大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

【新春恒例企画】2016年は「Surface」が業界に激震を起こす?!

 2015年は、IT/エレクトロニクス産業は厳しい1年だった。

 国内PC市場は低迷傾向から抜け出せず、家電の王様と言われるTVも2012年度以降、低空飛行を続けたまま。そして、東芝、富士通がPC事業の分社化を発表。今後、他社との事業再編を視野に入れていることも明言するなど、国内PCメーカーは崖っぷちとも言える状況にある。過去のNEC、VAIOといった国内PCメーカーの再編に続き、東芝、富士通といった、かつての上位4社の国内PCメーカーの全てが再編対象になるという危機的状況だ。

 一方で、2015年は、社長交代が相次いだ1年でもあった。日本IBM、富士通に続き、2015年末にはNECも社長交代を発表。日本マイクロソフト、デル、VAIO、NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパン、日本ヒューレット・パッカード、シスコシステムズ、カシオ計算機などが社長交代を行なった。そして、不適切会計処理問題が明るみに出た東芝も社長を交代することになった。こうした世代交代は、企業体質の変化と、新たな経営手法へと転換するには好都合だ。その成果が2016年にどんな形で現れるのかを期待したい。

 とは言え、2016年も、IT/エレクトロニクス業界にとっては、引き続き厳しい1年であることは間違いないだろう。その中で、見え始めているいくつか光明を、カタチにすることができるかが注目される。

 2016年は果たしてどんな動きがみられることになるのか。今回で15年目となる新春恒例企画の言葉遊びを通じて、2016年を占ってみたい。

 今年のキーワードは、ずばり「Surface」だ。それぞれの文字に今年のトレンドが隠れている。

待たれる日本でのSurface Bookの発売

 Surfaceと言えば、当然、最初に浮かぶのが、日本マイクロソフトのSurfaceだろう。

 そのSurfaceは、2016年も台風の目となりそうだ。

 特に、今年早々に日本での発売が予定されている「Surface Book」は関心の的だ。既に北米に続き、オーストラリアでは、米国外初のMicrosoft Storeのオープンに合わせて、特別に販売が開始されているが、これに続き、今年(2016年)からは、日本をはじめとする世界各国での発売が予定されている。Microsoftにとって、もともと高機能モデルの販売比率が高い日本は、Surface Bookの売れ行きが最も期待される市場であり、米本社自らが、日本市場に早く投入したいという意向を持っている。昨年(2015年)の発表時点では、生産量の確保の問題もあり、直前になって、日本での発売が先送りになったという経緯もあるだけに、市場からの期待感はますます高まっている。

 一方で、Surfaceの販売を決定しているDellやHPが、Surfaceのようなキックスタンド型のPCを相次いで発表。今後の棲み分けをどうするのかも注目される。そして、日本のPCメーカー各社が苦戦を続ける中、Surfaceの存在が。各社のPC事業にとって、マイナスになるのか、それとも市場全体を拡大するという点でプラスに働くのかも注視しておきたいところだ。そして、毎年バージョンアップをしているSurfaceが、2016年後半にどんな形に進化するのかも注目したい。

 では、前置きはこれぐらいにして、それぞれの頭文字から、2016年のIT/エレクトロニクス産業を占ってみたい。

日系企業浮上の切り札になるセンサー

 まずは、「Surface」の「S」である。

 Microsoftの話を続けるならば、最初に、2016年4月12日にサポートが終了する「SQL Server 2005」を挙げておきたい。2005年12月に発売になったSQL Server 2005は、5年間のメインストリームサポート、5年間の延長サポート期間を経て、いよいよこの4月にサポート終了を迎えることになる。

 SQL Server 2005は、2015年12月時点で、国内で約12万台が稼働していると推定され、そのうち6割近くを占める約7万台が、会計パッケージソフトなどに組み込まれている無償版のSQL Serverだという。調査によると、サポート終了までに移行を完了すると回答しているユーザーは45%に留まっており、サポート終了以降も半分以上が残る計算だ。

