山田祥平のWindows 7カウントダウン

Windows 7のエコシステムを支えるデバイスステージ



 Windows 7の「ライブラリ」がファイルシステムを統合化する見せ方の集大成である一方で、各種のデバイスを統合化するのが「デバイスとプリンター」だ。ここでは、デバイスステージと呼ばれるテクノロジによって、目の前のPCにつながる、さまざまなデバイスを集中管理することができる。

●PCにつながったデバイスをまとめて管理

 欧米人にとっては、あまり抵抗のない言葉かもしれないが、それにしても「デバイス」という言葉はやっかいだ。日本語に訳すと「装置」といった平凡な言葉になるのだろうが、実際の使われ方としては「道具」「キカイ」「部品」などなど、幅広い意味で利用されている。

 Windows 7における各種デバイスを、まとめて管理するものとしては、ずっと以前からあったデバイスマネージャーも健在で、コントロールパネルやコンピューターの管理から参照することができる。ただ、デバイスマネージャーは、パワーユーザーにとっては便利な存在だが、一般のユーザーが参照する機会はほとんどないだろうし、あっても、意味がわからないことが少なくない。

 その一方で、新設された「デバイスとプリンター」は、スタートメニュー直下に置かれ、PCに接続された各種のデバイスをコントロールすることができる。呼び出し方としては「デバイスとプリンター」を開くという操作によって、デバイスやプリンターの一覧が表示され、さらに「デバイス・ステージ」と呼ばれる体験につながる。「デバイスとプリンター」は、コントロールパネル下の「ハードウェアとサウンド」カテゴリからも開くことができるが、「デバイスステージ」という名称は見あたらない。Microsoftとしては、この統合化された環境そのものをテクノロジとして「デバイスステージ」と呼ばせたいらしい。

●実際の製品を模したリアルなアイコン
Mac OSのBootcamp環境でのデバイスとプリンター。左下にMicrosoftのマウスが正確な形状でアイコン表示されている。ほかのデバイスは汎用的なアイコンだ

 ともあれ、「デバイスとプリンター」には、そのコンピュータに接続されたさまざまなデバイスが一覧表示される。そして、対応しているデバイスに関しては、その形状や色などがリアルに反映され、どのアイコンがどのデバイスなのかが一目でわかるようになっている。

 たとえば、MicrosoftはすでにマウスドライバのIntelliPointのWndows 7版を公開しているが、それをインストールした環境に、同社のWireless Mobile Mouse 6000を接続すると、その形を模したリアルなアイコンが表示される。

 その一方で、デバイスステージテクノロジに対応していないVista世代以前のデバイスの場合は、そのデバイスの種類に応じて、それらしいものが表示はされるものの、正確に個々の製品の形状通りとはいかない。このアイコンのデータを含め、デバイスのベンダーは、デバイスドライバーのセットアップ時に、deviceinfo.xmlというファイルを用意し、アイコン形状やその機能の呼び出し方法などを記述しておく必要がある。

●未知の可能性を拓くデバイスステージ

 デバイスとして表示されているアイコンをダブルクリックすると、そのプロパティが開く。その一方で、アイコンを右クリックすると、そのデバイスに対してできることがタスクの一覧として表示される。

以下のスライドは2008年のWinHECで紹介されたもの。Windows 7にスマートフォンを接続したときのコントロールイメージ。ベンダーがユーザー体験を規定したXMLファイルと、関連ソフト、ウェブサービスを利用すれば、それを呼び出せることがわかる

 たとえば、USBメモリを装着すると、デバイスステージ上では、FlashDiskと表示され、右クリックすると、「自動再生」、「ファイルの参照」、「取り出し」といったタスクが表示される。また、先のMicrosoftのマウスでは、「マウス設定」、「キーボード設定」、「地域と言語」が表示される。これは、HIDであるという認識がされているためなのだろう。ちなみに、ロジクールのマウスドライバSetPointを入れてロジクールのマウスを認識させると、これはHIDではなく、マウスとして認識され、右クリックで表示されるタスクにも「マウス設定」しか現れない。

 こうした振る舞いを見ても、実装の点ではWindows 7の機能を、まだ活かしきれていない。本当は、各デバイスを開いたときに提供されるデバイスステージと呼ばれる新たなユーザー体験がポイントなのだ。今の時点では、まだ、このデバイスステージが、どのように活用されるのかは未知の領域で、今後の展開が気になるところだ。

 というのも、現時点では、アイコンをダブルクリックしたときにはプロパティが表示されているのだが、ダブルクリック時のデフォルト動作はデバイスベンダーが規定することができ、タスクの表示を含む新たなユーザー体験を提供することが想定されている。これがデバイスステージだ。

 たとえば、これまで紹介されたデモンストレーションでは、プリンターのアイコンを開くと、その製品のベンダーオリジナルのメニューページが開き、そこから各種のタスクを実行でき、もし、プリンターのインクが切れているなら、インクカートリッジのダイレクト販売サイトに飛んだり、そこで、実際にインクの注文ができるようなユーザー体験が紹介されていた。

こちらは複合機の場合。スマートフォンの場合と同様だが、各機能はベンダーオリジナルのソリューションと、Windowsの機能の両方で活用できる「デバイスとプリンター」では、各種のデバイスが、リアルなアイコンで表示されるので、どれがどのデバイスかが一目でわかるデバイスを右クリックすると、関連タスクがショートカットメニューとして表示される
デバイスステージでは、ベンダーがわずかなパーツを用意するだけで、それをWindows 7の機能とオーバーレイで重ね合わせることで、オリジナリティの高いページを演出する

●デバイスステージに対応できないデバイスはダサイ

 PCにつながるデバイスはさまざまであり、それらをWindows汎用のダイアログや設定のインターフェイスでひとくくりにしてしまうのは、もう無理という判断なのかもしれない。せめて、それらの体験の入り口だけでも共通にしておき、ユーザーがデバイスを有効活用しやすいようにしておこうというわけだ。そういう意味では「デバイスとプリンター」は、プログラムにとってのスタートメニュー同様、デバイスにとってのスタートメニューであるといえる。

 確かに、USBメモリ1つとっても、その製品の形の通りのアイコンが表示され、場合によっては色まで同じになるように表示されれば、わかりやすい。極端な話、5つのUSBメモリをPCに接続しても、どのアイコンがどのメモリに相当するのか、一目でわかる。そのくらいのユーザー体験の向上がすぐに実現できるのだ。

 おそらくは、今後登場するであろう新しいデバイス、そして、Windows 7対応を謳う過去のデバイスは、すべて、このデバイスステージに対応することになるはずだ。そして、ユーザーが、自分で追加したデバイスを、より明確にコントロールできるようになる。この新たなユーザー体験は、大きな一歩であるといえそうだ。

 Windowsにとって、サードパーティベンダーの製品群は、Windowsそのもののアイデンティティを成立させるための重要な要素であり、なくてはならない存在だ。それがWindowsを取り巻くエコシステムだ。Microsoft以外のベンダーが、Windowsというプラットフォームを利用して、新たなパーソナルコンピューティングを創出するための道筋を、明確な形で、しかも、それほど大きな工数を強いることなく提示しているのがデバイスステージだ。こうした切り口を解放し、Windowsへとサードパーティを招き入れ、業界全体を活性化させようとしているMicrosoftの姿勢が、ここにも垣間見える。

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(2009年 8月 5日)

[Text by 山田 祥平]