山田祥平のRe:config.sys

CES 2014で見た明日の暮らし

 年初恒例のCESが終わった。おそらくは数年後、1つの区切りの始まりとして捉えられるイベントになるだろう。今回は、その雑感をお届けする。

3.6GBが通り過ぎたCESのラスベガス

 米ネバダ州・ラスベガスで開催されたCES 2014。世界最大の家電関連展示会だ。家電とITの区切りが曖昧になってきている近年、IT関係者にとっても必須のイベントとなっている。

 ぼくにとってのこのイベント取材は、特に慌ただしくニュースネタを追いかけるわけでもなく、個人として参加し、ヒトとモノに出逢い、これからの1年をぼんやりと頭の中で組み立てる絶好の機会として捉えている。2000年からずっと来ているので、今年は14回目だ。定点観測という点では、もっとも長く付き合っていることになるイベントだ。

 今年も、例年通り、基調講演をハシゴしながら主立ったものを聴講し、そのタイムテーブルが一段落したところで、会場を一巡りした。そして、その合間を縫って、各社が主催するプレス向けのラウンドテーブルやブリーフィングなどに顔を出す。

 今年は、現地時間の1月4日午後にラスベガス入りし、1月12日未明にホテルをチェックアウトして東京に戻る、8泊10日のスケジュールだった。その間の通信は、全てを1つのT-Mobile LTE回線(70ドル/月契約プリペイド)でまかなった。あてにしていたWiMAXが最初につまづいたので結局こうなったわけだが、9日間のトラフィックは約3.6GBだった。それとは別にVerizon版iPad 2台を24時間300MBプランで5ドルずつ、計10ドルを契約したが、テスト用なので、ほとんど使っていない。

ナチュラルとは何なのか

 Intelのプレスカンファレンスでは、同社SVPのMooly Eden氏が登壇し、「RealSense」テクノロジーについて解説した。Eden氏はタッチはナチュラルではないと主張する。だからこそ、エンベデッドの3Dカメラで身振り手振りをキャプチャし、それを認識する3Dセンスが活きてくるという。さらには、音声認識をも組み合わせ、コンピュータとの新しい対話のインターフェイスを紹介した。

 このデモンストレーションはIDFなどでもすでに紹介されていたものだが、個人的にはどうしても違和感が残る。ちょうど、ガラスのケースに入ったなんらかのオブジェクトを触りたいのに触れない印象があるからだ。スナック菓子を食べた素手が油でベトベトになっていて、タッチスクリーンを触ることがためらわれる感覚といってもいいだろう。

 過去におけるGUIは、マウスやタッチパッドを使い、スクリーン上のオブジェクトを、これまたスクリーン上のポインタを使って間接的に触る感覚を提供してきた。触る場所と触られるオブジェクトの場所が異なっていたわけだ。そこには大きな違和感があるはずだが慣れというのは怖ろしい。

 それを直接触れるようにしたのがタッチによるGUIだ。これは、1歩進んだイメージがあったのだが、RealSenseは、ある意味、退化したような印象さえ受ける。MicrosoftのKinnectなども同様だが、触れていたものが触れなくなってしまうことは、本当にナチュラルなんだろうか。これは、いわばタッチの10フィートインターフェイスなのではないかとも思う。

 続く基調講演では、Intel CEOのBrian Krzanich氏が、IoT、いわゆるモノのインターネット時代の兆しについて説明した。家電の展示会ということで、4K TV 1色のように見えるCES 2014において、各社が注力するもう1つの重要なテーマがIoTだ。

 Intel的には22nmプロセスのSoCによる微細型コンピュータ「Edison」が、どのような世界をもたらすかを披露した。Krzanich氏は、これからポケット、机の中から何かが始まり、変化が起ころうとしているという。

 さらに併せてDual OS Platformsを実現できる同社の優位性をアピール、1つのハードウェアでWindowsとAndroidという2つのOSを走らせることができることが、ベンダーに大きなメリットをもたらすという。

 会場のIntelブースでも、ASUSのタブレットなどが展示されていた。WindowsとAndroidをダイナミックに往来できる現時点で唯一のデバイスだ。また、BIOSレベルで切り替えられる製品も参考展示されていた。

 WindowsにはWindowsの、AndroidにはAndoroidのいいところがあり、だからこそ、荷物はかさばってもノートPCとAndroidタブレットを併せて携帯したりもする。それが1台で済むなら、ベンダーだけではなく、ユーザーにもメリットをもたらすはずだ。現時点ではWindowsが稼働すればAndroidは停止し、AndroidにスイッチすればWindowsは止まる。ここのところをもう少しスマートに運用できれば、まさにこれこそが本当の2-in-1と言える環境が完成するはずだ。フォームファクタの2-in-1と、環境の2-in-1のフュージョンが、これからの重要なテーマになりそうだ。