 とは言え、市場の活性化を期待する声はそれほど多くない。2015年7月のWindows Server 2003でも、仮想化やクラウド活用の進展で、国内サーバー市場は思ったほど伸びなかったからだ。SQL Server 2005は、市場活性化の起爆剤にはならないとの見方が支配的だ。

 その一方で明るい兆しの1つとして注目したいのが、「Sensor(センサー)」だ。

 IoTの広がりに合わせて、2020年には500億台ものデバイスがネットワークに接続されるといわれるが、その中で重要な役割を果たすのがセンサーである。そして、センサー市場は日本の電機業界が得意とするところである。

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)によると、センサー市場全体に占める日系企業のシェアは54%。その内訳をみても、イメージセンサーなどの光度センサーのシェアは69%、温度センサーは67%、慣性力センサー(加速度センサー、位置センサー、流量計など)は34%、圧力センサーや気圧センサーでは30%となっている。しかも、この市場は、今後の成長が期待でき、同協会の推計では、2014年には532億個の市場規模であったものが、2025年まで年平均成長率10%増で推移し、2014年の2.9倍となる1,522億個にまで拡大するという。金額ベースでは、2025年までに年平均11%増で成長し、3.2倍の9兆円に達すると予測した。

センサー市場

 日系企業は、電子部品では38%、AV機器では31%、コンピュータ・情報端末では15%という高い世界シェアを持っているが、いずれも市場構成比が縮小している分野。これに対して、クラウドなどのITソリューション・サービスや、スマートフォンなどの通信機器は成長分野だが、日系企業は10%以下のシェアに留まっており、成長領域に出遅れている。唯一の突破口がセンサーとも言え、これがIT/エレクトロニクス業界における日本の成長ドライバーになるとの認識が広がっている。2016年は、センサー市場で世界をリードできる地盤をつくりあげることができるかどうかが鍵になる。

 また、Apple Watchを始めとする「Smart Watch(スマートウォッチ)」が、2016年にはどんな形で進化するのか、あるいは「Smart House(スマートハウス)」や「Smart City(スマートシティ)」などの動きも注目を集める1年になろう。そして、「SVOD(Subscription Video on Demand=定額制動画配信サービス)も、2016年は一気に広がる1年になりそうだ。中でも、NETFLIXは、主要TVメーカーのリモコンにボタンが装備されるなど、普及に向けた準備にも余念がない。

Apple Watch
NETFLIXが主要TVメーカーのリモコンに装備された

2016年はTV需要回復への一歩になるのか?

 Surfaceの「U」は、「Ultra HD」。つまり、4Kである。

 2016年には、4Kの試験放送がBSで開始されるほか、YouTubeやNETFLIXを通じた4K動画配信の広がりにより、いよいよ4K TVの本格普及に向けた準備が整うことになる。昨年時点で、4K TVの販売構成比は10%を突破。50型以上の大型液晶TVに限定すれば既に半分以上が4Kとなっている。また、2016年には、BSで8Kの試験放送も開始。高画質化の流れを後押しすることになりそうだ。まもなく開催されるCES 2016では、UHDアライアンスによって、UHDに関するTV、コンテンツ、配信サービスに関わるプレミアム規格を大々的に発表する予定で、UHDが注目される展示の1つになりそうだ。

 さらに、2016年は、国内TVの買い替え需要が顕在化する可能性もある。

 2011年7月の地デジ移行を前にしたTVの買い替え需要は2009年度から始まっているが、TVの買い替えサイクルの平均7年から逆算すれば、2016年がいよいよ買い替えサイクルに入ってくる。今後3年間で5,500万台を超えるTVが買い替えサイクルの対象となるというわけだ。夏に開催されるリオデジャネイロでのオリンピック/パラリンピックもTV需要顕在化の追い風になるとの期待も高まる。

