大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PC世界シェアNo.1のLenovoが依然成長できる理由とは?

〜LenovoのランチCOOに聞く

ジャンフランコ・ランチCOO

 Lenovoの業績が好調だ。先頃発表した2013年度(2013年4月〜2014年3月)の通期売上高は前年比14%増の387億ドル、純利益は29%増の8億1,700万ドルに達した。全世界のPC市場が停滞する中、Lenovoはなぜ成長を持続できるのか。先頃来日したLenovoのジャンフランコ・ランチCOOに、LenovoのPC事業成長の理由と、タブレットやスマートフォン事業への取り組みなどについて聞いた。

――全世界のPC市場全体が落ち込む中、Lenovoが成長を続ける要因はなんだと判断していますか。

ランチ 最大のポイントは、やはりスケールメリットです。PC産業では、スケールが非常に重要であり、その中で、Lenovoは、ナンバーワンというポジションを取っている。これは他社との大きな差になっています。

 2つ目には、事業をPCに特化している点です。1つの領域にフォーカスした事業形態は強みの1つですし、イノベーションという点でも強みを発揮しやすい。そして、3つ目には、当社が持つユニークな戦略が成長を支えているという点です。Lenovoは、「プロテクト&アタック」という、「守り」と「攻め」を明確にした戦略を打ち出しています。中国市場やPC領域など、自分たちの強みを守りながらも、スマートフォン領域やタブレット領域などには、攻め戦略を打ち出す。そして、卓越したオペレーション力や効率的なサプライチェーンの構築も強みになっています。これらによって、高いコスト競争力とともに、納期までのリードタイム、新たな技術の搭載といったスピード感が高まる。これも強みの1つです。これらのうち、1つが完全に欠けてしまうと、持続的な成長は難しいのではないでしょうか。

――PCの収益性の課題は、各社に共通したものです。将来に向けても、PCで利益は確保していけるのでしょうか。

ランチ むしろ、PCの利益は今後も拡大できると考えています。そして、成長機会もまだまだあると思っています。Lenovoは、イノベーションに投資をしていますし、新しいアイディアを持った製品や、新たなフォームファクターにも投資をしています。例えば、Yogaという製品に代表されるような、新たなスタイルの2-in-1型PCもLenovoは先行していますし、こうした新たな領域に力を入れることで継続的な成長が維持できます。PC市場においても、まだまだシェアも伸ばしていきたいですね。

――スマートフォンやタブレットの台頭によって、これからPCは無くなっていくのではないか、という議論も一部では出ていますが。

ランチ PCの形やあり方は変わる可能性はあるでしょう。しかし、PCは絶対に無くならない。PC市場は、全世界で約3億台の市場規模がある。金額ベースでは2,000億ドル(約20兆円)の市場規模がある。ここにきて、PC市場全体の減速感がありますが、その縮小速度は弱まり始めていますし、まだまだ無くなりはしない。PC市場は、また盛り返してくると考えています。

――Lenovoの実績を見ても、すでにスマートフォンとタブレットの合計出荷台数が、PCの出荷台数を抜いています。すでにそうした世界がやってきていますね。

ランチ 出荷台数ベースで見てしまうと、もちろんタブレット、スマートフォンを合わせた方がPCよりも大きい。しかし、売上高ベースで見ると、やはりPCの方がまだまだ大きい。Lenovoでも、売上高の約8割がPCです。確かにその構成比は減るでしょうが、数年先をみて、PCの売上高が最も大きいという構成比は変わらないと言えます。

 もちろん、スマートフォンとかタブレットの販売台数は増加するでしょうが、スマートフォンの平均単価は、PCの5分の1程度です。スマートフォンを5台売らないとPC 1台分にならない。スマートフォンは成長するが、PCの売り上げ構成比が、70%、60%となるには、まだ2、3年はかかりますね。PC、スマートフォン+タブレット、そしてサーバーといった事業がバランスを取る構成比に到達するには、かなり時間がかかるのではないかと思っています。

 繰り返しになりますが、PC市場は、まだまだ成長機会があると思っています。ただ、その一方で、PC市場におけるプレーヤーの数がまだまだ多い。あと2、3ブランドの撤退、淘汰が進むのではないかなと思っています。いくつかのPCメーカーは、規模が小さすぎたりとか、利益が出ていなかったりといったように、何らかの財務的な問題を抱えている。SamsungやソニーがPC事業の改革に取り組んでいるのもそうしたことが背景にあります。その中で、LenovoはPC市場における成長を継続的にできると考えています。

――Lenovoは、2014年4月1日付けで、組織を大きく変更しました。この狙いはなんでしょうか。

ランチ Lenovoは、将来的には、「PC」、「スマートフォン+タブレット」、「サーバー」という3つの柱に事業を育てたいと考えています。今回の組織変更はそれに合わせたものだと言えます。PC事業を担当する「PC」、スマートフォンおよびタブレットを担当する「モバイル」、そして、サーバーを担当する「エンタープライズ」です。

――モバイルでは、Motorolaのスマートフォン事業の買収がありました。Lenovoとしてのスマートフォン事業の強みはどこに発揮しますか。

ランチ Motorolaの買収に関しては各国当局の認可待ちなので、まだ詳細についてはお話できません。しかし、我々としては、通信分野における「Motorola」のブランド力は、世界的に見てもすごく強いものであり、優れた技術し人材を抱えていると認識しています。例えば欧米のような成熟市場におけるブランド認知度の高さは特筆できます。それに対して、Lenovoブランドは中国、ロシア、インド、インドネシアなどの新興市場国において認知度が高い。つまり、スマートフォン事業において、成熟市場と新興市場のバランスを取ることができるようになります。Lenovoは、すでに中国ではナンバーワンですが、それに対してMotorolaは世界的なプレゼンス、特に成熟市場でのプレゼンスが高い。米国でもそうですし、成熟市場でのプレゼンスの高さがすごく大きい。LenovoとMotorolaの組み合わせは、そういう地理的なカバレッジという意味でも相乗効果が出せると思っています。

