大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「NECとレノボから日本市場に特化した製品を今後も投入する」
~レノボNECホールディングスのラピン会長に聞く



 NECレノボ・ジャパングループが発足して1年を経過した。2012年度第1四半期(4~6月)の国内シェアは25.4%。NECパーソナルコンピュータも、レノボ・ジャパンのいずれもが前年同期に比べてシェアを拡大し、統合効果が早くも発揮された格好だ。

 レノボNECホールディングスのロードリック・ラピン会長は、「IT業界で初めて、1+1が2以上になったジョイントベンチャー」と表現するが、まさにその通りの結果が出ているといえよう。2012年8月23日には、NECパーソナルコンピュータから875gと軽量化した「LaVie Z」を発売。さらに、10月5日にはレノボ・ジャパンの「ThinkPad」が発売20周年を迎えるなど、これからも両社の動きが見逃せないだろう。ラピン会長に、NECレノボ・ジャパングループの取り組みについて聞いた。

●攻めと守りの戦略が好業績につながる

--レノボ本社(Lenovo)が発表した2012年度第1四半期の決算は好調なものでしたね。世界のPCメーカーが苦戦を強いられる中で、なぜレノボは好調な業績を達成することができたのでしょうか。

ロードリック・ラピン氏

ラピン:先頃、レノボが発表した第1四半期業績は、売上高は前年同期比35%増の80億ドル、純利益は前年同期比30%増の1億4,100万ドルとなり、レノボが厳しい市場環境の中でも、収益を伴った成長を遂げていることを示すものとなりました。業界全体のPCの出荷台数が、前年同期比で約2%減となっているのに対して、レノボは前年同期比で24.4%増と、13期連続して業界全体の成長を上回っています。結果として、四半期としては過去最高となる15%の市場シェアを達成し、世界第2位のPCメーカーとしての地位を揺るぎないものとしました。

 それを達成した要因は、いくつかあります。1つは、「守りと攻め」の戦略にフォーカスしているという点です。これは非常にシンプルであり、当社ビジネスの基本ともいえるものです。レノボの全ての社員がこの戦略を把握しており、企業文化の中に組み込まれており、それに基づいて市場にアプローチをしています。たとえば、「守り」の部分では、まず中国のビジネスを守るという点があげられます。中国ではシェアが35%にまで到達し、さらにシェアは伸び続けています。ここに引き続き投資を行ない、成長を守っていくことになります。また守りの部分については、先進国におけるエンタープライズ市場や企業向けPCビジネスなどが挙げられます。

 一方で、「攻め」に関しては、成長著しい新興国市場において、中国での経験をもとにして攻めていくということになります。実は、1年前にレノボが2桁のシェアを持っていた国は12カ国でした。しかし、最新四半期ではこれが35カ国にまで拡大しています。また、攻めとしては、先進国におけるコンシューマ市場向けの展開も含まれています。

 実は、最新業績が発表された後に、グローバルで電話会議を行なったのですが、CEOの楊元慶は、「レノボは成功しているが、それで奢ってはいけない」ということを語り、社員にそれを浸透させようとしています。安心することなく挑戦していくのがレノボの基本姿勢です。

--なぜ、レノボのPCが、グローバル市場において受け入れられているのでしょうか。

ラピン:レノボは、全ての地域、全ての顧客セグメントに対して、製品ラインアップを揃えています。特にこの2、3年で製品ラインアップを大幅に拡充し、コンシューマ製品についても全ての価格帯で製品を取り揃えることができました。また、中小企業向けには「ThinkPad Edge」シリーズを、大企業向けにはThinkPadのクラシックラインを用意するなど、さまざまな需要に応える体制を整えています。世界中のPCメーカーの中で、社内の研究開発体制をグローバルで持っているのはレノボだけであり、これはレノボの大きな強みだといえます。その1つである横浜市みなとみらいの大和研究所は戦略的にも重要な拠点であり、高い品質を実現する上で、最大限の効果が発揮されています。

 もう1つのポイントは、常にお客様、パートナーの声に耳を傾け、謙虚な姿勢で事業に取り組んでいくという点です。しかし、我々は、まだまだ完璧ではありません。それぞれの国のお客様の声に耳を傾けて、それぞれの国にきちっと対応できるようにしていかなくてはなりません。

