山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon「Kindle Fire HD 7」
~コストパフォーマンスに優れた新Kindle Fireシリーズの下位モデル
(2013/10/30 06:00)
Amazonの「Kindle Fire HD 7」は、KindleストアやAmazon MP3ストアなど、Amazonが運営するストアで購入したコンテンツを楽しめる7型タブレットだ。E Ink電子ペーパーを採用した読書専用の「Kindle Paperwhite」シリーズとは異なり、メディアタブレットの性格が強い製品だ。
2013年モデルとなる「Kindle Fire」シリーズのうち、もっとも安価なローエンドモデルの位置付けとなる本製品について、今回は一足先に発売された海外版を用いてレビューする。ハードウェアについては相違はなく、日本語にも対応しているが、国内で発売されるモデルとは若干異なる可能性はあるのでご了承いただきたい。
新しいKindle Fireシリーズのローエンドモデル
まず最初に、2013年モデルとなる新しいKindle Fireシリーズの概要を確認しておこう。
昨年(2012年)、日本市場に初めて投入された「Kindle Fire」シリーズは、ローエンドモデルの「Kindle Fire」(以下旧Fire)と、ハイエンドモデルの「Kindle Fire HD」(以下旧Fire HD)の2ラインナップが存在していた。後者には画面サイズが大きい8.9型モデルも存在しており、ローエンドモデルは7型のみ、ハイエンドモデルが7型と8.9型というラインナップだった。
今回新たに発表された2013年モデルの「Kindle Fire」シリーズでは、ローエンドモデルの「Fire」がなくなり、リニューアルされた「Kindle Fire HD 7」の上位に新しく「Kindle Fire HDX 7」、「Kindle Fire HDX 8.9」が追加された。つまりラインナップが1つずれ、新しい「Kindle Fire HD 7」がローエンドモデル、「Kindle Fire HDX 7」、「Kindle Fire HDX 8.9」がハイエンドモデルという位置付けになったわけだ。
今回取り上げる「Kindle Fire HD 7」は旧「Fire HD」ではなく旧「Fire」の後継であり、Amazonも製品ページ上で「新しいKindle Fire HDは前世代機Kindle Fireのアップグレード版」と明言している。これを見落として本製品を旧「Fire HD」と比較すると、スペックダウンしたかのように誤解しがちなので注意したい。
しかしながら現実問題として、旧「Fire」よりも旧「Fire HD」の方が販売数が圧倒的に多い(具体的な販売数は公表されていないが、本稿執筆時点のAmazonのカスタマーレビューは前者が100件ちょっとに対し後者は1,800件あるので、販売数でも相当の開きがあると思われる)ほか、ハードウェアとしては旧「Fire HD」に比べて進化している点も多いため、本稿ではおもに旧「Fire HD」と比較しつつ、場合によっては旧「Fire」との相違点にも触れる形で進めていく。
旧「Kindle Fire」の仕様に準拠しつつ高解像度化、軽量化
以上を踏まえて、旧「Kindle Fire」および旧「Fire」と比較したのが以下の表だ。7型タブレットとして競合になるNexus 7(2013)も合わせて掲載する。
Kindle Fire HD 7 (2013年モデル) | Kindle Fire (2012年モデル) | Kindle Fire HD (2012年モデル) | Google Nexus 7(2013) | |
---|---|---|---|---|
Amazon | Amazon | Amazon | ASUS | |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 128×191×10.6mm | 120×189×11.5mm | 137×193×10.3mm | 114×200×8.65mm |
重量 | 約345g | 約400g | 約395g | 約290g |
OS | Fire OS 3.0 | 独自(Androidベース) | 独自(Androidベース) | Android 4.3 |
画面サイズ/解像度 | 7型/800×1,280ドット(216ppi) | 7型/600×1,024ドット(169ppi) | 7型/800×1,280ドット(216ppi) | 7型/1,200×1,920ドット(323ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n |
