山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

A4オーバーの本の「自炊」に使えるドキュメントスキャナを試す

~各社の業務用A3対応ドキュメントスキャナ4機種を比較

自炊ユーザーの悩みの種、A4オーバーサイズの書籍をスキャンするには

 紙の本を裁断した後スキャンしてデータ化する、いわゆる「自炊」ユーザーにとって悩みの種なのが、A4サイズよりも大きい書籍のスキャンだ。今市販されている個人向けドキュメントスキャナはほぼ全てがA4サイズまでの対応であり、雑誌などに多いA4変型サイズは読み取ることができない。A4サイズ以下の書籍はすべてデータ化を終えたが、A4変形版やB4サイズの雑誌やムック本などは依然手付かずのまま放置しているという人は、かなり多いのではないだろうか。

 もちろんフラットベッドスキャナや、PFUの「ScanSnap SV600」などオーバーヘッド型スキャナを用いれば、A4サイズを超えるスキャンは可能だが、それはあくまで1枚ずつという条件付きであり、これはキャリアシートを使った読み取りでも同様だ。現時点で、A4を超えるサイズを大量に連続スキャンするとなると、A3サイズまでの読み取りに対応した業務用ドキュメントスキャナという選択肢しかないが、法人向けに流通する製品ゆえ、実際の使い勝手に関する情報はほとんど表に出てこないのが実情だ。

 そこで各社から発売されている業務用のA3対応ドキュメントスキャナを一通り試し、自炊用途における使い勝手を検証しようというのが、本稿の趣旨だ。20万円オーバーという実売価格は個人が気軽に買うにはやや厳しい価格帯だが、A4より大きい雑誌のバックナンバーを大量にコレクションしているユーザーの中には、そのくらいの投資をしてでも蔵書をデータ化して置き場所を減らしたいと考える人は、一定数はいることが予想される。個人事業主や小規模なオフィスであれば、業務用途をメインで購入し、必要に応じて本のデータ化にも利用するというスタイルもありうるはずだ。

 といったわけで、今回はPFU「fi-5530C2」、エプソン「DS-70000」、パナソニック「KV-S5046H-N」、キヤノン「DR-M1060」という4製品を各社から借用し、1製品あたり2~4週間という長期に渡って自炊用途で使った評価をまとめてお届けする。あらかじめお断りしておくが、どの機種も「自炊用」とは一言も謳っていない、あくまでもビジネス文書を中心としたデータ化が目的の製品だ。本を快適にスキャンすることは本来は想定しておらず、売りとなる機能はまったく別のところに存在する場合もあるが、今回それらはさわりしか紹介していないので、詳細は各社サイトでご確認いただきたい。

PFU「fi-5530C2」~ScanSnapの血筋を引くA3対応モデル

 PFUの「fi-5530C2」は、背面から原稿を挿入し、読み取った後、手前に排出するという、オーソドックスな機構を備えたドキュメントスキャナだ。同社のScanSnapシリーズではなく、業務用のfiシリーズで展開されるラインナップに属する製品だ。

 基本的な使い方は、外観が類似した同社の個人向けドキュメントスキャナ「ScanSnap iX500」と変わらない。ユーティリティは複数付属するが、うち1つはScanSnap付属の「ScanSnap Manager」の本製品対応版である「ScanSnap Manager for fi Series」であり、本体のSCANボタンを押すとスキャンが開始され、生成されたPDFが自動保存されるフローはScanSnapとまったく同一。ScanSnapブランドの製品ではないものの、実質的にScanSnapのA3対応製品と言っていいだろう。

 ただし製品そのものが2007年の発売から長らくモデルチェンジしておらず、ScanSnapの世代でいうと2つほど前の製品ということで、現行のScanSnap iX500と比べると機構的には見劣りする部分も多い。例えば原稿の分離を手助けするブレーキローラーは備わっておらず、上からパッドで押さえる前世代機ScanSnap S1500と同じ方式なので、光沢紙や薄い原稿はページが分離しにくい。週刊誌のグラビアページのように、ScanSnap iX500ではかなり重送が低減された用紙も、本製品は毎回のように重送が発生するので、現行の製品に慣れているとストレスになりがちだ。

