2008年は、いよいよオリンピックイヤーを迎える。 8月に開催される北京オリンピックは、全世界規模で、社会、経済への影響が少なくない。もちろん、電機業界、PC業界、そして、IT業界全体にも、需要動向を含めて大きな影響を及ぼすことになるだろう。 はたして、2008年はどんな1年になるのだろうか。今年も、恒例の言葉遊びで1年を占ってみたい。 今年はズバリ、「ゾロ目」である。 「11」から「99」までのゾロ目が、今年のキーワードとなる。 ●11は電機大手11社、そして802.11n まずは、「11」だ。 11の数字として取り上げたいのは、日本の電機大手11社の動きである。 日刊紙や経済誌では、電機大手を指す場合に、媒体ごとに、いくつかの表現があるが、一般的に、日立製作所、松下電器産業、ソニー、東芝、NEC、富士通、三菱電機、三洋電機、シャープ、日本ビクター、パイオニアの11社を指す場合が多い。 この11社の業績の明暗、再編などが、2008年の1つのテーマとなりそうだ。 2007年末には、薄型パネルを巡って業界再編が始まり、シャープと東芝は、液晶パネルと半導体分野における事業提携を発表。一方、松下、日立、キヤノンが液晶ディスプレイ事業で提携。この動きに象徴されるように、巨額な投資が必要とされるデジタル家電を巡って、今後、陣営のグループ化が進展することになるだろう。
薄型TVを巡る勢力図は、「松下・日立」、「シャープ・東芝」、「ソニー・サムスン」といった陣営に分割されるほか、今後は材料メーカー、装置メーカーを巻き込んだ系列化が進む可能性もありそうだ。 2011年のアナログ放送の停波に向けて、薄型TVの需要に加速がつく1年でもあり、それに伴い、勝ち組、負け組もはっきりしそうだ。
11では、2007年11月からソニーが発売した世界初の有機EL TVが11型ワイド。競合他社の追随は、もう少し先になりそうだが、2008年は、大画面化/長寿命化/コストダウンといった有機ELが抱える課題を解決する技術進化が進展する1年になりそうだ。 もう1つ、11としてはIEEE 802.11nが、2008年の動きとして見逃せない。 IEEE 802.11aやIEEE 802.11gと互換性を持ちながら、100Mbps以上の通信速度を実現。将来的には600Mbpsまで拡充するIEEE 802.11nは、2008年にはいよいよ規格が正式に決定する。 加えて、無線技術としては、IEEE 802.16e、いわゆるモバイルWiMAXに注目が集まることになりそうだ。2.5GHz帯における事業免許が、KDDIなどが出資するワイヤレスブロードバンド企画とウィルコムに対し付与され、いよいよ事業化に向けた動きが開始される。これは残念ながら、ゾロ目にはならなかった。 ●22はセキュリティ
「22」は2月2日から採りたい。この日は、政府が定めた「情報セキュリティの日」。2006年2月2日に「第1次情報セキュリティ基本計画」が決定したことから制定されたものだ。つまり、22は、セキュリティを示す数字となる。 2008年も、2月1日から2月29日まで、「みんなで『情報セキュリティ』強化宣言! 2008」が、86の企業/団体が参加して開催される。 ネットの脅威は、年々複雑化、悪質化しているのは周知の通り。ユーザーは、これまで以上に、注意と対策が必要なのは言うまでもない。 一方、企業における情報セキュリティ投資も引き続き活発化している。 IDCジャパンによると、セキュリティ市場の成長率は鈍化するものの、2008年も拡大を続けると予測。「情報漏洩事件やコンプライアンスに対する認識の高まり、日本版SOX法などを要因にセキュリティ市場は拡大を続けている」と分析している。 だが、その一方で、「大企業では投資が一段落して市場の成長率が低下する可能性が高い。セキュリティ市場がさらなる成長を続けるには、中小企業に対する明確なソリューション提案、企業規模に合わせたサービスメニューの提供、セキュリティ製品のユーザビリティと可用性の重視など、セキュリティベンダーが行なうべき方策は数多くある」と、IDCでは提言している。 ●33は市場成長 「33」には、いくつかの統計数字から導き出せる。 1つは、先頃、英Informaが発表した全世界の携帯電話総契約数が33億件に達したという数字である。この数字は、携帯電話の契約数が、世界人口の半数を突破したと捉えることができる数字だ。 日本においては、新料金制度の導入によって、その影響が注目される1年となる。 新料金制度では、端末価格と通信料金を分離表示。これにより、0円や1円で販売されていた端末価格が、数万円に跳ね上がることで初期購入時のコストが上昇。業界筋では、携帯電話端末の出荷台数が減少するとの懸念がある。 また、Appleの携帯電話端末「iPhone」が、2008年には日本に上陸すると見られており、これに多機能型携帯電話市場が顕在化するかどうかも興味深い。