 CEOをはじめとする経営陣は、人材と文化を大切にします。それが会社全体の中に浸透している。そして、レノボは、各国の責任者に権限を大きく委譲する体制となっており、それが強みにもなっている。グローバル企業の多くは、1つのプログラムを用意して、それを金太郎飴方式で展開しようとしますが、権限委譲によって、日本ならば日本のお客様に対応しやすい体制を取ることができます。これが各国で成功する要因の1つだといえます。

●国内市場で両社がシェアを拡大

--日本においては、NECパーソナルコンピュータとの合計で、第1四半期には25.4%のシェアを獲得したと発表していますね。これはどう自己評価していますか。

ラピン:昨年7月にレノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータのジョイントベンチャーをスタートして以降、合理化が進み、スピード向上が図られています。具体的には、顧客満足度の向上と研究開発分野への投資を行ない、それが成果につながっています。顧客満足度の向上では、NECパーソナルコンピュータがとことんサポートPCを投入し、電話サポートの完全無償化やコールセンターの品質向上に向けての人員強化などを行なってきました。また1日修理体制も大変好評です。一方で、レノボ・ジャパンのコンシューマ向け製品の電話サポート体制も、すでにNECパーソナルコンピュータに移管していますし、企業向けPCのコールセンターも、この8月にNECパーソナルコンピュータへの移管の作業を行なっているところです。

LaVie Z

 また、研究開発面の強化においてはかなりの投資を進めており、その代表的な成果が、NECパーソナルコンピュータのLaVie Zだといえるでしょう。NECパーソナルコンピュータは、日本の市場が求める高い品質の製品は投入してきたものの、クリエイティブで、エキサイティングな製品が投入できていたかというと反省する部分もありました。ここに研究開発予算を投下することで、ニッチ市場に至るまで、幅広いニーズに応えることができ、エキサイティングな製品を投入することができるようになりました。レノボ・ジャパン側も同じようにエキサイティングなものを投入できるようにしたいですね(笑)。

 私が日本で働いていて感じるのは、日本のお客様は、優れた技術や製品に対して、きちっと対価を支払っていただけるという点です。そうしたユーザーに評価していただける製品を投入し続けなくてはなりません。

 他方、合弁による成果で浮いた費用は、日本におけるブランド力向上につなげる活動へも投資しています。レノボ・ジャパンでは、「FOR THOSE WHO DO」キャンペーンを実施。NECパーソナルコンピュータでもTV CMを通じて、製品を中核に据えたブランドキャンペーンを展開し、それぞれに成果が出ています。

 25.4%という国内シェアは、予想外に良かったといってもいいでしょう。これはまだ両社がバラバラだった前年同期の合計シェアと比べても約2ポイントほど成長しています。そして、レノボ・ジャパンも、NECパーソナルコンピュータの両社のシェアがそれぞれに上昇しています。また、社内の指標に関しても、全ての指標において我々の予想を超えるものとなっています。

 2社の連携がうまくいっていることも重要な要素です。先週、NECパーソナルコンピュータの米沢事業場に出向き、300人の社員を前に話をしました。そこで行なわれた質疑応答では、社員からのどんな質問にも答えますという形としました。さらに、ハンズオンミーティングの後には、サマーフェスティバルが開催されまして、米沢事業場の社員の方々と一緒にビアパーティーを楽しんできましたよ(笑)。私は、日本の伝統的な夏祭りは大好きで、出身国であるオーストラリアの文化ともマッチしていますね。このオールハンズミーティングは、ほかの拠点でも実施し、お互いに連携を深めています。

 今年の5月16日に東京・お台場で開催したキックオフミーティングには、レノボ・ジャパンや大和研究所、NECパーソナルコンピュータの本社部門や、米沢事業場などの全ての社員が参加しました。さらに、レノボの楊CEOのほかに、サプライチェーンや製品、人事、セールス&マーケティングのトップが来日し、それぞれにプレゼンテーションを行ないました。また、NECの遠藤信博社長や、レノボグループの社外取締役である出井伸之(元ソニー会長兼CEO)も参加しました。数千人規模の全社員が参加しますから、NECパーソナルコンピュータの社員にとっては、これまで経験したことがない規模のミーティングになったのではないでしょうか。こうした活動を通じて、お互いの関係がより緊密になっています。

●ワンチーム、ワンビジョンに取り組む
7月に行なわれた1周年の説明会には、レノボ・ジャパン代表取締役社長の渡辺朱美氏(中)とNECパーソナルコンピュータ代表取締役社長の高塚栄氏も登壇

