大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Alienware CEOに聞く、デルとの統合と、これからの戦略
~PCゲーマーが「侍」ならば、AlienwareのPCは「刀」



 2009年6月に、デルが、プレミアム・ゲーミング・ブランド「Alienware(エイリアンウェア)」を、国内市場に投入してから約9カ月が経過した。一部量販店では、製品展示を行なうなど、実際に製品に触れることができる場が増加。ゲームユーザーを中心に、日本における存在感を着実に高めている。

 Alienwareは、'96年に、米フロリダでハイエンドゲーミングPC専業メーカーとして創業。それ以来、PCゲーマーに人気を誇るブランドとして注目を集め続けている。2006年にデルが買収して以降も、ブランド、製品開発、デザインは、デルとは切り離した形で行なわれ、その独自性を保ってきた。改めて、Alienwareの取り組みについて、米AlienwareのCEOであるArthur R Lewis, Jr(アーサー・ルイス)氏に話を聞いた(以下、敬称略)。


--Alienwareは、2009年6月に日本に上陸しました。日本市場、そしてアジア市場をどう捉えていますか。

Alienware CEOのアーサー・ルイス氏

【ルイス】Alienwareは、2009年6月から、戦略的にターゲット市場を拡大してきました。1年前には4カ国、6言語しか対応していなかったものを、現在では、75の国と地域、17言語に対応を広げ、グローバルに展開をし始めました。なかでも、アジア市場は、全世界のゲーマーの50%がいると言われている市場です。アジアにはもっともっと力を入れていく必要がある。日本のほか、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどを含めたアジア太平洋地域で、PCゲーミングマシンとしてのAlienwareの存在感をさらに高めることが大切だと考えています。

 日本のゲーム市場は、ゲーム専用機が強い市場ですが、PCゲーミングの市場がないわけではない。むしろ、拡大の機会があると考えています。そのためには、ゲーム専用機を使っているハードコアなゲームユーザーに、PCゲーミングの良さを認識してもらう必要がある。ただ、これを浸透させるにはかなりの時間を要するだろうということは覚悟しています。3カ月、6カ月、1年で、この認識を変えるのは難しいでしょう。だが、日本のゲームユーザーに対して、ゲーム専用機よりも、PCの性能が優れていることを理解してもらうための活動をもっと積極化したい。そのメッセージをきちんと伝えていきたいと考えています。

--基本的な質問ですが、なぜ、Alienwareという名前なのか、そして、なぜエイリアンのロゴなのでしょうか。

【ルイス】創業メンバーは、ゲーム好きであるとともに、「スタートレック」や、「スターウォーズ」などの宇宙戦争ものが大好きなんです(笑)。みんなこうした映画やドラマを見ながら育ってきた。私は、宇宙ものの日本のアニメも好きで、子供の頃は、午前6時30分から放送していた「スター・ブレイザー」(宇宙戦艦ヤマト)を毎朝見てから学校に通っていました。そんなこともあって、創業メンバーは、みんなエイリアン好きでもある(笑)。そこで、エイリアン・ハードウェアというのはどうかという話になり、これを短くしてAlienwareとしたのです。

 それと、エイリアンは、地球外から来たものであり、いまの地球にある技術よりも優れたものを提供するというイメージを作る狙いもありました。他社には存在しないものを提供するという意味もあります。もう1つ付け加えれば、文化、国が変わっても、エイリアンはみんな知っている(笑)。認知度が高い言葉ですから、その観点でもこの名前がいいという話になりました。

エイリアンのロゴマーク

 そして、エイリアンのロゴマークですが、創業者の1人であるネルソン・ゴンザレスが、「目立つものにしたい」、「見てどっきりする、パワフルなものにしたい」ということで、自分でロゴマークを書き始めた。エイリアンといって最初に思い浮かぶのが、「グレイ・エイリアン」。灰色の体で、あごが細くて、目が細くて、体が頭に比べて小さい。書きあがった絵をみて、これで行こうと決めたのです。

