山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
ソニー「Reader PRS-T3S」
~ライト付カバーも用意された電子ペーパー端末。白黒反転もほぼ皆無に
(2013/10/4 06:00)
ソニー「PRS-T3S」は、同社が運営する電子書籍ストア「Reader Store」に対応する電子ペーパー端末だ。従来モデルから小型軽量化をさらに推し進めたほか、背面パネルを交換することで、ブックカバーやライト付きカバーを取り付けられるというギミックが売りの製品だ。
急速に普及する7~8型タブレットに押され、一時期よりも印象が薄くなりつつある電子ペーパー端末だが、各社の2012年1年間の動きを振り返っても、フロントライトの搭載や高解像度化など、派手さはないものの堅実に進化しつつあることが分かる。なにより国内で入手できる端末数が増えたことで、コンシューマ市場での電子ペーパー端末の認知度は、ここ1年でかなり高まった感がある。
こうした中、ソニーについては、高解像度化およびフロントライト搭載というトレンドには(2012年の時点では)追従せず、他社端末が軒並み廃止したハードウェアキーを残すなど、独自路線を歩んでいた。今回の新製品であるPRS-T3Sでも、ライトは内蔵せず、ページめくり用のハードウェアキーも残すという、同社ならではのアプローチは健在だ。
また今回のモデルでは、背面パネル一体型のブックカバーとライト付きカバーをオプションで用意し、必要に応じてライトを追加できるという新たな方向性を打ち出している。解像度も引き上げられたほか、同社端末の強みである軽量化をさらに推し進め、国内で入手可能な現行の6型端末の中では最軽量と言っていい約160gという軽さを実現している。Kindle Paperwhiteが約213g、新モデルでも約206gであるのと比べると、その軽さは際立っている。
今回はメーカーから借用した機材を使い、従来モデルとの違いや、ライト付カバーをはじめとするオプションの使い勝手をチェックする。
端末の上下が12mmほどコンパクトに
まずは従来モデルおよび競合製品との比較から。
PRS-T3S | PRS-T2 | Kindle Paperwhite (2013) | kobo glo | BookLive! Reader Lideo | |
---|---|---|---|---|---|
ソニー | ソニー | Amazon | 楽天 | BookLive | |
サイズ(最厚部) | 107×160.5×9.5mm | 110×173.3×10.0mm | 117×169×9.1mm | 114×157×10mm | 110×165×9.4mm |
重量 | 約160g | 約164g | 約206g (3Gモデルは約215g) | 約185g | 約170g |
解像度/画面サイズ | 758×1,024ドット/6型 | 600×800ドット/6型 | 758×1,024ドット/6型 | 758×1,024ドット/6型 | 600×800ドット/6型 |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー |
通信方式 | 802.11b/g/n | 802.11b/g/n | 802.11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) | 802.11b/g/n | 802.11b/g/n、WiMAX |
内蔵ストレージ | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.2GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.3GB) | 約4GB(ユーザー使用可能領域:約3.1GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB) | 4GB |
メモリカードスロット | microSD | microSD | - | microSD | - |
ライト | 外付(別売) | - | 内蔵 | 内蔵 | - |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 約30,000ページ、最長2ヵ月(Wi-Fiオフ、1日30分読書時)、最長1.5ヵ月(Wi-Fiオン) | 約30,000ページ、最長2ヵ月(Wi-Fiオフ、1日30分読書時)、最長1.5ヵ月(Wi-Fiオン) | 8週間(ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時) | 約1カ月、約30,000ページ(Wi-Fiオフ) | 約1ヵ月 |
電子書籍ストア | Reader Store、紀伊國屋書店BookWeb | Reader Store、紀伊國屋書店BookWeb | Kindleストア | koboイーブックストア | BookLive! |
