大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

マウスコンピューター、沖縄コールセンター訪問記
〜自社化することで大きく変わったサポート内容



コールセンターを統括する佐藤謙マネージャー

 マウスコンピューターが、2010年1月に、コールセンターを自社運営化してから、10カ月を経過した。沖縄市内に設置した同社コールセンターは、24時間365日という同社ならではの体制を維持しながら、サポート品質を向上することに注力。顧客満足度の向上、リピーター獲得のための戦略拠点としても重要な役割を果たしている。

 同コールセンターを統括するマウスコンピューター コールセンターの佐藤謙マネージャーは、「サポート品質に満足していただくだけでなく、また次も当社の製品を購入したいと言っていただけるような対応を心がけている」と語る。マウスコンピューターがコールセンターを自社運営化してなにが変わったのか。マウスコンピューターのコールセンターの取り組みを、沖縄の地を訪れて聞いた。

●24時間365日のサポート体制を維持する理由とは

 沖縄自動車道を利用して、那覇空港から車で約40分。沖縄市内の北側に、マウスコンピューターのコールセンターはある。

 2011年3月までの高速道路無料化社会実験対象道路となっている沖縄自動車道は、朝夕の出勤時間帯には主要インターチェンジの出口付近が渋滞するほど利用者が増加している。しかも、ETCの普及率が他県に比べて低いという特性もあり、それも渋滞を加速する。渋滞が起きやすいインターチェンジの1つでもある沖縄北インターチェンジを降りると、コールセンターはわずか数分の場所だ。

沖縄市内にあるコールセンターの入ったビル ビルの2階にマウスコンピューターのコールセンターがある
コールセンターの受付 シーサーが置いてあるのは沖縄ならでは

 現在コールセンターは24時間365日体制で稼働している。他社が24時間サポート体制から撤退する中で、同社が24時間体制を維持し続けているのは、夜間の問い合わせがかなり多いためだ。「日中(午前9時〜午後6時まで)が6割に対して、夜間(午後6時から午前9時まで)の問い合わせが4割。夜型の生活を送ってる人や、会社から帰宅後に問い合わせたいというユーザーなど、当社ユーザーならではの特徴もあるだろう」と、マウスコンピューター コールセンターの佐藤謙マネージャーは語る。

 土日の問い合わせも多く、「24時間365日サポート体制に対する認知が進んでいる証」ともみている。夜間、土日の問い合わせがここまで多いのはやはり異例だ。だが、その時間帯の利用がこれだけ多いということは、同社の大きな差別化の1つになっているともいえよう。

 このコールセンターが、今年1月に自社運営へとシフトしてから大きく変化しているのである。

●業務委託の限界から自社運営に踏み切る

 コールセンターの変化に触れる前に、マウスコンピューターが、自社運営化に踏み切った背景について触れておこう。

 マウスコンピューターは、過去にコールセンターを自社対応していた時期があった。その取り組みをベースに、2006年には、親会社であるMCJが、コールセンター業務を行なうウェルコムを100%子会社化し、サポート体制の強化に乗り出していた。その後は、ウェルコムが持つ沖縄の拠点でサポートを行なう体制としていたのだ。

 沖縄県人が持つ、親身になって相談に対応する、優劣をつけずに物事を判断して対応するというホスピタリティ(もてなし)はコールセンター業務には最適だったともいえる。

 しかし、ウェルコムがマウスコンピューター専業のサポート拠点ではなく、従来から通信プロバイダーのアウトバウンド営業などを行なっていた関係などもあり、2008年には出資比率を20%に引き下げ、ウェルコムとは関係会社の位置づけとなった。これにより、マウスコンピューターからの業務委託という側面が強く出るようになったのである。

 「業務委託という内部に踏み込みにくい関係が、逆にサポート品質を落とす結果につながっていた」と、佐藤マネージャーは、その当時を指摘する。

 同社では、埼玉県杉戸の拠点からウェルコムのサポート拠点を管理するという体制をとっていたが、距離的な関係でコミュニケーションが薄くなる一方、契約上、特定の指標達成を優先されることが多く、本質的な顧客満足度の向上を実現することができなくなっていた。