内蔵ストレージ | 8GB(ユーザー利用可能領域は4.8GB) 16GB(ユーザー利用可能領域は11.9GB) | 8GB(ユーザー利用可能領域は5.5GB) | 16GB(ユーザー利用可能領域は12.6GB) 32GB(ユーザー利用可能領域は26.9GB) | 16GB、32GB |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 10時間 | 9時間 | 11時間 | 約10時間 |
カメラ | なし | なし | 前面 | 前面+背面 |
電子書籍ストア | Kindleストア | Kindleストア | Kindleストア | Google Play ブックスなど |
価格(2013年10月18日現在) | 15,800円(8GB) 17,800円(16GB) | 12,800円(8GB) | 15,800円(16GB) 19,800円(32GB) | 27,800円(16GB) 33,800円(32GB) |
備考 | LTEモデルも存在 |
要点をまとめると以下のようになるだろう。
- 旧Fireおよび旧Fire HDより50gほど軽量化。
- 幅は旧Fire HDよりは狭くなった。ただし、旧Fireほどスリムではない。
- 解像度は旧Fire HDと同等にアップ。
- 旧Fireが8GBのみだったところ、16GBが追加された。
本製品をはじめとする2013年モデルの「Kindle Fire」シリーズはいずれもOSが「Fire OS」となっているが、従来と同じOSに名称がついただけで、中身はバージョンだけが上がった程度と考えられる。詳しくは後述するが、実際に使ってみてもOSレベルで大きな変更が加わったようには感じられない。ちなみにこのFire OS 3.0は「Mojito」という愛称が付けられている。
なお、国内での販売価格(8GBモデル)は旧Fireと比べると12,800円→15,800円と上がっているが、海外では159ドル→139ドルと値下がりしているので、実は値上げでも何でもなく、円安が影響しているだけ、と見るのが正しい。先日モデルチェンジしたNexus 7などにも言えるが、新モデルの価格を見ると、従来モデルがいかに円高の恩恵を受けていたかがよく分かる。
注意したいのはカメラだろう。旧Fireもカメラは非搭載だったが、旧Fire HDは内側カメラを搭載していたので、旧Fire HDのユーザーが本製品に買い替えると用途によっては困る可能性がある。またマイクもないのでビデオチャットには不向きなほか、HDMI端子も搭載しない(上位のFire HDX 7ではインカメラ、マイク、HDMI端子は変わらず搭載されている)。メモリカードスロットはこれまで通り非搭載のままだ。
一方、Bluetoothのように、旧Fireには非搭載だったにもかかわらず新たに追加された機能もある。このほか充電用のUSB-ACアダプタが新たに付属するようになったのも相違点だ。従来モデルでは別売だったので、その分お得ということになる。
新設計の筐体は手に持った際のバランスも良好
外観については、旧Fireとも旧Fire HDとも異なる、新設計の筐体が採用されている。全体的に丸みを帯びていた旧Fire HDと異なる鋭角的なデザインで、寸法上の厚みの差がそれほどないにもかかわらず、持った際にはかなり薄く感じる。従来比で50g軽いことも、持った際の感覚に少なからず影響を及ぼしていそうだ。
ベゼル幅は、昨今の7型タブレットと比較して極端に狭いわけではないが、旧Fire HDに比べるとずいぶんとスリムになり、野暮ったさがなくなった。スピーカーの配置、および背面ロゴは横向きを基本としている。
また、電源ボタンと音量調節ボタンの形状が丸型になり、配置もボディ背面側に移動したことで操作が容易になった。背面と言っても、側面から背面へと連なるナナメにカットされた面なので、テーブル上に置いた際に接地することはない。この電源ボタンと音量調節ボタンは形状が異なるため、目視しなくても指先で種類を判別できる。目視でも見分けにくかった従来からすると大きな進化で、個人的にはかなりポイントが高い。
スピーカーはこれらボタンと同じ面にレイアウトされており、テーブル上に置いた際もわずかに浮いた状態で音を出す。音が正面ではなく後ろ向きに出る点は従来のままなのだが、実際に音楽などを聴く限りでは多少は改善されたように感じる。
旧Fire HDの欠点も一部受け継いでいる。具体的には、充電のステータスを示すLEDが搭載されておらず、充電が続行中なのか完了しているのか、ロックを解除しないと確認できないことだ。また画面はかなり光沢が強く、背景から光が差し込む場所では、画面の反射がきつく角度の調節に苦労する。ベッドの枕元でライトをつけて本製品を使用するなら、サードパーティ製の非光沢シートを用いるのも一考だろう。
セットアップ手順や画面構成は従来とほぼ同様も、操作性は向上
セットアップの手順は従来と特に変わらず、Wi-Fiを設定してAmazonアカウントを入力することで完了する。とくに奇をてらったところはない。