--ジョイントベンチャーから1周年を記念した報道関係者を対象にしたパーティーの際に、ラピン会長は、「この1年は、10点満点以上の出来だ」といっていました。

ラピン:いや、それは撤回させてください(笑)。点数をつけるとすれば9点です。慢心してはならないということもありますし、まだまだ改善の余地はあります。常にお客様から声をいただき、それを改善に活かしていきたいです。

--この1年間を振り返って、課題となっている部分はなんですか。

ラピン:市場全体の状況が非常に厳しい中にあります。これは、当社にとっても大きな課題です。幸いにも、地に足をつけた戦略、施策を実行してきた結果、当社の決算は良い内容となっていますが、思い通りの業績を残すには、通常以上の努力を要する状況になっています。

--レノボNECホールディングの会長として、今何をやらなくてはならないと考えていますか。

ラピン:やることは山積しています。究極の姿として考えているのは、「日本市場に価値を提供し、長期的に持続可能であり、継続的に成長させることができる企業を目指すためには何をするか」ということです。お客様が何を求めているのか、市場がどう変わるのか、日本のお客様や市場が求めているものに対して価値を提供するにはどう変わっていくべきか、どう進化させていくべきかを考えていかなくてはなりません。IT業界は常に変化しています。市場よりも速いスピードで変化していかなくてなりませんし、ダイナミックに対応していく必要もあります。

 レノボグループでは、今後、「PC Plus」の時代を迎えると考えています。その時代において、より革新的な製品を投入し、市場やお客様のニーズに応えていきたい。そのためには、ジョイントベンチャーならではの新たな文化を築き、組織をコーディネートし、俊敏な動きができるようにしていきたいですね。

--今、社員にはどんなことを言っていますか。

ラピン:「ワンチーム、ワンビジョン」ということです。これは5月のキックオフミーティングの際に掲げたものです。チームとより一体感を増し、お互いの強みを活かすことが大切であり、そして、これは全ての核になるものだと位置づけています。

 NECパーソナルコンピュータは、日本で最初のPCが発売された時からナンバーワンの会社であり、日本のコンシューマPC市場における知見では、右に出る企業はいません。レノボのチームはそこから多くのことを学ぶことができます。また、レノボはThinkPadによる長年の実績でエンタープライズ分野に強みを持ち、グローバルのスケールメリットがある。これをNECパーソナルコンピュータのビジネスに活かしたい。こうしたお互いの強みを活かすことで、1つのチームとしての一体感が増すことになります。

--ワンビジョンとして掲げるものはなんですか。

ラピン:それはシンプルです。今後3年間で、日本市場において両社で30%のシェアを獲得するということです。そのためにお互いが努力をしていくことが重要です。また、両社がそれぞれに思い入れをもって取り組めるものが必要だともいえるでしょう。

●なぜ、米沢事業場でThinkPadを生産するのか

--今年(2012年)秋から、米沢事業場でThinkPadを生産する計画を発表しましたが、この狙いはどこにあるのでしょうか。

ラピン:米沢事業場でのThinkPadの生産は、お客様のフィードバックに基づいて、まずは試験的に実施するものです。この試験生産で実現したいのは、短納期です。より速く、お客様の手元に製品をお届けする体制を確立したい。また、日本のお客様に最適なThinkPadのラインアップ拡充も図っていきたいですね。これが、企業向けPC市場において、シェア向上にどれぐらい貢献するのかは未知数ですが、まずは、お客様の声に基づいて改善をするために、よりチャレンジしなくてはならないと考えています。

--試験生産ということですが、何を試験することになりますか。

ラピン:この仕組みによって、お客様からの需要が伸びるかどうかという点です。満足していただけ、この方法がいいということがわかれば本格生産に移行することになります。

--設備投資の問題や、技術的な課題、品質保証の問題という点での試験生産ではないと。

ラピン:もちろん、設備投資がないとはいいませんが、お客様の反応に比べると、それは重要度が低いといえます。

●日本でのスマートフォン、TVの展開は

--レノボグループでは、今年度に入ってから「PC Plus」という方針を掲げていますが、ここでは、PC以外に、タブレット、スマートフォン、スマートTVという製品群への取り組みが含まれています。日本では、「PC Plus」において、どの領域まで踏み込む考えですか。

ラピン:日本においては、当面、PCとタブレットの分野にフォーカスしていくことになります。タブレットはグローバルではナンバー4ですが、中国では2位のポジションに上がってきました。日本市場においてもタブレット分野に投資を行ないます。タブレット分野に関しては、レノボブランドでも、NECブランドでも、製品を投入していくことになります。

