山田祥平のRe:config.sys

オリンピックと通信のおもてなし

 もうすぐソチオリンピック。日本はどのくらいの数のメダルを取れるのか。スポーツファンならずとも気になるところだ。そして、日本でも2020年にはオリンピックが開催される。ITの業界でも、それに備えて、さまざまな議論が行なわれている。今回は、そのうちの1つ、自由でリーズナブルなコストの通信について考えてみる。

使うのが大変な日本のSIM

 日本は通信用のSIMが入手しにくい国の1つだと言われている。しかも、無料で誰でも使えるWi-Fiが少なく、来日した外国人にとっては、極めてITを活用しにくい国だともいう。

 確かに、ドコモやauといった大手のキャリアはプリペイドのSIMを提供していない。また、ターミナル駅周辺の量販店に行けば、MVNOのSIMが並んでいて、誰でも購入することができるが、その開通手続きはちょっと大変だ。

 例えば、通話ができるSIMとして日本通信の「スマートフォン電話SIMフリーData」を見てみよう。パッケージを購入したら、インターネットに接続できる環境から利用開始手続きページにアクセスし、必要事項を入力し、本人確認書類のアップロードが必要だ。それが同社で審査されて、住所確認コードが郵送されてくるので、そのコードをWebで入力すると、開通手続きが行なわれてサービスが開始される。このプロセスは、けっこうな手間だし、1週間滞在するだけの外国人にこれをやれというのは酷というものだ。

 もっとも、日本通信はVISITOR SIMと呼ばれるパッケージを用意している。これは、開通手続きが不要の旅行者向けSIMで、あらかじめアクティベイトされた状態で販売されている。1GBまたは14日間と、14日間使い放題の2種類のパッケージがある。空港受け取りサービスにも用意されているので、これなら少しはハードルが低いかもしれない。ただし、通話はサポートされない。

 諸外国ではどうかというと、例えば、以前、ドイツ出張のためにSIMを用意した時は、ドイツAmazonでSIMを注文し、宿泊先のホテルに配送させたのだが、注文後に、パスポート番号と有効期限を問い合わせるメールが届き、それを知らせることで、正式に受注された。ホテルに到着すると無事にSIMは届いていたし、近所のスーパーで追加チャージ用のコード番号が簡単に買えて、データ通信に有利なオプションプランの追加もできた。

 米国はというと、こちらは、街中にキャリアショップがたくさんあって、入って事情を説明すると、簡単にプリペイドのSIMが購入できる。ただし、こちらもパスポートの提示が必要だ。

 個人的にはスペイン、中国、トルコ、台湾といった国々でSIMを入手した経験があるが、これらの国ではSIMの購入にはパスポートの提示が必要で控えをとられた。何も提示せずに、まるで、SDカードを購入するかのようにSIMが買えたのはシンガポールと香港、ラオスくらいかもしれない。

通信と犯罪抑止

 SIMの購入にパスポートの提示などで身分を証明する必要があるのは、通信が犯罪に使わることを抑止するためだろう。仮に自動販売機でSIMが購入できるような環境が整っていたとしたら、そのSIMによる通信が犯罪に使われた場合、どの自動販売機で発行されたものかは分かっても、誰が購入したものかは分からないので、追跡が難しくなる。

 日本国内ではいわゆる技術適合基準の問題もある。ほとんどの国の通信機は、工業製品として日本国内で使われても大丈夫だとは思うが、100%そうであるとは限らない。だから技術適合基準を満たさない機器の利用が禁じられているのだ。

 中には、基準を満たさないひどい仕様のデバイスもあるかもしれないのだ。そのような機器が日本国内で使われた時、たとえば、ペースメーカーに悪影響を与えたり、交通信号に影響を与えたり、公共交通機関に悪さを働く可能性だってあるわけだ。

 だからこそ、犯罪の問題、そして、技術的な問題を解決した上で、できるだけ簡単にSIMを入手できる方法を考える必要があるだろう。

 これは、Wi-Fiにだって言えることだ。街に誰でも使えるフリーのWi-Fiがあふれていたとして、それは確かに便利だし、自分が外国で途方に暮れているときに、こうしたWi-Fiが使えて助かったこともあるので、一概に否定はできないのだが、やっぱり一抹の不安は残る。

 たいていの場合、ホテルやレストラン、カフェなどに入り、店のスタッフに聞けばWi-Fiパスワードは教えてくれるし、店によっては、パスワードが店内に掲示されていることも少なくない。

 こうした半公的Wi-Fiならちょっとは安心して接続できるわけだが、あまりにもスンナリ繋がってしまうと、本当にこれで大丈夫なんだろうかと心配にもなる。

 まして、いわゆる野良Wi-Fiでは、接続先が安全であるとは限らない。あるいは、公的な場所のWi-Fiのそばに、似たようなSSIDでトラップを仕掛けている悪玉の存在だって心配しなければならない。