 「当時は受電率(コールセンターにかかってきた電話を、オペレーターが受け取れる率)での条件契約をしていましたが、結果として、多くの件数を取ることが優先されてしまった。受電率は目標値を達成し、つながらないという声はなくなったが、マウスコンピューターのサポートに対する満足度は一向にあがらなかった」

 電話を取ることに集中した結果、「提案切り」と呼ばれる「こうしてみてください」という対応が多くなり、最後まで動作を確認するような時間をかけた対応が少なくなっていたのだ。

 杉戸の拠点からコールセンターのベンダーコントロールを行なっていた佐藤氏がこの問題に気がついたのが2009年11月。そこからの決断は早かった。

 話を聞いた同社・小松永門社長は、コールセンターの自社運営化を決定。翌月には、アルバイト全員とパートタイマーを、マウスコンピューターの傘下に移して業務を行なうことを申し入れ、2010年1月16日には佐藤氏が、3人の社員とともにマネージャーとして着任。早速、自社運営が開始されたのだ。この課題解決に向けたスピード感は驚きだ。

●「サンキュー」、「解決」を徹底する

 佐藤マネージャーは、赴任直後、「サンキュー、解決を徹底してほしい」と、オペレーターに呼びかけた。

 いわば受電率重視からの大きな転換だ。

 「これまで委託元として受電率を要求していた人物が、いきなり沖縄にやってきて、受電率よりも、時間をかけてもいいから質を重視してくれと言い出した。外から来た人間がなにを言い出したんだ、という気持ちもあったのではないか」と佐藤氏は振り返る。

 「半年かけて言い続けた結果、みながその意図を理解してくれた。本来は、そこを大切にしたいという思いが全員にあったのだろうと思う」と佐藤マネージャーは言う。

 佐藤マネージャー自らも、かつてはオペレーターとして仕事をした経験があり、現場の状況をよく理解できる立場にある。また、1月の時点で、すぐさま住民票を沖縄市に移すとともに、コンテナ2台の家財道具と自家用車を沖縄に運び込み、長期に渡って指揮を執る姿勢をみせたことも、スタッフの理解を深めることにつながったのかもしれない。いまも佐藤マネージャーは「春日部ナンバー」の愛車で沖縄市内を走る。

●80%を超える顧客満足度を獲得

 佐藤マネージャーがいう「サンキュー」には、電話対応において、お客様からありがとうという言葉をもらえたのかどうかという意味がある。また、「解決」には、一発で解決することができたのかということを指す。

 実際に社内でその指標を測った佐藤マネージャーは、「あまりの数字の低さにがっかりした」と語る。

 「ありがとうと言われても、それはまだ感謝の意図を持った言葉ではないと捉える人もおり、一概にこの数字だけを評価することはできないが、これをもっと引き上げていくことは、サポート品質を高める基本的な指標」と佐藤マネージャーは位置づける。

 今年10月の最新調査では、「サンキュー」「解決」とも、当初の指標に比べて倍の数値になったが、まだまだ数字を引き上げる必要があるとする。

 だが、別の調査ではこんな結果も出ている。

 マウスコンピューターでは、この10月から、直接お客様からの声を集計するために、サポート終了後のアンケートを実施している。問題解決ができたか、対応はよかったかといった内容のほかに、誰かにマウスコンピュータの製品を推薦したいと思うか、次もマウスコンピューターの製品を買いたいと思うかといった項目も含まれている。

 「アンケートを集計したところ、10月の顧客満足度は100点満点中83点。当初は60点程度と思っていたことに比べると高い評価をもらっている」と佐藤マネージャー。だが、「次の目標は90点」と、すぐに次の高みを目指す姿勢をみせる。