また、米IDCが発表した2007年のノートPCの全世界における成長率が33%増となったことも見逃せない。出荷台数は1億1,030万台と初めて1億台を突破した模様だ。 2008年も、ノートPCは、25.6%増と引き続き高い成長を維持すると期待されており、過半数を突破する模様だ。 日本のPCメーカーが生む、日本の市場が育てたノートPCが、世界のPC市場の過半数を占める日が近づいているのだ。 ●44は節目、米大統領選挙、IE7 「44」は、IBMが最初のメインフレーム「System/360」を発売してから、2008年が44年目を迎える年にあたるというところからひいてみたい。 メインフレームそのものは、JEITAの出荷予測でも明らかなように、2007年度見込みの820台、1,653億円から、2008年度予測は780台、1,571億円と減少傾向にある。 だが、市場が拡大しているIAサーバーでは、2008年度には7%増の510,100台の出荷が見込まれ、金額ベースでも単価下落のなか、3,406億円と前年実績を上回るものと予測している。 「これまで部門ごとに分散導入されていたサーバーが、上位機やブレードサーバーなどに集約されていくと考えおり、今後のシステム単価は上昇傾向にある」と、JEITAではシステム単価上昇を予測する。 IDCジャパンでも、「x86サーバー市場は、2007年は減少すると見ているが、2008年からはプラス成長に復帰すると見込んでいる」と、2006年~2011年の年間平均成長率は3.5%と予測している。 エンタープライズ分野においては、2008年には国内におけるSaaS市場の拡大が見込まれる。これも、IDCジャパンによると、2007年のSaaSおよびASPの導入率は5.8%に留まっているものの、今後の利用に前向きな企業は45.6%。この数値からも、2008年のSaaS市場拡大が見込まれよう。SaaSの本格化によって、エンタープライズ市場は大きな変換点を迎えることになりそうだ。 一方、予備選挙が始まっている米大統領選挙も、第44代大統領の選出と、やはりゾロ目である。 大統領選の行方や、昨年来のサブプライムローンの問題、さらには原材料高など、米国経済へ影響を及ぼす要素は、そのまま日本のエレクトロニクス産業、ICT産業にも影響は与えることになる。 アイオワ州党員集会の予備選挙では、オバマ氏が勝利し、次期米大統領の行方が混沌としてきたことで、その行方を注視する日系企業も少なくはない。
今年に入って44日目となる2月13日には、マイクロソフトがInternet Explorer 7(IE7)日本語版の自動更新を開始する。この動きは、ソフトウェアの世界では大きな節目といえるものだ。 現在、IE6を利用しているユーザーが、ほぼ強制的ともいえる形でIE7へとバージョンアップされることになるからだ。IE6を利用している企業では、一夜にして、ユーザーの利用環境がIE7へと自動更新され、ヘルプデスクが混乱するという可能性があるとの指摘もあるほどだ。マイクロソフトでは、自動更新をブロックするツールも提供することから、事前に回避する手立てを取ることは可能だ。 だが、これは、従来のサービスパックによる強化とは異なり、マイクロソフトが主導権を握った形でアプリケーションをバージョンアップするものともいえる。これまでのものとは意味合いが違う。これが混乱という形になるのか、それともスムーズに乗り越えるのか。44日目を注視しておきたい。 ●55はビル・ゲイツ氏の誕生年とアクティブシニア
「55」は、'55年生まれのビル・ゲイツ氏を挙げておきたい。 今年7月にMicrosoftの経営の第一線から退くことを発表しており、その後は、同氏が創設した「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」の活動に力を注ぐことになる。 ラスベガスで開催される米CESでは、長年続けている基調講演に登壇。それも、今年で最後と言われているが、今後もMicrosoftの会長として残ることから、引き続き、基調講演は続けるのではないかとの見方も出ている。 とはいえ、ゲイツ氏が第一線から退くことで、1つの時代が終わるのは確か。'75年4月4日のMicrosoft設立から33年目という、これもゾロ目での大きな変革点といえる。 55歳以上と定義されるアクティブシニア向けのPC需要の顕在化も、2008年の国内PC市場においてはキーワードの1つ。マイクロソフト、インテルなどのメーカーが音頭を取って、シニア向けPCの仕様策定やシニア需要顕在化のための施策を展開している。2008年にはシニア向けPCが、いくつかのメーカーから登場するかもしれない。 ●66はTV生産規模