ホーム画面は、さまざまなアイテムを左右フリックでスクロール表示できる「スライダー」が中央にあり、ゲーム/アプリ/本/ミュージック/ビデオといった「コンテンツライブラリ」が上部に並ぶレイアウトは、従来と同様だ。中でもスライダーについては、最近ではiOS/AndroidのKindleアプリにも採用されているので、利用者にとっては馴染みが深い。
もっとも、このホーム画面およびコンテンツライブラリの細かいデザインおよび文言の配置は、従来とはかなり異なっている。画面の比較でご覧いただいた方が早いので、以下スクリーンショットで紹介する。
なお前回のKindle Paperwhiteと同様、あくまで本稿執筆時点での比較であり、従来モデルも今後新ファームがリリースされて手順が統一される可能性があるので、予めご了承いただきたい。ちなみに本製品のソフトウェアのバージョンは「11.3.0.3」である。
全体に共通する大きな変更点として挙げられるのは「お気に入り」の呼び出し方だ。気に入ったコンテンツやアプリを登録してすばやく起動できるお気に入り機能は、従来モデルでは画面右下の星マークをタップすることで表示できたが、本製品では画面の下から上へのスワイプで表示されるようになった。iOS 7のコントロールセンターと同じ呼び出し方だが、常時非表示というわけではなく、初期状態で8つのアイコンが表示されている点が異なる。
またこれに伴い、ホーム画面のスライダー直下に表示される、おすすめ商品の表示が小さくなった。バランスを考慮した結果かもしれないが、画像を小さくすることでデータ量を減らしてスムーズに読み込ませようという配慮かもしれない。
また各ライブラリでは、画面端を左→右にスワイプ(または左上の「三」マークをタップ)することで、従来の「移動」メニューの内容が表示されるようになった。例えば本であればライブラリやストアの主要カテゴリへの移動メニュー、読書中であれば目次を表示するといった具合に、内容に応じた移動先が表示される。メニューの表示方法として昨今のアプリでよく用いられており、どのカテゴリも原則として同じ操作方法で統一されているので、直感的に操作しやすい。
読書関連はメニューのデザイン変更が中心
読書関連の機能も、基本的な操作性については従来モデルを踏襲しながらも、メニューについてはかなりの改良が加えられている。ざっとチェックしていこう。
全体的に感じられる傾向は、画面のファーストビューになるべく多くの情報を詰め込もうとしていること。例えば見出しのフォントサイズが小さくなったほか、ページ上部にあった検索機能が目立たなくなり、その分全体的に要素が上に詰まるといった具合だ。機能の利用頻度などを分析し、調整を行なったのではないかと考えられる。
また、本棚を模したデザインが廃止されてフラットデザインに近くなったほか、基調色が黒から白に改められるなど、デザインが全体的にシンプルな方向に寄っている。フラットデザインというトレンドを露骨に意識しているわけではなく、画面のコントラストなどを突き詰めた結果としてこうなった……という印象だ。後述するストア画面でも、立体的だったボタンがフラットになるという変更が見られて興味深い。
機能面で面白いのが、本やミュージックなどの各ライブラリ、もしくはコンテンツを表示している最中に画面を下から上にスワイプすると、ホーム画面のスライダーと同じ内容を画面下部に表示できるようになったことだ。この機能は「クイックスイッチ」と呼ばれ、いちいちホーム画面を経由しなくてもスライダーに表示されているコンテンツに移動できるようになった。「nook」にも近い機能はあるが、利便性は高い。
もう1つ、本や音楽、映画を楽しんでいる際に通知をオフにしてコンテンツに集中できる「おやすみモード」も面白い。読書時や動画再生時は自動的にお休みモードに切り替えて通知をオフにするなど、コンテンツごとにお休みモードを設定できる。Kindle による読書では自動的に通知バーなどが隠れるため従来もこうした心配は不要だったが、機能として搭載されるとまた小回りが利いて便利だ。
残念なのは、Android版のKindleアプリに実装されている、ページめくりを音量調節ボタンで行なう機能が搭載されていないこと。タッチ操作ではなくハードウェアキーでページをめくれるこの機能は、本体の持ち方によっては非常に便利に使えるのだが、本製品ではサポートしていない。本製品は音量調節ボタンの位置が側面でなく背面なのでいざ実装されても使いにくいという問題もあるだろうが、とくに難易度は高くないはずで、今後の搭載を望みたい。
ストアのデザインがマイナーチェンジ。購入フローは変化なし
Kindleストアの画面および購入フローも、ホーム画面などと同じくレイアウトに変更が見られる。特に違いが大きいのはKindleストアのトップページで、これまでは「おすすめ」がページ最上部にあり、以下、日替わりや月替わりの「セール」が下に並んでいたのが、最上部に「本の新着」「コミックの新着」が切り替えで表示されるようになり、以下「おすすめ」「ベストセラー」「セール」と並ぶ順になった。新着本をいちばん目立つ位置にレイアウトしたのは、タイムリーな購入を促すという狙いだろう。