ユーザーからもらった「サンキュー」の例 ユーザーにお願いするアンケートの設問例

 一方で、佐藤マネージャーは、「受電率をないがしろにしているわけではない」とも語る。

 「受電率85%の達成にはこだわっている。85%とは、現在の人員数で、一人一人が丁寧な対応ができるということを基準に、マウスコンピューターが設ける指標です。上期は、猛暑の影響、雷の影響などにより8月に問い合わせが殺到し、受電率が悪化し、結果として82%に留まった。だが、6月には90%を達成するといった成果も挙がっている。今後も、最低で85%の受電率を維持し、徐々に目標の受電率を高める努力をしていきたい」とする。

 質的向上を図りながら受電率を維持するのであれば当然増員も必要だ。「下期は、オペレーターを増員を強化すべく、すでに新人研修を開始している」と、体制拡大にも取り組む考えをみせる。

●自社運営によってなにが変化したのか

 では、コールセンターの自社運営化によって、マウスコンピューターのサポートはどう変化したのだろうか。

 まず佐藤マネージャーが指摘するように、サンキュー、解決を重視した体制へと移行したのは確実だ。

 コールセンター内では、月間の対応回数とともに、サンキュー回数を表示。さらにスタッフ全員が閲覧できる「サンキュー事例フィードバックBBS」を通じて、サンキューの事例を共有する仕組みとしている。サンキューが多いオペレーターを月間表彰する仕組みも用意している。

 一方で、サンキュー、解決の指標とともに、トークマナー、テクニカルスキルのテスト評価、受電回数など19項目の指標を、5段階で評価する仕組みも取り入れ、これをベースにした全体のスキル向上に取り組んでいる。

 入社したばかりの社員は40時間の導入研修を行なった後に、実際の作業をしながら覚えるOn-the-Job Training(OJT)型の教育を開始。オペレーターの対応をモニタリングしたり、スーパーバイザーやシニアスタッフのサポートを受けながら対応したりといったことを行ない、約2カ月で1人で電話対応できるようになる。

社内でのオペレーター向け研修の様子 研修ではハードの分解、組立、インストールといった実習も行なう

 さらに、この10月からは、100時間に渡るスタッフ研修を新たに開始した。ハード、ソフトのテクニカルスキルとともに、トークマナーなどを改めて教育する。「実際に現場に出てみてわかることもある。導入研修とは異なるスキルを得ることができる内容としている」という。

 また、コールセンターの内部を見学して驚いたのだが、オペレーター同士の机の間には、コールセンターでは一般的なパーティションがない。これも同コールセンターならではの仕組みだ。

すべての部屋の出入りはカードで管理されている コールセンターの内部の様子 パーティションが一切ないのが特徴
かなり密度の高い座席の配置だ オペレーター1人あたりのスペース。モニターは1台でそこにサポートに必要な情報を表示する。右側にはアイリバーの製品も 女性のオペレーターの比率は約3割。オペレーター全員の平均年齢は29歳

 同コールセンターの特徴は、オペレーター同士がお互いにコミュニケーションを取りながら対応することにある。それを実現する最良の仕組みがパーティションを取り払うことだったからだ。さらに、スーパーバイザーと呼ばれる社員が、各スタッフの席のまわりを歩き、手をあげたスタッフのところに駆け寄る。この仕組みも特徴的だ。

 「わからないことがあったらすぐに手をあげて聞いてほしいといっている。私も部屋に入った途端に、手をあげたオペレーターに呼び止められる」と佐藤マネージャーは笑う。

 迅速に、適切な対応を行なうために複数のオペレーターとスーパーバイザーが協力しあえる環境としているのである。

オペレーターが手をあげるとスーパーバイザーが近寄っていき支援する スーパーバイザーは歩き回って質問を受けることが主業務となる コールセンター内に設置された状況を再現するためのPC
コールセンターの中には現状を再現するためのスペースを用意。組み込み用のパーツも多いのが特徴 社員全員が携行している社訓5カ条をコールセンター内にも掲示している 私物はすべてロッカーに入れてから入室する
休憩室の様子。以前は応接室に使用していたがスタッフを優先して開放した 休憩スペースはもう1カ所ある