--初めは体もあったのですか。

【ルイス】いや、初めから頭だけでした。体が小さくて、手が短いというのはちょっと迫力にかけますからね(笑)。このグレイ・エイリアンの顔は、かつてのデスクトップPCの筐体デザインにも生かされていて、排気口の部分が目の部分に見えるようなデザインもありました。これは米PC World誌で、次代に残るデザイン25のうちの1つにも選ばれています。

--もう1つ、Alienwareには、エイリアンウェア・ランゲージというものがあります。これはどうして生まれたのでしょうか。

【ルイス】'49年に、米国のニューメキシコ州ローズウェルに、エイリアンの宇宙船が不時着し、米国空軍がArea51という基地を作った話をご存じですか。米国連邦政府はその存在を認知していないという基地です。それが、わずか4~5年前に、不時着した宇宙船から回収されたとされるドキュメントが流出した。そこにあったテキストをもとに、私たちが、26文字のアルファベットや数字に、これを当てはめたのがエイリアンウェア・ランゲージです。いまから2年前ぐらいに使いはじめました。これが、少しずつ騒がれるようになり、いまでは、Alienwareの購入者に対して、ネームプレートにエイリアンウェア・ランゲージを使って、名前を表記するというサービスも開始しています。

--2006年にデルが、Alienwareを買収して以降、どんなメリットやデメリットがありましたか。

【ルイス】ご存じのように、デルには、グローバル企業としてのインフラがある。このインフラを活用することができるのは大きなメリットです。例えば、世界展開についても、Alienwareだけでできないこともなかったでしょうが、これだけ効率的には展開できなかった。また、現在のようにラインアップを揃えることができたのも、デルが持つエンジニアリングの力を使うことができたことが大きい。こうしたスケールを生かせるというメリットは大きいですね。

 一方で、懸念されたのは、会社が大きくなると、意思決定プロセスに時間を要するという課題です。また、もう1つ、社内ではこんな比喩もありました。大企業であるデルを大きな熊とすれば、Alienwareは小ウサギです。熊が小ウサギはかわいがるばかりに、小ウサギは疲れてしまって死んでしまうのではないかと(笑)。しかし、それらの懸念はすぐに解消されました。CEOのマイケル・デルをはじめとする経営トップが、Alienwareがいかに特別な製品、組織であるかという認識を持ち、それを社内に徹底したことが大きかったからです。Alienwareは、自分たちのやるべきことは分かっている。だからその通りにやってほしい。逆に、デルに対してロードマップを示してほしい。我々が何ができるのかを考えていこうというプロセスが取られたからです。Alienwareのマイアミの建物は、Alienwareのロゴが入った看板が掲げられています。デルに買収されてから、その看板をDELLに変えた方がいいのではないかといった人がいました。しかし、マイケル・デルはそれは違うといった。ですから、いまでもマイアミのAlienwareのオフィスは、Alienwareのロゴだけです。

--Alienwareの製品にも、DELLのブランドロゴは入っていませんね

【ルイス】Alienwareはあくまでも独立したブランドであると位置づけられているからです。もし、デルというブランドがここに入ってきたら、コンシューマユーザーに対するメッセージそのものがブレてしまう可能性もあります。

--Alienwareチームから、デルのブランドをつけて欲しくないといったのですか。

【ルイス】いいえ、Alienwareのブランドだけでいくというのは、双方が合意する形で進みました。むしろ、それが自然の流れでした。

--デルには、XPSというゲーミングブランドがありました。これとの融合に当たってはどんなことがありましたか。

【ルイス】私自身、XPSは強いブランドだと思っていました。しかし、XPSシリーズのターゲットの広がりとともに、ハイエンドゲーミング分野はそのなかの1つの領域となり、さらに、Alienwareの買収によって、ゲーミングPCの領域は、Alienwareに移行していくという流れができてきました。同時に、XPSのゲーミングPCを担当していたエンジニアリングチームは、Alienwareとチームを一体化し、冒頭にお話ししたデルのエンジニアリングを生かすことにもつながった。ゲーミングPCの世界における上位2社が1つのチームになったわけですから、強くなるのは当然です。