 今回、買収の対象となっている人材の7〜8割が、研究・開発部門に所属しているエンジニアですし、米国にも数多くの技術者を持ち、ここ数年Googleの傘下にあったことから、Androidに関する技術的蓄積も一気に進みました。Androidに関するプラットフォームや、ソフトウェアに関するノウハウの蓄積は、世界的に見ても進んでいます。Lenovoの新製品や新たなソリューションの開発、提供にも、この知見を活かすことができます。ボリュームも重要な要素ですが、この買収では、人材や、研究開発力も強みになると思います。

――一方で、モバイルのもう1つの重要性であるタブレットでは、Lenovoはどんな強みを活かせますか。

ランチ タブレットは成長市場であり、その中で、現在、Lenovoは世界4位のポジションにあります。AndroidおよびWindowsの2つのOSで製品展開をしていますが、いずれも製品も、PCをうまく補完する形で、顧客層を獲得し、販売ルートも拡大することができています。タブレットの領域でも、Lenovoはイノベーションを起こし続けることができると考えています。そのための投資を継続していきたいと考えています。

――スマートTVが「モバイル」事業の中に膨れていますね。ちょっと不自然な感じがしますが(笑)。

ランチ スマートTVは、Androidのエコシステムの中で製品開発を行なっていくことになりますから、その点では、スマートフォンおよびタブレットと同じ組織の中に入れています。Lenovoが新たな製品を展開するときには、まずは、中国での成長を目指し、それによって、ある程度の規模に達した段階で、中国以外で展開するという仕組みをとっています。スマートTVは、中国以外に打って出るにはまだ時期尚早だと思います。規模がまだ小さく、スケールメリットが働かない。まずは中国でしっかりと伸ばすことを優先しています。

――エンタープライズでは、IBMのx86サーバー事業の買収が鍵になりますが、競合であるHPやDellは、ソリューションで収益を稼ぐモデルへと転換しています。Lenovoは収益性が低いハードウェアで稼ぐモデルにしか見えないのですが。

ランチ 今回の買収に関しては、それぞれの国の当局から認可がおりていないので、まだ買収が締結してはいません。そのため詳細なことをお話しすることはできません。しかし、エンタープライズ事業という意味でお話しをしますと、ご指摘のように、サーバーやストレージといったハードウェア中心の事業となります。もちろんソリューションの提供も行ないますが、それは、ソフトウェアベンダーやSIerといったソリューションパートナーとともに、提供していくことになります。

 その中でも、IBMは、我々のソリューションパートナーとしては代表的な企業となります。Lenovoは、ソリューションプロバイダを目指すのではなく、中心はハードウェア。ソリューションはパートナーと組むということになります。ではハードウェアで収益は稼げるのか。先ほど、PC事業の成長に関してお話しした際に触れましたが、Lenovoは、ハードウェアで収益を確保できる仕組みができあがっている。しっかりとしたサプライチェーンも確立できている。PCもモバイルも、そして、エンタープライズも、ハードウェアで利益を確保できると思っています。

――もう1つ、4月1日付けで、「エコシステム・アンド・クラウド」という組織も新設しましたね。この組織の役割はなんですか。

ランチ エコシステムおよびクラウド事業に関しては、まずは、中国に主眼を置いた事業と位置づけています。Googleのような企業と、クラウドで競合しようというわけでなく、当社のPC、スマートフォン、サーバーのユーザーに対して、いかにユーザーエクスペリエンスを向上させるか。そこに主眼を置いた組織だと言えます。もちろん、この領域においては、M&Aを含めた投資といったものが想定されるかもしれませんが、現時点で公表できる具体的なものはありません。クラウドは、事業としての成長曲線を描くよりも、短期的にはユーザーエクスペリエンスを向上させるためのインフラ作りを優先したい。アプリ開発にも力を入れたいですね。

――成長路線にあるLenovoにとって、今抱える課題があるとすると、それは何でしょうか。

ランチ もし1つ挙げるとしたら、Lenovoは何年間にも渡って、PCの専業メーカーとして事業をしてきたという点でしょうか。PCメーカーとして成功を続けながら、「PC+」と呼ぶ、スマートフォンやタブレット、サーバーでも成長していくことへの挑戦が課題になります。

 私は台湾AcerのCEOを務めていた経験がありますが、Lenovoは真の意味でのグローバルカンパニーであると思います。それに対してAcerはあくまでも台湾中心でアプローチをしている企業でした。私が在籍していた時はグローバルカンパニーにしようと頑張りましたが、明らかにそこはうまくいかなかった。Lenovoには、さまざまな国や地域の人たちが、社員として活躍している多様性を持った会社ですし、世界で成功していくための必須条件を持たした会社だと言えます。ほかの会社では、すべての物事が1つの国の中だけで決められてしまい、世界中のさまざまな背景や視点を持った社員たちが、意見を戦わせることもなければ、話し合うこともない。そこに、Lenovo独自の文化があると思います。さらに、コミットメント重視であり、成果主義という文化もあります。この2つの文化のどちらかが欠けても、世界で戦うのは難しい。その点でも、Lenovoは、世界屈指のグローバルカンパニーであるといっていいでしょうね。

(大河原 克行)