 スマートフォンおよびスマートTVについては、現時点では静観している状況にあります。ご存じのように、日本のスマートフォン市場、スマートTV市場は厳しい競争環境の中にあります。スマートフォンは、約2年前に中国市場において参入したばかりですが、今年6月には13.1%のシェアとなり、第2位のポジションを獲得しました。非常に成功し、伸びているビジネスです。成功の方程式が見え始めているといえます。日本の市場においては、常に通信キャリアと会話をしていますので、「これで行ける」と判断したら、展開する可能性もあります。しかし、今は具体的な動きにまではつながっていません。

 スマートTVについても同じです。中国ではレノボ初のスマートTVとなる55型の「K91 Smart TV」を発表していますが、日本のTV市場には多くのメーカーがひしめいていますし、ユーザーにとっても多くの選択肢があります。それだけ競争も激しいわけです。我々は、日本においては、まだPCも、タブレットも成長の機会があると考えています。まずは、そこに特化していきたい。ただし、レノボグループ全体では、中国以外の市場にも展開していくことを考えています。

●ThinkPad X1 Carbonを日本でも投入へ

--NECレノボ・ジャパングループが2年目に入りました。2年目の重点ポイントは何になりますか。

ラピン:1年目と2年目でそれほど差があるわけではありません。ただ、1年目はさまざまなものをセットアップし、体制を整えること、投資を行なうことに時間をかけました。2年目は、投資をしたものに対して、刈り取るのに少し時間を要したものがありましたから、それを確実に実行に移していくことになります。

 例えば、日本市場に特化した、全く新しい製品を今後出していくということも、その1つだといえます。これは、NECパーソナルコンピュータから投入していく製品となります。ただ、レノボでもワールドワイドの開発部隊が作っている製品の中に、日本から要件を上げて、それを反映して製品化したものがあります。企業向けデスクトップPCの「ThinkCentre M92p tiny」は、わずか1Lの筐体サイズに収めた製品ですが、これはグローバル体制で開発したものの、日本市場においては小さな筐体が求められているという要求を出し、それが反映されたものです。

 また、すでに中国/米国ではすでに発売しているThinkPad初のUltrabook「ThinkPad X1 Carbon」についても、薄型、軽量を好む日本からのフィードバックを反映して開発したものです。これは、ThinkPad史上、もっとも薄い製品になっています。ThinkPad X1 Carbonは、日本でも近々正式発表する予定ですが、日本市場で受け入れられる製品だと考えています。これ以外にも、今日は、お話しできない製品があります。ぜひ、これからを楽しみにしてください。

--Windows 8時代のNECレノボ・ジャパングループとしての強みはなにになりますか。

ラピン:詳細はもう少し先になりますが、我々ならでは特徴を活かし、きちっとした差別化が図れる製品を投入していきます。ハードウェアについては品質を高めることに加えて、デザインも他社とは異なるものとしていきます。また、お客様に満足していただくための施策は今後も継続的に行っていきます。

--先頃、レノボグループは、EMCとのワールドワイドでの戦略的パートナーシップを結びました。これはどんな影響がありますか。

ラピン:この提携は私も大変楽しみにしています。これによって、レノボがエンタープライズ製品領域に本格参入することを期待しているお客様も多いのではないでしょうか。今回の提携には3つの側面があります。1つはEMCの技術者とともに共同でサーバーを開発するという点。2つ目には、EMCのNAS製品をレノボグループが販売するという点です。ここにも大きなビジネスチャンスがあります。データセンターに対して、サーバーとストレージを組み合わせた提案が可能になります。そして、最後にIOMEGAのローエンドのストレージ製品をレノボグループが取り扱うという点です。この分野は日本でもビジネス拡大が期待できる領域です。

 基本的には、今申し上げた3つの内容については、全て日本市場で展開していくことになります。しかし、問題はタイミングです。まずは中国で展開し、その後に日本で展開していくことになります。日本市場においては、今後、EMCジャパンとの連携をとりながら、最大限の成果をあげられるように取り組んでいく考えです。

--今後のNECレノボ・ジャパングループには、どんなことを期待できますか。

ラピン:我々は、今後も継続的に改善を続けていきます。ぜひ、PC Watchの読者の方々にも、我々に忌憚のない意見を出していただきたい。今後も日本市場に特化した革新的でクールな製品を随時投入していきます。また、それだけではなく、サービスにおいても優れたものも提供し、日本のユーザーに楽しんでいただける環境を提供し続けていきます。