大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
「MADE IN TOKYO」は昭島から日野へ!
~日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークを独占初公開
2016年10月17日 06:00
日本HPは、「MADE IN JAPAN」を実現する東京都昭島市の昭島工場を移転。2016年6月から、東京都日野市に、日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークを開設し、「東京生産」を継続している。新たな生産拠点で作られたPCには、引き続き、「MADE IN TOKYO」のシールが貼付され、日本HPならではの高い品質が保証されていることを示す。
日本HPでは、このほど、日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークの様子を、本誌独占で初公開した。そこでは、大幅な効率化が図られるとともに、品質面においても厳しいチェックが進められており、日本HPがこだわる「東京生産」を実現する新たな拠点がスタートしていた。日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークの様子を紹介する。
東芝日野工場跡地の拠点で東京生産を維持
JR中央線豊田駅から車で約5分。平山工業団地にある三井不動産ロジスティクスパーク(MFLP)日野の中に、日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークは位置する。
中央自動車道の八王子インターチェンジから約3.5km。国道16号線や20号線にも近い、交通の便にも恵まれた環境に、2015年10月に完成したばかりの建物だ。もともとこの場所は、東芝日野工場があった場所で、携帯電話を生産していた経緯がある。
日本HPは、数年前から、昭島工場からの移転を検討していたという。
日本HPの岡隆史社長は、「昭島工場からの移転は、日本HPと日本ヒューレット・パッカードへの分社前から検討をしていたもの」と前置きし、「昭島工場は、既に20年近くが経過した建物であり、設備が古くなっていたこと、もともと工場として作られた建物ではなく、1階から4階までのフロアをまたいだ形で運用しなくてはならなかったこと、工場とは別に部品倉庫(東京都八王子)と完成品倉庫(千葉県成田)をそれぞれ有しており、拠点が分散することで物流面での課題があった。さらに、今後の日本におけるPCおよびプリンタビジネスの拡大に向けて、余力を持った体制へと移行する狙いもあった」とする。
もちろん、2015年8月に行なわれた日本HPと日本ヒューレット・パッカードの分社化も影響している。
昭島工場は、もともとはサーバーの生産拠点としてスタートしており、その後、PCの生産を開始。直近では、昭島工場の約45%の面積をPCの生産で活用していた。
だが、別会社となったことで、サーバー生産を行なう日本ヒューレット・パットードと、PCの生産を行なう日本HPの共用部分の活用をどうするかといった課題があがる一方、それぞれがより自由度の高い生産を行なうには、生産体制を分離した方がいいと判断もあった。そこで、まずは、日本HPが昭島工場から離れ、新たに日野に生産拠点を移転することにした。
その点では、これまで数年に渡って検討していた移転プランが、分社化によって、一気に加速したとも言えるだろう。
日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークは2016年6月から稼働。現在、約5カ月を経過したところだ。
ちなみに、現時点では、日本ヒューレット・パッカードは、既存の昭島工場で、東京生産の体制を維持。今後、新たに生産体制を強化することになりそうだ。
既に15%以上の生産効率化を実現
日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークは、三井不動産ロジスティクスパーク(MFLP)日野の3階フロアの約半分を使用。面積は19,000平方mの規模を誇る。
「19,000平方mの広さは、昭島工場のPC生産ラインおよび関連エリアと、2つの倉庫をあわせた面積とほぼ同じ」(日本HP サプライチェーンオペレーション本部・近藤和豊本部長)とする。
生産ラインの数は、昭島工場と同じ8本とし、全ての生産ラインでデスクトップ、ノートPC、ワークステーション、タブレットの生産が可能であり、1台ずつ異なる仕様のPCを生産できる混流ラインとしている点が特徴だ。
だが、「同じ生産ライン数でありながら、生産数量は昭島工場に比べて、生産数量は15%増となっている。7ラインを動かすだけで、昭島工場と同じ日産6,000台を超えることが可能になる」(日本HPの近藤本部長)と話す。
昭島工場時代には、3つの拠点を合わせて約600人体制で稼働していたものが、新体制では拠点統合の成果もあり、約500人体制で運用しているという。
昭島工場に比べて、これだけの効率化が実現されている背景には、部品倉庫、生産、完成品倉庫がワンフロアで構成されている点が大きい。これまでは4階の部品倉庫から3階の組み立てラインに部品を移動させたり、完成したPCを1階の配送口に移動させたりするために、エレベータなどを使用していたが、新たな拠点では横移動で済むため、移動にかかる負担が少ない。また、離れた場所にある倉庫からの部品供給のためのトラック輸送がなくなるというコストメリットもある。