一方で「セール」はファーストビューから押し出され、スクロールしないと見えない位置へと移動されているが、Kindleユーザーにとってセールは利用頻度の高いカテゴリであり、おそらくどこに配置しても利用されるであろうことから、画面のスクロールを促すためにわざとファーストビューの外に出した、という解釈の方が妥当に思える。なお、従来は画面右にテキストで羅列されていたカテゴリーについては、画面を左→右にスワイプするか、左上の「三」マークをタップして表示する方式に改められたため、このファーストビューからは消滅している。
動画再生などのパフォーマンスも良好。背面の熱に注意
話が前後するが、性能についても触れておこう。操作は全体的にきびきびしており、下位のモデルという印象はまったくない。CPUがデュアルコアとなり、旧Fire HD(旧Fireではなく上位の旧Fire HDの方だ)に比べて60%も高速化されているとのことなので、それも納得である。
動画関連の性能もかなり高い。旧Fire HDでは動画と音声のずれやコマ落ちが頻発していたフルHD動画もスムーズに再生でき、再生位置をジャンプした際の追従性も良好だ。無線LANについては、本製品はデュアルアンテナを搭載していないため旧Fire HDと比べて不利なはずなのだが、まったくそれを感じさせない。ゲームなどを行なうとまた違った結果になるかもしれないが、動画再生程度であれば、旧Fire HDを上回るパフォーマンスだ。
2週間ほど使っていて多少気になったのは、背面の「Amazon」ロゴ上部付近が熱を持つことだ。読書や音楽鑑賞など通常の使い方では手で触れないほど熱くなることはないが、Wi-Fi機能を連続して使っているとそこそこ熱を持つ。そのため、Kindleストアから本のダウンロードをまとめて行なったり、Webを長時間閲覧している場合は要注意だ。とはいえあくまで背面の一部分だけの問題なので、熱くなってきたら反対の手で持つか、上下を反転させて持てば特に問題はない。カバーを付ければ気にならなくなるだろう。
下位モデルとは思えない出来で、コストパフォーマンスの高い1台
従来のKindle Fireは、12,800円という安さは魅力だったものの、7型タブレットとしてはかなり重い約400gという重量のほか、本体に音量調節ボタンがないためボリューム調整のたびにいちいちメニューを呼び出す必要があったりと、明らかにコストの前に犠牲になっている部分があった。前述のカメラ機能やHDMI端子のようにラインナップ上あえて機能を省いたというレベルではなく、実用面で苦になる点が多く、販売数でFire HDに大差を付けられる要因になっていたように思う。
後継となる本製品は、旧Fireにあったこれら欠点をカバーしつつ、電源ボタンや音量調節ボタンの押しやすさといったハード面の改善、CPUの強化や高画質化、さらに約50gの軽量化など、さまざまな面で改良が施されており、従来のFire HDと比較しても使い勝手や性能においてはまったく遜色がない。カメラやHDMIなどラインナップの関係で実装されていない機能を除けば、旧Fire HDの後継と言われても納得してしまいそうなレベルだ。
これに加えて、他の端末と同期できるコレクション機能や、しばらく使っていないコンテンツを1タップでクラウドに退避させるインスタントクラウド機能の近日中の追加が予告されており、Kindleストアの利用者にとっては魅力的な1台といえる。昨年(2012年)の時点では19,800円のNexus 7など、数千円の価格差の範囲で対抗馬が目白押しだったが、今年はそれら競合製品が値上がりしたこともあり、本製品は頭1つ抜けて安価に見えるのもプラス要因だ。
個人的にはここ1年でAmazon アプリストアのラインナップがあまり拡充されていないこと(とくにユーティリティ類の少なさは個人的につらい)、また動画配信に相変わらず対応していない現状からして、昨年末に比べるとKindle Fireシリーズに対する評価はやや低下しているのだが、それでも作り込みの手堅さはさすがといった感はある。旧Fire HDのユーザーが買い替える必要はあまり感じないが、新規に購入するユーザーにとってはコストパフォーマンスが高く、満足の行く1台と言えるだろう。
こうなると気になるのが、一足遅れて登場する本製品の上位モデル「Kindle Fire HDX 7」だろう。旧Fire HDのユーザーにとっては、本製品よりも軽く、薄く、さらに1,200×1,920ドット(323ppi)という高解像度に対応したFire HDX 7こそが、買い替えの本命となるはずだ。次回はこのFire HDX 7について、今回のFire HD 7とも比較しつつ、じっくりと紹介することにしたい。