 またこれはスペック欄を見れば明示してあるが、紙の厚みが最大127g/平方mまでしか対応しない(ScanSnap iX500は209g/平方mまで対応)ため、雑誌の表紙程度の厚みでもスリップして停止することが多い。例え給紙がうまくいっても1枚ごとに重送であると誤検知してエラーを出すので、スキャン中付きっきりにならざるを得ず、そうした意味ではフラットベッドスキャナで1枚ずつ読み取るのと作業量的には大きな差がない。厚紙かつ光沢紙という組み合わせではこの傾向は顕著で、映画のパンフレットのようにコート加工した厚手の紙はほぼ全滅だ。ScanSnapとはアルゴリズムが異なるのか、用紙サイズの検出力も高くなく、不自然な位置でカットされることも多い。

 こうしたことから、自炊用として無条件におすすめするには厳しいというのが率直な感想だが、やや原色に寄った派手な色合いのScanSnap iX500に比べてカラーがナチュラル気味で元原稿の色の再現性が高いこと、また黒に深みがあるといった利点もある。またモデルチェンジの度にシャープネスが強くなる傾向にあるScanSnapと違い、自然な絵作りも個人的には好印象だ(むしろもう少しシャープがかった方が良いと感じるほどだ)。給紙トレイへの同時セット可能枚数は80g/平方mで100枚と、ScanSnap iX500の2倍と余裕があるため、本をまるごと1冊セットできるのもプラス要因だ。

 さらに付属のTWAIN対応ユーティリティでは、読み込み失敗時にページを再スキャンして差し替える機能や特定の色を省くカラードロップアウト機能、さらに白黒モードをオフにしてカラーかグレーかの2択を選べるカラー自動判別モードなど、ScanSnapシリーズにない機能も多数対応しているので、工夫次第で使い込むことができる。「厚手の紙や光沢紙をスキャンしない用途であれば」という但し書きがつくが、実売価格は20万円台前半まで下がっており、候補の一つにはなりうる。

 もっとも、一番望ましいのは、本製品にScanSnap iX500の構造や機能をフィードバックした新しいハードウェアが発売されることであるのは言うまでもない。発売からすでに7年が経過していることもあり、近い将来の後継モデルの登場に期待したいところだ。

製品情報
http://imagescanner.fujitsu.com/jp/products/fi-5530c2/

トレイを展開した状態。オーソドックスなADFタイプのドキュメントスキャナだ。重量は8.5kgと、今回紹介する4製品の中では軽量。ちなみに背面の給紙トレイは折りたたむのではなく取り外す方式
ScanSnap iX500(前)との比較。横幅はさすがに大きいが、こうして閉じた状態で並べると読み取りサイズの差ほどの体積の違いはない
A3サイズに対応。A4を横向きの状態でセットできる。同時セット可能枚数は80g/平方mで100枚とScanSnap iX500の倍
本体ボタンでスキャン可能。独自ユーティリティではさまざまな設定を割り当てられる。一番下は電源スイッチ
清掃時もしくは紙詰まり時の開け方は、ScanSnap S1500やiX500と同様
ローラーは下のみで、上からパッドで抑える方式なので、静電気でくっつきやすい原稿の分離はかなり苦手
薄紙と通常用紙の切り替えレバーも備わっているが、試した限りではそれほど恩恵は感じられなかった
インターフェイスはUSBのほか、最近では特定用途でしか使われなくなったSCSIにも対応。製造年月日のラベルに2007年とあるように、かなり古いモデルだ
付属ユーティリティ「ScanSnap Manager for fi Series」。ScanSnapシリーズでないのにこの名称はやや奇異だが、ScanSnapの操作性に慣れ親しんでいるユーザーからすると使い勝手の互換性があるのはありがたい
TWAIN対応のユーティリティ「PaperStream IP」も付属。こちらではさらに詳細な設定や、本体ボタンへの設定割り当てが可能。ちなみにこちらは「ScanSnap Manager for fi Series」と異なり背景色が黒でスキャンされる
「PaperStream IP」の用紙サイズ設定画面。「A3」「B4」などの選択肢があることが分かる
【動画】PFU「fi-5530C2」によるスキャンの様子(カラー300dpi)。ScanSnapシリーズと同じ方式で読み取る。後述の機種と比較すると、速度はお世辞にも速いとはいえない

エプソン「DS-70000」~フラットベッドとADFに両対応した万能プレーヤー

 エプソン「DS-70000」は、A3までの読み取りに対応したフラットベッドスキャナの上部に、ADFを合体させた製品だ。フラットベッドスキャナにADFを組み合わせた製品には片面読取りにしか対応しない機種もあるが、本製品は上下にCCDセンサが搭載されており、ADFから読み込んだ原稿については表裏を同時に読み取れる。

