大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通LOOX U開発者インタビュー
〜リアルにポケットに入るマシンはどうやって開発されたか



 富士通が、2010年春モデルPCにおいて、中核的な製品の1つと位置づけるのが、Real Pocket Size PCを標榜する「LOOX Uシリーズ」である。

 ポケットサイズを実現した第3世代となるLOOX Uシリーズは、どうやって誕生したのだろうか。開発に携わった富士通パーソナルビジネス本部PC事業部モバイルノート技術部プロジェクト課長の小中陽介氏、同モバイルノート技術部の小林伸行氏、同PCデザイン技術部の飯島崇氏、富士通デザイン第一デザイン事業部プロダクトデザイン部デザイナーの益山宣治氏に、新たなLOOX Uシリーズ誕生への取り組みについて聞いた。

富士通パーソナルビジネス本部PC事業部モバイルノート技術部プロジェクト課長の小中陽介氏 富士通パーソナルビジネス本部PC事業部モバイルノート技術部の小林伸行氏
富士通パーソナルビジネス本部PC事業部PCデザイン技術部の飯島崇氏 富士通デザイン 第一デザイン事業部プロダクトデザイン部デザイナーの益山宣治氏

−−どんな背景から、新たなLOOX Uシリーズの開発に挑んだのですか。

第3世代目のLOOX U

小中 UMPCとしてスタートしたLOOX Uは、今回の製品で3世代目となります。この3つの世代に共通しているのは、「Windowsシステムを搭載したPCを、持ち運んで利用してもらう製品である」という点です。LOOX Uは、携帯電話やMIDにはない、Windowsならではの機能を体験をしてもらうためのモバイルPCなんです。しかし、第2世代までは、PCが好きな人、PCを理解している人が購入の中心だった。第2世代ではWindowsを外に持ち出すというところまでは実現したものの、第3世代では、それをベースにして、もっと多くの人に、外に持ち出したいと思ってもらえる製品にしたいと考えました。

小林 その点では、第2世代の延長線上で正常進化させるという選択肢もありました。第2世代までは、持ち歩く人が限られるデザインですから、発想としては、もう少し持ち歩きやすいように、薄くしてみるという手もありました。ところが、これまでの延長線上でデザインしてみると、どうも面白味がない(笑)。かなり早い段階で、正常進化の考え方はやめようということがチームのなかでまとまりました。

−−いつぐらいのことですか。

小林 検討会そのものは、2008年の12月頃にスタートしましたが、すぐにその案は消えましたよ。

−−検討会では、まずどんなことをしましたか。

小中 LOOX Uの方向性を決めることに時間を割きました。約3カ月間に渡ってフリーディスカッションを行ない、どうすれば、モバイルPCユーザーが広がるのか、第3世代としての新LOOX Uの立ち位置はどうするのか、第3世代ではコンバーチブルは必要なのか。とにかく議論を行ない方向性を決めていった。

 実は、本来の開発手法は、スペックを決めて、そこから目標とする重量やサイズにするためにはどうするのかといったことを決めていく。ところがLOOX Uではそうした手法をとりませんでした。まず決めたのは、「背広の内ポケットに入ること」ということでした。

−−つまり、男性ビジネスマンをターゲットに据えたと。

背広の内ポケットに入ることを開発目標に掲げた

小林 目安として、30代〜40代のビジネスマンという対象はありました。いわば、格好いいビジネスマンの姿を想定して、そこをメインターゲットとした。しかし、背広の内ポケットに入れば、当然、女性の鞄にも入れることができるようになりますから、女性層の利用も想定しています。実は、ビジネスマンという具体的なターゲットはあるものの、それに固執したものではありません。

小中 トップからの明確な号令は、「持って歩ける端末を作れ」、「持ち歩きたくなる端末を作れ」ということでしたから、前提として考えたのは、「持って歩けるにはどうするか」ということです。ですから、その条件として背広の内ポケットに入るということが、象徴的な考え方となった。じゃあ、ポケットに入るサイズってどれぐらいなのか。ちなみに、ポケットに入るサイズってどれぐらいだと思いますか?

−−具体的な数字は思い浮かびませんが。

小中 私たちも調査をはじめてわかったのですが、ポケットには規格というものがないんです。最初は、紳士服メーカーに問い合わせればわかるだろうという軽い気持ちで考えていたのですが、「規格はありません。すべてバラバラです」と言われて(笑)。これは自分たちで測りに行くしかないということになった。約15人で構成された検討会のメンバーのうち2人が、内ポケットの実測担当になり、紳士服売り場でポケットのサイズを1つずつ調べていった。

 540着もの背広を調べたところ、奥行きと厚さをあわせた外周が130mm以下であれば、91%の背広に入ることがわかった。まず、このスペックが決まりました。また、重量については、持ち運ばれることが多いアイテムを集めて、それを実際に持ってみる。これを内ポケットに入れたら左肩が下がってしまうなぁ、というのを実体験して、そこから500gというところに、1つの境界線があるということが感覚的にわかった。

 こうしたことが決まってから、ようやくキーボードをどうするか、液晶をどうするか、バッテリをどうするか、タッチパネルをどうするかという話がはじまっていったんです。

小型と軽量性へのこだわり 実際にポケットに入るサイズを調査した

−−驚くような開発手法ですね。

小中 誤解を恐れずにいえば、中身はどうでもいい。モバイルで使った感じのフィーリングや、見た目を先に決めようと考えました。もちろん、中身には妥協していませんよ。当然ですが、これは通常の開発手法ではありません。LOOX Uだからこそ、認められた手法だったともいえます。フィーリングを知るために、モックアップもかなりの数を作りましたよ。

