大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

デルが個人向けPCのサポートを強化する理由とは
~まずはXPS、Alienwareを対象にプレミアム電話サポートを開始



 デルは、2012年1月17日から、個人ユーザーを対象にした新たなサポートメニュー「プレミアム電話サポート」の提供を開始する。

 まずは、「XPS」シリーズおよび「Alienware」シリーズの新規購入者を対象にサービスを提供。2月中旬からは「Inspiron」シリーズにも対象を広げるほか、春以降には、既存のユーザーにも延長サポートメニューとして対象を広げる考えだ。

デル コンシューマー&SMB事業本部長の小林治郎氏

 デル コンシューマー&SMB事業本部長の小林治郎氏は、「コンシューマユーザーと、直接対話できる環境を持つデルだからこそ提供できる新たなサービスだといえる。コマーシャル向けサポートでは高い評価を得ているが、コンシューマ向けサポートではまだ改善の余地があったという反省もあった。今回の新サービスによって、デルのコンシューマ向けサポートに対する評価を一気に高めたい」と意欲をみせる。

 これまでデルがコンシューマ向けに提供してきたサポートは、1年間の翌営業日での故障出張サポートや、ハードウェアに関する24時間365日のサポート、ソフトウェアに関する午前9時~午後9時までのサポート体制となっていた。

 この従来のサービスは「スタンダード」として継続する一方、新サービスとして、「ゴールド」、「プラチナ」を用意。これらをプレミアム電話サポートと位置づけてメニュー化する。

プレミアム電話サポートの拠点となるデル宮崎カスタマーセンター

 プレミアム電話サポートは、すでに米国、中国で開始しており、日本では、500人以上のデル日本法人の正社員によって構成される同社サポート拠点のデル宮崎カスタマーセンターで対応することになる。

 「プレミアム電話サポートでは、これまでは別の窓口となっていたハードウェアとソフトウェアに関する問い合わせを、1つの電話窓口で対応する体制を構築するとともに、ハードウェアとソフトウェアのサポート対応期間を統一。ハードウェアに加えて、ソフトウェアも24時間365日の対応とする。また、契約期間中であれば、何度でも問い合わせをすることができる」(デル コンシューマー&SMB事業本部マーケティング本部SBマーケティング・伊田聡輔部長)という点が特徴だ。

 同社の電話サポートへの問い合わせを分析すると、約2割がハードウェアに関するものであるのに対して、約8割がソフトウェアの使い方や、ネットワーク設定など。新サービスではこうした傾向を捉えて、ハードウェア以外のサポートを強化したという見方もできる。

 「これまでのソフトウェアのサポート期間は最長1年となっており、ハードウェアのサポートは継続しているのに、ソフトウェアのサポートが先に切れてしまうことに対する不満もあった。今回は契約によってはソフトウェアに関しても最長5年間の契約が可能になり、ハードとソフトを同一期間で支援できる」(小林事業本部長)。

 対応する他社製ソフトウェアは、OSやブラウザ、オフィスソフト、写真・ビデオ編集ソフト、セキュリティソフトなど、21製品としており、「問い合わせの状況をみながら、四半期ごとに見直しを行ない、対象ソフトウェアを入れ替えることになる」(伊田部長)という。

 今回のサービスでは日本固有のはがき作成ソフトなどが入っていないが、今後は要望にあわせて対応を検討する一方、「現場のエージェントが対応できるという場合には、現場の判断で答えることもありうる」(小林事業本部長)と柔軟に対応していく姿勢もみせている。

 さらに、「日本では他国に比べて無線LAN設定に関する問い合わせが多い。こうした問い合わせが多い内容については、データベースの整備などにより、迅速に回答できる体制を整えている」と語る。

 また、上位サポートメニューとなる「プラチナ」では、「ゴールドで提供されるプレミア電話サービスの内容に加え、偶発損害保証をつけており、ハードウェアの落下、水こぼし、盗難時の補償が含まれる」(デル コンシューマー&SMB事業本部マーケティング本部・東田巌秀ブランドマネージャー)という。

 1月17日以降にXPS/Alienwareシリーズを購入すると、これまで同様に、1年間の標準サポートとして「スタンダード」のサポートを付属しているが、これをプレミアム電話サポートの「ゴールド」へアップグレードするには、ノートPCでは最初の1年間で4,000円、デスクトップPCでは、最初の1年間で3,000円の差分を支払えば利用できる。

