山田祥平のRe:config.sys

ITがオリンピックにできること

 オリンピックはアスリートにとっての競技の場であると同時に、近年では最先端ITのデモショーケース的な場としても認識されている。2020年に開催される東京オリンピック/パラリンピックは1998年の長野オリンピック以来の日本開催となるが、IoTも絡みつつ、超絶的なテクノロジのお披露目を期待できそうだ。

次々と決まるゴールドスポンサー

 NTTキヤノンアサヒビールに続き、NEC富士通が東京オリンピックのゴールドスポンサーとして契約を締結した。パナソニックは、既にワールドワイドオリンピックパートナーなので(スポンサー一覧)、まさに日本の総力を結集した趣だ。

 契約締結に際して記者会見を開催したNECは、同社が人が生きる豊かな社会のために貢献する企業であるとし、日本の素晴らしさを表現、安心して楽しんでもらえるようにしたいという。

 また、未来に欠かせない安心、安全と効率、公平を提供する決意を表明した。今の社会がいろいろな課題を抱えている中で、同社の持つ卓越したICT技術とインテグレーション力でグローバルな展開ができることが同社の強みであり、これを社会課題解決の機会と捉え、未来へ繋げるレガシーを作り出すお手伝いをしたいという。

 NECの担当カテゴリはパブリック、セーフティ先進製品やネットワーク製品だ。具体的には生体認証や指紋認証、顔認証など、世界ナンバーワンの技術で行動検知や解析などで安全を確保、また、SDNなどで比較的短期間のイベントの特異なネットワークをサポートするという。

 これに対して富士通はデータセンターパートナーとして、データセンターにおいて、競技運営に必要なアプリケーションやデータを扱うためのサーバー、ストレージやサービスなどを提供する。カテゴリごとに1社というシバリもある中でうまく棲み分け、各社が得意とするレイヤーでオリンピックを支援するわけだ。

プレスもピンキリ、稼働は人海戦術

 オリンピックというと思い出すのが、1998年の長野オリンピックだ。個人的には、志賀高原で開催された男子スキースラローム競技を応援に行った時に、競技終了後、何やらゲレンデの寒空の下、マイナス10℃以下だと思われる環境の中、かじかむ手でLet'snoteに携帯電話を繋いで通信をしている新聞記者らしき男性を見かけたのを覚えている。当時の通信インフラで、もっとも信頼できて高速なものはPHSの64Kbps通信だったが、聞いてみると、やっぱり新聞記者で、PHSを使って短信を送稿しているということだった。

 オリンピックのプレスと言えば、超豪華で快適なインフラを持ったプレスセンターでの活動を想像していたが、そんなインフラを使えるのは、報道に携わる人々のほんの一部であって、多くの記者は、一般人と同じようにチケットを購入し、行列に並んで競技を観戦して記事を書き、それをごく普通のインフラを使って送るということだった。いわゆるプレスパスが、報道活動に必要なだけの枚数、各社に配布されないということらしい。ここは、出しているカネにも絡んでくるのだろう。

 長野は冬季オリンピックだったが、次のオリンピックは夏だ。マイナス何十℃という環境にはないだろうから、多少はマシかもしれない。あの頃IBM傘下にあったThinkPadも、氷点下の環境で支障なくPCを稼働させるために、毛布やカイロなどあらゆる防寒グッズを総動員していたという話もあった。最終的には原始的な手段で稼働を守るしかなかったのだ。

17年の長い時間の向こう側

 長野オリンピックからはもう17年も経っている。あらゆるインフラは、特にITに関しては、当時とは比較にならないほどに整備されている。また、サイネージ的なものについても、街を丸ごと印刷する的なアプローチや、デジタルサイネージなどによって、刻一刻と変わる状況に対応できるようになってもいる。

 IBMは長野オリンピックの時、出場選手にファンメールを送ろうというキャンペーンを展開したが、そこで使われたのはケータイメールでありインターネットメールだった。今ならさしずめTwitterなのだろうけれど、5年後の東京オリンピックの時に、TwtterなどのSNSが今の形でサービスを提供しているのかどうか想像さえつかない。また、2020年はWindows 7のサポートが終了する年でもあるが、オリンピックを支える縁の下の力持ちとしてのクライアントPCでは、どんなOSが稼働しているのだろう。

 いずれにしても、ITによって、誰もが楽しめるオリンピックであることを願いたいし、そのためにスポンサー各社は頑張って欲しいと思う。

IoTオリンピックに期待

 個人的には東京オリンピックはIoTが華開く大会になるようにも思っている。なんといっても超人が一堂に会する大会だ。彼らがなぜ超人になり得たのか、そして、彼らが超人的な身体能力を発揮する時、彼らの中に何が起こっているのかを知りたいと思う。たくさんのセンサーを身に着けた選手たちからデータを採取し、いわゆるビッグデータとして解析することで、人類の未来に役立つような指針が得られたらいい。

 その一方で、5年後となれば、そろそろずっと長い間懸案事項となっている放送と通信の間にある高い高いハードルもクリアできていないものだろうか。TVの生放送よりインターネットのリアルタイムデータ掲載が遅いといったことでは興醒めだ。今年の箱根駅伝では、Googleマップでランナーの位置がリアルタイムで表示されるなど、そのあたり、かなりおもしろいことができていた。あと5年もの時間があれば、もっと進化したITを体験できるはずだ。

 今の技術でできることと、5年後の技術でできることとは大きな隔たりがある。5年後に向けて準備を進める以上、今の技術が前提になるのはもったいない。かといって失敗は許されない。その板挟みの過酷な条件のもとで、今、できる最大の努力をして欲しい。

 そして何よりも、応援にでかけるためにチケットを入手するために、何度送信してもエラーを吐くようなオンラインシステムなどは言語道断だ。NECが言う「公正」に、そういうところまでが含まれるのかどうかは知る由もないが、過去にチケット入手で奔走した時のようなドタバタは、もう繰り返したくない。蓋をあけたら、駅前のダフ屋で購入するのがいちばん簡単だったというのでは目も当てられない。それも大事なITだ。

(山田 祥平)