価格(2013年10月2日現在) | 9,980円 | 9,980円 | 9,980円 14,980円(3Gモデル) | 7,980円 | 8,480円 |
比較表という形でこうして並べると、従来モデルとの違いを探すのが実に難しい製品だ。重量にしても、従来モデルと比べるとわずか4gの差でしかないし、解像度が向上したといってもKindle Paperwhiteやkobo gloとようやく横並びになったにすぎない。
そんな中で目立つのは、端末の上下が従来モデルに比べて12mmほど短くなったことだが、kobo gloなどはさらに上下が短いので、強烈なインパクトがあるかというとそうでもない。あくまでもハードウェアキーを採用する競合端末(といってもPRS-T2以外ではLideoしかないが)と比較すればコンパクトというだけだ。
また、ライトがオプションで用意されたことで、Kindle Paperwhiteやkobo gloと同様に薄暗い場所での読書にも対応できるようになったが、本体とは別売ということで、コスト的にはマイナス要因だ(ライト付きブックカバーは直販ストア価格で4,780円)。
といった具合に、こうした比較表に出てくるスペックだけを見るとあまり突出した何かがあるわけではないのだが、実際に使ってみた限りでは、本製品の価値はむしろそれ以外の部分にあると感じる。以下、順に見ていこう。
背面のパネルを外して一体型ブックカバーを取り付け可能
筐体については、直線と曲線を組み合わせスタイリッシュな印象だったPRS-T1/T2と異なり、直線主体のデザインへと変更されている。ページめくりキーなどが従来モデルと共通なのでReaderと分かるが、外観だけ見るとむしろkoboのラインに近い。質感についても、これまではピアノ調の光沢のある筐体だったが、今回試用したブラックはマットな質感で、こちらはKindle Paperwhiteに近い印象だ。
筐体は上下が短くなった以外に、左右のベゼル幅も狭くなっているのだが、これに伴ってメモリカードスロットが側面から背面カバー内へと移動してる。フィーチャーフォンやスマートフォンでもよくあるが、カバー内にスロットが移動したことで、事実上の挿しっぱなしでの運用となる。個人的にはいったん挿したら抜くことはまずないので許容範囲だが、ユーザーによっては気になるかもしれない。
筐体について最も大きな違いは、先に触れているように、背面のパネルを取り外すことで一体型のブックカバー(PRSA-SC30)もしくはライト付きのブックカバー(PRSA-CL30)と交換できることだ。いずれも本体色と合わせた3色がラインナップされており、一体感という点ではサードパーティ製品に比べてかなりの強みがある。カバーの開閉が本体のスリープオン/オフと連動するという、iPadのSmart Coverに似た機能もある。
ちなみに海外では、このブックカバーが標準添付となっており、製品の型番も「S」がつかない「PRS-T3」となっている。いわば日本市場向けに、カバーのない専用モデルとして「PRS-T3S」を用意した格好だ。このあたりは利用スタイルの違いが製品ラインナップに反映されたものとみられ、なかなか興味深い。個人的には、Readerの特徴である軽さを際立たせるためにも、カバーなしモデルを日本で標準にしたのはよかったのではないかと思う。
このように書くと、カバーは不要という印象を与えてしまいそうだが、実際に使ってみるとなかなか重宝する。ライト付きカバーは厚みも増すので好き嫌いがありそうだが(Kindle Paperwhiteやkobo gloを使っているとなおさらである)、標準カバーはしばらく装着して使っていると、むしろ外した時に画面が保護されていないことに不安を感じるようになる。今回のレビュー機材のほかに同社ストアで私物を1台オーダーしているのだが、カバーは同時購入しておけばよかったとあとから後悔したほどだ。
一方、キー配置およびサイズについては従来モデルを踏襲している。個人的には、尖った形状の「進む(<)」ボタンは連続して押すと指先が痛くなるので改善してほしかったのだが、特に形状に違いはみられない。ただ、従来モデルに比べてキーの突起がわずかに低くなっており、その分、指先が痛くならない。おそらくカバーをした際に邪魔にならないよう調整した結果だと考えられるが、結果的には功を奏している格好だ。
セットアップ手順は一般的。急速充電機能に注目
メニュー画面および設定項目については、驚くほど変わっていない。文言は一部変更が見られるものの、画面遷移などはざっと見た限りではまったく同じで、項目の階層や項目数も従来モデルと同じである。これが完成形という解釈なのか、それとも今回はメニュー部分には手を付けないという前提があってのものかは定かではないが、画面だけを見ていると従来モデルを使い続けていると錯覚してしまうほどだ。
読書以外のところでは、EvernoteやFacebookとの連携機能や、手書きメモ、テキストメモといった機能も健在だ。アプリケーション画面で唯一削られているのが「定期購読」のアイコンだが、これはそもそも対応コンテンツがリリースされないままで、長らく使われていない機能だったため、影響はない。従来モデルから乗り換えるユーザーも、操作性が大きく違っていて戸惑うことはないはずだ。
