選択肢が提供され始めたということは、Windows 10が、新たなフェーズに突入したことを意味します。これまでのWindows 10の利用は、2年前のデバイスで利用するケースが多かったわけですが、それに比べて、高い性能を持ち、より薄く、より軽く、しかもバッテリ持続時間が長いというデバイスの上で、Windows 10が利用できるようになる。新たなデバイスによる体験は、多くのユーザーに感動をもたらすはずです。

――Windows 10の成功は、どこで判断しますか。

マイヤーソン まずは、数百万人のユーザーに使っていただき、喜んでいただくということです。これさえ実現できれば、全ての課題は解決できると考えています。我々はそのために努力をしています。エコシステムからさまざまなデバイスが登場し、さらにSurface Bookのような新たなデバイスも登場します。また、Windows 10の機能を活かしたさまざまなアプリも登場します。Xbox Oneでの「Halo 5: Guardians」も、Windows 10の環境で楽しんでいただける提案の1つです。こうしたさまざまな展開の1つ1つを、うまくやっていくことが成功に繋がります。

――Microsoftでは、2018年にWindows 10の利用台数を10億台にするという目標を掲げていますね。しかし、既存のWindowsユーザーが15億人、Android搭載デバイスが毎年10億台出荷されていることに比較すると目標値が低いように感じますが。

マイヤーソン Windows 10によって提供される一貫したプラットフォームと体験が、10億台のデバイスにおいて展開されるというのは、我々にとって大きな目標であり、業界にも大きなインパクトを与えると思っています。最新の機能を持ち、セキュアな環境を維持し、そして、開発者にとっても魅力的なプラットフォームが10億台という規模で誕生することになります。

 Androidが年間10億台も出荷されているかどうかはともかく、さまざまなバージョンが存在するAndroidにおいては、その環境が最新の状態に保たれているとは言えませんし、セキュアな環境が実現されているかどうかも疑問です。我々が、10億台というゴールを設定したのは、エコシステムに対するモチベーションを加速するといった狙いがあります。Windows 10を満足して利用していただいている人たちが10億人いれば、エコシステムにとっても、高いモチベーションを提供できます。もちろん、10億台で終わりというわけではなく、20億台、30億台という数字に拡大していければ、それは私にとっても大変うれしいことです。

――10月に入って、デバイスメーカーからWindows 10搭載デバイスが相次いで発表されています。マイヤーソンさんも、それらの発表に合わせて、世界各国を回っていますね。HPがバルセロナで製品発表したのを皮切りに、デルがニューヨークで、ASUSがサンフランシスコで、Acerが台北で、そして、東芝が東京で製品を発表しました。今後、レノボがサンフランシスコでの発表を予定しています。この多くにマイヤーソンさん自身が出席しています。実際、会見に出席して、こうした新たなデバイスを見て、どう評価していますか。

マイヤーソン パートナーから登場する製品は、製品そのものにイノベーションがあり、さらに製品のダイバーシティ(多様性)を実現するものです。そして、デバイスパートナーとのコラボレーションによって、Windows 10のモメンタムを作り上げることができると考えています。

 それぞれのデバイスパートナーが、ユニークなスキルやアイデアを、新たなデバイスの中に表現しています。東京での東芝の発表会に出席して感動したのは、dynaPadを「紙1枚」に例えて表現していたことです。私は、今回の東芝の新製品について、自分のブログの中でも紹介していたのですが、そこにスペック中心で記述したことを反省しました。すぐにブログを書き替えたい気分になりましたよ(笑)。

dynaPad N72を手に持つマイヤーソン氏と、東芝パーソナル&クライアントソリューション社 統括技師長の柏木和彦氏

 1枚の紙という観点から、Windows 10の魅力を表現するデバイスは、東芝ならではものです。紙に書くのと同じサイズ感や、ペンの書き心地、そして、それを実現するための数々のアプリは、東芝がこだわった「紙1枚」をまさに表現していました。これこそがイノベーションであり、デバイスのダイバーシティを実現したと考えています。東芝に、Windows 10のデバイスを投入していただいたことを大変誇りに思います。

 また、サンフランシスコで行なわれたASUSの会見では、水冷式のゲーミングマシンが投入され、新たな世界を提案しました。これもWindows 10によるイノベーションであり、ダイバーシティだと言えます。