 本製品には同社コンシューマ向け製品でもおなじみのドライバソフト「EPSON Scan」とユーティリティ「Document Capture Pro」が付属しており、さまざまなジョブを登録してスキャンが行なえる。保存形式はPDFやJPG以外にBMPやTIFFにも対応、向きや傾きなどの補正機能に加えて、アンシャープマスク、モアレ除去、明るさやコントラストの調整、色強調やドロップアウトなどの機能も備える。ADFの読取速度はA4の300dpi時で毎分70枚とかなり高速なためか、スキャンが完了しているのにPC側が処理待ちとなることもしばしばだ。

 本体の機構上、ADFから給紙した原稿はUターンして排出されるため、厚みのある原稿は不向きなように思えるが、紙を送るローラーの力が強いためか、それほど苦にせず読み取れる。前述の「fi-5530C2」ではスリップして読み取れなかった雑誌表紙や映画パンフレットなどの光沢紙も問題なくスキャンでき、とくに原稿が痛むこともなかった。スペック上は用紙厚128g/平方mまでとなっているが、実際にはもう少し余裕があるように感じられる。

 またADFは80g/平方mの用紙に換算して最大200枚までセットできるので、本1冊をまるごとセットできるほか、ADFでの読み取りが難しいハードカバーの表紙などはフラットベッドで読み取ることもできるので、これ1台あれば自炊用としては万能といっていい仕様である。さらにADFからの給紙時には長尺モードも対応しており、A3を横方向に2枚つなげた横長のポスターも難なく読み取れた。試した限りでは重送の検知力もかなり高い。

 と、ここまではいいことづくめなのだが、ネックなのは用紙サイズの検出機構の精度があまり高くないことで、とくに背景色が濃い原稿はうまくトリミングされずにページ左右に巨大な余白が残ってしまうことがある。必要な部分まで省かれるよりはマシだが、あとで見返してギョッとすることがあるので、スキャン完了後にひととおりチェックしてやった方が良い。また重送を検知するといったんそこでファイルが保存されてしまうため、重送すればするほどPDFファイルの数が増えていくのも、あとから結合処理が必要になるため若干わずらわしい。

 もう1つのネックは本体サイズと重さで、A3フラットベッドにADFを装着した製品ということで、設置面積は新聞紙のページ(A2)並み、かつ高さもかなりある。重量も約27.2kgと今回紹介する製品の中でもっとも重く、設置も2人がかりでないと難しい。またフラットベッドの駆動音はかなり静かなのだが、ADFはオフィスの複合機並に騒々しい。フラットベッドとADFに両対応しているのは今回紹介している中では本製品のみで、万能プレーヤーと呼べる製品だが、個人向け製品より少し大きいだけのサイズおよび動作音を考えていると面食らうので注意が必要だ。購入を検討するにあたっては、動画も併せてチェックしてほしい。

 ちなみに同社のラインナップには本製品と同じ外見の「DS-60000」というモデルがあり、直販ストアでは本製品の285,695円(税別)に対して238,076円(税別)と、およそ5万円安価だ。こちらは300dpiでの読取速度が本製品の約70枚/分に対して約40枚/分と若干遅いが、個人向けA4ドキュメントスキャナの多くが約20~25枚/分であることを考えると十分に高速なので、個人で入手するのであればこちらも狙い目だろう。

製品情報
http://www.epson.jp/products/scanner/ds70000/

フラットベッドの上部にADFが合体した構造。業務用複合機のコピー機部分を省いたような外観だ
フラットベッドは最大A3まで読み取り可能。自炊用途ではハードカバーの表紙を取り込むのに威力を発揮する
フットプリントは640×522mm、高さも289mmとかなりの大きさで、ScanSnap iX500(上)が小さく見えてしまうほど
本体ボタン。左端が電源ボタン、右端はスキャンおよび停止ボタンがある
ADFはA3タテとA4ヨコの混在セットも可能なほか、長辺432mm以上の長尺モードの用紙もセット可能。なお長尺モードでの取り込み時は「EPSON Scan」上で用紙サイズを手入力する必要があるほか、解像度の上限が300dpiまでという制限がつく
上下にローラーを備えており、紙を送る力はかなり強め。原稿が詰まった際はここから取り出す
インターフェイスはUSB。中央の白いケーブルは上のADF部につながっている
同社製品ではおなじみのユーティリティ「Document Capture Pro」が付属しており、登録した複数のジョブを切り替えながらスキャンが行なえる
画質は「EPSON Scan」上で細かく設定可能。明るさやコントラストを調整すれば黄ばんだ紙の色を白く飛ばすのも容易だ
重送検知の精度は高いが、そのたびにPDFがいったん保存されてしまうため、重送が起こった回数分だけPDFファイルが生成されてしまう
このサムネイルにおける324ページ目や328ページ目のように、うまくトリミングされずにページ左右に巨大な余白が残ってしまうことがある。それゆえスキャン後の目視チェックは必須
【動画】エプソン「DS-70000」によるスキャンの様子(カラー300dpi)。読み取りは高速で、フラットベッド一体型の製品としては珍しく両面同時のスキャンが可能。動作音はかなり大きい

