大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows 10時代のエンターテイメント戦略とは?

〜米Microsoftのクドー・ツノダ氏に聞く

米Microsoft コーポレートバイスプレジデント Next Generation Experiences担当のクドー・ツノダ氏

 「Windows 10の登場によって、Microsoftのエンターテイメント戦略は、新たなフェーズへと進化することになる」−−。米MicrosoftコーポレートバイスプレジデントNext Generation Experiences担当のクドー・ツノダ氏はこう切り出した。ツノダ氏は、現在、XboxとWindows Experienceを担当。ハードウェアチームとソフトウェアチームを統括しながら、同社のエンターテイメント戦略を指揮する。ゲームソフトの開発で実績を持つ一方、Kinectの製品化にも関わったほか、現在では、注目を集めるMicrosoft HoloLensにも関与している。「Windows 10時代のエンターテイメントは、デバイスと人がつながり、そのデバイスとデバイスがつながる。これによって、人と人とのつながりを実現するものになる」と語る。HoloLensを含めて、Windows 10時代におけるMicrosoftのエンターテイメント戦略について、ツノダ氏に話を聞いた。

Windows 10とXboxが融合する世界へ

−−7月29日に、Windows 10の提供が開始されてから、まもなく3カ月を経過しようしています。Windows 10時代に入ったことで、Microsoftのエンターテイメント戦略はどう変化しましたか。

【ツノダ】これまでを振り返ると、Xboxが実現するエンターテイメントの世界と、PCによって実現するエンターテイメントの世界は、かなりかけ離れた世界だといえました。しかし、今後は、これが融合していくことになります。

 例えば、「Fable Legends」は、Xboxを使っているユーザーも、Windows 10を搭載したデバイスを使っているユーザーも、ゲームを共有することができます。異なるデバイスを持つユーザー同士が一緒に楽しめるようになります。Windows 10では、さまざまなデバイスでアプリを利用できるユニバーサルプラットフォームを提供していますが、これはゲームの観点からも有効なものだといえます。家にいるときには、Xboxと大型画面でゲームを楽しみ、通勤時や会社の休憩時間には、Windows 10を搭載した携帯デバイスで、その続きをプレイできる。異なるデバイスであっても、その差を意識することなく、スムーズにゲームを利用できる世界がこれから広がっていくことになります。

 これからも、Xboxで楽しむことができるゲームが、Windows 10にも移植されていくことになるでしょう。2015年の年末に向けて、Xbox向けにはさまざまなタイトルがリリースされる予定ですが、今年はそうした楽しみだけでなく、Windows 10搭載デバイスを取り囲む形で、エンターテイメントの世界が広がっていくことになります。これはMicrosoftのエンターテイメント戦略にとって重要なものだといえます。

−−そうした中で、今年のXboxを取り巻く環境は、どのような進化を果たしていますか。

【ツノダ】ゲーマーたちがどんなところに興味を持っているのか、ということに真摯に耳を傾けてきた成果が、今年(2015年)のXboxを象徴する動きだといえます。それが、年末に向けてリリースする6つのビッグタイトルへと繋がったと言えます。そして、後方互換性についても重要な成果だと言えるでしょう。今年11月からは、100本を超えるXbox 360のゲームが、Xbox One上で無料でプレイできるようになります。また、Xbox Eliteコントローラを使うことで、これまでにはないプレイも体験できます。これも、ゲーマーの声を聞いて完成させた製品の1つです。

 つまり、新たなゲームのリリースだけではなく、ゲーマーから、「自分たちはこうやって楽しみたいんだ」という要望を聞き、それを叶える製品を用意することにもこだわりました。こうした点も、Xboxの大きな進化の1つだと言えます。「コンシューマファースト」による開発姿勢はますます強化していくことになります。しかし、Xboxの世界は、これだけには留まりません。2016年は、XboxとWindows 10におけるゲームの世界の融合がさらに進行していくことになります。今後は、Windows 10搭載デバイスとの融合が重要に柱になります。

−−どんな融合が図られるのですか。

【ツノダ】Windows 10の提供が開始されて以降、XboxからWindows 10へのゲームストリーミング時間の総計は、わずか2カ月で実に122年分にも達しています。ゲームを楽しんでいるときに、家族がそのテレビを使って番組を観たいということが起きても、自分の部屋のWindows 10デバイスで、続きをプレイするといったことが可能になっています。こうした柔軟性は、今後のMicrosoftのエンターテイメント戦略において1つのキーワードになると言えます。今コンシューマユーザーがWindows 10に対して強い関心をもっていることを感じます。

Xbox One

Windows 10がもたらす開発者へのメリットとは?

