大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「出雲の国」で生産される富士通のノートPC



 例年恒例となっている島根富士通におけるPC組立教室が、今年も開催された。

 それにあわせて、同社では、ノートPCの生産工程を公開した。

 本誌でも島根富士通の生産工程の様子は何度となく紹介しているが、今年の場合、富士通が目指している年間1,000万台生産に向けて、中核的役割を担う工場としての進化を果たそうとしている様子を感じることができた。

 島根富士通の最新の様子を、写真を中心に紹介しよう。

●「出雲の国」で生まれるノートPC

 島根富士通は、島根県斐川町にある。出雲空港から車で約15分。出雲大社からも車で約30分という距離にある。

 いわば、日本の神話のふるさとであり、神々の国である「出雲の国」で生まれているのが、富士通のノートPCということになる。

 今後、世界への広がりを目指す富士通のPC事業において、出雲で生まれるノートPCは、日本を代表するPCであるという位置づけを得る上で、イメージにはぴったりの場所ともいえるだろう。

 '89年に設立し、'90年10月に操業した島根富士通は、現在、年間約200万台のノートPCを生産。一日平均13,000台から15,000台の生産が可能となっている。

 生産しているのは、個人ユーザー向けのFMV-BIBLO、法人向けのFMV-LIFEBOOK、タブレット型のFMV-STYLISTIC。2008年度の同社の売上高は1,593億円となっている。

 18万平方mの敷地には、2階建て23,000平方mを誇る生産棟を2棟持ち、A棟1階ではプリント基板の製造、2階では個人向けPCなどの生産。B棟1階では部品倉庫および出荷倉庫、B棟2階では海外向けPCなどの生産を行なっている。正社員数は650人、外部協力会社などの従業員が700人という体制で、マザーボードの生産から、最終組立、検査まで、国内で一貫したノートPCの生産を行っている。

 では写真で生産ラインの様子を見てみよう。
 

出雲の国に立地する島根富士通島根富士通は、島根県斐川郡の静かな田園地帯の中にあるA棟1階のプリント基板製造ライン。6本のラインと、1本の試作用ラインを持つ。月曜日から土曜日まで毎日20時間の稼働
バーコード印刷機。まず最初にプリント基板にパーコードを印刷し、すべての工程を管理するソルダクリーム印刷機。基板パターンを画像認識し、クリーム状のハンダを高精度に印刷する。約6,000カ所のフットパターンに印刷するクリームはんだの調達は、自動販売機を活用する。販売機の中はベンダー側の資産であり、購入した時点で島根富士通の資産となる。これを必要量だけ投入する
クリームはんだメタルマスク。基板のハンダ印刷の精度を高めるためには、メタルマスクの完成度が重要だQFP装着機。高速マウンターによって部品が装着される。ハンダ印刷や部品実装における各種パラメータの最適化も工場のノウハウとなっている
CPUなどの部品。これがプリント基板に装着される。BGA部品はアンダーフィル塗布という手法が用いられ、耐衝撃性などを高める。機械が停止しないように一定在庫を確保している
窒素リフロー炉。窒素雰囲気によりハンダ付けが行なわれる最終検査を待つプリント基板SAT(Semi Automatic Tester)を使用し、完成したプリント板を電気試験により全数検査する
プリント基板の最終試験工程では目視による検査も行なわれるこちらはリペア工程。最終検査ラインの横に置かれている生産されたプリント基板。これはNFシリーズの基板。10枚ずつ箱に入れられる
LOOX Rシリーズの基板。プリント基板(上)に部品を実装し、余計な部分を切り取りとる(下)生産されたプリント基板は組立工程からの引き取り指示で出荷されるA棟2階のノートPCの組立ライン
部品の在庫倉庫。先入れ、先出しの体制となっている部品はB棟1階にも入庫されている水すましと呼ばれるスタッフが部品を調達し、定期的にラインに投入する
標準的な生産ラインは13人体制。LOOX Uは19人で生産。ベルトコンベアで製品が移動して、完成していくことになるマザーボードは1階のプリント基板製造ラインから、組立ラインに投入まずは基板にファンなどを装着する。プラスチックで作られた透明な治具(じぐ)があちこちで利用されている
ベースユニットに基板を装着したところ
細かな配線部分などを処理しながら、液晶ディスプレイ部を組み立てる。
ここで液晶がラインに投入される。従来は9人体制だったが、液晶ディスプレイの組立工程をインライン化することで13人体制としている
ベースユニットのカバーがつけられる。指紋認証ユニットも装着されるここでキーボードを装着して、基本部品の装着はほぼ完了
HDDの組み込みは一番最後となっている背面部からネジを使って全体を固定。バッテリーを装着して完了。その後、ラベルを貼って組立のすべての作業が終了。ラベルはデジタルピッキング方式を採用し、間違いを防止。さらに、ラベル検査機で曲がりなどもチェックする
完成したFMV-BIBLO NFシリーズランニング試験を行なう。約1時間のエージングと試験ソフトをインストールしてのテストを全数で実施続いてソフトをインストール。個人向けPCではアプリケーションが多いため30分程度かかる。終了すると○印の表記
試験が終了すると梱包ラインに運び込まれる本体とともに、マニュアルなどを梱包する梱包が終わったFMV-BIBLO NFシリーズ。このあと出荷される
なお、企業向けに実施される業務ソフトなどのインストールサービスはカスタムメイドプラスセンターで実施される。個別の顧客情報が取り扱われるため入室は厳重に管理されている

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(2009年 8月 10日)

[Text by 大河原 克行]