パナソニック「KV-S5046H-N」~速度と同時セット枚数を重視するユーザー向け

 パナソニックの「KV-S5046H-N」は、正面上段にセットした原稿を読み取り、下段に排出する方式のドキュメントスキャナだ。発売は2014年1月で、今回紹介する中では後述するキヤノン「DR-M1060」に次いで新しい製品ということになる。同時に発売された上位モデル「KV-S5076H」と違って本体に液晶画面を備えないローエンドモデルだが、価格は税別498,000円、実売でも30万円台後半で、今回紹介している4製品の中では一番高価だ。

 もっともスペックを見ると、高価であることにも納得がいく。まず読み取り速度。A4サイズの原稿を横置きした状態での速度が公称約100枚/分(200ページ)というから、約20~25枚/分が主流の個人向けA4ドキュメントスキャナに比べて4倍以上も高速で、今回紹介している他社製品と比べても頭1つどころか2つは抜けている。今回はUSB 2.0環境で試用したため恩恵を受けていないが、インターフェイスにUSB 3.0を採用しているのも納得だ。

 また同時セット可能枚数も64g/平方mの用紙に換算して約350枚、厚みにして30mmまでと、ちょっとした辞書ほどの厚みでも一括セットできるので、分厚い本を自炊するのに向いた仕様と言える(現行の裁断機が対応する厚みは20mmが精一杯なので、一発裁断できる以上の厚みをまとめてセットできることになる)。排紙トレイの容積も大きいので、複数の本をまとめてセットし、スキャンが終わるまでしばらく放置して別の作業を進めるという運用にもぴったりだ。コントロールシートを挟んだ位置でファイルを分割保存できる機能も備える。

 ただし上段にセットした原稿がUターンして下段に排出される構造のせいか、対応する用紙の厚みは最大でも157g/平方mと、他の製品と比べるとやや心もとない。これは本体上部のレバーで手差しモードに切り替えてスキャンした場合も同様で、公称値では本製品を下回るエプソン「DS-70000」では読み取れた厚手の紙が、本製品ではエラーで停止することもあった。冒頭のPFU「fi-5530C2」ほどではないが、厚みのある原稿にはあまり強くないというのが率直な評価だ。

 面白いのが本体に備わっている重送スキップボタンで、検知して停止した際、このボタンを押すことでそのままスキャンを再開できる。例えば付箋が貼られており、そのまま原稿を戻さずスキャンを継続して差し支えないような場合は、これをプッシュするだけで作業を続けられる。このほか自炊用途ではあまり出番はなさそうだが、同社スキャナでおなじみの「置くだけスキャン」も用意されている。

 ユーティリティは「Image Capture Plus」を使用する。他社ユーティリティと比べてもかなり設定項目は細かく、画質の調整はもちろん背景色も黒または白から選べる。あらゆる設定項目を試したわけではないが、解像度を600dpiにした場合を除き、速度の低下も感じられない。トリミングの性能は背景色が黒の場合の方が高いようだが、原稿の特性にも左右されがちなので、ふだんは白にしておいてトリミングがうまくいかなければ黒に切り替えるという運用がよいだろう。

 色合いは、デフォルトでは他のスキャナに比べてやや中間調が暗く、濃い部分のディティールが失われがちな傾向にある(後述)。これは同社のコンシューマ向けモデル「KV-S1015C」とも共通する傾向だが、ガンマをカスタマイズして中間調を明るくしてやれば、他のスキャナに近い、自然な色合いを得られる。色がくすみがちだと感じたら、さらに彩度を調節してやるとよいだろう。