――今年(2015年)6月に、マイヤーソンさんが率いる形で、Windows&デバイスグループが誕生し、OSであるWindows 10と、SurfaceやLumia、HoloLensといったハードウェアが1つの組織として事業展開することになりました。このメリットはどんなところに生まれていますか。

マイヤーソン この組織は、我々が戦略を実行する上で重要な役割を担います。デバイスおよびWindowsのエコシステムの拡大を、1つの組織から展開できる点は大きなメリットです。もはやWindows単体でのビジネスや、デバイス単体でのビジネスはありえません。10億人というWindows 10ユーザーの獲得に向けて、OS、デバイス、エコシステムが一緒になって取り組んでいくというのが、Windowsのビジネススタイルとなります。

 また、その中で、HoloLensといった新たなデバイスを提供することで、開発者にとっても新たな挑戦の場が提供されることになります。Surface Bookといった、これまでのエコシステムにはない製品を投入するといったことにも取り組んでいきます。この組織になって、最大の変化は、デバイスの部分に見られたと言えます。

 新たな組織が発足した直後に、スマートフォンであるLumiaの部門はリストラを行ないましたが、その一方で、Microsoftのデバイスファミリーのデザインを、1人の人間に集約し、それぞれのデバイス部門では、製品開発へと集中することができる体制を構築しました。Microsoftのデバイスファミリーの戦略は何かということを改めて定義し、それが、今後の製品の中に生きていくことになります。

――Microsoftは、10月6日に、Surface Bookを発表しました。この製品の狙いはなんですか。

マイヤーソン Microsoftが過去に投入してきたハードウェアは、これまで以上にWindowsの市場を広げるという狙いがあります。Surface Bookもその姿勢は同じです。多くのユーザーの声を聞く中で、こうした領域の製品が欲しいという要望に対応したものです。Surface Bookは、パワーがあるラップトップとして、また、GPUの搭載による高性能化を実現し、さらに、取り外しが可能なデザインを採用しています。

 もちろん、こうした性能を実現した製品は、ほかにもあるでしょうが、その場合には1,500ドル以上の価格となっています。そして、その領域は、全体から見れば、わずか1%の市場でしかありません。そのために、この領域の製品が欲しいということになると、多くの人がMacBook Proを選択することになります。我々がSurface Bookによって狙ったのは究極のラップトップの実現です。13.5型の大画面を実現しながら、1,499ドルから購入できますし、オプションとしてGDDR5メモリを実装したディスクリートGPUを搭載することもできます。

――日本には数多くのOEMベンダーが存在します。Surface Bookは、それらのベンダーの製品と競合するのではないですか。

マイヤーソン 私は、むしろOEMベンダーの製品を補完するものだと考えています。Surface Bookは、プレミアム領域の製品であり、MacBook Proと競合する製品だと言えます。ただ、誤解しないでいただきたいのは、MacBook Proと競合させるために開発した製品ではないということです。Windows 10搭載のラップトップとして究極の製品を作り上げたいという考えから生まれたものです。Surface Bookによって、Windows 10の世界を広げることができると考えています。

――米国では10月7日から予約を開始していますが、手応えはどうですか。

マイヤーソン 最上位のSurface Bookは既に売り切れました。非常にいい滑り出しですね。

――ところで、日本におけるLumiaの投入はどうなりますか。

マイヤーソン 今のところ、日本でのLumiaの市場投入の計画は具体的にはありません。

――最後に、PC Watchの読者にメッセージをいただけますか。

マイヤーソン PC Watchの読者には古くからWindowsを活用しているユーザーが多いと聞いています。ぜひ、Windows Insider Programに参加していただき、我々と情報を共有していただき、さらに皆さんからもさまざまな意見をいただきたいと考えています。PC Watchの読者の方々には、ぜひ製品開発のプロセスに参加していただきたいですね。

――ちなみに、今日はスーツ姿ですね。マイヤーソンさんのスーツ姿は初めて見ました。

マイヤーソン このインタビューの前に、東芝の記者会見に出席したものですから。確かに私がスーツとネクタイをするのは珍しいですね。ちゃんとスーツが身体にあったので安心しましたよ(笑)。

(大河原 克行)