モノがつながり、ワオが生まれる

 Audi AGの基調講演では、Rupert Stadler氏(Chairman of the Board of Management)が、ITによるクルマの再定義をアピールした。およそ6~10年のライフサイクルで乗られるクルマが、ずっと新車当時のITで稼働しているのは望ましくない。クルマにエンベッドされたITを、常にリフレッシュし、常に最新のITを享受できるようにするにはどうすればいいのか。コンピュータ的なデバイスをデタッチャブルなものにすれば、すぐに解決できそうだが、なかなかそうは問屋が卸さない。

 NVIDIAやAT&Tとの協業などにより、クルマのITは大きな進化が見込めそうだが、根本的な解決にはなっていないとも思う。ただ、モノのインターネットという観点からは、クルマはもっとも早期にIoT化する「モノ」になるだろう。その兆しを同社はきちんと見てとっているということが分かる。

 ソニーの基調講演では、同社CEOの平井一夫氏がデバイスに感動のスピリッツを注入するソニーのDNAを紹介、「ワオ」を提供する全てのソニー社員の意気込みをアピールした。平井氏は、ベータマックスの失敗を例に、ソニーの失敗は終わりではないことを主張、何かにトライするには、必ず、なんらかの理由があるという。

 ソニーは、CES開催に伴い、新たなウェアラブルデバイスとして「Core」を発表している。その詳細は2月のMWCで明らかにするそうだが、これは、「Wear」と「Ware」のダブルミーニングでもあるらしい。これは、ソニーモバイルの黒住吉郎氏(UX商品企画統括部長兼クリエイティブディレクター)が明らかにしたコンセプトで、それがスマートウェアという考え方だ。テクノロジーがこれだけ進んでしまうと、人との距離が離れていってしまうことへの危惧が、この領域に取り組んだきっかけでもあるという。だからこそ、Coreは人間の延長線である必要があるのだという。

ロングテールにさよなら

 異色だったのはYahoo!のMarissa Mayer氏(CEO, President and Director)の基調講演だ。そこでは、OTTとしてのYahoo!ではなく、メディアとしてのYahoo!へのチャレンジが大きくクローズアップされていた。彼女のYahoo!は世界を見ていない。アメリカだけを見ているとさえ思った。CESはアメリカのためのアメリカでの展示会なのだから、当たり前のことなのだが、そのあからさまさには、ちょっとした驚きを感じた。

 極論すれば、Yahoo!は、TVのようなメディアになりたいのだ。モバイルファーストでいくとしながら、「Tl;dr(Too long; didn't read)」をスローガンにシンプルな情報提供を心がけていくという。その典型が、Yahoo! Techで、ここを刷新。一部の好事家には人気だが難解な専門用語にあふれる情報サイトと決別、情報過多を是正しつつ、85%の人々に必要とされる情報を提供していくという。

 このコンセプトはまさにTVだ。ロングテールと真っ向から対立する方向性であるともいえる。ここでまさにYahoo!が岐路に立っていることが分かる。

 会場では、LG電子がHomeChatをデモンストレーションしていた。LINEをプラットフォームにして、チャットで家電をコントロールする試みだ。LINEのアーキテクチャ上、個々の家電がアカウントを持ってユーザーとトークで対話するわけにはいかないので、専用のLINEアプリをスマートフォンにインストール、それを使って自然言語で家電と対話する仕組みが提供される。冷蔵庫、掃除機、洗濯機などの家電がネットワークに繋がり、人間と対話するイメージは、ちょっと新鮮だ。そこにLINEという慣れ親しんだプラットフォームを重ね合わせることで、より親近感を演出しようとしている。

 また、Cisco SystemsのCEO、John Chambers氏は、その基調講演で、IoTならぬ、Internet of Everythingをアピール、モノとモノが繋がるだけではない、これまで考えられなかったような組み合わせが新たな結果を導くIoTのインパクトについて語った。

この続きをお楽しみに

 CESはいい意味でも悪い意味でも、これから始まる1年間の予告編だ。映画の予告編がそうであるように、数十秒間の映像を見ただけで本編が見たくて見たくてたまらなくなったりもする。かといって、どんなに予告編が面白くても、本編を見たらガッカリするようなことも少なくない。

 CESで見たどの予告編が本編として公開されるのか。それは、誰にも分からない。Alan Kayが言ったように、未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ。それは間違いない。特に今年のCESは、予告編色が強かったように思う。さて、今年はいったいどんな年になるのだろう。

(山田 祥平)