−−いくつぐらいのモックアップを作ったのですか。

益山 数えてみたら、12個もありました(笑)。しかも、それらがまったく異なる性質を持ったデザインばかり。仮に、レーダーチャートに当てはめてみるならば、本来、すべての項目で、第2世代を上回るきれいな線が描けるものを目指しますが、モックアップとしてデザインしたものは、どこかは尖っているが、その分、どこかがマイナスになっている部分がある。そんなものばかりでした。

小中 本来ならば、ある程度方向性が決まってから、モックアップを作るのですが、新たなLOOX Uでは、実際に持ってみた感覚を大切にしたかった。ですから、モックアップは非常に大切だった。結果として、2009年4月頃には、モックアップのなかから3つに絞り込みました。

−−どんなものが残ったのですか。

小中 1つは製品化されたタイプのもの。もう1つは徹底的に薄さを追求したコンバーチブルタイプのもの。そして、3つめには、やや大きめで、ワンセルのバッテリをヒンジ部に置いたデザインです。最後まで残ったのが、薄さを追求したコンバーチブルタイプ。ただ、ペン入力においてはコンバーチブルタイプが適していますが、第3世代ではタッチ操作を行なったり、それとともにキーボードとのコンビネーションで入力するといったことも出てくる。コンバーチブルにする必要はないだろうという結論に至ったのです。

益山 今回はデザインとして最初に出したものが、ほとんどそのままの形で製品化まで至っているという点でも異例だったといえます。

小中 いつもはデザイナーの方に泣いてもらうことが多いが、今回はそういったことは極めて少なかったといえます。コストダウンというと、まず最初に「裏面の塗装は黒で」ということになるのですが(笑)、今回は360度デザインが前提ですから、裏から見てもきれいなものを作る。その分、ほかのところでかなり苦労しました。

−−設計手法が逆ですから、製品として完成度を高めていくのは至難の業でしょうね。

飯島 金型を発注したのが6月だったのですが、それまではできるかどうかまだわかりませんでした。

小中 私は七夕ぐらいまでは、まだ不安でしたよ(笑)。タッチパネルの部材が決まったのが7月でしたし、バッテリに関しても、当初予定していたメーカーのものが採用できずに、急遽、別のメーカーと話し合いをして調達した。新たなリチウムイオンポリマーを、このために作るのは時間的にも間に合わないですから、世の中にあるすべてのバッテリを集めて検証しましたからね。

−−中身を妥協しなかったという点では、どんなことがあげられますか。

飯島 液晶パネルの耐久性を高めるために、本来はエアキャップ層を設けるのですが、これも工夫することで、エアキャップ層を削りながら、富士通の基準となっている200kgの耐圧性能を実現した。また、USBの位置についても、左右を手で持ちますから、前面側に設置するといった工夫をしています。

小中 ストレージについても、最後の最後までどうするか検討したのですが、LOOX RシリーズでSSDを採用した経験を生かしながら、これを搭載することに成功しました。

小林 キーボードのレイアウトにも工夫を凝らしています。当初は14.7mmのキーピッチとしていましたが、これを16mmに広げました。より自然な入力ができるようにしています。また、68キーのレイアウトだったものを、75キーにしています。サイズが決まっていますから、キーレイアウトには苦労しました。まるでパズルのようでしたよ。また、キーを押したときにもペラペラ感がないような工夫もしています。

飯島 生産は島根富士通で行なっていますが、工場の方々にもご協力をいただき、量産体制を整えました。製造工程の中では、かなり細かい工程もあるのですが、「LOOX Uじゃしょうがないな」と思っていただいている部分もあるようで、国内生産という品質の高さで、安心して使っていただける製品を提供できる強みがあります。

小中 中身で妥協したところがあるのかといわれると、「ない」というのが正直なところです。中身にはこだわりましたし、バランスのいいスペックが実現できたと考えています。

LOOX Uのスケルトンモデル。部品がぎっしり詰まっている。液晶の脇には15型モデル級の大きなアンテナが内蔵されている 天板側の様子。液晶の耐久性にも工夫を凝らしている
ベースユニット側シートタイプのバッテリを採用しており、薄型化に寄与 LOOX Uは、200kgの耐荷重を達成している。人が乗っても大丈夫だ

−−もし点数をつけるとすれば、自己採点はどうなりますか。

益山 私は80点をつけることができます。デザインの観点でも妥協したところはほとんどなかった。液晶周りを1つの素材で統一したかったのですが、この部分は海外展開する上で、文字を入れ替えたりしなくてはならないですから、どうしても統一できなかった。そこが残念ですね。

飯島 私も80点ぐらいですね。ファンレスにしたかったという部分がありますし、もう少し薄くしたかった。これは次への挑戦です。

小林 私は70点ですね。CPUの性能を向上させ、連続駆動時間を長くしたい。これは永遠の課題ではありますが。

小中 次への期待を込めて、60〜70点といったところです。やはりもっと薄くすることに対して挑戦していきたいですね。私は、新しいLOOX Uを外で持ち歩いてる人を早く見かけたいですね。地下鉄に乗っていて、「あれゲームをやっているのかな」と思って見てみたら、LOOX Uだったというような(笑)。外にいて、「メールを見なきゃいけない」という理由で、LOOX Uを使ってもらうのではなく、なにか知りたいなと思ったときや、なにか情報を入手したいと思ったときに、LOOX Uを使ってもらえるといいですね。外にいて、新たなことをしたり、別のことをやりたいと思ったときの出入口の役割をLOOX Uが果たすことを願っています。

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