さらに昭島工場の生産ラインは、フロアの制限もあり、生産ラインが複雑な形状となっていたが、新工場では、組立から検査、梱包までが直線で構成されるため、工程における無駄な移動や、余計な人の動きが少ない。こうしたことも生産工程における効率化につながっている。
そして、シンプルなライン構成は、今後のライン拡張のスペースを生むことにも繋がっている。さらなる生産ラインの増設も可能だという。
「昭島工場の体制のままでは、生産キャパシティは、既に限界に到達しており、生産ラインの増設は難しかった。生産キャパシティに余裕を持つことで、品質や納期に対してもプラスの効果が出ると考えている。時速300kmを出すことができるクルマが100kmで走るのと、120kmしかでないクルマで100kmを出すのとでは、クルマの安定感が違う。生産工程も、キャパシティに余裕を持つことで、同じ効果が生まれるはず」としている。
今後、新工場では、昭島工場に比べて、20~25%の生産効率化を目指し、日産8,000~9,000台規模の実現を目指す考えを示す。さらに、カスタマイズについても、現在、CTO比率が85%という、世界的にも高い日本でのカスタマイズ率に対応しながら、よりきめ細かなカスタマイズ対応が行なえるように進化させていくという。
また、納期についても、現在、5営業日としているが、今後は、最短で3営業日で納品できる体制づくりを目指す姿勢をみせる。
こうした新たな指標に挑むことができるようになったのも、新たな生産拠点への移転が背景にあることは間違いない。
グローバル共通の生産システムを導入
新工場における新たな取り組みとして、もう1つの大きなポイントが、HPが全世界で展開しているグローバル生産システムの導入を図った点だ。
もともと昭島工場でのPC生産がスタートした際には、当時のコンパックが買収した日本DECから引き継いだ東京都あきる野市の生産拠点の仕組みをベースに稼働。さらに、直販ストアである「HP Directplus」との連動もあり、日本独自の生産システムを開発し、採用してきた経緯があった。それが、長期間に渡り活用されてきたのだ。
だが、新工場の稼働に伴い、HP.incのグローバル製造パートナーであるEMS(電子機器製造受託サービス)のセレスティカと連携。日本ではセレスティカ・ジャパンと連携して、グローバル共通のシステムを導入することになった。
これにより、部品調達や保管、供給などに関する点でも、グローバル標準の仕組みを採用することになり、運用の効率化とともに、共通仕様によるさまざまなメリットを享受できるとしている。
新工場の効率化をドライブする、重要な変更の1つだといっていいだろう。
効率化、品質向上を実現する新生産ラインを見る
新工場の生産ラインでは、厳しい検査を行ないながら、「MADE IN TOKYO」ならではの品質を実現する工夫が随所に盛り込まれている。
生産ラインは、組立、検査、梱包がほぼ一直線となっており、生産する品目によって組立ラインは6人~10人で構成。セルライン方式と呼ぶ仕組みで生産し、それぞれのラインに管理者がついて、安定的な稼働を支援する。
もともと日本HPの東京生産では、CTOが85%を占めるというように、一品一様のモノづくりが主体となる。「同じ仕様のPCは2台だけ」というモノづくりが求められるため、生産体制もそれにあわせたものになっている。
では、新工場の生産ラインをデスクトップの生産を例に紹介しよう。
基本的な仕組みは、中国のODMで生産されたベースユニットに対して、それぞれの仕様に合わせて部品を組み込むというものになる。生産ラインに投入する前に、全てのベースユニットを目視で外観検査を行なう。そののちに、検査を通ったものが、生産ラインに投入され組み立てが開始されることになる。ちなみに、HP Elite x3 PCタブレットのように、完成品として日本に入荷するものは、初期ロットに関してのみ、全量を開梱して検査を行なうことになる。完成品として、そのまま国内市場に出荷される全ての製品も、1度、日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークを通ることになる。
生産ラインでは、受注データをもとに、1日の生産量のうち、筐体が同じものを、可動式のラックに搭載。これを組立ラインに投入する。生産される数量が日によって異なるため、1つのラックに搭載される筐体の数はまちまちだ。
最初の工程では、筐体にシールが貼付されるところから始まる。
このシールにはバーコードが印刷されており、ハーコードはその後の生産工程において、正しい部品が装着されているかどうかといった点で活用されるほか、出荷後も、どのロットのどの部品が、そのPCに搭載されているのかを確認することができるという。
シールが貼付された筐体は、中国のODMで生産された状態でラインに投入され、そこから、中に入っているさまざまな部品をトレイの上に取り出す作業が行なわれる。さらに、電源コードをはじめとして必要な部品が一緒にトレイの上に並べられる。デスクトップでは筐体を置いたトレイと、部品を置いたトレイの2つがセットとなって、組み立て作業が行なわれることになる。
部品がセットされたトレイは、実際の組み立てに入り、ここで、マサーボードを装着し、CPUやメモリ、HDDや光学ドライブなどが組み込まれる。これらの部品は、同じフロアにある部品倉庫から可動式ラックで供給される。