 試用していてやや気になったのは、原稿の1枚目が厚く、2枚目以降が薄くなるケースなど、厚みが変わるタイミングにおいて紙詰まりのエラーが出やすいこと。自炊用途で言うと、表紙と本文ページの境目でこのエラーが発生しがちなので、若干ストレスが溜まる。もっとも、その時点でスキャンが終了してPDFが生成されるのではなく、中断した箇所から再開できるので、中断した回数だけPDFファイルが生成されるといったことはない。スキャンできないわけではないので、運用上慣れれば解決できる問題だ。

 駆動音は他社製品に比べるとかなり大きい。読み取りの音に加えてトレイの上下調節で発生する音、さらにファン音も加わるので、やや騒々しい部類に入る。また見た目は立方体に近い形状なのだが、手前にトレイを伸ばすスペースが必要なこと、また紙詰まりでパネルを開ける際には背面にもスペースが必要になるなど、設置場所の前後に相応の空間が必要になることは注意した方が良いだろう。速度および同時セット枚数を重視する自炊ユーザーにおすすめできる製品だ。

製品情報
http://ctlg.panasonic.com/jp/p3/scanner/scanner/KV-S5046H-N.html

立方体に近い形状。上部にセットした原稿を下部に排出する構造
排紙トレイはかなりの容積があり、ScanSnap iX500本体がまるごと収まってしまうほど
SKIPボタンを押すと、重送検知時にスムーズにスキャンを再開できる。付箋つきの状態のまま原稿をスキャンする場合に向く
給紙トレイはちょっとした辞書ほどの厚みがセットできる容量
排紙トレイには、排出された原稿を上から抑えて揃えるための樹脂製のガードを取り付けられる
横から見た状態。給紙/排紙トレイともに手前に伸ばす構造のため、前方に相応のスペースが必要な点には注意が必要
パネルを上後方に開けたところ。原稿の分離に役立つリタードローラーも搭載する
パネルは背後に大きく開くため、壁面にぴったりつけての設置は不可
インターフェイスはUSB 3.0
ユーティリティは「Image Capture Plus」が付属。きめ細かい設定および画質の補正が行なえる
色合いはやや濃いので、ガンマをカスタマイズして中間調を明るくしてやるとよい
スキャン中の様子。全ページのプレビュー画像が表示されるのは便利だ。特定のページを指定しての差替えも行なえる
スキャンの汚れは出力結果で確認するのではなく、ユーティリティが検知してエラーを出す方式。機能としてはインテリジェントなのだが、多少の汚れは許容して作業を優先したい場合でも、高頻度で表示されるのがわずらわしく感じることもある
【動画】パナソニック「KV-S5046H-N」によるスキャンの様子(カラー300dpi)。スキャンは高速、かつ処理速度も速いが、動作音はやや大きめ。排紙トレイ上部に取り付けられたガードにより、読み取った原稿が散らばることなく押さえられているのが分かる

キヤノン「DR-M1060」~高いポテンシャルを秘めたオールラウンドプレーヤー

 キヤノン「DR-M1060」は、正面下段にセットした原稿を読み取り、上段に排出する方式のドキュメントスキャナだ。同社のA4対応ドキュメントスキャナ「DR-M140」のA3対応版にあたり、今回紹介するモデルの中でもっとも発売時期(2014年6月)が新しい。標準価格は298,000円だが、実売では20万円前半まで下がっている。

 本製品の特徴は筐体サイズが小さいことだ。横幅こそA4対応のScanSnap iX500より大きいが、本体がフラットなうえに給排紙の両トレイが上下に重なった構造のため、トレイを展開した状態ではむしろ本製品の方が威圧感がない。原稿の向きによっては手前のトレイからはみ出すのは差し引く必要があるが、A3がスキャンできるとは思えないコンパクトさで、後述するストレートスキャンを行なわなければ、壁にぴったりつけた状態で設置しても問題ない。

 本製品は下段にセットした用紙を上段に排出するという、エプソン「DS-70000」やパナソニック「KV-S5046H-N」とは逆方向の用紙送りを採用している。プリンタでよく見られる構造で、重力に逆らって紙を送る形になるが、重ねた原稿を上から順にスキャンするため直感的に把握しやすい上、本体の薄型化にも貢献している。前面パネルを持ち上げれば原稿をセットしたままの状態で正面から紙詰まりを直したりローラーを清掃できるなど、メンテナンス性も良好だ。

 また、リタードローラーを搭載することから、雑誌のグラビアなどに使われる光沢紙も分離しやすく、ScanSnapなど個人向け製品が苦手とする週刊誌などでも重送の発生頻度が極端に低い。置いた原稿を上から順に読み取っていく方式のため重なった原稿に荷重がかかりにくいことも、重送の低減に影響していそうだ。重送が発生してスキャンを停止した場合も、スキップして構わなければ本体のDFRボタンを押すことですぐスキャンを再開できる。