「66」では、2008年に見込まれる日系企業のTVの生産規模が6兆6,000億円に達することを挙げておきたい。 これは、先頃、社団法人電子情報技術産業協会が発表した予測値によるもの。さまざまな電子産業製品品目のうち、全世界における日系企業のシェアが最も大きい分野でもある。 大画面化や薄型化、フルHD化といった付加価値で日系企業が先行する分野でもあり、とくに2008年は薄型化が進展するものと見られる。 シャープ、日立製作所、日本ビクター、松下、パイオニアと主要メーカーが2cm台から3cm台の超薄型化に取り組んでおり、これによって壁掛けTV利用を促進するなど、新たな利用シーン提案にも加速がつきそうだ。 ●77はエコロジー 「77」は、環境問題としたい。というのも、地球温暖化を主要テーマに、先進国によって議論が行われる北海道洞爺湖サミットが、7月7日から3日間に渡って開催されるからだ。 自動車産業では、トヨタ、ホンダをはじめする主要メーカーが、数年前から環境対策に積極的だったが、2007年には、松下、ソニーが環境をテーマに、社長自らが出席する形で会見を開くなど、電機大手各社が、環境対策への取り組みを加速。IT分野においても、グリーンITの議論が活発になり、サーバーやPCの低消費電力化が叫ばれており、コンピュータメーカーにとっても環境問題は避けては通れない問題となってきた。
AMDが提唱している「ワット性能」や、ひまわりで訴求するIntelの45nmプロセスによるCPUの低消費電力化も、ますます注目される取り組みとなりそうだ。 PCメーカーでは、CPUによる消費電力の削減はもとより、化学物質の使用削減、再生マグネシウムや再生プラスチックの利用、生活環境に配慮した静音設計といった考え方を盛り込んでいる動きも見逃せない。 2008年には、エコPCと呼ばれる製品も登場することになりそうだ。 ●88は北京オリンピック
「88」は、やはり8月8日から開催される北京オリンピックを挙げたい。 日本代表選手の活躍や、世界のトップアスリートの真剣勝負は、まさに2008年の最大の世界イベントにふさわしいものだ。 期間は、2008年8月8日から24日まで。開会式は、中国現地時間で、午後8時8分からスタートと、まさにゾロ目だ。 振り返ってみると、2004年のアテネオリンピックでは、デジタル化、薄型化がキーワードとなり、アナログブラウン管TVからの買い換えを促進。薄型TVの世帯普及率は約12%と2桁に乗せた。また、2006年の冬季トリノオリンピックでは、30~40型台の大画面TV需要を促進。世帯普及率は約3件に1件となった。業界筋では、北京オリンピックによって、薄型TVの世帯普及率は7割にまで拡大させたいとの期待がある。 地上デジタル推進全国会議が打ち出した普及目標では、北京オリンピック開催までに3,600万台、2,400万世帯への普及を目指すという。なお、2007年11月末時点での地上デジタル放送受信機の累計台数は約2,772万台となっている。
一方で、オリンピックイヤーに毎回苦戦しているのがPC。アテネ、トリノともに、前年割れという結果に終わっている。 デジタル家電に需要が流れているのがその理由だが、NECや富士通などの主要PCメーカーの間からは、「北京は、アテネ、トリノとは状況が違う」と、リベンジに燃える声が聞かれる。 PCの出荷構成比において、ワンセグあるいは地上デジタルチューナを搭載したPCの構成比が上昇していること、また、リビングのPC需要では太刀打ちできないとしても、個室のTVとしての需要が獲得できるとの読みがあるからだ。 各社が投入した春モデルにおいて、個室需要を狙ったPCの出荷が相次いでいることからも、PCメーカーが、北京オリンピック需要において、リベンジに燃える姿勢が見え隠れしているといえよう。 2007年は、Vista発売というトピックスを擁しても需要を拡大できなかったPC業界が、2008年は北京オリンピック需要によって、個人向けPC事業をどこまで伸ばすことができるだろうか。 マイクロソフトでは、ウィンドウズデジタルライフコンソーシアム(WDLC)を設置。ここにPCメーカーやソフトメーカー、周辺機器メーカー、販売店のほか、放送事業者や音楽関連企業など48社が参加して、業界の枠を越えて、家庭におけるPC利用の提案を行なう考えだが、この成果にも注目したい。 ●99は次世代光ディスク 「99」は、次世代光ディスクの争いを挙げたい。
2007年10~11月の次世代光ディスクレコーダの販売実績におけるBlu-ray Disc(BD)陣営(ソニー、松下、シャープ)のシェアは98%。だが、データを細かく見てみると、11月第1週から第3週にかけてのBD陣営のシェアは99%となっているのだ。 2007年12月に入ってからは、東芝が「RD-A301」の投入により、HD DVD陣営(東芝)が約6%にまで巻き返したが、やはりその差は歴然となっている。 1月5日には、ワーナーブラザースが、HD DVDによるタイトル発売を取りやめ、BDに一本化すると突如発表。HD DVDプロモーショングループは、CESで予定されていた会見を中止するという事態に陥った。 年初から波乱の幕開けとなった2つの陣営の争いは、2008年には決着がつく可能性もありそうだ。 このように、2008年も話題には事欠かない1年となりそうだ。 そして、ここには示されない予想だにしない、驚くようなことがあるかもしれない。 いずれにしろ、ICT業界、電機業界が大きく変化する1年になることは間違いなさそうだ。
□関連記事 (2008年1月7日) [Text by 大河原克行]
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