−−Windows 10時代の到来は、ゲームの開発者にとってどんなメリットに繋がりますか。

【ツノダ】開発者にとっての大きなメリットは、開発コストの削減です。その背景の1つとして、Windows 10で打ち出しているユニバーサルプラットフォームへの取り組みが挙げられます。1つのアプリをさまざまなデバイスで利用できる環境が実現されることで、これまでは特定のデバイスを対象にしたゲーム開発に留まっていたものが、多くのデバイスでプレイできる環境が生まれることになります。Windows 10は、すでに1億1,000万台ものデバイスの上で稼働しています。ゲーム開発者にとって、これまでにはないビジネスチャンスが生まれているわけです。

 一方で、Windows 10環境において提供される開発ツールが、非常に強力なものであるという点も見逃せません。そのパワーを使うことで、開発者は、これまでにないゲーム開発が可能になります。

−−一時期は、開発者のMicrosoft離れが顕著な時期もありましたね。そのあたりの変化は感じますか。

【ツノダ】そうですね。開発者との関係は着実に縮まっていると感じます。その点では、Microsoft自身も変化があったといっていいのではないでしょうか。Microsoftの基本的な姿勢は、もっとオープンに開発者の意見に耳を傾けていこうというものです。Xboxの製品リリースについても、多くの開発者やコンシューマユーザーのフィードバックを得ていますし、Windows 10においては、Windows Insider Programにより、開発者の意見を聞いて、機能改善へと反映させています。これは、大きな変化だと言えます。

3つの野心とエンターテイメント戦略の関連性

−−2014年2月に、サティア・ナデラ氏がCEOに就任してから、変革を遂げたというのが、最近のMicrosoftの印象です。エンターテイメント戦略にはどんな変化がありましたか。

【ツノダ】彼はイノベーションということを、繰り返し発言しています。このイノベーションという言葉は、Microsoftのすべての製品に適用されるものであり、品質についても高いレベルが求められています。エンターテイメントの世界でも例外ではありません。

−−ナデラCEOは、3つの野心として、「プロダクティビティ」、「インテリジェントクラウド」、「パーソナルコンピューティング」を掲げています。エンターテイメントの領域から見れば、「パーソナルコンピューティング」という点で関連性が出てきますね。

【ツノダ】パーソナルコンピューティングという観点でいえば、そのパワーを活用することで、よりシンプルな環境が実現できるようになったと言えます。開発者は、コンピューティングのパワーを活用することで、難しい機械言語を勉強したり、テクニックを勉強するといったことが不要になります。開発者は、余計なものと葛藤することになく、ツールを容易に利用できます。そうした技術の革新が生まれています。

 また、ユーザーにとっても、パーソナルコンピューティングのパワーを利用して、シンプルなものを提供することが可能になります。複雑な技術を使って開発したとしても、それがお客様の心にしっかりと刺さるものになるのかどうかが大切です。特にエンターテイメントの価値はそこにあります。いかに複雑な技術を活用していても、シンプルに見せることができ、簡単に使ってもらうことができるのか、あるいは人に自然な形で使ってもらうことができるのか。それが大切です。

 これを実現するのが、「Power by Windows 10」ということになります。Windows 10のリリース後の大きな変化として、非常にシンプルな環境を実現できる世界がやってきたことが挙げられます。これにより、人が使いやすいものを提供できるようになりました。Microsoftとしても、そうした世界に踏み込んでいくことを強く意識することが大切であり、そして、それは、コンシューマユーザーや開発者にとっても最適なものになると言えます。

 確かに、パーソナルコンピューティングとエンターテイメントは近いものがありますが、その一方で、一見、違うように見える「プロダクティビティ」と「インテリジェントクラウド」という要素についても、エンターテイメントに与える影響は大きいといえます。

−−それはどんな点ですか。

【ツノダ】エンターテメイント分野の開発者が目指しているのは、顧客の喜びです。そうした観点から見れば、確かにプロダクティビティを追求するワークツールと、喜びを追求するエンターテイメントツールには大きな垣根があったといえます。しかし、エンターテイメントの開発者が、プロダクティビティにも注目し、それを取り入れていくという動きが出始めています。

 例えば「CrackDown 3」というゲームは、クラウドのパワーをフルに活用して提供しているものであり、Microsoftのクラウドプラットフォームが、Xboxによるエンターテイメントの実現において、すばらしいパワーを提供してくれています。「プロダクティビティ」や「インテリジェントクラウド」が、エンターテイメントに対してもパワーを与え、同時に、エンターテイメントが「インテリジェントクラウド」や「プロダクティビティ」にパワーを与えているという関係にあります。Microsoft全体が提供するパワーを、エンターテイメントに活用しているという言い方もできるといえます。

 外からMicrosoftを見ていると、さまざまな製品があり、垣根があるように見えるかもしれませんが、Microsoftのあらゆる事業部門の社員が一体となって仕事をしているのが現状です。エンターテイメント部門の製品においてもそれは同じであり、Microsoft全体に共通的に存在しているのは、最高のものを市場に提供したいという気持ちだと言えます。

 3つの野心とともに、サティア(ナデラCEO)が社内に向けて語っているのは、「Microsoftの製品において、どんなエンゲージメント(従事)ができるかが重要である」ということです。「エンゲージメントありき」。最近、この言葉がMicrosoft社内でよく使われています。さまざまな製品を開発しても、開発者やユーザーが、この製品に、どれだけエンゲージしてくれるのか、パッションを感じてくれるのか。そうしたことが、事業の成功を推し量る重要な指標になります。これは、Xboxの世界でも同様です。Xboxにはたくさんのファンがおり、Xboxを愛してくれている人たちが多い。こうした人たちに、これまで以上にアピールできるかが重要です。ここは、我々が最も力を注がなくてはならない部分だと言えます。我々が提供しているものを、もっと愛していただけるようなものにしていく必要があります。