 「プラチナ」では、それぞれ7,000円、6,000円の差分で提供する。

 また、ノートPCの「ゴールド」の場合、3年契約では2万円、4年契約では29,000円、5年契約では37,000円となる。デスクトップPCでは3年契約で16,000円、4年契約で26,000円、5年契約で35,000円となっている。

プレミアム電話サポートの料金体系プレミアム電話サポートの問い合わせに対応するソフトウェアの一覧

 なお、今後予定されている既存のXPSおよびAlienwareユーザーに対する延長型の料金体系については、「新規購入時の契約とほぼ同等の価格水準で設定を予定している」(小林事業本部長)という。

●サポート強化に向けて陣容を強化

 デルは、今回のコンシューマ向けPCの新たなサポート開始にあわせ、体制を強化してきた。

 従来は、中国・大連のサポート拠点から行なっていた日本のコンシューマ向けPCのサポートを、2011年10月に、XPSシリーズおよびAlienwareシリーズに限定して、宮崎県のデル宮崎カスタマーセンターに完全移管しており、この経験をもとに、今回のプレミアム電話サービスも、宮崎カスタマーセンターから対応することになる。

 また、今後、Inspironシリーズへの対象拡充や、既存ユーザーへのサポートメニューの提供にあわせて、増員を図っていくことになる。

 すでにコンシューマ向けPCのサポートを行なう組織として、プレミアムフォンサポートチームを構成。今後1年で50人以上の体制へと拡充する。

 「1人のエージェントが、ハードウェアにも、ソフトウェアにも対応できるスキルを蓄積したことによって、実現できるのがプレミアム電話サポート。社内での教育を徹底し、準備を進めてきた。デルの全世界のサポート拠点において、常にトップ3の一角を占める高い評価を得ている宮崎カスタマーセンターのノウハウを活用することで、個人向けPCのサポート品質をさらに高めていく」(小林事業本部長)という。

 デルはソリューションカンパニーへの転換を図っている。今回のハードウェアとソフトウェアとの一元サポート体制への強化は、まさにコンシューマPC領域においても、ソリューションという観点での取り組みを加速する動きの1つだと言えよう。

 1月13日に来日した米デルのマイケル・デルCEOは、日本法人の社員に対して、「デルはハードウェアだけを提供するメーカーではなく、エンド・トゥ・エンドでソリューションを提供することができる点が強みである」と説明し、サポート体制の重要性についても言及したという。

 「宮崎カスタマーセンターにおいては、効率的に回答することや、着信放棄率を下げること、1回の問い合わせによって解決するということだけが、エージェントの評価ではない。もちろんこれらの指標も大切だが、もっとも重視しているのは、その対応に満足してもらえているのかという点」(伊田部長)というように、今回のプレミアム電話サポートは顧客満足度を高めるための取り組みだと位置づける。

2012 International CESのインテルブースに展示されたUltrabookのXPS 13

 そして、2012年はデルにとって、XPSへの取り組みが本格化する1年となる。XPSブランドを中核にした製品ラインアップの見直しが進む一方、2012 International CESではUltrabookのXPS 13を発表。米国では2月に、日本では3月に発売する計画を明らかにしている。

 XPS 13では、Ultrabookの特徴を活かして、モバイル環境での活用も増加するとみられており、これにあわせて、偶発損害保証がついている「プラチナ」のサービス契約の増加にも影響することになりそうだ。

 「コンシューマPCユーザーの50%以上の方々に、プレミアム電話サポートを契約してもらいたいと考えている」と小林事業本部長は意気込む。

 コマーシャル向けPCにおける「プロサポート」では、OptiPlexシリーズやLatitudeシリーズへの標準搭載や、Vostroシリーズでの約4割の契約率を含めて、全体の5割以上のユーザーが契約している。コンシューマ向けPCでもこれと同等の契約率に高めたい考えだ。

 「直販サイトにおいて、提供できる製品構成の中に、プレミアム電話サポートをお勧め構成の1つとして提案したり、電話での問い合わせの際の提案に加え、従来から契約しているサポート期間が切れる際の通知での提案、PCを購入したユーザーに対して、ランダムに行なっているアンケートを実施する際の提案。さらにはTwitterなどを利用したソーシャルネットワークによる提案など、さまざまな形で訴求していく考え」(伊田部長)とする。

 こうしてみると、プレミアム電話サービスの開始は、ソリューションカンパニーへ脱皮する同社の方向性と、XPSというコンシューマ向けの中核製品の強化、そして、これまで低迷してきたコンシューマ向けサポートに対する評価を改善するという狙いのもとに実施されるものだといっていいだろう。