 長年低迷していたTV需要が回復基調に転じるかどうかの節目が、2016年ということになる。

4K TV
TV買い替え需要の顕在化

 一方、「U」では、日本における「Uber」が与える影響も気になる1年になるだろう。日本におけるUber普及の足かせとなっている白タク禁止の規制がはたしてどうなるのか。2016年は、政府の動きが気になるところだ。

Uber普及はどうなるか

 同じく規制の動きが気になるのが、ドローンなどの「UAV(Unmanned aerial vehicle=無人飛行機)」。2015年12月には改正航空法が施行され、無人航空機の飛行を禁止する空域の設定や、新規制に伴う運用や整備に関する規制もあり、これが普及にどんな影響を与えるのかが注目される。同時に、2016年は、ドローンの販売増だけでなく、教育体制や整備サービスなど、今後の普及を見据えた新たなビジネスの創出も相次ぎそうだ。

ロボット、そしてフィンテックが注目を集める1年に

 Surfaceの「R」は、「Robot(ロボット)」ということになろう。

 ソフトバンクの人型ロボット「pepper」は毎月限定1,000台の販売分がわずか1分で売り切れるという人気ぶりが続いているほか、シャープは2016年前半に、モバイル型ロボット電話「RoBoHoN (ロボホン)」の発売を予定。これも、ロボットを身近なものにすることになりそうだ。また、セブンドリーマーズが発表した洗濯物を折りたたんでくれるロボットは、2016年から先行予約が開始されるほか、ハイアールアジアが発表したR2-D2型の冷蔵庫も自分のところにまで冷えた飲み物を運んでくれるという意味ではロボットの1つと言えるだろう。そのほか、製造分野におけるアーム型ロボットや双腕ロボットの採用は、2016年にはますます進展することになりそうだ。

シャープのRoBoHoN

 Surfaceの「F」は、「FinTec(フィンテック)」だ。FinTechは、Finance(金融)と、Technology(技術)を組み合せた造語で、金融サービスにおけるIT活用を指す。その範囲は幅広く、ビットコインに代表される仮想通貨のほか、モバイル端末に搭載できるリーダーを利用したカード決済処理、企業での交通費精算や会計業務でのクラウド活用、自動決算書作成サービス、個人資産を管理するためのクラウド家計簿、おサイフケータイなどの電子マネーサービスなども指すことになる。金融サービスとITサービスの共通項は、全ての業種、産業において不可欠なサービスであることだ。それを組み合わせたFinTechも、対象となるのが、すべての業種、産業となるのは明らかだ。2016年は、FinTechを取り巻く環境がにぎやかになるのは間違いないだろう。

人工知能と自動運転は進化するのか?

 Surfaceの「A」は、「AI(Artificial Intelligence=人工知能)」だ。

 1950〜1960年代の第1次ブーム、1980年代には第2次ブームが到来したものの、いずれも実用化には至らなかったAIだが、今回の第3次ブームは、過去のブームとは状況が大きく異なる。

 それを下支えしているのが、センサー技術や解析技術、処理技術。そして、リアルタイム処理と、機械学習の高度化、認識技術の高度化などだ。また、ビッグデータ時代の到来によって、収集された多くのデータを活用できる環境が実現されていることも、AIの進化を後押ししている。

 医療分野などでの応用が進み、コグニティブコンピューティングを標榜するIBMのWatsonが注目を集めているが、日立製作所は、金融、交通、流通、物流、プラント、製造、ヘルスケアなどの分野においてAIを活用。NECは認識技術や解析技術を活用した社会課題の解決に既にAIを活用している。また、富士通では、疾風迅雷を語源とした「Zinrai」としてAI技術をブランド化して、今後さまざまな分野で応用する姿勢を明らかにするなど、日本のITベンダーの動きも活発化している。AIの応用が、各方面でみられる1年になりそうだ。