 紙の厚みは最大128g/平方mまで(分離給紙時)の対応だが、背面パネルを開けて後方に排出するストレートスキャンに切り替えれば最大255g/平方mまで対応するので、ムック本表紙などに用いられている厚紙のスキャンにも支障ない。このほか半分に折った原稿を左右で合成する「半折りモード」と、最大3,000mmの長尺モードを組み合わせれば、最大でA1(594×841mm)までのスキャンにも対応するので、新聞やポスターのスキャンにも適している。

 同時セット可能枚数は80g/平方mの用紙に換算して約60枚、最大厚み11mmと、スペック上はそれほど多くはない(ScanSnap iX500は同一条件で約50枚なので2割増程度)が、実際に試した限りではかなり余裕があり、20mmを超える原稿でもまとめてセットできる。本1冊を分割せずにセットできるという意味で、自炊用途に重宝する仕様だ。上面の排紙トレイがやや浅く、原稿が溜まるとローラーに当たって異音が発生しがちなので、途中で原稿をどけてやる点だけは気をつけてやった方が良い。

 使ってみて感じるのは動作音が静かなことだ。一般的に業務用の製品と言えば、コンシューマ向けの製品に比べて騒々しいことが多いが、本製品のそれはコンシューマ向けと比較しても遜色のない静けさだ。タイプこそ異なるものの、同社のスティックタイプのスキャナ「DR-P208」に近く、夜間の作業にも支障がない。

 ユーティリティは、同社のコンシューマ向け製品にも付属する「CaptureOnTouch」を使用する。色味はやや濃く、デフォルトの設定のままだと色が濃いページのディティールがつぶれがちなので、ユーティリティ側で若干明るさを調整してやる必要はあるが、全体的なバランスは良好で、明るさ以外にコントラストも調整できるほか、カラーとグレーに限定したカラーモード自動判定機能ではしきい値を柔軟に変更できるので、黄ばんだ白黒ページがカラーと判定されないよう調整するのも容易だ。用紙サイズをうまく検出できずにおかしな位置でトリミングするといったこともない。

 速度は、A4サイズの原稿を縦置きした状態での公称値がカラーで約30枚/分(60ページ)、グレーで約40枚/分(80ページ)と、ScanSnap iX500と前述のパナソニック「KV-S5046H-N」の中間程度。ただしA4カラー300dpiで両面スキャンすると6~8枚目あたりで決まって処理待ちが発生し、それまで一定ペースで読み取っていたのがワンテンポ置きながらの読み取りになる。動画でも再現できているので確認いただきたいが、CPUがやや非力なのか、メモリに余裕がないのか、おそらくどちらかによるものだろう。一時停止したのを紙詰まりと勘違いしやすいだけで、実用上の支障があるわけではないが、多少もったいない印象だ。

 ともあれ、今回紹介している4製品の中では、A3対応ながらコンパクトな本体サイズ、用紙サイズの検出力の高さ、ムック本の表紙など厚手の紙への対応力、画質のカスタマイズの容易さ、動作音の静けさなど、実用上のネックとなる大きな欠点が見当たらず、候補の最右翼と言っていい製品だ。実売20万円前半という価格帯は今回紹介している製品の中でも安価な部類に入るが、個人ユーザーをターゲットにせめて10万円台まで価格が下がれば、A4対応製品から乗り換えるヘビーユーザーが出てきても不思議ではない。ScanSnapの寡占状態にある自炊用スキャナの牙城を崩しうる、高いポテンシャルを秘めた製品だ。

