■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
12月11日まで東京・有明の東京ビッグサイトで開催された第42回東京モーターショー2011 |
12月11日に、東京・有明の東京ビッグサイトで、第42回東京モーターショー2011が閉幕した。
2年に一度で開催されている東京モーターショーは、第28回から第41回まで千葉県千葉市の幕張メッセで開催されており、かつて東京・晴海の東京国際見本市会場で開催されて以来、実に24年ぶりの東京開催となった。
今回の東京モーターショーでは、EVやPHVといった次世代自動車が数多く展示され、ITとの融合といった観点でも、それが進んでいることを感じることができた。
ITインフラを活用して、運転をサポートする各社のサービスが登場し、より利便性を高めていることが、各社の展示でも強調されていた。
中でも、併催されたSMART MOBILTY CITY 2011では、ITとの連動によるさまざまなサービスが紹介されていたのが目立った。
●トヨタ自動車の取り組みSMART MOBILTY CITY 2011を併催し、そこでITとの連動を紹介 |
ITとの融合という点では、トヨタ自動車の展示が特筆されよう。
トヨタ自動車のブースのテーマは、「FUN TO DRIVE, again.」。だが、その一方で隠れたキーワードが「つながる」であったといえよう。
同社が東京モーターショーで配布したプレスキットには、「つながる」という言葉を使ったリリースが目白押しであったこともそれを裏付けよう。
なかでも、ヒトとクルマが「つながる」をキーワードにしたコンセプトカーのTOYOTA Fun-Viiでは、アプリケーションをダウンロードする感覚で内外装の表示を自在に変更。ボディ全体をディスプレイとすることで、外からみても楽しいデザインにリアルタイムに変更。車内では、AR(拡張現実)を使用しながら、雰囲気にあわせて内装を変更したり、走行に必要な情報はナビゲータが立体的な映像で登場し、対話形式で教えてくれるといった工夫が凝らされている。
駆動系のほか、制御系、マルチメディア系の各種ソフトウェアは、ネットワーク経由で常に最新版に保つことが可能で、交差点の死角にするクルマを事前に察知したり、友人の車両と直接コミュニケーションを図るといった機能も備えるという。まさに「つながる」というコンセプトのクルマである。
トヨタの豊田章男社長は、TOYOTA Fun-Viiを「スマートフォンにタイヤをつけたようなクルマ」と表現したが、これまでにはない一歩踏み込んだ「つながる」を提案したクルマだといえる。
トヨタブースでは、こうした未来の「つながる」だけに留まらず、いま実現できる「つながる」についても提案している。
プリウス PHV(プラグインハイブリッド)では、クルマの使い方をスマートフォンやPCなどでサポートする「オーナーズナビゲーター」、スマートフォンを使用して電池残量を確認したり、充電ステーションの検索を行なうといったEV走行をサポートする「eConnect」、クルマから送信された情報をもとにバッテリの状態を分析し、よりよい充電方法や運転方法などを個別にアドバイスする「バッテリいたわりチェック」など、ヒトとクルマをつなげたサービスを開始している。
トヨタが「つながる」をコンセプトに出展したTOYOTA Fun-Vii | スマートフォンなどを操作して、外装を自由に変えることができる | 走行に必要な情報はナビゲータが立体的な映像で登場し、対話形式で教えてくれる |
「つながる」という言葉は、もともとIT産業で頻繁に利用されていた言葉だったが、デジタル家電が登場した2000年以降は、薄型TVなどにもこの言葉が用いられ、オーディオ・ビジュアルの世界では、いまや一般的に使われるようになった。その言葉が、今度は、自動車業界でも使われはじめようとしているのである。
●ITを活用した次世代の自動車トヨタは、東京モーターショー開催前から、ITを活用した次世代の自動車の姿を示していた。
トヨタ自動車では、2011年1月から、同社サイトで、「トヨタスマートセンター20XX~君がいてよかった……」と題した動画を公開している。
これは自動車とITとが融合することで、未来の自動車はどんなものになるのかを示したものだといっていい。
ストーリー仕立ての内容はこんな感じだ。
トヨタでは、コンソールにスマートフォンを置けば自動的にカーナビのディスプレイおよびハンドルと連動するプロトタイプを出展 |
あるビジネスマンが自宅で目を覚ますと、枕元にあるスマートフォンから、電気自動車の充電状況を確認。すると、現在の渋滞情報やこれまでの傾向をもとにして、目的地までどれぐらいの時間がかかるのかといったことを逆算し、自宅を何時頃に出ればいいのか、渋滞を回避するにはどんなルートを通ればいいのかといったことを指示してくれる。
出発予定時間を目標に、事前に車の中でプレ空調を行ない、寒い日や暑い日でも車内を快適な室温を設定してくれる。スマートフォンを通じて、音声で自分の好みの温度に設定することも可能だ。
また、スマートフォンで開錠したのち、自動車に乗るとスマートフォンは車載デバイスとして利用。スマートフォンに蓄積した情報と自動車とが同期して、「マイエージェント」と呼ばれる音声案内を利用し、1日のスケジュールを確認したり、運転中に別の車両が自分の車に接近していることを知らせたり、走行ルートの先に豪雨地帯があるといった情報を知らせてくれる。
豊田章男社長は、「車と自分が語り合うことができる、未来の車」と、これを表現する。
「クルマが自動的に充電し、出発できるように準備してくれること、ストレスフリーで目的地に到着できるルートをクルマがを教えくれること、何時に帰宅するので、それに合わせて自宅の空調を設定しておいてほしいという指示をクルマにすることができる」(豊田社長)というわけだ。
トヨタ自動車は、この分野においては、マイクロソフトとセールスフォース・ドットコムとそれぞれ提携している。
セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長は、トヨタ自動車と協力して進めているTOYOTA friend(トヨタフレンド)を共同で開始するにあたり、豊田章男社長が、ベニオフ会長のサンフランシスコの自宅を訪れた際の逸話を披露。「車はソーシャルでなくてはなくてはならない、人と車が交信できなくてはならない。そして、車が友達になって語りかけてくれるような環境を実現することが必要である、ということを豊田さんと話し合った」と語る。
そして、「トヨタフレンドへの取り組みは、セールスフォース・ドットコムのコアアーキテクチャーを活用しながらも、当社が打ち出すビジョンそのものを変える取り組みとなる。これにより、トヨタも変化させていきたい」とする。
トヨタフレンドでは、自動車の電池がチャージされているのか、車の室温はどうか、燃費はどうか、自動車はいまどこにいるのかといった情報をもとに、利用者に対して、車が話かけてくれる。
空気圧が低いことやメンテナンス時期が近いこと、いまいる場所の近くで電気をチャージできる場所があることなどを示す。
同時に、Twitterを通じてさまざまな情報を得たり、iPhoneからトヨタフレンドを利用し、ネットワークを通じて外から自動車の鍵を施錠することができるという。
これは遠い世界ではなく、すぐそこまできている世界だとベオフ会長は語る。
●今回の東京モーターショーのユニークな試みトヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱の国内自動車メーカー5社のトップが参加したパネルディスカッション(写真提供:Car Watch) |
ところで、今回の東京モーターショーでは、ユニークな試みが行なわれていた。
1つは、12月3日の一般公開日初日に、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱の国内自動車メーカー5社のトップが参加したパネルディスカッション「5TOP TALK SUMMIT」が開催されたことである。
業界を代表する企業のトップが参加して、意見を述べあうというシーンは、どの業界でもあまり見られるものではない。今回の東京モーターショーでは、このイベントが業界関係者の間では注目を集めていた。
もう1つは、同じく各社の経営トップが直接クルマを運転して参加するオープニングパレードである。
残念ながら、これは雨天により中止となってしまったが、各社の歴代の人気車やヒストリックカー、記念車など50台が参加。経営トップが、初公開となるオープンカーを運転したり、オートバイを自ら運転するという予定であり、いわば経営トップ自らが、クルマに乗る楽しさを伝えようという姿勢が見られた。
また、その一方で、今回は耳カーという取り組みも行なわれた。
耳カーとは、業界団体である日本自動車工業会が、エムエム東京、J-WAVEと共同で制作したもので、「どんなクルマが世界を変える?」をテーマに、一般ユーザーからの意見を収集する目的で用意した。
FRP製の耳を取り付けて、クルマが自らユーザーの意見を聞くという姿勢をアピール。耳の内側に設置したICレコーダーで直接ユーザーの声を録音するほか、Twitterでも意見を収集している。
耳カー。「どんなクルマが世界を変える?」をテーマに回答を収集した | トヨタフレンドの取り組みについて説明するセールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長 |
これらの意見は、ラジオ番組で使用されたり、広告やウェブでも使用。さらに、東京モーターショーで行なわれた5TOP TALK SUMMITでも取り上げられ、折りたたみができる自動車がほしい、クルマのカラーを自分の好きなデザインに変えたい、走った後にいい匂いがするクルマがほしいなどといった夢のクルマが話題にのぼった。
若者離れが指摘される自動車業界が、強い危機感を持っていることの表れだろうが、それでも東京モーターショーで自動車各社の経営トップがみせた積極的な活動ぶりには驚く。
●PC業界では……では、これをPC業界に当てはめた時にはどうだろうか。
残念ながら、ここまで経営トップが参加して、業界を盛り上げようという動きはない。
業界横断型取り組みとしては、日本マイクロソフトを中心に活動しているウィンドウズ・デジタルライフ・コンソーシアム(WDLC)があり、商戦ごとに量販店の売り場などを活用した利用提案を共同で行なっているという例がある。
事実、WDLCでは、地デジ化にあわせて推進した「PCで地デジ化」キャンペーンで、当初の業界予想に対して、84万6千台の地デジチューナー搭載PCの販売増加につなげたという実績があり、2010年4月~2011年7月までに144万6千台の地デジPCが国内で出荷された。
だが、これらの活動において、事業部門のトップは共同戦線を取るものの、各社の経営トップが一堂に介して、直接、メッセージを発信するといったことはなかった。
業界横断型のWDLCの活動では、地デジ化で大きな成果をあげたが |
実は、自動車メーカー5社のトップが参加したパネルディスカッション「5TOP TALK SUMMIT」では、テリー伊藤氏が進行を務めるなかで、こんなやりとりがあった。
「自社以外の思い入れのある車はなにか」。
各社のトップが、他社の自動車の名前をあげて、思い入れを語るというのだ。
実際、若いときの思い出話を交えながら、それぞれのエピソードを熱く語るというシーンが見られた。
誰からも、唯一トヨタ製のクルマの名前が挙がらなかったというハプニングはあったが、それでもクルマについて熱く語る姿勢は、自動車が好きな経営者が自動車産業にいるということを示すものであった。
もし同じ質問をPCを発売するメーカー各社のトップに投げかけたときに、ここまで熱く答えることができるのだろうか。
しかも、思い入れのあるPCが見つからず、全員の答えが「iPad」となってしまっては目も当てられない。
自動車とPCを、同じ土壌で捉えられないということは理解しているが、やはり、PC業界にいる経営者は、PCを好きであってもらいたいと思う。