大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

なぜオンキヨーは量販店向けPC販売を休止したのか
~2012年はスレートに注力



オンキヨーデジタルソリューションズの菅正雄社長

 「2012年のキーワードは、『スレート、スレート、スレート』。この分野において、リーディングカンパニーとしてのポジションを確実なものにしたい」と切り出すのは、オンキヨーデジタルソリューションズの菅正雄社長。量販店ルートでの販売を休止する一方、法人向けを中心としたスレート事業に注力する。さらに、DLNA対応のワイヤレススピーカーなどのPC周辺機器事業を加速させる考えだ。「オンキヨーの認知度を高めることができる分野に力を注ぎ、その分野における存在感を発揮したい」と語るオンキヨーデジタルソリューションズの菅社長に、2012年のオンキヨーのPC事業への取り組みについて聞いた。


●転換期を迎えるオンキヨーのPC事業
オンキヨーのスレートPC「TW」シリーズ

 オンキヨーのPC事業は2012年に大きな転換期を迎えることになる。

 1つは、スレートを中心した事業構造への転換だ。

 「1981年にIBM PCがデスクトップPCとして登場してから30年、ノートPCが誕生してから20年。そして、スレートPCが登場してから2年を経過した。デスクトップPCがその機能を小型化し、持ち運びを可能としたノートPCへと置き換わり、市場を拡大したように、ノートPCで採用していたキーボードおよびマウスの操作環境から、タッチによる操作へと変化したスレートPCは、かつてのノートPCのような成長を遂げるはず。スレートPCをいち早く国内市場に投入したオンキヨーは、この分野にさらに力を注ぎ、成長分野においてリーディングカンパニーとしての位置づけを、さらに確固たるものにしたい」と菅社長は意気込む。

 同社によると、Windowsを搭載したスレートPC市場における同社のシェアは30%を突破し、国内トップシェアを獲得。「2012年も引き続き、トップシェアを維持していきたい」とする。

2010年9月に発表したWindows 7スレートPC「TW317A5」

 オンキヨーでは、2010年9月に、Windows 7を搭載したスレートPCを3機種発売。さらに、2010年10月にはAndroidを搭載したスレート端末を「Slate Pad」シリーズとして投入。2011年も引き続きラインアップを強化してきた。

 「流通業、製造業、教育分野などを中心に、スレートの導入を開始する企業が増加している。これらの企業では、用途に応じたカスタマイズの要求も多く、ネットワーク機能の選択のほか、防水、抗菌などのハードウェア面でのカスタマイズを施してほしいという声も多い。鳥取県倉吉市の生産拠点であるオンキヨートレーディングを活用することで、こうした要求にも柔軟に応えることができる体制が、当社の強みになっている」とする。

 オンキヨートレーディングでは、法人向け営業部門の体制も強化。陣容の拡大に加えて、「質的なレベルアップを進めることで、業種に特化した提案のほか、システムインテグレータやISV、IHVとの連携を深め、システム商品としての販売も強化していく」と語る。

 菅社長は、「ハードメーカーが提供できるのは、100点満点の50点程度。あとの約50点は、パートナー企業の製品との連動によってカバーすることになる」と語ってきたが、スレートPC事業においても、この考え方を踏襲していくとする。

 オンキヨーデジタルソリューションズでは、2012年2月にも、新たなWindows 7搭載スレートPCを投入することを検討しており、今年も戦略的な新製品の投入によって、市場における存在感を維持する考えだ。

 「2012年は、当社の全PCの出荷台数のうち、半数以上をスレートPCが占める可能性が高い。先行してスレートPCを投入したことで蓄積したノウハウを生かし、スレートPCの販売を拡大していきたい」とする。


●量販店向けは、撤退ではなく休止

 スレートPCに力を注ぐ一方で、デスクトップPCやノートPCのラインアップは絞り込んでいくことになる。

 「なんでもかんでもという形でPCを市場投入していくのではなく、市場の要求に適したPCを開発し、投入していくことになる。結果として、製品数は絞り込まれることになる」と菅社長は語る。

 とくに量販店向けのPCについては、春モデル以降、新製品投入を休止。個人向けのPC販売は、2011年12月に、オンキョーデジタルソリューションズに事業を移管した直販サイトであるオンキヨーダイレクトに集中させる。