製品情報
http://cweb.canon.jp/imageformula/lineup/m1060/

スクエアで平たく、家庭でも馴染みやすい外観
原稿を手前下部にセットし、上に排出する方式ゆえ、見た目はどことなくプリンタにも似ている
A3対応ということでフットプリントは幅424×奥行き246mmと大きいが、高さは120mmと低く、ScanSnap iX500(左)と比べてもそれほど大柄ではない。トレイを展開した状態ではその差はさらに縮まる
ストレートスキャンを行なわなければ、背面は壁にぴったりつけて設置できる。電源コネクタとUSBコネクタがともに左側面奥に配置されているのも設置性の高さに貢献している
トレイの奥行きは実測で245mmなので、A4よりも長い原稿をセットする場合は手前にはみ出してしまう。A3をセットする場合は手前に余裕が必要だ
青く光っているのが電源ボタン、その他のSCANボタンなどを上に備える。正面部、LEDが赤く点灯しているのは半折りスキャンなどで分離モードにセットした状態を表す
背面を開けることで厚紙などのストレートスキャンに対応する
紙詰まりや清掃など、メンテナンスはすべてフロントから行なえるのは本製品の隠れたメリットの1つ
ユーティリティは同社製品ではおなじみの「CaptureOnTouch」が付属。複数のジョブを登録できる。ちなみに背景色は白で固定されている
A3までのスキャンに対応するほか、「読み取り面」で半折を設定しつつ別画面で長尺モードを選択することにより、最大A1サイズを折りたたんでスキャン可能
カラーかグレーかのしきい値を変更することで、黄ばんだ白黒ページをカラーと誤認されるのを(よほど極端な黄ばみでない限り)抑制できる。古い本のスキャンに有効
デフォルトではやや暗い部分のディティールがつぶれがちなので、明るさを標準の128から140~160程度まで引き上げてやるとよい
原稿の向きは90度単位で回転可能。裏面はさらに180度回転させることもできる
【動画】キヤノン「DR-M1060」によるスキャンの様子(カラー300dpi)。パナソニック「KV-S5046H-N」やエプソン「DS-70000」ほどではないが十分高速で、動作音もかなり静か。処理が追いつかないためか6~7枚目頃から一旦停止するようになるのが玉に瑕

スキャンの画質を比較

 ここでは上記4製品の画質をまとめてチェックしておこう。いずれも左上が「PFU fi-5530C2」、左下が「エプソンDS-70000」、右上が「パナソニックKV-S5046H-N」、右下が「キヤノンDR-M1060」で、カラー300dpi、フォーマットはPDF、圧縮率は75%程度でスキャンした原稿を比較している。サンプル原稿には小社刊「Windowsタブレット完全購入ガイド 2014春」を使用している(ここまで見てきた各製品の動画も、このサンプルを使用している)。

 明るさやコントラストはデフォルト値のままスキャンしているが、いずれの製品も画質補正機能を有していることから、これらが固定されており調節が不可能な個人向け製品と違い、製品を選ぶ際の決定的な条件にはなりにくい。あくまでも絵作りの傾向の違いとして参考にしてほしい。

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左の2製品(上がPFU fi-5530C2、下がエプソンDS-70000)に比べると、右の2製品(上がパナソニックKV-S5046H-N、下がキヤノンDR-M1060)は黒がしっかりと出ており読みやすいが、パナソニックKV-S5046H-Nはページ右上のジグソーパズル状のパターンが真っ白に飛んでいるなど、ややコントラストが極端。元原稿に最も近いのは右下のキヤノンDR-M1060だろうか
右上のパナソニックKV-S5046H-Nは色の彩度が高いほか、やはりコントラストが極端なせいか、表中のグレーの「×」が完全に見えなくなっている。読みやすさで選ぶなら左上のPFU fi-5530C2、元原稿に近い彩度が欲しければ右下のキヤノンDR-M1060が望ましい
プロジェクタの写真におけるディティールの比較。左の2製品は全体的に淡く、右の2製品は濃い。いずれもほぼ同じ圧縮率のはずだが、右上のパナソニックKV-S5046H-Nはシャープネスが強すぎてカラーのノイズが目立つ。これも右下のキヤノンDR-M1060が有利か
カラーモードで取り込んだ白黒テキスト部分。ここは右上のパナソニックKV-S5046H-Nのコントラストの強さが有利に働いている。左下、エプソンDS-70000はややソフトフォーカス気味で、ここまでアップにしない場合でも全体的にぼけて見えやすい
左下のエプソンDS-70000は、背景に色がついた原稿をスキャンすると余白が適切に切り落とされないことがある。右上のパナソニックKV-S5046H-Nも類似の傾向があり、その点では左上のPFU fi-5530C2や右下のキヤノンDR-M1060が優秀

中綴じ本のスキャンにも最適。10万円を切るモデルの登場に期待

 以上、A3対応スキャナを合計4台試用してみたわけだが、痛感したのは「大は小を兼ねる」ということだ。A4までしか対応しないドキュメントスキャナだと、判型そのものがA4よりひとまわり大きい雑誌やムック本、書籍に折り込まれているピンナップなど、サイズが収まらずスキャンできない原稿がそこそこの頻度で発生する。キャリアシートを使う方法もあるが、せいぜい1枚や2枚といった少ない枚数での話であり、本1冊まるごとをキャリアシートを使って取り込むのは無理がある。

