■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
富士通は9日、FMVシリーズの新製品として、3Dパソコン「ESPRIMO FHシリーズ FH550/3AM」を発表した。発売日は6月17日。3Dパソコンの発表ではNECが先行したが、NECの製品出荷が6月下旬であるため、国内PCメーカーとしては、富士通が最初の発売ということになる。
富士通の齋藤邦彰氏 |
同社執行役員パーソナルビジネス本部長・齋藤邦彰氏は、「富士通のPC事業のこれまでの流れを見れば、3Dへの対応は、まさに必然」と、今回の製品を位置づける。
齋藤執行役員がそう語る背景には、富士通のPC事業が常にAV機能において、先進的な提案を行なってきたことが挙げられる。
富士通には、マルチメディアパソコンの名称で、CD-ROMドライブを世界で初めて搭載した「FM TOWNS」を投入したほか、TVチューナを搭載したTVパソコンの発売にもいち早く乗り出し、この分野で市場をリードしてきた経緯がある。最近では、地デジチューナ搭載LSIを独自に開発し、これを同社PCに搭載。技術的優位性を発揮して、地デジチューナ搭載PCではトップシェアを誇る。
「富士通のPCにとって、AVは外せないキーワード。その延長線上にあるのが、さらにリアリティを追求する3D。TVが3D化したからという流れではなく、PCならではの3Dの活用法とはなにか。そこにフォーカスしたのが、富士通の3Dパソコンになる」と語る。
富士通が今回の製品に込めたコンセプトは、齋藤執行役員が語る「PCにしかできない3D」と言える。
「単に3Dの映像を視聴するだけでなく、2Dから3Dへの変換機能を搭載したり、内蔵した3Dカメラによって撮影したりといった使い方を提案した。これは、コンシューマエレトロニクス機器が持つパワーでは実現が難しい。PCのCPUが持つパワーだからこそ実現できるものである」と続ける。ここに、「PCでしかできない3D」の意味がある。
齋藤執行役員は、「PCという素材を使って、3Dによって、どれだけワクワク感を実現できるかを具現化したもの」と、今回の製品を位置づける。
ESPRIMO FH550/3AMでは、ディスプレイ上部に3D画像を撮影するための3D-WEBカメラを配置した。NECが発表した3Dパソコンでは、「日本のPCユーザーは、PCに内蔵したカメラをあまり利用することがない」という理由から搭載しなかったのとは対照的だ。
ESPRIMO FH550/3AM | ディスプレイ上部に3D対応カメラを内蔵 |
「富士通は、これまで、TVに対して、『見る、録る、残す』というメッセージを使い、PCでAV機能を活用する楽しみを提案してきた。今回の3Dパソコンでは、『見る、変換する、作成する』という観点から、TVにはできない、PCならではの機能として、3D-WEBカメラを搭載した。3D-WEBカメラの搭載は、企画の初期段階から決定していたものであり、これも、PCだったらなにができるかの回答の1つ」とする。
「見る」では、BD 3Dの再生に対応し、自宅でBDによる3Dを楽しめる。「変換」では、2D映像をリアルタイムで3D映像に変換して再生し、DVDによる映画コンテンツなど、既存の2Dコンテンツも立体的に楽しめるようにしている。そして、「作成」では、本体上部に内蔵した3D-WEBカメラによって、3D映像を撮影して、オリジナルの3D写真や、3Dムービーを楽しむことができるようにした。撮影した映像や写真はDVDやBDに保存して、3Dビデオレターと配布し、別の3Dパソコンで再生することができる。
視聴、変換、作成の3つの機能から、同社ではこれを「トリプル3D」と表現。同社の3Dパソコンのコンセプトとして訴求する。
富士通が発表したESPRIMO FH550/3AMでは、円偏光方式を採用している。「さまざまな方式が林立するなかで、どの方式がPCに適しているのか。性能、コスト、手軽さなど、いい点、悪い点のトレードオフを考慮した結果、トータルシステムとして納得していただけるものとして、円偏光方式を採用した」
方式決定を左右したのは、富士通が持つ「お客様起点」の発想だ。「PCで最も気軽に3Dを楽しめる方式はなにか。裸眼というのが最終的な回答にはなるだろうが、一定の画質水準を維持しながら、3Dを実現し、しかも手軽に3Dを楽しめる方式として選択した場合、いまは円偏光方式が最適になる」とする。
3Dは円偏光方式を採用 |
また、コストという観点からも、偏光板方式は最適であるという。ESPRIMO FH550/3AMは、市場想定価格として20万円を切る価格が見込まれている。「まずは3Dを体験してもらいたい。そのためには、普及することを前提とした価格設定が必要」とするように、3D視聴用メガネが4,000円を切る価格で提供できる点も魅力だった。ちなみに、ESPRIMO FH550/3AMには、3D視聴用メガネが1個が標準添付されている。
一方、最上位となるDHシリーズ(旧CEシリーズ)に3Dモデルを投入するのではなく、普及モデルとなるFHシリーズに設定したのも戦略的だ。人気を誇る一体型PCのFHシリーズの主力となる20型ディスプレイ搭載モデルに、3Dモデルを用意。同社が3Dパソコンの普及戦略を、かなり高い優先度に位置づけていることの証である。
「社内には、『どこよりも早く』ということを言ってきた。この言葉の意味は、どこよりも早く3D機能を搭載するということや、どこよりも早く製品を発表するといったことよりも、どこよりも早く普及させたい、という狙いの方が大きい。ショーケースのようなモデルとしては出したくなかった」とする。
富士通がESPRIMO FHシリーズで狙っているのは、個室のTVの置き換えでもある。「20型は個室に普及しているTVのサイズと同じ。個室におけるTVとしての利用に加えて、3Dパソコンとしても利用できる提案を行なっていく。ノートPCで3Dパソコンを投入しないのかともいわれるが、ノートPCで主流となる15.6型ディスプレイでは、TVとして使用したり、3Dコンテンツを視聴するには画面がやや小さい。20型というサイズで提供するためにはデスクトップが最適と判断した」と語る。
発売前の量販店からの反応は上々だ。「予想を上回る反応がある。3Dパソコンは、一気に構成比が高まるかもしれない」と齋藤執行役員は発売前の反応に自信を見せる。
富士通では、2010年夏モデルから、国内向けデスクトップPCのブランドであるDESKPOWERを、世界ブランドであるESPRIMOへと一本化する。日本でコンシューマ向けPCとして、ESPRIMOのブランドが使われるのは、今回の夏モデルが初めて。その大きな節目の第1号製品の1つとして、3Dパソコンが発売されることになる。
その点でも、富士通の3Dパソコンは、同社PCの変化の節目にふさわしい新たな戦略製品だといえよう。