 「Windows 8出荷時には、いち早く対応製品を投入したいと考えている。その際もスレートPCが中心となるだろうが、当然のことながら、ノートPCなどのラインアップも視野に入れている」とするものの、「量販店向けについては、オンキヨーならではの独自性が発揮でき、収益が確保できると考えられる製品が投入できる、と判断するまでは休止する。撤退ではなく、あくまでも休止。量販店ルートに流通するPCについては、時間をかけ、競争力のある製品を開発していくことになる」とする。

 これまで、量販店向けの差別化製品と位置づけてきたオーディオ機能に特化したPCも、春モデルでの新製品投入は見送り、時間をかけて再構築する考えだ。

 オンキヨーの個人向けPC事業は、ノートPCやデスクトップPCといったコモディティ製品の戦略とは切り分ける形で、「プレミアムPC」、「パーソナルモバイル」、「CEとの融合製品」、「PC周辺機器」という4つの領域を、差別化する製品領域と位置づけてきた。

 このうち、プレミアムPCとパーソナルモバイルの領域を統合した形で、「スレートPC」に置き換える方針を示す。

 「Ultrabookは、今年春には市場に投入する考えであるが、数多くの企業が参入する領域だけに、他社との差別化が図りにくい。いわば、コモディテイ領域の製品であり、オンキヨーの独自性は発揮しにくい。この分野で勝負するのではなく、独自性がある分野に対して、めりはりをつけた形で事業を推進していく」と語る。

 一方、「CEとの融合製品」および「PC周辺機器」については、継続的に製品を投入していく姿勢を示すが、とくにPC周辺機器では、DLNA対応を前面に打ち出した製品展開を強化する考えだ。

2011年12月に出荷したDLNA対応ワイヤレススピーカーシステム「GX-W70HV」

 2011年12月には、DLNA対応ワイヤレススピーカーシステム「GX-W70HV」を出荷。同製品では、プレーヤーやアンプなどを用意することなく、部屋に好きな場所にスピーカーを設置して、PCやスレートPC、NASの中に収録している音楽を、ワイヤレスで手軽に再生することができる。音楽の再生には、スマートフォンを通じた操作も可能だ。そして、2月には、同製品の上位製品を新たに投入する計画も明らかにする。

 「ネットワーク機能を内蔵したスピーカーは世界初。今後は、ビデオ出力をワイヤレスで行なえるユニットなども製品化し、TVなどに手軽に映像を映し出せるような提案をしていきたい」と語る。

 これらの製品は、引き続き量販店ルートを担当するオンキヨーマーケティングジャパンが販売を担当。量販店での展示販売も行なわれる。

 「この分野は、日本発の製品が投入できる領域。DLNA対応のスピーカーであれば、オンキヨーしかないというイメージを確立したい」と強い意志をみせる。


●サイネージ分野での製品提案も
CESで展示されたコミュニケーションボード

 さらに、オンキヨーデジタルソリューションズでは、サイネージ分野での事業拡大にも取り組む考えだ。

 2011年12月から、32型液晶ディスプレイを採用したデジタルサイネージを製品化したのに加え、米ラスベガスで開催された2012 International CESでは、Windows 7を搭載した20型クラスのマルチタッチパネルディスプレイを「コミュニケーションボード」として発表。マイクロソフトブースに会期2日目午後から参考展示した。コミュニケーションボードは、パーソナル利用だけでなく、店頭での対面販売での用途提案、社内会議やプレゼンテーション用途での活用など、企業向けのビジネスツールとしての訴求を行なっていく姿勢を示した。

 この領域においても事業を加速することになる。


●スレートPCといえばオンキヨーのイメージ確立へ

 こうしてみると、オンキヨーのPC事業における個人向けへの訴求は、オンキヨーダイレクトによる直販でのスレートPC、ノートPC、デスクトップPCおよびPC周辺機器の販売と、量販店におけるPC周辺機器の販売に限定されることになる。

 2007年にソーテックを買収したときには、個人向けPCの比率は約8割。それが現時点では、半分程度にまで減少している。そして、2012年以降は、個人向けの販売比率は2割程度にまで減少することになるとみられる。

 つまり、2012年のオンキヨーのPC事業は、法人向けを中心として、スレートPCの展開を強化。個人向けに関しては、オンキヨーの優位性が発揮できるPC周辺機器を中心に展開していくことになる。

 「スレートPCといえばオンキヨー。ワイヤレスDLNA対応スピーカーといえばオンキヨー、という2つのイメージづくりが、2012年の課題」と、菅社長語る。

 オンキヨーのPC事業は、新たな事業戦略のもとに再スタートを切った。