 A3対応スキャナであれば、こうした心配は一切ない。A3まで対応できれば市販の書籍やムックに使われているサイズはほぼすべてカバーでき、なおかつ多くの製品はサイズが混在した状態で1冊分をまるごとセットできるので、ピンナップ類を広げて伸ばすのを忘れるといった初歩的なミスさえ犯さなければ、途中で作業が停滞することもなく、本1冊をスピーディに自炊できる。業務用ということもあるだろうが、多くの製品は既存のA4対応スキャナに比べて読み取り速度も早いため、相乗効果で処理スピードは劇的に速くなる。

 また多くの製品は名刺程度の小さな原稿のスキャンにも対応するので、手元にあるA4ドキュメントスキャナに加え、わざわざA3をスキャンするためだけにフラットベッドスキャナやオーバーヘッドスキャナを追加購入するのであれば、今回紹介した製品にまるごと入れ替えてしまうという選択肢もあるだろう。価格や置き場所の問題さえ別にすれば、まさに「大は小を兼ねる」そのものだ。

 また、自炊用途において大きなメリットだと感じたのは、A4以下の原稿を「横向きに」セットできることだ。A4の本をA4対応スキャナにセットする場合、ちょうど裁断した面をガイドに沿わせざるを得ないことから、裁断がまっすぐでない場合に斜行が発生しやすい。ところがA3対応スキャナでは「横向きに」セットできるため、裁断したのと反対側の長辺を先頭に、本の上辺と下辺をガイドに沿わせることで、裁断面が紙の進行に与える影響を限りなくゼロにできる。

 この恩恵を受けやすいのが、中綴じの本をスキャンする場合だ。中綴じの本は中央でぴったりカットするのが難しいことに加えて、折り曲げてあった部分をまっすぐに伸ばしにくかったり、内側のページと外側のページとで紙の幅が異なるためガイドに沿わせにくかったりと、斜行の発生を防ぐのが非常に難しい。カッターを使って裁断した場合は一直線にカットできず面がガタガタになることも多いため、裁断面をガイドにあててスキャンせざるを得ないことでさらに斜行が発生しやすくなる。

 しかしA3対応スキャナであれば、中綴じ本の裁断面を後ろ側にしてセットすることで、この裁断面の干渉を防ぐことができ、かつステープラの跡のせいで紙と紙とが分離しにくい問題も解消される。なにより中綴じ本特有の、内側のページと外側のページとで紙の幅が異なる問題も、横向きにセットすれば「原稿が若干長いか短いか」だけの問題になり、斜行に影響しなくなる。中綴じ雑誌のバックナンバーを大量に保管しているユーザーは、判型が例えA4サイズ以下であっても、A3対応スキャナ、つまり給紙口の幅が297mmあるスキャナを利用することで、労力を劇的に減らしつつ、コンディションのよいデータを生成できるだろう。

 以上、A3対応ドキュメントスキャナに対する私見を述べてきたが、普及にあたりネックとなるのは言うまでもなく価格だろう。ニーズそのものが読みにくい個人向けA3対応ドキュメントスキャナが完全な新製品として開発されることはそもそも考えにくく、あるとすれば今回紹介したような業務用モデルが後継品へのバトンタッチに伴って廉価で流通するか、あるいは若干の改良を経て個人でも手が届く価格帯でコンシューマ向けに投入されるか、いずれかのアプローチだと予想される。

今回は取り上げていないが、コンシューマ向けに販売されているA3対応のドキュメントスキャナとしては、コクヨS&TのCaminacs W(NS-CA2)がある。ただしA3サイズの最大セット可能枚数が64g/平方mの用紙換算で約25枚と、自炊用途にはやや厳しい

 それにより、従来のA4対応モデルから乗り換えたユーザーの口コミにより、ヘビーな自炊ユーザーを中心にじわじわと普及する……というのが、考えうるシナリオだろうか。かつて文教向けの製品だった数万円クラスの裁断機が効率を重視する自炊ユーザーに注目され、いまや自炊用途を標榜するモデルが人気を博するようになったことを考えると、全くない話とはいえないだろう。いずれにせよ10万円が1つの分岐点になるのではという気はするが、この市場に注目するメーカーが果たして出てくるか、出てくるとすればどのメーカーなのか、今後に期待しつつ待ちたい。

(山口 真弘)