新たに追加された機能では、急速充電機能が面白い。これは3分間の充電で、約600ページ分に相当する駆動時間を確保できるという機能だ。要するにうっかりバッテリを切らしてしまっても、外出前に3分間充電できれば、その日の通勤時間に相当する分だけは最低限使えるというわけだ。
実際のところ、電子ペーパー端末のバッテリは長持ちだからと油断していたところ、外出直前になって意外と減っていることに気づいた……というケースは、筆者だと年に数回のペースで遭遇している。今回の機能は、そうした実際の利用シーンをハードの機能としてうまく反映させた例であり、もっと評価されてよい機能だと感じる。専用ACアダプタが必要なのはネックだが、他社が追従するケースも出てくるかもしれないし、そうであってほしいと思う。
なお本製品は、これまでのReaderには付属していたタッチペンが付属せず、オプションとしても用意されない。そのため手書きメモの記入など、これまでペンで行なっていた操作はすべて指先を使うことになり、従来モデルに慣れ親しんだユーザーは戸惑うこともありそうだ。試した限りではボールペンのキャップ先などでも入力ができたので、必要なユーザーは自前でペンの代用品を準備するとよいだろう。
解像度向上で表現力が向上。ページの白黒反転もほぼ皆無に
続いて画質および動作速度について見ていこう。
まずは画質。本製品は、これまでの167dpi(600×800ドット)から、Kindle Paperwhiteと同じ212dpi(758×1,024ドット)に解像度が向上している。これまでは、Kindle Paperwhiteをしばらく使ったあとにPRS-T2を見ると、画面がザラザラだと感じることがあったが、今回のモデルではそうした違いは感じない。
もっとも、あくまでも他社と横並びになったというだけで、日本未発売の高解像度モデルであるkobo aura HD(265dpi、1,440×1,080ドット)のように、他を上回る解像度というわけではない。また細かい文字などについては、現行のKindle Paperwhiteよりも若干太りやすい傾向にあるようで、にじんでいるように感じられることも多い。競合となるKindle Paperwhiteは新型へのモデルチェンジを控えているので、その際に改めてチェックしたい。
続いてページめくりについて。ページめくりはスワイプもしくは画面下のハードウェアキーのいずれかで行なえる。これまでの同社Readerと同一の操作方法だが、タップでのページめくりに対応しないビューアは数少ないだけに、タブレットを含む他の端末から乗り替えた場合、違和感を感じることもあるかもしれない。
特筆すべきは、ページの切り替えに伴う白黒反転がなくなったことだ。これまで15ページにつき1回発生していた画面全体の白黒反転は、通常のページめくりでは発生せず、オプション画面から本文に戻る時など、限定したケースでのみ発生する。テキストに限らず、これまでページごとに白黒反転が発生していたコミックについても同様だ。メーカーサイトでは「連続最大4時間」とされており、言い換えると4時間使っていると1回だけ反転するわけだが、従来は数十秒読むたびに発生していたことを考えると、ほぼ皆無と言ってしまって差し支えないだろう。
白黒反転がなくなったことで、ページをめくるたびに残像が積み重なって汚くなっていくかというと、全くそんなことはない。200ページ前後のコミックについて1ページから最終ページまでめくった際も、最終ページ近くになっても残像はほとんど感じられない。残像がゼロというわけではないが、毎ページごとに白黒反転しているにもかかわらず前ページの残像が残る場合があった従来モデルよりも、残像ははるかに少ない。白黒反転が苦手でこれまでE Inkが受け入れられなかったユーザーも、これなら許容できるのではないだろうか。
以上の通り、解像度、そして白黒反転について進化の跡が見られるのだが、一方で全体的な動作速度は従来モデルよりむしろ遅くなっているようだ。具体的には、ホーム画面を基点にあちこちの画面を行き来する際、タッチから反応があるまでに一瞬の間が感じられる。また、高速にページめくりを行なった場合も、動きがついてこないことがある。CPUなどのスペックが下がったのか、それとも高解像度化でデータ量が増した影響なのか、理由は不明だ。詳しくは以下の動画を参照されたい。
ただ、ページめくりについては、秒単位で連続してページをめくるという、負荷テストに近い使い方をした場合に限られるので、通常の速度でページめくりをした場合は違いを実感することはないだろう。ホーム画面などでの「間」はできれば改善してほしいが、操作の取りこぼしが発生するわけではなく、待っていれば必ずレスポンスを返してくれるので、ストレスはたまりにくい。この点は心配しなくてもよさそうだ。
「メールマガジンを受信する」のチェックがついにデフォルトオフに
さて、メニューが同じということで、コンテンツを購入するにあたっての使い勝手も同じ……かというと、本製品のリリースに合わせてReader Storeが刷新されたこともあってか、使い勝手にかなり変化が見られる。また細かい変更点も多いようだ。具体的に見ていこう。
