■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
経済環境の悪化に苦しんだ2009年。円高、デフレという状況も加わり、長いトンネルの出口はなかなか見えない。
電機大手の業績を見る限り、数字の上では回復基調が見られるものの、詳細を見ると、成長戦略による業績回復ではなく、当初計画を上回る構造改革の進展がそれを支えた格好。言い換えれば、縮むだけ縮んだ状態で、2010年を迎えたわけで、これをどれだけ大きな飛躍へとつなげることができるか、そして、それに向けた万全の準備ができるかが試される年が、2010年となりそうだ。
長いトンネルの出口の先にある成長期に向けた体質改善の総仕上げ、そして戦略的投資を視野に入れながらの舵取りが、2010年における各社共通の課題となろう。
もちろん、2010年もPC産業、デジタル家電産業は激動の1年となるはずだ。さまざまな技術、製品、サービスが登場することになるからだ。
そこで、今年も恒例の言葉遊びで、1年占ってみよう。
では、2010年のキーワードはなにか。
それは、「デスクトップパソコン」である。
ノートPCが市場全体の約7割、コンシューマ向けPC市場においては約8割を占めるなか、マイナス成長を続ける「デスクトップパソコン」が、いまさら今年のキーワードというのも意外だろうが、実は、この言葉のなかに2010年のトレンドが隠されている。
では、デスクトップパソコンの「デ」からいってみよう。
ソニーのストリンガーCEOは、電子ブックリーダーへの積極的な展開を宣言した |
「デ」で示されるのは、「電子ブックリーダー」である。
2009年に登場したAmazonのKindleは、北米で大きな話題になっているのは周知の通り。さらに、2010年には、アップルがこの分野への参入することが予想されるほか、ソニーも経営方針説明会で、2012年度に世界シェア40%獲得を掲げるなど、主要ベンダーが相次いで製品を投入する意向を見せている。これが日本においてどう波及するかはまだ未知数だが、世界的な視野で見れば、2010年の台風の目になるのは間違いないだろう。
デでは、「デフレ」傾向も見逃せない。政府は、日本経済が緩やかなデフレ傾向にあると指摘したが、これはIT業界においても同様で、PCの価格低下はますます進展することになろう。
3Dテレビは、2010年にいよいよ商品化されることになる |
NTTドコモから発売中のAndroidケータイ「HT-03A」 |
「ス」では、薄型TVにおける「3D(スリーディー)」が今年の目玉。CEATECで、パナソニック、ソニー、シャープ、東芝といった主要各社が3D TVの参考展示を行なったが、これがいよいよ2010年には商品化されることになる。価格は通常のTVに比べて2倍近い設定になるようだが、年を追うごとに徐々に下落するのは明らか。家庭用テレビの「3D元年」として、2010年は位置づけられることになる。
「ス」では、「スマートフォン」も注目される製品となる。iPhone 3GSの普及は、2009年の大きなトレンドとなったが、2010年はAndroidケータイが、いよいよ携帯キャリア各社から出揃うことになり、その動向が気になるところだ。そして、マイクロソフトにとって課題となっているWindows Mobileの健闘ぶりにも注目したい。
話題性としては、次世代送電網と呼ばれる「スマートグリッド」が、2010年はかなり頻繁に聞かれるようになるだろう。スマートグリッドにおけるインフラ技術、新サービスの創出などが各社から発表されることになろう。
クラウドサービスは今後大幅な拡大が見込まれている |
空質への意識はますます高まることになるだろう |
「ク」は、やはり「クラウド」ということになる。
クラウド元年が2009年だとすれば、2010年は具体的なサービスが本格的に開始される1年となるのは間違いない。富士通、NEC、日立といった国内ベンダーのほか、IBM、Hewlett-Packard、Dellといった海外ハードベンダー、マイクロソフトやセールスフォースドットコムなどの外資系ソフトメーカーのほか、アマゾンをはじめとするサービスプロバイダーの動きも見逃せない。プライベートクラウド、パブリッククラウド、そしてこれらを融合したハイブリッドクラウドを含めた、各社の具体的な競争が開始されることになる。
クでは、Impress Watchのカバー領域として、もう1つ「空質」をあげておきたい。
2009年は、新型インフルエンザウイルスの流行ということもあり、空質に対する認識が大きく変わった1年だった。個人消費が落ち込むなかでも、空気清浄機は前年比1.5倍という売れ行き。とくに加湿機能を搭載したモデルは、月によって前年比5倍近い販売数量となったほどだ。また、イオン発生機もヒット商品となり、その傾向は2010年も明らかに続くだろう。2010年は、空気にもお金を払う時代の到来となりそうだ。
Office 2010は、パッケージ版、ブラウザ版、携帯電話版をシームレスに利用できるのが特徴 |
「ト」は「統合ソフト」。つまり、マイクロソフトのOffice 2O10があげられる。
マイクロソフトでは、Office 2O10を統合ソフトという言い方はしていないが、調査会社などの分類では「統合ソフト」に含まれるため、ここでは統合ソフトとしておく。
2010年前半に発売が予定されているOffice 2O10は、Word 2010、Excel 2010、PowerPoint 2010、Outlook 2010のほか、新たに追加されるOneNoteなどで構成されるオフィススイート。無償で提供されるブラウザ版が新たに用意されることから、これがマイクロソフトのビジネスにどう影響するかも注目されるところだ。
Twitterに最適化したデバイスも登場するか。写真はシャープのネットウォーカー |
「ツ」では、「Twitter(ツイッター)」が、2010年も引き続き話題となるだろう。