高すぎるローミング

 結局のところ、こうした問題は、ローミングの価格がもっとリーズナブルなものになればすべてが解決するんじゃないかと思うのだ。ドコモで言えば、ほとんどの国で海外パケホーダイが提供されているが、それが1日あたり20万パケット(24.4MB)まで1,980円で、それを過ぎると2,980円だ。最近サービスが開始された海外1dayパケが24時間30MBまでで、国によって980円、1,280円、1,580円となっている。

 この価格はかなりがんばっている方だとも思うのだが、現地で入手したSIMでの通信料金に比べれば格段に高額だ。

 例えば、直近のCES出張では米国内でT-MobileのSIMを使った通信を利用したが、SIMの入手に10ドルで、通常なら200MBまでのLTE通信で3ドル/日、テザリングをサポートし、無制限のLTEデータ通信と、無制限のSMS、通話のついたプランでは、1カ月70ドルだ。

 ローミングをこれと同水準の価格にするのは難しいだろうけれど、せめて2倍程度の価格でローミングが提供されるのなら、1年に何度も訪れる国以外は、貴重な時間を費やしてSIMを入手するといった手間をかけてまで現地のSIMを使うことはないかもしれない。

 ぼくらのようなIT系ライターの場合、まるでアドベンチャーゲームのように、現地のSIMを使うということを楽しんでいるようなところもあるが、普通は、ビジネスや観光が主目的だ。SIMのことばかりに時間を使うわけにはいくはずもない。

 米国内に比べれば、他の地域の通信料金はさらに安い。ドコモの「海外1dayパケ」では、各国を3つのエリアに分けて料金を3段階で設定しているのは評価したいが、それを見てもあまりにも高いように感じる。

 同様に、米国のユーザーが、日本にやってきて、ローミングサービスを利用して日本のキャリアに接続した場合の価格も高額だ。これらの価格体系を、少しでも安価にすることで、いろいろな問題は解決するに違いないと思う。キャリア同士が互いにかかった料金を相殺しているのだとしたら、結局、理不尽な想いをするのはユーザーだけなんじゃないだろうか。

SIMロックと適応バンド

 その国の技術適合基準を満たすデバイスであっても、それがSIMロックされているかどうかも大きな問題かもしれない。

 例えば、ドコモは3,150円を支払うことで、同社から提供されているデバイスのSIMロックを解除してくれる。だから手持ちの端末を、海外に持ち出したときに、現地のSIMを装着して使うことができる。

 ただ、例えSIMロックが解除されていても、そのデバイスが、渡航先のキャリアが使っている周波数と完全に合致するかどうかは分からない。W-CDMAにしても、LTEにしても、そのバンドは複数あり、周りの人は普通に使えているようなのに、自分だけが使えないというようなことも起こりうる。

 逆に、海外から持ち込まれたデバイスに、ドコモMVNOのSIMを入れて使おうとした時にも同様のことが起こる可能性もある。ぼくが「iPad」をルーターとして高く評価するのは、1つのモデルで世界各国のキャリアが使う主立った周波数すべてに対応しているからだ。

 こうした不便を回避するには、やはり、海外には海外用の端末を用意するのが手っ取り早い。個人的には海外出張用のデバイスを別途用意し、現地SIMを使う場合も、ローミングをする場合も、そちらを使うようにしている。

 そして、日本で使っている端末は、海外用端末にテザリングでぶらさげる。つまり、2台持ちの環境だ。アプリを日本の端末で使うようにすれば、処理負荷が分散し、結果としてバッテリの心配をしなくてもよくなる。

通信が最初のおもてなし

 海外からやってくる訪問者が、飛行機のドアが開いたとたんに日本のおもてなしを受けるとすれば、それは通信だ。少なくとも6年後の東京オリンピックの時にはそうに違いない。

 現時点でも、渡航先に飛行機が着陸し、ドアが開いてスマートフォンを手に取ると、飛行中に届いたメールやツイートがザッと落ちてくるのを見てホッとする。そして、その場ですぐに地図を見て、ホテルの場所を確認し、タクシードライバーに見せるなど、小さなデバイスが大きな役に立っている。

 コストがかかるというだけで、こうしたITの利便性を利用しない、できないというユーザーが1人でも減るようにしたいものだ。

 ちなみに、ドコモは2年前のロンドンオリンピックの際に、会期を含む2カ月間、イギリス国内における海外パケ・ホーダイの価格を1日980円に値下げした実績がある。ソチやリオデジャネイロ、平昌で、この施策が行なわれるのかどうかは分からないが、こうしたことから、少しずつ、海外ローミングのハードルを下げていってほしいと思う。それが、6年後のおもてなしにつながるにちがいないのだから。

(山田 祥平)