組み込み作業は、正しい部品が装着されているかどうかを、バーコードを使用して確認しながら行なわれている。
なお、企業ユーザーからの要望によって、社内管理用のシールを貼付するサービスも行なっている。組み立てラインの中に専用のラベルプリンタを用意しており、ここから印刷して企業ごとの管理シールを貼付する作業も行なう。日本の企業ユーザーに対応したサービスの1つだ。
部品が装着されると、最後に目視が外観をチェック。作業中に傷がついていないかどうかを確認する。これで組み立て工程は完了だ。
続いて、初期動作試験を行なう。
ここで初めて電源を投入し、専用のテストプログラムを使用して、基本的な動作をテスト。このテストプログラムは、グローバル共通のものを採用しているという。PCの構成によって異なるが、初期動作試験は、約15分から1時間程度で終了する。
続けて行なうのが連続動作試験とソフトウェアのインストールである。
ここでは、電源とケーブルと接続するだけで、それぞれ個別の仕様ごとに異なるソフトウェアがインストールされる。連続動作試験とソフトウェアのインストールは、米国のデータセンターと繋がって、進行を管理しているという。企業ユーザーごとに異なるソフトウェアのインストールが可能であるほか、ネットワーク設定など、1台ごとに異なる設定対応も可能だという。
連続動作試験とソフトウェアのインストールにかかる時間は2時間で終わるものもあるが、なかには24時間をかけて実施するものもあるという。
ここでユニークなのは、移動のために可動式ラックを利用している点だ。デスクトップやノートPCは初期動作試験環境には手持ちで移動させているが、ワークステーションのように重量がある製品は、組立ラインから可動式ラックに乗せて移動。そのまま検査を行なう。また、連続動作試験とソフトウェアのインストールを行なうラックも可動式となっており、検査が終わったものは、そのまま梱包ラインへとまとめて運び込まれることになる。
梱包ラインでは、付属品とともに梱包されることになる。付属品もバーコードによって管理。それぞれのPCで異なる付属品を正しく梱包する。
抜き取り検査で品質を維持
実は、日本HPでは、高い品質を維持するために、組立後にも品質検査を実施している。
1つは、振動試験機を用いた振動テストだ。これは、最初の完成品となった1台を、専用の振動試験機にかけて、チェックを行なう。30機種の製品を生産すれば、最初の30台の製品が全て振動試験機でチェックされる。この試験では、約20分間に渡って振動が続くが、これによって1,000kmの距離をトラック輸送した場合の振動を再現できるという。東京から北海道や九州へ輸送した場合にも、振動によるトラブルがないことを保証できるという。
もう1つは、抜き取り検査である。
コンピュータにより、ランダムに選ばれた完成品を拭き取って開梱。梱包状態や、製品の外観、テストプログラムを使用した再検査、付属品の状況を全て確認する。
「それぞれの製品に対して、4%の割合で抜き取り検査を行なっている。これは米国基準に合わせたものであり、これによって品質を維持している」(日本HP サプライチェーンオペレーション本部・斉藤勝代氏)という。
【10月18日訂正】記事初出時、7%の割合で抜き取り検査をしているとしておりましたが、日本HPより4%に修正されました
一度生産されたものを開梱して、テープをその上から貼るために、パートナーや一部顧客の間からは、「一度開梱されたものが出荷されてきた」として不審がられた時期もあったというが、むしろ、それは再検査をしてから出荷をした証であり、いまではパートナーからも「そちらの方が安心できる」という声も出るほどだ。
2回目に貼られたテープも、1回目のテープと同じ「HPセキュリティテープ」という独自のものを使用しており、このテープは日本HPの工場内でしか使用されていない。そのテープを見れば安心できるだろう。
ちなみに、抜き取り検査の対象となっている製品には、外箱のラベルに「PA」という文字が表示されている。抜き取りが指示されたPCを、生産ライン上で判別するためのものであり、知る人ぞ知る事実の1つだが、言い換えれば、「PA」と書かれた製品は、再検査まで行ない、品質が確かめられた製品として出荷された証明ともいえる。むしろ、安心して販売できるというのがパートナーの反応だ。
日本HPの事業成長を下支えする拠点に
このように、昭島から日野に移転した「MADE IN TOKYO」は、新たな環境の中で、効率化や品質向上への取り組みがさらに推進され、納期の短縮化などにも前向きに取り組むことができるようになった。
企業向けデスクトップやワークステーション、シンクライアントでは、トップシェアを持つ日本HPだが、ノートPCの領域ではまだ出遅れ感があり、これからの成長が注目されている。
「HP SpectreやHP EliteBook FolioといったプレミアムモバイルPCも高い評価を得ており、これまでの日本HPにはないようなデザインの製品にも注目が集まっている。ノートPCは、日本市場全体の成長を上回る形で推移しており、日本における存在感が高まっている」と、日本HPの岡社長は自信を見せる。
新たな生産拠点としてスタートした日本HP 東京ファクトリー&ロジスティックスパークの存在は、日本HPの今後の成長をドライブする上でも欠かすことができないと言えよう。