これまでは個人同士のつぶやきそのものや使い方が話題となっていたが、2010年はこれをどうビジネスに生かすか、消費者とのコミュニケーションにどう生かすか、といった視点が加速することになりそうだ。IT業界の枠に留まらない、幅広い業種での活用が見込まれるほか、Twitter利用を意識した端末の投入も増えそうだ。
エコポイント制度も価格下落に一役か? |
「プ」は、「プライス」。つまり、価格下落の進展を指す。
デの項目では、「デフレ」という観点から価格下落を指摘したが、PC業界における価格低下は、2010年もさらに進展するとの見方は業界内では共通の認識。また、価格下落に歯止めがかからない薄型TVも、2011年7月の地デジへの完全移行まで残り1年を切ることや、期間が延長されたエコポイントの終了間際の駆け込み需要が見込まれ、これも価格下落を加速することにつながりそうだ。
では、後半のパソコンについて、どんな言葉が当てはまるだろうか。
「パ」は、「パネル」の頭文字と位置づけたい。
液晶パネルおよびプラズマパネルは、2010年は大きく進化する。例えば、シャープが2009年10月から稼働したグリーンフロント堺で生産するUV2Aパネルは、2010年には亀山工場でも生産される予定であり、プラズマパネルも、パナソニックが尼崎のPDP国内第5工場で、2010年4月から第1期稼働を開始。新たなNeoPDPecoパネルを生産することになる。サムスン電子やLGディスプレイが、中国市場において相次いで液晶パネルの新工場の建設を開始するなどの動きもあり、パネルの進化や、パネルの量産体制に向けた動きもさらに加速するだろう。また、液晶パネルのバックライトに使用されるLEDも、2010年の目玉になることは間違いない。
シャープが2009年10月から稼働したグリーンフロント堺 | パソナニックは、2010年から尼崎でPDP国内第5工場を稼働する |
太陽光発電の需要はますます増加することなる |
「ソ」は、「ソーラー」。太陽電池である。
2009年は、政府や自治体などの補助金制度もあり、太陽光発電システムの導入実績が過去最高となったが、2010年も引き続き旺盛な需要が見込まれることになる。さらに、太陽光発電システムは、駐車場や工場の屋根などへの設置、メガーソーラー発電利用などの大規模活用が進展する一方で、個人が所有する携帯電話にも搭載されるなど、上下方向に幅広く展開されることになる。蓄電池との組み合わせや、エネルギー全体を制御するマネジメントシステムとの連動も見逃せない1年となる。
ネットワークサービスはさまざまなデバイスに広がることになる。写真はiPod touch |
最後は、「コン」である。ここでは「コンテンツ」を当てはめたい。
2009年の潮流として見られたのが、ネットワークを利用したコンテンツ配信がこれまで以上に拡大したこと。iPodに代表される携帯音楽プレーヤーへの音楽コンテンツの配信や、Youtubeやアクトビラなどの映像配信。携帯電話やスマートフォン、ゲーム専用機へのゲーム配信も注目された。この動きは、2010年にはさらに活発化することになる。ソニーがネットワークビジネスを次代の収益の柱と位置づけ、2010年度にはゲームに関するネットワーク事業の黒字化、2011年度にはネットワーク事業全体の黒字化を目指すなど、いよいよ本格的なネットワークサービス時代の幕開けが訪れることになる。
ちなみに、パソコンを「PC」に置き換えた場合、Pは、「パネル」や「プライス」に置き換えることができるが、「C」では、「CULV」をあげておきたいと思う。
新たな需要を創出したネットブックのような市場規模にまでは到達しないだろうが、それでも低価格モバイルノートとして、また、低消費電力性を生かした製品として、どんな製品が各社から登場するかといった点には期待したい。
ところで、キーワードとなった「デスクトップパソコン」そのものだが、2010年はどうなるだろうか。
タッチパネル機能は、デスクトップPCの販売比率を引き上げることにつながった |
市場の主流がノートPCであることには違いはないが、実は、Windows 7の発売以降、一時期にデスクトップPCの比重が増加しているという傾向がある。この原動力の1つが、Windows 7で搭載されたタッチ機能である。一部ノートPCにも搭載されているタッチ機能だが、その多くがデスクトップPC。量販店店頭では、展示されているPCの画面に、やたらとタッチする来店客が増えたという状況からもわかるように、新たなインターフェイスとしてのタッチ機能への期待は高い。マイクロソフトでも、Windows 7における2010年のプロモーションのポイントとして、タッチ機能を前面に打ち出す考えを示している。
タッチ機能をはじめとする新たなインターフェイスを総称して、ナチュラルユーザーインターフェイス(NUI、ニューイ)と呼ぶが、これも2010年に注目されるキーワードになるだろう。そして、タッチ機能やセンサーAPI、音声入力などのとの組み合わせによって、デスクトップPCの注目が改めて高まるかもしれない。
このように2010年も、技術進化と新たな製品、サービスの登場が期待される1年となる。
だが、手放しでの期待感はどこにもない。
確かに、景気回復に期待する声は、昨年よりも強まっているが、多くの業界関係者に共通しているのは、景気が回復しても、これまでのやり方では通用しないという考え方。そのための準備をどけだけできるかが2010年の焦点となる。
業界関係者からいただいた今年の年賀状は、例年よりも「言葉少な」という印象が強かった。
厳しかった昨年を振り返ることを最小限に抑え、そしてトンネルの出口が見えない2010年の展望についても、極力文字にするのを避けた結果なのだろう。
それだけ厳しい環境であるとの認識が浸透していることが伝わってくる。
2010年を、長いトンネルの出口にしたいと考えているのは、まさに業界関係者に共通したものである。