フロー自体は従来と同じく、ジャンルもしくは著者、出版社の一覧から探すか、もしくは直接キーワードで検索したのち、目的の本をカートに入れて決済プロセスに進むという流れで、大きな変更はない。従来と変わっているのは主に本の詳細ページで、情報量が圧倒的に増えている。これまでのスカスカ感は大幅に払拭され、またパンくずリストの追加などにより、サイト内を並列に移動することもたやすくなった。本を探すにあたり、この操作性の改善は大きい。
改善点の中には、検索結果表示を4件から5件に増やすために書影のサムネール表示を外したり、また検索結果を表示する際にページ内に上下スクロールを取り入れたことで操作が煩雑になっていたりと、ユーザービリティ的に疑問を感じる変更点もなくはないのだが、差し引きではプラスの方向に向かっていると感じる。
中でも特筆すべきなのは、これまで購入フローの最後に表示されていた「メールマガジンを受信する」のチェックが、デフォルトでオフになったことだ。これまでデフォルトでオンだったため操作に必ずワンクッションが必要で、筆者をはじめとする各所のレビューで不評を買っていたわけだが、今回のモデルではチェックがついにオフになった。タップして都度チェックを外す手間や、誤ってチェックを入れたまま購入して手動解除する手間ともおさらばというわけだ。
こうした点が改善点として語られること自体、本来であれば少しおかしいのだが、ユーザー目線での改良がきちんと行なわれるようになった意義は大きい。ちなみにこれは端末側ではなくクラウド側での変更であるため、従来モデルのPRS-T2でも同様にチェックが外れた状態になる。ほんのちょっとしたことなのだが、実際に本を購入してみても、買いやすさは従来と段違いだ。
端末は合格点。生まれ変わったReader Storeに期待
以上、端末について見てきたわけだが、従来モデルのレビューでも書いたように、筆者はこのReader Storeはプライベートではあまり使っていない。理由は購入フローを中心とした使い勝手に難があるためで、今回のように新しい端末が出れば試しに使い、そこで購入した書籍を読み終えたあと、翌年の新製品までは使わず放置というのが、ここ3年ほどのパターンだ。特にKindleが登場した2012年暮れ以降、日常使う電子書籍ストアを絞り込んだため、端末を起動すらしなくなってしまっていたのが実情だ。
が、今回のPRS-T3Sの登場に合わせて、購入フローや検索性などあちこちがテコ入れされ、これならメインの利用にも十分耐えうると感じるようになった。端末については、白黒反転の大幅低減や急速充電機能の追加、一体型カバーといった特徴を除けば、購入フローの最後のメルマガチェックがオフになったり、コミック表示時の背景がグレーから白に改められるといった、細かい改善の積み重ねなのだが、いずれも利用時のストレスを軽減してくれるもので、利用者目線で見るとありがたい。製品ページには書かれないこうした細かな改善点こそが、本製品のキモだと言えるだろう。
また端末以外でも、先日リニューアルされたPC版のサイトはソーシャル機能の追加によってレビューに活気が出てきているし、また待望のiOSアプリも新たにリリースされるなど、Reader Store全体が大きく様変わりしつつあることが感じられる。過去にReader Storeに判定を下した利用者の側も、もういちどまっさらな目で、Reader Storeを評価してみてもよさそうだ。
もっとも、すでに同等の使い勝手を実現している電子書籍ストアが国内に複数ある現在、2012年前半までと違って追う側になったReader Storeがどこまで巻き返せるかは定かではないし、改善を要するポイントはまだまだあると感じる。以下に代表的なケースを紹介するが、利用者の評価を上げていくためには、さらなる改善を今後も続けていく必要がありそうだ。極論を言うと、ハードウェアはこのままで何ら問題ない。使い勝手にまつわるソフト側の改善が急務だ。
最後にもう1つ、こうした細かい作り込み以外で、今回の端末でネックになるのは、ずばり価格だろう。例えばKindle Paperwhiteの新モデルは本製品と同じ9,980円で期間限定ながら1,980円分のクーポンが付属するし、kobo gloは新型ではないものの7,980円だ。本製品も専用カバー購入時にはクーポンがつくが、もう一声ほしい感はある。またライトを必要とするユーザーは、別途ライト付きカバーのコストが上積みになるので、イニシャルコストの面では著しく不利になる。
もちろん、端末の安さがストアを選ぶ決定的な要因になるとは思わないが、ゼロかというとそうでもないだろう。その点、上のような条件下で初見のユーザーが敢えて本製品をチョイスしてReader Storeを使い始める必然性は、あまりないように思えてしまう。物理ボタンや一体型カバーのように競合端末になく、一部のユーザーには確実に響く訴求ポイントを増やしていけば、生まれ変わったReader Storeともども、今後に期待できるのではないだろうか。