 一方で、自社運営化によって、マネジメントとオペレーターとの距離が大きく縮まった点も大きな変化だ。

 「イレギュラーな状況により、特殊な対応を判断しなければいけない場合にも、従来は、オペレーターからスーパーバイザーにあがり、そこから当社側に確認するという手間が発生していた。これが自社運営化したことでその場で解決できる。従来は、委託を受けたコールセンターの責任として、なんとかこれを電話で解決しようというような苦労をしていたが、それがなくなったことで、オペレーターへの負担が減り、対応時間も短縮できるようになった」という。

 さらに、ユーザーの声を開発現場に吸い上げやすくなったことも見逃せない。

 「多くの人からあがってきた声は報告されていたが、本体とスピーカーの色が少し違うといった指摘や、もう少し静かなファンにならないのかといった少数の意見はなかなか上がってこなかった。こうした細かい声も購買担当者、製品企画、マーケティング部門と共有し、製品づくりに反映できるようになった」という。

●10桁のシリアルナンバーで迅速なサポートを実現
10桁のシリアルナンバーを入れることで、部品構成などが一覧できる

 マウスコンピューターのコールセンターの強みは、先に触れた24時間365日の体制以外にも、いくつかあげることができる。

 例えば、BTO販売という特徴を生かして、PCに付与された10桁のシリアルナンバーが登録されており、その番号だけでユーザーがどんな仕様のPCを所有しているのかがわかる。さらに構成情報をもとに、パーツごとのID管理が行なわれており、それぞれのパーツ単位に落とし込んだ対応も可能になる。

 「マザーボードの最大メモリはどの程度か、エラー情報にはどんなものがあるかといったことをパーツ単位で確認できる。これは他社にはない仕組みだろう」と、佐藤マネージャーは胸を張る。

 あるパーツでは約40件のFAQが一覧表示され、オペレーターはそれを見ながら対応できる。

 FAQは沖縄のコールセンター内にあるCS改善グループと呼ばれる専門チームがとりまとめており、現在3,000件の情報がある。

 「今後は1万件のFAQ情報の整備を目指し、その一部をエンドユーザーがシリアルナンバーを入力すれば閲覧できる形に公開していきたい」とする。

 また、同社製品にハイエンドユーザーが多いという特性を生かしたサービスも一部で開始している。

 「なかには自分でメモリテストをしてメモリが壊れていると指摘するユーザーもいる。また、PCを預けるのは嫌なので、自分で修理をしたいというユーザーもいる。そうしたユーザーにはこちらからパーツを発送し、手順書に従って取り付けていただくといったことも行なっている。正式にメニュー化しているわけではないが、こうした柔軟な対応も当社の特徴であり、自社運営化によって実現できた部分ともいえる」とする。

 今後同社では、さらなるサポート向上を目指して、いくつかのサービスを検討しはじめている。

 サポートウェブページに、10桁のシリアル番号を入力するたけで、製品マニュアルやドライバなどをダウンロードできるサービスを12月にも開始する予定であるほか、初心者ユーザーの増加に伴い、来年度以降にはリモートサービスの導入も検討しているという。

●リピーター獲得の戦略的拠点に

 現在のマウスコンピューターは、PCメーカーとしての立ち位置をより強固なものにしようとしている。

 国内における自社生産体制の構築だけでなく、コールセンターの自社運営に乗り出したのもその表れだといっていいだろう。

 以前の取材で、マウスコンピューターの小松社長は、「中長期的にみて、当社製品のリピーターを増やすことに力を注ぎたい」と語った。

 一度マウスコンピューターの製品を購入してもらったユーザーに、再度、同社製品を購入してもらえる製品づくりを目指しているのだ。

 それを構成する要素として、製品の性能、信頼性、価格といったものは重要な要素だ。そして、サポート体制の充実もリピーター獲得には欠かせない要素となる。

 沖縄のコールセンターの自社運営化はこうした目標を実現するために重要な拠点の1つとなっているのは間違いない。そして、そのサポート品質は着実に高まっているといえよう。