IBMのWatson

 そして、「A」では、「Autonomous Vehicle」。いわば、自動運転車も注目される1年になるだろう。

 2015年10月に開催された東京モーターショーでは、メルセデスベンツが自動運転車「Vision Tokyo」を、日産自動車が自動運転コンセプトカー「Nissan IDS Concept」をそれぞれ展示してみせたが、Googleが既に米国内において、自動運転の公道テストを開始。Teslaも、自動運転システム「オートパイロット・システム」をアップデート。1月には、日本の報道関係者を対象に、米サンフランシスコでデモストレーションを行なう予定だとされる。日本でも2017年から、公道において、自動運転車のテストが可能になる見込みで、2016年はその準備に向けた1年になりそうだ。2020年の東京オリンピックに向けて、日本における自動運転車の導入が可能になるのかどうか。それに向けた重要な助走期間となりそうだ。

サイバーセキュリティは技術の問題ではない

 Surfaceの「C」では、「Cyber Security(サイバーセキュリティ)」が挙げられる。

 調査によると、サイバー攻撃による年間被害額は全世界で360兆円にも上り、データ侵害によって影響する被害は1件あたり平均4億2,000万円にも達しているという。そして、日本の政府機関への不正アクセスは約508万件に上っているという。

 日本では、2015年11月にサイバーセキュリティ基本法を制定したのに続き、サイバーセキュリティ戦略を閣議決定。さらに、内閣府は、2015年11月に、沖縄県名護市において、サイバーセキュリティに関する初の国際会議「Cyber3 Conference Okinawa 2015 - Crafting Security in a Less Secure World-」を開催。その中で、安倍晋三首相は、ビデオメッセージを通じて、「2016年の伊勢志摩サミット、2020年の東京オリンピック/パラリンピックを成功に導くためにも、サイバーセキュリティへの取り組みが重要になる。日本は、サイバーセキュリティ対策に全力をあげて取り組んでいる」と、国にとってもサイバーセキュリティ対策が重要であることを強調してみせた。

 2015年には、日本年金機構からの年金情報流出問題が明るみになるなど、サイバーセキュリティに対する不安が高まる中、日本ではマイナンバー制度が2016年1月からスタート。トレンドマイクロの調査では、9割以上の国民が、マイナンバーにおけるセキュリティに対して不安を持っているといった結果も出ている。内閣府では、「マイナンバー制度の導入では、日本は後進国であり、他の国での失敗事例を研究してきた」とセキュリティ面においても、リスクが少ないことを強調してみせるが、この1年は、不安と隣り合わせの感覚を持つ人が多い中でのマイナンバーの運用ということになりそうだ。

 いずれにしろ、サイバーセキュリティは、ITの問題や技術の問題ではなく、国や経営の問題になっており、政府や企業経営者、そして国民にとって、最大の関心事になりつつあるのは確かである。

島尻安伊子 内閣府特命担当大臣

明るい兆しが見られ始めるのか?

 Surfaceの最後の「E」だが、これは「Energy(エネルギー)」としたい。そして、ここでは、2016年4月から開始される電力小売全面自由化の動きを挙げたい。

 一般家庭などでは、自分が住む地域の電力会社から電力を購入する仕組みとなっていたが、自分にあった会社を選んで、自由に契約できるようになるのが電力小売全面自由化だ。対象となる口座数は7,000万契約以上。7兆5,000億円規模の市場が自由化されることになる。

 全国10の電力会社によって、エリアごとに独占されていた市場に風穴があき、電力小売会社同士による競争原理によって、料金面やサービス面でのメリットを享受できるとの期待が高まっている。これは、IT業界においても、これがビジネスチャンスとなり、電力自由化に伴う、新たなIT投資は数1,000億円規模に達するとの見方も出ている。新電力の参入は、2016年4月以降も続くと見られており、それに伴い、IT業界における電力業界特需は、2016年も続きそうだ。

 こうしてみると、厳しい状況が続く2016年ではあるが、少しずつ明るい兆しが見られ始めているのは確かだ。これを力強い回復へと繋げることができるのかが、IT-エレクトロニクス産業の課題だと言えよう。そして、表面上(Surface)だけの回復に留まらず、2020年以降まで持続的に成長を続ける土台作りが、2016年のポイントとなりそうだ。

(大河原 克行)