 また、私自身も、約1年に渡って、XPSブランドのゲーミングPCの担当も兼ねていましたから、その点でも融合しやすかったといえます。これは、Alienwareからデル製品へのノウハウの反映という点でも効果が出ています。Alienwareが持つデザインの手法であるとか、パフォーマンスを最大限に高めるノウハウは、他社の追随を許さないものがあります。例えば、Alienwareが持つハイパフォーマンスリキッドクーリングは、過去10年に渡って蓄積してきた技術であり、Alienwareのすべてのデスクトップに搭載している。この技術を、デルのその他の製品にも生かすことになる。こうしたAlienwareならではの先進技術を活用する例は、これからもっと増えていくことになるでしょう。

Alienwareのデスクトップとノート

--なぜ、Alienwareからはユニークな製品が登場するのでしょうか。

【ルイス】私や、ネルソンは、みんな子供の頃からゲームが大好きです。ゲーム専用機もPCゲームも、Appleのゲームも経験してきた。第1世代のゲーミングユーザーではないかと思っています。その長年の経験のなかで培ったノウハウをもとに、「クール」な製品を作りたいと思ってきた。Alienwareが目指してきたのは、「デザイン」、「パフォーマンス」、「イノベーション」という3点です。この3つの要素を連結させた製品を開発することを常に考え、いつもユニークなものを作っていくことばかりを考えています。

 もしも、AlienwareのノートPCを、多くの人がいるところで使っていたら、筐体の明かりを見て、きっとなんだろうと思ってもらえるでしょう。キーボードを見ただけでも、これはなんだろうと興味をもってもらえる。そして、外から見ていて格好いいと思ってもらえるはずです。さらに、AlienwareのPCを使ってもらったら、他の製品に比べてパフォーマンスがスゴイということも感じてもらえる。競合他社の多くは、筐体のなかの機能にこだわっているが、外側へのこだわりができていないものが多い。ユーザーにとっては、中身も外見も優れた製品であることが大切なんです。

--最後に、日本のユーザーに対してメッセージをお願いします。

【ルイス】私たちがお伝えしたいのは、PCこそが、ゲーミングプラットフォームとして優れているということであり、これをぜひ実感してほしいということです。日本にはまだまだこれを実感している人が少ない。そのなかで、Alienwareは、PCゲームプラットフォームにおいて、最も優れた、卓越した製品を提供することができる。Alienwareは、テクノロジにおいて、またデザインにおいて、常にベストなものを提供するために、できる限りの努力を尽くしている。もし、ゲーミングPCとしてベストなものを求めるのではあれば、Alienwareを選んでもらえばいい。しかも、これを最適な価格で提供します。

 まずは、具体的な販売目標よりも、ブランドとしての存在感を出すことを優先的に考えていきたいと思います。まだ、日本人の多くは、Alienwareというブランドを聞いたことがないという状況でしょう。デザイン、パフォーマンスを体感してもらって、魅力あるものだというのをわかってもらいたい。例えば、PCそのものを購入する段階には至らなくても、Alienwareの帽子やTシャツを着る人が増えたり、あるいはAlienwareのマウスだけを購入し、「次は絶対にAlienwareを買いたい」と考えてもらえるような状況を作りたいんです。これを、できれば今後1年の間に作っていきたい。

 Alienwareの現行ラインアップは、設計段階であれを入れたい、これを入れたいと思っていたものをすべて入れることができた。正直なところ、パフォーマンス、機能、プライスを含めて、目標を実現できるのかどうか不安でした(笑)。だが、エンジニアたちがよくやってくれた。考えても見てください。「日本刀」は、同じ素材を使っていても、混合比率や、熱の温度、タイミングによって出来映えはまったく違うものができてくる。これと同じで、Alienwareのエンジニアも、どうすればパワフルで、優れたものが作れるのかがわかっている。もともと別々だったAlienwareとXPSのエンジニアリングチームが1つになることで、さらに筋力が強化された。PCゲーマーは「侍」だとすると、AlienwareのPCは「刀」である。我々、これからもPCゲーマーのためのすばらしい「カタナ」を作り続けますよ。