HoloLensが生み出す新たなエンターテイメントの世界

−−ツノダ氏は、過去にゲームソフトウェアを開発してきた経験がありますし、Kinectを開発したハードウェアの経験があります。その経験は、Windows 10時代のエンターテイメント戦略にどう生きますか。

【ツノダ】これまでのゲームや映画の世界は、ハードとソフトが分断された世界だったと言えます。また、特定のデバイスに限定された世界であったと言えます。しかし、ここにきて大きな変化があり、「エンゲージメント」がキーワードになってきました。

 さまざまなデバイスがつながるようになり、それによって、人と人とが繋がるようになった。自分が所有している使いたいデバイスと、ほかの人が使っているほかのデバイスと繋がることができる。これからは、こうした新たな体験を、どこまで共有することができるかが大切になってきます。つまり、ハードウェアとソフトウェアの垣根というものがなくなってきているとも言えます。ゲームの世界でも、多くの人が繋がり、それによって、ユーザー同士の大きなエコシステムが生まれる。その実現に、Microsoftが一翼を担うことになります。これまでになかった新たな方法を通じて、人とデバイスが繋がり、デバイスとデバイスが繋がり、そして、人と人が繋がる。これが、Windows 10によって実現されるエンターテイメントの世界だと言えます。

−−HoloLensは、エンターテイメントのなかでどんな役割を果たすことになりますか。

【ツノダ】HoloLensは、ホログラムを使うことで、リアルの世界だけでない新たな世界を作り上げ、そして、その世界を、ソーシャルへと広げることができます。映画でもゲームにしても、基本的には、見た人、プレイした人が、全員が同じ体験をすることになりますが、HoloLensでは、エンターテイメント体験を、それぞれのユーザーごとにカスタマイズすることができます。

 ビデオゲームの場合、デジタルの世界だけに止まらず、物理的なリアル空間を組み合わせて、楽しむことができます。人がいるリアル空間を組み合わせることで、場所によって違うストーリーが展開するといった提案が可能になります。また、これまでは、ゲーム上のキャラクターは、画面上にしか存在せず、遠い存在でしたが、HoloLensを使うことで、リアルな存在として、キャラクターが動くようになります。そうした新たな体験が可能になります。そうなると、もっとストーリーにのめり込んだり、キャラクターをリアルな世界に落とし込むことで、これまでにないエモーショナルな世界を体験してもらえると思います。深い感情がそこに生まれ、愛情さえも生まれるのではないでしょうか。HoloLensによって、エンターテイメントのレベルを引き上げることができ、感情面での関わりも深くなると考えています。

−−ナデラCEOは、HoloLensの活用は、エンタープライズ領域から進めるといっています。エンターテイメントへの応用には時間がかかりますか。

【ツノダ】確かに、今はNASAやPreambleというパートナー企業と、プロダクティビティの領域で共同作業を開始していますし、米Case WesternとHoloLensを中心としたパートナーシップにより、医学の世界において、新たな教育の機会が生まれています。さらに、コミュニケーションの世界でも注目を集めています。Skypeに対応したHoloLensのアプリ開発も行なっており、タッチデバイスを活用して、こちら側で見ているものや、聞いているものを、離れた場所にいる人にも伝えることができる技術の開発にも取り組んでいます。もちろん、クリエイティビティの世界においても、3Dを活用する際などに、HoloLensは大きく貢献すると考えています。

 一方で、エンターテイメントについては、Minecraftが注目されているように、ここでも大きな可能性があると言えます。HoloLensは、プロダクティビティでも大きなインパクトをもたらしていますが、教育でも、通信でも、クリエイティビリティでも、エンターテイメントでもすぐに活用されるものになるといえます。開発者キットの提供を開始することにより、あらゆる領域において、HoloLensを使ってもらえる可能性が出てきます。これによって、私たちが、まだ気が付いていないように領域での活用や、新たな使い方といったものが出てくることに期待しています。

−−Windows 10時代のエンターテイメント戦略において、日本の重要性をどう捉えていますか。

【ツノダ】私自身、日本の開発者の方々や、エンターテイメントのファンの方々には敬意を表していますし、尊敬しています。今後、エンターテイメントの世界において、日本の開発者の方々と、もっと深い関係を構築したいと考えています。なぜならば、日本は世界に冠たるゲーム大国であり、エンターテイメント大国であり、この分野で長い歴史を持っています。Microsoftがこの分野でこれまで以上に成長を遂げるためには、日本の方々と連携することが大切だと考えています。エンターテイメントに関するすべての領域において、日本の方々と協力することで、これまでにない可能性を引き出すことができるでしょう。Microsoftは、ぜひ、日本の方々の協力を得たいと考えています。

(大河原 克行)